悟飯in川神学園   作:史上最弱の弟子

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今回は悟飯が登場しない話です(回想で2行だけ出番がありますが)
また、いつもとちょっと作風を変えてみたりしています。


姉妹の明暗

「くっ」

 

 金髪の少女が放つ零距離からの刺殺。少女の切り札。必殺の一撃。しかしその一撃はしゃがみこんだ一子の空を切る。

 

「川神流・鳥落とし!!」

 

 しゃがみこむ勢いをそのまま足に溜め込む。そこから更に力を込め、一気に全解放。急速で飛び上がりながら薙刀を振り上げる。刃を落とした薙刀の先端が相手の手にあったレイピアを叩き落す。そのまま一回転して着地すると、驚愕に目を見開く少女に向けて一子はその首筋に武器を突きつけた。

 

「そこまで!! 勝者、川神一子!!」

 

「やったあああ!!」

 

「くぅぅぅぅ、自分が手も足も出ないとは。流石は日本だな。武術のレベルが予想以上に高い」

 

 川神高校グラウンド、そこには勝利を喜ぶ一子と敗北を悔しがる転校生、クリスティアーネ・フリードリッヒの姿があった。

 春を向かえ、揃って2-Fに進級した悟飯と一子。そのクラスにやってきたドイツからの留学生であるクリスティアーネ、通称クリスに対し歓迎と称して一子が決闘を申し込み、クリスの方も快諾したため二人は勝負することになったのであった。

 その戦いの結末が先程のやり取り、試合開始直後から終始優勢ですすめた一子がそのまま押し切って、試合開始から1分かからずの秒殺で勝利をおさめたのである。しかも手足に合計で30キロの重りをつけたままの状態で。

 

「凄いじゃないワン子。最近、連勝しっぱなしだよね」

 

「ああ、確かここ2ヶ月で9連勝だな」

 

 勝算を送るモロと大和。悟飯との修行は開始から1ヶ月位たった頃より成果を見せ始め、そして3ヶ月が経過した現在ではその動きは見違えるように良くなっていた。

 そしてこの変化は今までの努力と結びつき、これまで習得した全ての技をレベルアップさせ、一気に彼女を成長させたのだった。

 

(最初は心配していたが、結果的にはいい方向になったみたいだな)

 

 一子が悟飯と二人だけで修行することを心配していた大和。実は始めてから少しの間は仲間と共に監視をしていたのだが、結局何も問題は起きず、寧ろ一子にいい影響を与えてくれた。今となっては完全に杞憂だったと考えている。

 そしてその結果かから悟飯に対し多少の信頼を置くようになり、教室では勉強を教えあったりと友達付き合いのようなこともするようになっていた。

 

(姉さん程じゃないだろうけど、悟飯は相当人間辞めてる強さだ。このまま仲良くしておいて損は無いな)

 

 最もその裏にはこう言った打算的感情も多く含まれていた。一子との修行の監視は当初の目的からすれば無意味であったが、その観察から得た情報は大きな成果だった。一子からの情報収集―――無論、一子の方は世間話のつもり―――と合わせ、大和もまた悟飯の実力に気づきつつある一人となっていた。最も彼が気づいたそれはほんの一端でしかないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の帰り道、一子とクリスの決闘を観戦していた百代はその戦いの内容を思い出し、妹の成長に驚きと喜びを感じながら、別のある感情と戦っていた。

 

(まさか、一子の奴が短期間でここまで成長するとは。それにしても……あー、羨ましい。私も強い奴と戦いたいぞー!!)

 

 悟飯と戦うことで解消されたかに見えた百代の闘争本能であったが、どうやら一時的な発散に過ぎなかっただけのようで最近はすっかり戻ってしまっていた。いや、寧ろ前よりも酷いかもしれない。目標を得て修行に熱心になったことで”自分の成長を確かめたい”と言う思いが加わったからだ。そのため、雑魚を相手にするだけでは全く満足できず、しかも一度不良集団相手に止めを刺そうとした所、たまたま通りかかった悟飯と次のようなやり取りをしていたのである。

 

 

 

『百代さん、幾らなんでもやりすぎです!!』

 

『なんだよ、いいところなんだから邪魔するなよ!』

 

『……こんなことをするようなら、もうグレートサイヤマンと戦わせてあげませんよ』

 

『えっ!?』

 

 

 

 そういう訳で弱い奴相手の憂さ晴らしも出来なくなり、ますます欲求を溜め込むこととなっていた。それが一子の成長を見たことで刺激されてしまったらしい。妹の成長は勿論嬉しく、心の底から喜んでいるのだが、同時に自分の欲求を抑えるのに必死なのであった。

 

「こうなったら、いっそ、悟飯とまた戦ってもらうか? いや、しかし……」

 

 3ヶ月前と比べ格段に強くなった自信を持っている百代であったが、悟飯には未だ勝てないと思っていた。負け前提で挑むことは彼女のプライドが邪魔をするのだ。

 

「じじいやルー師範代は相変わらず戦ってくれないし、揚羽さんとは会えもしないし……。あー、いっそゴールデンウィークになったらマヤリト大陸にでも行って見るかな。いや、流石に今からじゃ無理か」

 

 マヤリト大陸に居ると言う悟飯以外の強者を探すことを考えるが、外国に行くならパスポートが必要である上、鎖国解禁がされたばかりのマヤリト大陸はまだまだ簡単に外との行き来が出来ない場所だ。国家か大企業の推薦がなければ入国はまず認められない。更に言えば旅費も無い。

 

「誰か強い挑戦者はいないのかー!!」

 

「ほっほっ、強い相手をお求めですか?」

 

「誰だ!?」

 

 思わず大きくしてしまった声、それに対し応答があったことに驚きと警戒をあらわにし、声が聞こえた方に振り向く百代。振り返った先には一人の老人が立っていた。その老人は嬉しそうに笑い、口を開く。

 

「でしたら、ちょうどいい。私が作った戦闘生物と戦っていただけませんかな?」

 

「戦闘生物?」

 

「ええ、私の居る研究所は軍や警察に売り込む戦闘生物の研究をしていましてな。そのテストデータを集めているのですが。武神として高名なあなたにお相手をお願いしたく、お尋ねしようとしたところ、あなたの独り言が聞こえましてな。どうやらお互い利害は一致しているようですし、ご足労いただけませんかね? 無論、テストに協力していただけるのですから謝礼として金銭もお支払いします」

 

 そして老人は百代に対しある取引を持ちかけてきた。その内容は確かに利害が一致しており、その上、小遣いまでもらえると言うのなら百代にとっては願ったり適ったりである。しかし話も男の見た目もどうにも胡散臭い感じがし、とりあえず幾つか尋ねてみることにした。

 

「戦闘用生物なんて本当にできるのか?」

 

「ええ、こう言ったものを作っているのは我々だけではありません。例えば有名な九鬼財閥では戦闘用のロボットを開発しているという」

 

「ああ、クッキーのことか」

 

 一子へのプレゼントとして彼女に惚れている九鬼財閥の御曹司、九鬼英雄が送ったロボット、クッキー。その第2形態は戦闘型でその量産型も製造されている。それを言われれば確かに戦闘用生物などというものがあってもおかしくはなかった。

 

「そのテストと言うのはどこでやるんだ?」

 

「そうですな。正確な場所は機密扱いですが、ここから1時間程移動した所ですじゃ」

 

 どのような移動手段で1時間なのかを男は明確にしなかったが、隣の国である韓国であっても1時間で移動はできない。少なくとも国内ではあるらしかった。それなら最悪男の話が嘘でも暴れて逃げ帰ってくればいいと考え、百代はその話を受けることにした。

 

「いいだろう。その話飲もうじゃないか」

 

「商談成立ですな」

 

 百代の答えに老人は笑みを浮かべると懐から何かを取り出す。それはスイッチの付いた小さなカプセルのようだった。そのスイッチを押して投げる。すると小さな爆発が起こりそこには小型のジェットフライヤーが現れていた。

 

「なっ!?」

 

 その光景に驚く百代。それを見て老人は笑う。

 

「おっと、この国にはホイポイカプセルは流通していないのでしたな。これはマヤリト大陸の発明ですよ。私も先程説明したような研究をしている都合上、大企業や国家ともパイプがありましてな。その伝で入手できたのですよ。さあ、乗ってください」

 

「……ああ。念のために確認するが、行き先は外国じゃないだろうな?行き成り海の上を飛ぼうとしたらこの飛行機を落としてでも脱出させてもらうぞ」

 

 思わぬアイテムが出てきたことに再度の警戒をし、警告を含めた確認を取る。

 

「ははっ、これは怖い。ご心配なく、ちゃんとこの国の中にありますよ」

 

 本気で怖がっているようには見えない笑い方。正直、まるで信用は置けなかったが一応言質は取ったとし、ジェットフライヤーに乗り込む。約束を違えられた時にはそれ相応の報いを与えてやればいいと考えたのだ。疑惑を持ちながらも話に乗ったのは戦いに対する強い欲求と自分の力への自信。悟飯と出会い彼女は世界の広さを知ったつもりだった。しかし知ったつもりに過ぎなかったのを、世界とは彼女が思うよりも遥かに広いことを、その広さの一端を彼女はこれより知ることになるのだった。

 武神と呼ばれた少女を乗せジェットフライヤーが空に飛び立ち、そして彼女を運んでいく。恐るべき脅威の下へと。

 一方、その妹である一子はその頃何をしていたかと言うと。

 

 

 

 

 

「勇!往!」

 

 彼女の目の前にあるのはランニング時に重りとして引っ張り磨り減ったタイヤ。それを3台、縦に重ねたもの。

 

「邁!!」

 

 気合の叫びを上げながら真ん中の空洞部分から手前のゴムの部分に向けて薙刀を振り下ろす。

 

「進!!!!!!!!!!」

 

 上2段のタイヤが切り裂かれ、3段目で刃が止まる。

 

 

 

 

 

 川原でタイヤを切断していた。




今回出てきた怪しい老人はドラゴンボールに出てきたキャラです。
大分マイナーなキャラです。

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