作者はクロスオーバー大好き人間です。
「それでね、今度から悟飯君と一緒に修行することになったのよ」
1-Fの教室で風間ファミリーの仲間に対し、悟飯と一緒に修行することになったことを伝える一子。
「へー、この前の決闘でもあいつ凄かったもんな」
「ふーん」
その話を聞いて好意的な反応を見せたのは好奇心旺盛な風間、逆にあまり面白く無さそうなのはメンバーの中で特に排他的な京とモロだった。
そして最も衝撃的な爆弾発言を落としたのは岳人である。
「てか、転校生の奴、もしかしてワン子に気があるんじゃねえか?」
「へっ!?」
その発言に一子が固まる。周りの空気も同じように硬直し、そしてその硬直が解けた一子が岳人に詰め寄り叫んだ。
「なっ、なんでそうなるのよ!!」
「だってよお。修行って名目が無かったら休みの日を二人で過ごしたいって言ったのと同じことじゃねえか? ワン子も一応女だしよお」
「俺達にとっては身内意識が強すぎてあまりそういう対象と見ることは無いけれど、学園内では結構人気あるみたいだしな」
岳人にしては鋭い指摘に大和が同意する。彼の場合はそれ以上の懸念を抱いていた。即ち、悟飯が二人っきりなのをいいことに不埒な真似をするのではないかと懸念を抱いているのだ。
(命の恩人と言うこともあって、ワン子の奴は孫の奴を信頼しきってる。信頼できると確信できるまでは少し目を光らせといた方がいいかもしれないな)
「あわわわわわわ」
恋愛に対し、恐ろしく初心な一子は悟飯が自分に対し恋愛感情を持っている可能性を想像しただけですっかりパニックになってしまっている。そんな彼女を見て自分達が守らなければと決意する大和。
「案外、ワン子の方もその気だったりするんじゃねーのか」
「そ、そんなこと無いわよ!! と、とにかく、私と悟飯君はそんなんじゃないから。純粋に修行しようとしてるんだからちゃかさないんでよね!!」
岳人のからかいに反応して再起動した一子が叫ぶ。それを他のメンバーが宥め、この話はこの場ではここまでと言うことで、その後は別の話題へと移っていった。
「一子さん。いいですね、これ!!」
「でしょ!! それにしても悟飯君、そんなに沢山凄いわね」
土曜日、約束どおり一緒に走る悟飯と一子。ただし普通に走っている訳では無い。二人はあるものを引っ張っていた。それはタイヤである。一子に薦められて真似たもので彼女は1個、悟飯は10個引っ張りながら走っている。このタイヤのおかげで一子に合わせてペースを落としてもしっかり訓練になっていた。
ただし、街の近くからずっとこの状態で走って来たためかなり目だってしまっていたのだが。とにかく、そのまま人気の無い開けた場所まで走り続けた二人はそこでランニングを終了する。
そしてそこで一子が提案した。
「さてと、ここで何時もは素振りとかするんだけど……ねえ、悟飯君、折角だから組み手とかしてもらえないかしら?」
「えっ、組み手ですか」
「うん、お互いの力を把握するためにもいいと思うの!!」
確かに一子の実力を把握しておいた方が色々とやりやすい。そう思い、承諾の意を示す。
「分かりました、やりましょう」
そう言って気を一般人レベルに落とす。一子の気は一般人に比べれば3倍位の強さなので、そこだけ比べれば今の悟飯は一子以下の強さと言うことになる。しかしサイヤ人は気を抑えた素の肉体でも地球人よりも遥かに強靭であるため、実際にはこの状態でもかなり悟飯の方が身体能力的に上を行く状態になっていた。
「あっ、僕は素手ですけど、一子さんの方は薙刀も使ってもいいですよ」
「むっ、馬鹿にしてるわね。でも、確かに悟飯君はアタシよりもずっと強いみたいだし、それなら遠慮せず使わせてもらうわ!!」
悟飯の言葉に軽い反感を覚えむっとする一子。しかし直ぐに悟飯の身体能力や試合の時の動きの凄さを思い出し、素直に従うことにしたようだった。
「それじゃあ、何時でもどうぞ」
「じゃあ、行くわよ」
構えを取る悟飯に対し、一子が勢いよく飛び掛る。
そして不意をつくように行き成り大技を放った。
「川神流・大輪花火!!」
「おっと」
飛び上がりながら薙刀を斬りあげる一撃。それに対し悟飯は紙一重で見切ると、身体を一歩下げ、最小の動きでその攻撃を回避して見せた。攻撃を空振り、胴体が無防備になる一子。悟飯はその隙に対し攻撃を仕掛けようとする。
「川神流・天の槌!!」
しかしそこで一子は飛び上がった動きを利用してカカト落としを繰り出してきた。不意をつかれ、攻撃を停止させる悟飯。しかし、攻撃を受けるまでには至らない。後方に飛ぶことで回避を成功させ、一子の攻撃はまたもや空振りに終わる。
(やっぱり、この街の武術家の人達が使う技は凄いな)
しかし相手の攻撃を回避した悟飯の心情を占めていたのは余裕や嘲りといった見下すと言ったものではなく、寧ろ感心や尊敬に近いものだった。それは一子に対してと言うよりもマヤリト大陸の外の武術に対する感想と言った方が正確かもしれない。
武術において高度な技は人体の構造を計算に作られている。しかしマヤリト大陸では人間に限定しても3メートルを超える巨体の人間が居たり、獣人や怪獣が居たりで、苦労して人体構造の弱点を突くような複雑な技を身につけても用途が限定されてしまうため、そう言った技があまり重要視されないのだ。
「くっ、川神流・山崩し!!」
薙刀を頭上で大きく旋回させ、勢いをつけたまま脛を狙う。
「よっと」
その一撃を悟飯は足の裏で軽く受け止める。その後、一子は何度も攻撃を繰り返すがその全ては悟飯によって防がれ、あるいは回避される。
(うーん、折角技が凄いのに無駄な動きが多いのが残念かな)
ただし、技の高度さを持ってマヤリト大陸の武術が外の武術に劣っていると言う訳でも無い。マヤリト大陸では高度な技に重点を置かない代わりにあらゆる状況で活用できる汎用的な動きを磨くことに力を入れ、結果、所謂自然体に近い動きを極、当たり前に取れるようになっていた。そのため、この点に限って言えば鈍りまくった悟飯ですら一子は愚か百代と比べても上を言っている。技やフェイントなどのテクニックを含めた総合的な技量で比べるなら、一子と悟飯では悟飯の方がかなり上、悟飯と百代で比べれば百代の方が幾分上と言った所だった。
「川神流・大車輪!!」
全身を回転させ、その勢い持って斬りつける一子の最大の技、それに対し悟飯は放たれた薙刀の刃を片手で掴んで受け止めた。最強の技を繰り出した相手に対し、この対応は両者の間にある実力差を明確に示しており、これを持って組み手は終了となったのだった。
「うううううぅぅぅぅぅ」
(し、しまった、やりすぎちゃった)
一子のうめき声が響き渡る。組み手の後、二人の間には重い空気が漂っていた。
その原因たるは一子である。彼女は座り込み、うめき声を出している。この状態も無理は無い。何せ武器対素手と言う有利な条件で、完敗と言うのも控えめな内容の負け方をしたのだ。如何に前向きな性格をしている彼女とて落ち込むのも当然と言えた。悟飯としてもここまで圧倒的に勝ってしまうつもりはなく、自身の実力を隠す意味でも当初はもう少し手を抜くつもりだったのだが、実際に一子の実力を見て、それについて考え事をしながら戦っていたためついやりすぎてしまったのだ。
(ど、どうしよう!?)
焦る悟飯。原因はともかくとして、女の子を落ち込ませてしまったことに対し、慌てる。慰める方法を必死に考え、そしてあるアイディアを思いついた。
「そ、そうだ!! 一子さん、僕のお父さんが昔やっていた修行をやってみませんか!? 多分、この修行をやれば格段に強くなれると思います」
それは彼女が自分の弱さに落ち込んでいるのならば、強くなる方法を示せばいいと言う単純かもしれないが上手くいけば効果的な考えだった。幸いなことに一子の欠点ははっきりと見えており、それを改善する手段は正にマヤリト大陸の武術の得意分野。幸いにしてその修行方法も父である孫悟空から思い出話として聞いたことがある。
「悟飯君のお父さんがやっていた修行?」
残る問題となっていたのは、この話に一子が耳を傾けてくれるかどうかであったが、幸いにも狙いは上手く嵌ったようで、落ち込んでいた彼女は興味を示した。その反応に内心でガッツポーズを取る悟飯。
「お父さんの師匠、マヤリト大陸で武術の神様って呼ばれてた武天老師様の下で修行して居た時にやった方法で、多分、一子さんには合ってると思う」
「マヤリト大陸の武術の神様……うん、やるわ!! どんな修行方法なの?」
食いつく一子。彼女が尊敬する姉や祖父での異名である”武神”とほぼ同一の称号を持つ人が考えた修行方法と言うのも琴線に触れたのだった。それに悟飯を見て、マヤリト大陸の武術のレベルの高さについても疑っていなかったというのが大きい。
「うん、土を耕して畑をつくるんだ。ただし、素手でね」
「素手で?」
「そう、こうやって手刀で土を突いて耕すことで、何時の間にか無駄に力の抜けた自然な動きができるようになるんだそうだよ」
修行方法について目の前で実践しながら説明する悟飯。最初聞いた時は、期待しただけにやや拍子抜けな内容と思ったものの、目の前で手刀を振るう悟飯のその動きの綺麗さを見て、効果のある修行方法なのだと実感。
早速、彼女も真似をする。
「えいっ……って、痛」
「あっ、そうか。この辺の土じゃ硬いのか」
地面に手刀を叩きつけた瞬間、痛みを口にする一子。ここは山の中、ここの土を畑レベルに耕そうとすれば最初から畑である土地を耕すのとは訳が違う。当時の悟空やクリリンですらそんな無茶はしなかった。
「それじゃあ、僕が先にある程度土を掘るからその後から耕してきて」
そう言って、どんどん地面を掘り起こして行く悟飯。それを見て一子は思う。
「やっぱり悟飯君凄い。もしかしたらお姉様や揚羽さん位に強いのかも」
一子の指導に熱心になる余り、自分の実力を隠すことを大分忘れてしまっているのだった。
こうして二人は一緒に修行するようになり、そして3ヶ月の時間が過ぎるのだった。
技量について百代>悟飯と言うことに突っ込みが多かったので今回の話の中で色々と説明をさせていただきました。話を書き始める前から考えていた基本設定ですので、意見に流されて変えたりした設定とかでは無いです。この辺のマヤリト大陸と外の世界の武術の差異は今後、ちょこちょこ説明して行くつもりです。