今後の方針として、エタを避けるため、章ごとに大体6話~10話位で完結を繰り返し、力尽きたところで最後に最終章を追加して完結という形を取らせていただきます。
悟飯、修行を再開する
「ほっ、ほっ、ほっ」
山の中をランニングする悟飯。オリンピッククラスのマラソンランナーの3倍近い速度で走りながらも彼にとってこれは単なるウォーミングアップに過ぎなかった。しかも彼はピッコロに頼み作ってもらった特別製の重量装備を全身に身につけているのである。その重さを合計すれば300キロ以上。彼の元の体重を考えると重力が5倍になったようなものである。
「よし、この位でいいか。とりあえず目標はセルと戦った頃と同じ位の強さになることかな」
ランニングを終了し、軽く背伸びをする。百代との戦いの後、悟飯は改めて自身の力を確認した。その結果、スーパーサイヤ人を超えたスーパーサイヤ人に変身できなくなっていること、全開状態の戦闘力もかなり落ちていることが分かったのである。今の状態ではセルは愚か下手をすればセルジュニアにすら勝てるかどうか怪しいだろう。
「学者になるために勉強もしないといけないけど、やっぱ少し位は鍛えておかないとな」
昔、ピッコロに言われたように地球が滅びてしまえば学者になるも無い。そうそう危機が訪れることなど無いかもしれないし、現時点でも宇宙の帝王と呼ばれたフリーザを遥かに超える力があるのだが、先日、自身の不甲斐なさを味わったばかりと言うこともあり少しばかりの不安と危機感を覚えたのだ。何せ、今の地球には悟空と言う絶対的に頼りになる存在が居ないのだから。
「それに百代さんとも約束しちゃったしな」
強いまま待っていると言う約束。地球人である百代がサイヤ人ハーフである悟飯に追いつける可能性は低いが、万一と言うこともある。責任感の強い人間である悟飯は約束を違えるつもりはなかった。それに加えて彼にも一応男らしい、あるいは少年らしいと言うべき負けず嫌いさがあった。同い年の女の子に負けたら悔しい、そういうプライドも少し位はあるのである。
「さてと、やるか!!」
こうして修行を開始する悟飯。まずは超サイヤ人に変身する。しかしそこでしまったと言う顔をした。
「あっ、精神と時の部屋での修行を真似しようと思ったけどこれだと重量装備の意味がなくなっちゃうか」
超サイヤ人状態では300キロ程度の重さなど布の服を纏ったようなものである。精神と時の部屋のように重力に加えて温度変化等の負荷もある環境ならばともかく、地球上では肉体的負荷が軽くなりすぎてしまう。
「うーん、精神を安定したまま変身ってのは問題無くできるみたいだし、通常状態で訓練しようかな」
超サイヤ人を解除する悟飯。その後は修行再開初日と言うことで、片手逆立ち状態での腕立て伏せ左右500回ずつ、拳突き5000回、蹴り5000回と軽めの訓練を実施するのだった。
山の中にて悟飯が修行を開始した頃、その将来のライバルたる百代もまた川神院にて修行に精を出していた。
「ふっ!! はっ!!」
「今日はまた、随分とやる気じゃのう」
いい加減な面が多い百代であったが、武術に対する誠意だけは本物であり、修行をさぼることはなかった。しかしライバルだった九鬼揚羽が引退して以降、張り合いと言うものが無くなってしまっていたのも事実。ここ最近は修行に対する真剣さが下がっていたのだが、それが見違えるように変わり、今の彼女は一挙一動に気合を込めて修行に励んでいた。
「ああ、目標が出来たからな!!」
「ふむ、例のグレートサイヤマンとか言う青年か。本当に孫悟飯君ではないのじゃな?」
「本当だよ。顔は半分見えなかったが明らかに別人だった」
鉄心の疑いの言葉に対し、きっぱりと否定する。悟飯と戦ったその日、問い詰められた百代はその日にあった出来事を正直に話した。ただ一つ、悟飯の正体だけは彼の意を汲んで隠し、戦ったのは別人と主張したのである。
(本当かのう。まあ、よい。しばらくは黙って静観しておくことにしよう)
鉄心はそのことについてかなり疑いを持っていたが、悟飯との戦い以降、百代の慢心や過剰な闘争本能は也を潜めている。勿論、これは一時的なものの可能性もある。しかし鉄心にはいい方向に変わりつつあるように見えた。
(正体が誰であるにしても馬鹿孫を成長させてくれた相手には感謝せんとな)
少し感慨を覚え、今は見守ることを選択する。
そこで百代が手を止め、鉄心の方を向いて言った。
「ところで、じじい私の目的達成のためにも組み手の相手をしてくれないか?」
好戦的な表情を浮かべて言う百代に対し、溜息を付いて言う。
「……やっぱり、お前、成長しとらんのう。駄目にきまっとるじゃろうが!!」
人間、そう簡単にその本質は変わらないようであった。失望もあって怒気が強くなるが、百代は意に返さない。
「ちぇ、ケチだな。っと、そう言えばそうとワン子の奴はどうした?」
拗ねた顔をした後、ふと思い出したように妹のことを尋ねる百代。それを聞いて鉄心も彼女のことを思い出し、心配気な表情を浮かべた。
「むっ、朝にランニングに出たまま、まだ戻っておらんようじゃのう」
「もう夕方だぞ。昼飯にも戻らず、あいつ最近少し無茶し過ぎじゃないのか……」
百代の表情が曇る。悟飯と初めて会った日もそうだが、最近の一子はオーバーワークが過ぎる。このままでは身体を壊してしまうかもしれない。
「無意識じゃろうが、焦っておるんじゃろうな」
何時か姉に追いつきライバルになる、川神院の師範代になって姉を支える。その夢に向かって真っ直ぐに追いかけ続けてきた一子。しかし彼女が武術を始めて5年以上、年数的にも年齢的にも才能の壁と言うものに気づいてしまう時期に入りつつあった。それを否定しようと自覚の無いまま今まで以上に我武者羅な努力をするようになってしまっている。
「恐らくは今年があの子にとって運命の年になるじゃろう。何らかの光明をみつけるか、そうでなければ諦めさせるつもりじゃ。無理にでもな」
そう真剣な顔で呟くのだった。
「あれ、一子さん」
「はあっ、はあっ、あっ、悟飯君」
修行の帰り、川沿いの道で偶然にもランニング中の一子を見つけた悟飯は彼女に声をかけた。しかし、そこで気づく。彼女が凄い汗をかいていて、気もかなり乱れており、明らかに疲労しすぎた状態であることを。
「一子さん、大丈夫ですか?ちょっと休んだ方がいいんじゃ?」
「あっ、うん、でももう少しだけ。アタシは才能あんまりないからその分頑張らないと強くなれないし」
悟飯は休息をすすめるが、彼女はその言葉を受け入れようとせず足を止めなかった。だが、無理をしているのは明らかである。彼女に併走しながら説得の方法を考え、過去に父である悟空が言った言葉を借りることにした。
「うーん、僕のお父さんが言ってたんですけど、あっ、お父さんは天下一武道会って言うマヤリト大陸で一番大きな武術の大会で優勝したこともある凄く強い武闘家で、修行とか戦うのがとても好きな人です。それで、そんな人にこう言われたんです。休むのも修行の内だぞってね」
「休むのも修行の内?」
無理をし過ぎ、もっと休まないと身体を壊すと言われたことはあったが、休むのも修行という言われ方をしたのは始めてだった。そのため、その言葉は少しばかり彼女の気を引き、走るスピードを少し緩めて悟飯の言葉に耳を傾ける。
「うん、僕も子供の頃はお父さんから武術を学んでいたんですけど、少し焦って強くなろうとした時があって、その時にお父さんが言った言葉がこんな言葉だったんです。『悟飯、焦っても強くなんねえぞ。一杯修行したら、一杯飯食って、しっかり休まねえと身体は強くなんねえ。休むの修行の内だ』。そしてその通りにして父さんはどんどん強くなっていきましたし、僕も強くなれました」
これはセルとの戦いの前に悟飯が教わったことであり、その考え方の原点は悟空の武術の原点である亀仙流の教え「よく動き よく学び よく遊び よく食べて よく休む」と言う考え方から来ている。
この考え方は単なる精神論では無い。近代科学によって明らかにされた成長のメカニズム”超回復”では身体に負荷と休息を交互に与えることで肉体は成長していくことが分かっている。また、古来より言われる文武両道と言う考え方(現在では学問と武芸の両方に優れると言う意味に使われるが、元々は身体を鍛え健やかな肉体を身に付けることで勉学により集中できるようになり、勉学を身に付けることで身体を効率的に鍛えることができるようになると言う、要するにある程度両方平行して鍛えた方が効率いいよという考え)にも沿っている。つまり近代的な考え方とも伝統的な考え方とも合致した極めて合理的な修行概念なのだ。
「うっ、うーん、そう言われると……」
理屈について説明を受けた訳ではなかったが、マヤリト大陸で名を馳せた武術家の言葉であり、実体験と言うことに説得力を感じる一子。
しかし同時に人と同じことをしていては目指すべきところには辿りつけないと言う想いがあり、その方向性を努力の量を増やすと言う方向性にしか思いつかないでいる一子は”もっと努力するべき”、”休むべき”と言う二つの考えに板ばさみになって悩む。
「一子さんはどうしてそんなに頑張ってるんですか?」
「うん。アタシね川神院の師範代を目指しているの」
そんな一子に彼女が努力する理由を尋ねる悟飯。その問いかけに対し、一子は川神院の師範代を目指していること。師範代は総代を補佐する立場であり、将来総代になるであろう百代を支えたいこと。更には武術を始めたきっかけは仲間達に助けられ、百代の強さに憧れ、自分も仲間達を守るために強くなりたいと思ったからだということを話した。
「その気持ち僕も少し分かります。僕もお父さんやピッコロさん、あっ、僕の師匠なんですけど、その人達の力になりたくて修行しましたから」
話を聞いて彼女の想いに共感を覚える悟飯。しかしだからこそ言っておかなくてはいけない気がした。
「でも、やっぱり無茶はよくないと思います。一子さんに何かあったら、百代さんも鉄心さんもきっと悲しみますよ。そしたら本末転倒じゃないですか」
「う、うん。そうね、少しだけ休むわ」
姉を悲しませると言う言葉が効いたのか遂に折れた一子は足を止めると土手に座り込んだ。そこで疲労が押し寄せてきたのか顔を下げた状態で疲労をあらわにする。そんな彼女の姿を見て悟飯は何か出来ないかと思いある考えを思いつき、それを実行するために許可を願い出た。
「ねえ、一子さん、体力の早く回復するおまじないみたいなものがあるんだけど、ちょっと試してみてもいいかな?」
「おまじない?うん。いいわよ」
その申し出に対し、あっさり了承の意を返す一子。驚く程の無警戒ぶりである。無論のこと、悟飯にはやましい気持ちなど一切ないが普通はこんな提案をすれば怪しみそうなものである。ましてや相手が同年代の男であれば尚更である。しかし天然二人しかいないこの場にはそれを指摘するものはいなかった。
「それじゃあ行きます」
承諾を得られた悟飯は彼女の露出した首に手を当てると自らの気をゆっくりと送り込んで行く。
(一子さんは普通の人間だから、あまりやりすぎると害になってしまうかもしれない。慎重に、慎重に……)
瀕死状態のフリーザに悟空が気を分け与え復活させたように、気を他者に与えることで相手の体力をある程度回復させることができる。しかし悟飯と一子ではその気のキャパシティに数十万倍の差が存在する。そのため、悟飯からすればほんの少し気を分けただけでも下手をすれば一子の身体を破裂させてしまいかねない。そのため、彼女の身体に直接触れてゆっくりと送り込む必要があった。
「あっ、何か温かい。それに身体がどんどん楽になってる気が」
その試みは上手く行ったようで、どんどん抜けていく疲労に極上のマッサージを受けた時のような気持ちよさを感じ、まったりとする一子。数十秒後、そこにはすっかりとろけた彼女の姿があった。それを見て悟飯はほっと一息つく。
(けど、これでしばらくはよくてもまた無茶をするかもしれないな)
回復はその場凌ぎにしかならないし、説得も覚えていてくれるかどうかわからない。
(それに一子さんは友達だし、何とか力になってあげたい)
転校してきたばかりの悟飯にとって一子は最初に出会った数少ない友人でもある。少し迷いそして彼はある決意する。
「ねえ一子さん、一子さんって何時も一人で修行してるんですか?」
「えっ、うーん、ルー師範代に指導してもらってる時以外は大概そうよ。土曜は一日中、自主鍛錬してることが多いかしら。たまにお姉様と一緒のこともあるけど」
「そっか、だったら、これから毎週土曜は僕と一緒に修行しません? 実は僕も武術の修行を再開することにしたんだけど、ほら、一人より二人の方が何かと効率がいいし、悪いところとか指摘しあえると思うんだけど」
その考えとは一子と一緒に修行すること。それならば彼女が無茶をしそうになったら止められるし、週に1度位でも気を渡して回復を行えば疲労の蓄積だけでも回避できる。デメリットとして一子の前では力を隠さなくてはいけない以上、修行の効率が落ちることだが急いで強くなる必要がある訳でも無いため、それは仕方が無いと諦めることにした。
「一緒に? うん、いいわよ。悟飯君この前の決闘でも凄く強かったし、アタシも勉強になりそうだしね」
悟飯の思惑など知らないままあっさりと了承する一子。こうして二人は一緒に修行をすることになったのであった。
今回はちょっと説教臭い台詞が多くなってしまった気がしますが大丈夫だったでしょうか?
クロスでの説教は下手をするとメアリー・スー系ぽくなってしまうので違和感がでないよう注意して書いたのですが。
それと悟飯の言葉遣いについてですが下記みたいな行こうかと思うんですけど、違和感ないですかね?
ビーデルには丁寧語が多かったと思うけど、シャープナーにはため口だったような気がするので。おかしかったら指摘いたただけるとありがたいです。
年上:基本丁寧語
同じ年の女:基本丁寧語、たまにため口。親しくなってくるとため口の割り合いが多くなってくる
年下or同じ年の男:ため口