悟飯in川神学園   作:史上最弱の弟子

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悟飯、反省する

「この辺りでいいか」

 

 市外から離れた山中、その中で開けた場所を選び百代は立ち止まった。今日は、彼女にとって待ちに待った日であった。それは決闘の日。悟飯が自分よりも強い相手を紹介すると約束した悟飯が決闘の場所として指定したのが今、彼女が居るこの場所であり、日時が今日の10時だったのである。

 

「本当に来るのか」

 

 約束の時間まで後15分。期待半分、不安半分の気持ちでその時を持つ。いや、どちらかと言うと不安の方が大きかったかもしれない。相手は本当に来るのか、来たとしてその相手は自分を満足させてくれるのかと言う不安があり、それ以上に自分を満足させてくれる相手なのかと言う不安があった。

 悟飯が強いのは間違いない、そう確信はしてはいた。しかし実際の所どの程度強いのかまで彼女は見切れていない。今日、ここに現れる相手が悟飯よりも強いと言うのが本当だとしてそれがどの程度のレベルの実力者なのかがわからないのだ。

 その強さに期待したいと思いながらも、これまで幾度と無く期待を裏切られてきた経験が諦めの感情を産む。自分と互角に戦えるものなどものいないのではないかと考えてしまう程に。世界を狭く感じてしまう程に。

 

「!!」

 

 その時、彼女は感じとる。強い気を。本来このような山奥は目印に乏しく待ち合わせには向かない。携帯も電波が通じない可能性がある。しかし百代には気を感じ取る力がある。そして、今日の対戦相手も同じことができると悟飯は言った。故に、大まかな場所さえ決めておけば後は気を感じ取って合流できる。

 

「強い、こいつ強いぞ!!」

 

 先程までの不安が一気に小さくなる。感じ取った気は壁越えクラス。しかもその気が近づいてくる速さは常人が生身で出せる速度では無く、この辺りには車やバイクで走れるような道も無い。期待をどんどん大きくし、そして遂にその存在が彼女の目の前に現れる。

 地面に降りたったその存在は全身緑色の男であった。

 そして男は口を開く。

 

「わたしは……」

 

 男が両手を広げ、片足をあげる。

 

「悪は絶対許さない!!」

 

 ポーズを変え、片手を地に片手を天に。

 

「正義の味方グレートサイヤマンだ!!」

 

 そして珍妙な名を名乗った男は両手を頭に乗せた珍妙なポーズをとるのだった。

 

「……何をやっているんだ悟飯?」

 

「わっ、私は悟飯では無い。正義の戦士、グレートサイヤマンだ」

 

 しばしの沈黙の後、冷静な口調で突っ込む百代に対し、男は慌ててそれを否定する。男はヘルメットを被っており、確かに外観からは悟飯であるかはわからない。

 

「そうか。すまない、ちょっとした勘違いだ。えーと、グレートサイヤマンだったか?」

 

「そ、そうだ。君が百代さんだね。私は悟飯君に頼まれて君と戦いに来た」

 

(よし、危なかったけどばれなかった!!)

 

(声でばればれなんだが。まあ、何か理由があるのかもしれないし、下手に突っ込んでへそを曲げられても困るしな)

 

 正体を隠せたつもりの悟飯。実際には完全にばれているのだが、百代がそれを口に出さずスルーしたため、彼がそれに気づくことはなかった。

 

「ああ、私が百代だ。それで勝負は何時始める」

 

「私は何時でも構わない。どこからでもかかって来なさい!!逃げも隠れもせず相手をしよう!」

 

 グレートサイヤマンを演じているため、普段と口調を変え、漫画や特撮のヒーローっぽく振舞う悟飯。普段の百代であれば、思わず噴出してしまっていたかもしれない。しかし今の彼女は一切、そんな気になれなかった。どんなにおかしな格好をしていようが、その言動が笑えようが、目の前の相手が待ち望んだ上等な敵であることは変わりないのだから。

 開戦の許可を得た百代はこれ以上耐え切れないとばかりに攻撃体勢に移る。

 

「ならば行かせてもらうぞ!! 川神流・無双正拳突き!!」

 

 最後の理性から宣言をし、悟飯に向けて、必殺の拳を放つ。それは幾多の相手を一撃で叩きのめしてきた剛拳。

 そして、その次の瞬間に起きた出来事に彼女は目を見開いた。

 

「なっ!?」

 

 放った拳はたった二本の指によって受け止められたのだ。

 

「ふふっ、君の攻撃はこんなものかい?」

 

 攻撃を受け止めた悟飯から飛び出す挑発的な台詞。どうやら演じていることによって軽い陶酔状態になっているようだった。

 そしてその発せられた言葉は百代の神経を逆撫でするのに十分で、あまり丈夫で無い彼女の堪忍袋の尾は一気に切れる。

 

「舐めるなあああああ!!!!!!」

 

 激昂した百代は感情を爆発させ、それに呼応するようにその気を解放する。全開状態にされたそのエネルギーはスカウターで計測すれば1000を軽く超えであろう地球人としては正に驚異的なパワーだった。

 

「凄い気だ。ならば私も力を見せよう!!」

 

 そしてそれに合わせて悟飯も気を解放し、相手の2割増し位にまでパワーを引きあげる。

 自分以上のパワーを見せられ、百代は驚き目を見開くものの、その闘争心は挫けることはなかった。

 

「ははっ、いいだろう。とことんまでぶつかりあおうじゃないか!!」」

 

 寧ろその愉悦を強くする。そして両者の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総代!!」

 

「うむ、片方はモモのじゃろう。そしてもう一つはモモ以上のパワーじゃ」

 

 二人の気は戦いの場から数キロ離れた川神院にも伝わっていた。慌てるルーと一見冷静さを保っているように見えながらも汗を浮かばせる鉄心。

 

「一体、何者なのデショウ」

 

「わからん。じゃが、可能性として高いのはマヤリト大陸の人間では無いかということじゃ。それ以外の場所にモモ以上の存在が居たとすれば、その存在が全く知られずに居ると言う可能性はかなり低いじゃろう」

 

 鉄心のライバルであった孫悟飯は20代の頃の鉄心と渡り合えるだけの実力を持ち、その流派である亀仙流は気の扱いという分野において優れた武術であった。その武術と特出した才能の持ち主が合わされば百代に匹敵する力の持ち主が誕生する可能性は十分にありえると鉄心は推測する。

 

「マヤリト大陸……。仮にそうだとすると、この気の正体は」

 

「うむ、”彼”の可能性が高いじゃろうな」

 

「信じられナイ。確かに先日の決闘でハ見事な戦いブリでしたガ」

 

「勿論別人の可能性も十分にある。いずれにしろわしらには最早どうしようも無い。戦いの場はここからかなり離れておるようじゃ。今から駆けつけても間に合わんじゃろう。この戦いが無事におさめることを祈るしかないのう」

 

 その言葉通り、出来る限り平穏に終わるようにと二人は天に祈りを捧げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうなってんだ。こりゃあ」

 

「んっ、どうしたんだい師匠」

 

 親不孝通り、そこで暮らす川神院元師範代である釈迦堂刑部もまた、二人の気を感じ取っていた。

 

「まだ、お前等にはわかんねえか。とんでもねえ気が二つぶつかってんだよ。こりゃ、まじで化けもんだ。片方は百代か? もう片方は知らねえな。じじいじゃねえみてえだが。いやー、世の中ひれえもんだな」

 

 恐怖や驚きを通り越して呆れたといった感じの口調で呟く釈迦堂。

 

「凄いって師匠よりすげーのか?」

 

「あん、まあ俺の4倍、いや下手すりゃ5倍行くか?少なくとも正面からは当たりたくねえなこりゃ」

 

 返って来た答えを聞き、目を見開いて驚く弟子達とその弟。

 

「師匠の5倍!? そりゃ、マジに化けモンだな」

 

「ああっ、かかわりたくないね」

 

「そうだな。まあ、俺等は小市民らしく大人しくしてるとしようぜ」

 

「はっ、あんたのどこが小市民だ」

 

 釈迦堂の発言に対して突っ込みを入れる彼の弟子の弟である竜兵。そりゃそうだとばかりに笑う釈迦堂。その頃には彼等の頭からは感じた気のことなどすっかり通り抜けてしまっていた。日々を自由に生きる彼等にとっては自身に関係の無い強者のことなどどうでもいいのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした!! さっきまでの威勢はどこへ言ったんだ?」

 

「ぐっ」

 

 嫌らしい笑みを浮かべながら先程の仕返しとばかりに挑発的な台詞を発する百代と苦悶の表情を浮かべる悟飯。

 戦いが始まって数分が経過していたが、形勢は予想外にも悟飯の劣勢であった。気を抑えていると言え、それでも百代以上の力を解放した筈の彼がこの状況に追い込まれているのには三つの理由がある。

 

(やばい、思った以上に鈍ってる!!)

 

 一つ目の理由は修行不足。悟飯はここ数年、本当にたまにしか修行をしていない。そのため、身体は勿論のこと、技や戦いの感なども大きく衰えてしまっていたのだ。

 

「くっ」

 

 体勢を立て直そうと百代の腕を掴み、投げ飛ばそうとする。しかしそこで百代が彼にとって未知の技を使用した。

 

「川神流・炙り肉!!」

 

「わっ、あちちっ」

 

 百代の腕が炎に包まれその熱さに思わず手を引いてしまう。これが二つ目の理由、気の性質を変換する技を使うものに悟飯はほとんど会った事が無い。そのため百代の使うそう言った技への対処に戸惑ってしまうのである。

 これが悟空であれば幼い頃から特殊な能力を持つ者を多く相手にした戦闘経験や生まれ持った戦闘センスで直ぐに対応できたであろうし、ピッコロやクリリンであればその多彩な技で驚かせ返すこともできたであろう。しかし悟飯はなまじ才能がありすぎたがために技を疎かにしてしまい、特殊な技の使い手との戦闘経験はグルトとの戦い位、そして戦闘センスでは純粋なサイヤ人である悟空やべジータに比べれば劣っており、苦戦の要因となっていた。

 

「川神流・鉄山靠!!」

 

 体当たりの一撃、それを身体で受け止め、それにより悟飯は確信する。

 

(間違いない!! 百代さん、戦い始めた時より強くなっている!!)

 

 これが三つ目の理由。この戦いの中で百代が成長したこと。元々百代は地球人としては桁外れの才能とそれに応じた潜在能力を持っていた。悟飯と言う強敵と遭遇したことが切欠となりその潜在能力の一部を解放したのである。

 そして体当たりを食らった悟飯は地面に叩きつけられ盛大に土煙をあげる。

 

「これで終わりじゃないだろうな?」

 

 土煙に覆われ姿の見えなくなる悟飯。しかし百代はまだ終わっていないと予想していた。あるいは切望していたと言った方がいいかもしれない。

 

「立ち上がってきたか。それでこそだ」

 

 予想通りに健在であった悟飯の姿を見た百代に浮かぶ感情は焦りでも緊張でもなく、楽しみが続くと言う喜び。それは鉄心が懸念する彼女が抱える狂気であり、何時しか彼女の中での悟飯に対する認識は上等な敵から極上の得物へと変わりつつあった。

 一方、悟飯は反省をしていた。百代を侮った事では無い。自分自身の慢心に対して己を責めていたのである。

 

(お父さんを超えたことで僕は自分が強くなったと勘違いしてたみたいだ)

 

 悟飯にとって悟空は幼い頃より強さの象徴だった。どんな絶望も覆してくれる無敵の戦士。宇宙の帝王と呼ばれたフリーザさえ倒した宇宙最強の男。その悟空に自分以上と認められたことで自分は自惚れていたのだと気づく。だからこそ悟空に地球の平和を託されたにも関わらずセルとの戦い以降修行をして来なかった。無意識の内に自分よりも強い敵など現れる訳が無い、負ける訳が無いと考えてしまっていたのだ。

 

「すいません。僕はあなたを侮っていたみたいです。僕は自分で思っていた以上に未熟でした」

 

 言葉と共に気を引き上げる。2倍に、そして3倍に。気の本流が風を生み出し、周囲の木々を揺らす。マスクよりはみ出た口元が引き締まる。口調も何時の間にか彼本来のものへと戻っていた。

 そして彼は宣言する。

 

「だからここからは僕も真剣(マジ)になります」

 




実力的には悟飯の方が圧倒的ですが、彼にも成長してもらうためあえて苦戦してもらいました。
次回は皆さんの期待通り(?)悟飯無双です。
そして次回で序章終了。その後、少し休憩してから次の章に進む予定です。

PS.悟飯の独白は私の想像で、人一倍真面目で正義感や使命感の強い少年だった筈の悟飯が何故、修行しなかったのかと言うことに対する私なりの予想です。違和感のある方も居るかもしれませんがご容赦ください。

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