悟飯in川神学園   作:史上最弱の弟子

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「ドラゴンボール超 スーパーヒーローズ」面白いので未だ見てない人はおすすめです。


武術の神様(後編)

「一体、どういうトリックですか? あなたの気の強さと実際のパワーやスピードがどう考えても釣り合わない」

 

 互いに距離を取った状態になった所で、一旦試合を中断し、会話をする二人。亀仙人から感じられる気以上の強さを彼が持つことに対し、百代が疑問を発した。それに対し、亀仙人は軽く首を振って答える。

 

「逆じゃよ」

 

「逆?」

 

 亀仙人の言葉の意味が分からず、オウム返しに問う百代。それに対し、亀仙人が自分の行ってみせたことの解説をする。

 

「わしは普段、煩悩と共に自身の気を発散してしまっておる。しかし今は自身の煩悩と一緒に気を己の内側に封じ込めておる。その結果、自身の力を無駄にすることなく使えておるのじゃ」

 

「・・・・・・なるほど、そういうことですか?」

 

 少し考えて言葉の意味を理解する百代。つまり亀仙人の言うことはこうだ。彼が気の強さ以上に強いのではなく、彼以外が力を使い切れていない、無駄にしてしてしまっていると言っているのだと。

 

(じじいが精神修行を大事だと言っていたのはそういう意図もあったのかもな)

 

 祖父、鉄心に口酸っぱく言われていたことを思い出す。それは人としての道を踏み外さないようにするための忠告だと百代は捕らえていた。実際その意図は強かったであろう。しかし、同時に武術家として強くなるためにも必要な事であったと思い至ったのだ。亀仙人は普段、煩悩と共に気を発散していると言った。それと同じ理屈で、百代自身も好戦的過ぎる感情を制御出来ていないことによって、無駄に気を発散してしまっていたのだ。

 

「ありがとうございます。これで、私はもっと強くなれる」

 

 自分の未熟な部分を納得いく形で指摘してくれたことに対し、百代は感謝する。

 ちなみにであるが、ここで亀仙人が見せ、百代が見いだしたスタイルは強さを目指す上で唯一の正解ではない。世の中には感情と共に自身の潜在能力を爆発的に引き出すという全く別のスタイルの強者も存在したりする。

 

「年寄りの忠告に意味があったようでなりよりじゃわい」

 

 若者の成長を喜ぶ亀仙人。筋肉ムキムキの姿から元の通常の姿へと戻る。それに合わせて、気も小さくなった。

 それを見て、戦闘態勢を解いたのだと思い、百代は少しがっかりする。

 

「手合わせはもう終わりと言うことでしょうか?」

 

「いやいや、そうではない。折角なので武術の奥深さをもっと見せてやろうと思っての」

 

「なるほど。それでは期待させてもらいます」

 

 亀仙人の言葉に気を取り直して、何が起こるのかとわくわくとして待つ百代。

 

「ほっ」

 

 それに対し、亀仙人は特に何かの変化を見せることなく、小さくなった姿のまま百代に向かって駆け出した。動きは先程までよりも遅い。とは言え、百代はたった今、相手の凄さを味わったばかりだ。当然油断などしない。全力で相手を迎え撃つ体勢を作る。

 そして一直線に向かってきていた亀仙人はある程度近づいた所で、軌道を変えた。

 

「!?」

 

 そこで一瞬、百代は亀仙人の動きを見失った。いや百代だけではない。その場に居る全員、悟飯ですら、亀仙人の動きがぶれたように感じたのだ。見失うまではいかなくても、正確には動きを捉えきれなかった。なんとか反応し、迎撃しようとした百代をかいくぐり、彼女の脇腹に亀仙人が一撃を叩き込む。

 

「ぐっ」

 

 苦悶の声を漏らす百代。とは言え、亀仙人の気が小さくなっているため、ダメージは大したことない。百代は直ぐさま反撃に移り、拳を放つ。それに対し亀仙人は流れるような動きでその一撃を回避する。続いて百代は連打を放つが、亀仙人はその全てを空にきらせた。

 

「かわかみ波!!」

 

「ほっ」

 

 亀仙人が飛び上がり、その真下を極太のレーザーが通り過ぎる。百代の攻撃をやり過ごした亀仙人は空中で一回転して地面に着地した。

 

(まるで、心が読まれているようだ。こちらの動きが完全に見切られている)

 

「今度はどんな技ですか?」

 

 先程までとは明らかに違う動き。気を無駄にしないという技とはまた別の、原理の違う”何か”を使っている亀仙人に対し、百代は直接尋ねてみることにした。それに対し、亀仙人は隠すことなく答える。

 

「別に大したことはしとりゃあせんよ。ただ己の本能のまま、身体に身を任せて動いておるだけじゃ」

 

「反射・・・・・・のその先ってことかな」

 

 それを聞いて百代ではなく、観戦していた燕が呟く。

 反射による行動はその個体にとって最速の行動だ。武術家のみならず、アスリートならば、反射的に的確な行動がとれるように訓練する。

 また反射による行動を取らないように訓練する。例えば目をつむらないようにすること。物が近づいた時に目をつむると言うのは眼球を守るための防衛反応であるが、同時に視力と言う知覚器官を一時的に封印してしまうので、戦いをする人間は目をつむらないように訓練する。

 

「全ての行動を反射で実現できれば、理論上はそれが最速。けど、実際には想定されるパターンが多すぎて無理。だから、よく使うパターンに絞って、反射で動けるよう武術家は訓練する・・・・・・ってのが常識だけど」

 

「もしかして、あのおじいさんはそれを全部の動きでやってるってこと?」

 

「うん、まあ流石に完全ではないと思うけど、ほぼ全部かな。後は殺気や予備動作から相手の動きを先読みしてるんだと思う」

 

 清楚の問いかけに頷く燕。技量の高い燕は亀仙人の動きを見て、彼がやったことがどういうものであるのかを見抜いて見せた。同時に燕は、それに対し、自分には絶対に真似できないと確信する。

 

(私は頭で考えるタイプだからなあ。まあ、そうじゃなくても、武術みたいに相手のあるもので全てを反射に任せて動くなんて無茶にも程があるんだけど)

 

 しかしそんな彼女とは対象的に、亀仙人の見せた動きこそ、自分の目指すべき到達点だと確信している人間がその場に一人だけ混ざっていた。

 

「なるほど。たいしたものです。ですが・・・・・!!!」

 

 その技量の凄まじさに感心しつつも、百代は攻撃を再開する。

 彼女の攻撃を回避しつつ何度も攻撃を当てる亀仙人。一方、百代も直撃こそないものの、相手に対し攻撃をかすらせる。

 いくら最速、最適な動きをしようとも基本スペックの差がなくなる訳では無い。仮に亀仙人が、先程までのように体内にフルパワーを閉じ込めつつ、今のように動くという”極み”とも言えるようなことが出来れば百代は手も足も出なかっただろうが、それを可能とする師と出会えなかった亀仙人は流石にそこまでは辿り着けていなかった。

 

「これって、どっちが勝つのかしら!?」

 

「うーん、良い勝負だけど」

 

「モモちゃんの方が押され気味だね。けど、一発だけでも当たれば」

 

「その時は百代さんが逆転するだろうね。それにスタミナも・・・・・・」

 

 優勢に見えるのは亀仙人だが、戦闘力の低い彼では一発もらっただけでKOされかねない。また若い百代との間にはどうしても埋められないスタミナ差と言うものもある。決定打の無い状態で長期戦になれば不利になるのは亀仙人かと思われた。

 しかし、そこで戦況に変化が訪れる。

 

「!?」

 

 百代が膝をついたのだ。亀仙人の攻撃は彼女の急所を的確に突いていた。非力なため、一発一発のダメージは浅かったが、その負荷は確実に蓄積していたのだ。

 そして実の所、瞬間回復と言う手段を持つ彼女にとって一番危険なのはこう言った攻撃だったりする。身体の内部に浸透するダメージは、強烈な攻撃や頭部への打撃に比べ、ダメージを自覚し辛い。その上、全身に蓄積してしまったダメージは直ぐには回復出来ないからだ。

 

「隙ありぃぃ!!」

 

 そして亀仙人の渾身の一撃が放たれる。これを顔面にでも受ければ流石にKOは免れなかったであろう。しかしここで、一つ不運が訪れる。

 百代が膝をついた結果、彼女の胸元と亀仙人の顔面の高さ、位置が非常に近くなってしまったのだ。そして彼が今、使っているのは己の身体に動きを任せる、謂わば本能に任せる技である。

 

「あっ」

 

「えっ」

 

「うわっ」

 

 様々な要素が組み合わさった結果、ある意味当然の事態として訪れたのは、百代の胸に顔を埋める亀仙人の姿だった。

 

「おう、ムチムチギャル。ええのう・・・・・・しもた」

 

「このスケベじじいがああ!!!!」

 

 本能によりセクハラを行ってしまい、攻撃を止めてしまった亀仙人。

 乙女の恥じらいと怒りにより、百代の天誅の一撃を食らった彼は盛大に吹っ飛ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまん。つい、反射的に動いてしまって」

 

「まあ勉強させて頂いたので、今回だけは特別にさっきの一発で勘弁してあげますよ」

 

 セクハラに大層腹を立てる悟飯と女性陣。しかし武術家としては非常に良い指導をしてもらったと言うことで、百代は亀仙人を許すとこにする。そして被害者当人が納得しているようだったので、他の皆も矛を収めることにした。

 

「まったく、僕の友達に何するんですか。・・・・・・それにしても武天老師様、あんなに強いならベジータさん達と戦った時とか手を貸してくれればよかったのに」

 

 友達に手を出された怒りに悟飯が一言だけ説教をする。そしてその後、彼にしては珍しい嫌みを言った。その言葉に亀仙人は少しだけ言葉に詰まった様子を見せる。

 

「いやー、平和にかまけてわしもあの頃はすっかり鈍っておってのう」

 

「あー、なるほど」

 

 それを聞いて悟飯も納得する。なんせ、彼自身、少し前まで自分も同じような状態になっていたのだ。そう言われては納得するしかない。

 そしてそこで納得したからこそ聞きそびれてしまった。「では一体、何時から鍛え直していたのか」と言うことを。

 

 

(ふう、追究されんでよかったわい)

 

 本当は若い者達に任せて隠居する予定だった。しかし7年前、テンシンハンが命を捨てる覚悟で戦いに挑んだ時、代わってやることも止めることもできなかった無力感。そして戦いが終わった時、愛弟子であった悟空は死亡したままであったという事実。それ等が鍛え直すきっかけとなったのだ。

 

(あんな想いをもう味わいたくなかったら鍛え直したなんぞ、恥ずかしくて言えんわい)

 

 亀仙人は声にださず呟く。

 そして悟飯達は分かれた友人達の元へ戻り、翌日にブルマの家へと向かうのだった。




今回は悟飯を含め、今後の成長の方針を示す割と重要な回のつもりで書きました。今回、亀仙人が見せた技法が合わないとされた燕にはまた別の方向性の成長パターンが考えてあります。


PS.百代が全身に蓄積したダメージは直ぐには回復出来ないというのはラジオドラマで、毒とかも回復出来るけど、長期的に蓄積したらまずいかもと言っていたことや、電撃ダメージに対する描写などから推測した設定です。

PS2.燕と清楚の百代の呼び方で両方とも「モモちゃん」でよかったでしたっけ?

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