悟飯in川神学園   作:史上最弱の弟子

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自身の正体を明かす者達

 

「う、ううん」

 

「あっ、よかった。一子さん、目を覚ましたんですね」

 

「えっ、悟飯君」

 

 医務室で目を覚ました一子の前に座っていたのは悟飯であった。

 彼がここに居ることに驚く一子。

 

「今日は用事があったんじゃなかったの?」

 

「あっ、思ったより早く片付いて、いえ実は……」

 

 一子の指摘に対し誤魔化そうとして直ぐに思いなおしたように右手を出す悟飯。

 その腕にははめられた腕時計のようなもの、そのスイッチを押すと一瞬で姿が変わる。

 

「実は僕もこの大会に参加してるんです」

 

「えっ、えーー!!?」

 

 驚く一子。何故ならばその姿は一回戦を圧倒的な実力で勝利した謎の実力者ウルトラナメックマンだったからである。

 

「まさか悟飯君がウルトラナメックマンだったなんて、全然気づかなかったわ。でも、どうして、そんな格好で出場してるの」

 

「あの、僕、あまり目立ちたくなくて。だから最初は大会自体出るつもりが無かったんですけど、一子さん達が盛り上がってるのを見て僕も出場したいなって思うようになりまして」

 

 ずっと山奥で暮らし、両親やその知り合い以外とほとんど接してこなかった悟飯にとって一子達は初めてできた同年代の友人である。その友人達が大会に参加する中、一人参加しない自分。そのことに彼は生まれて初めての疎外感を感じたのである。それが大会に参加した理由の『半分』であった。

 

「それよりも見てましたよ一回戦!! 二回戦進出おめでとうございます!!」」

 

 話題を変えた悟飯の口から飛び出したのは賞賛の言葉。その言葉には強い熱が篭っていた。悟飯の目から見て彼女がジンジャーに勝てる可能性はほとんどなかった。しかしその予想を覆し、彼女は勝利を収めた。そのことに悟飯は強く感動し、興奮していたのである。

 

「うん。自分でも会心の勝利だったわ!!」

 

 その興奮に感化され、勝利の余韻を思い出した一子も身体を乗り出す。ジンジャーの実力は壁越えと呼ばれている域だ。由紀江であっても確実に勝てるとは言い切れないレベルであり、まさに大金星の勝利であった。

 そして太陽拳という隠し球があったことなど多少のフラック要素が合ったとは言え、そのレベルの実力者に勝利できたことは彼女が壁越えの領域にかなり近づいてきたことを意味していた。

 

「これも悟飯君とクリリンさんのおかげよ。本当にありがとう」

 

「クリリンさんって言うと、やっぱり太陽拳はクリリンさんから?」

 

「うん、この間教えてもらったわ!!」

 

 興奮して語る一子。しかし興奮しすぎて立ち上がろうとした彼女はそこで身体に走る痛みに顔を歪める。

 

「いけない忘れてた。一子さんこれを食べてください」

 

「……豆?」

 

 その表情を見て悟飯は慌てて仙豆を取り出す。それが何かを知らない一子は不思議そうな表情を浮かべる。

 

「ええ、仙豆と言ってこれを食べるとどんな怪我でも治るんです」

 

「へー、不思議な物があるのね」

 

 普通なら信じない語飯の説明をあっさりと受け入れ仙豆を食べる一子。

 そしてその効果に彼女は驚愕した。

 

「凄い。本当に身体の痛みが完全に消えて、怪我が治ってる!!」

 

「よかった。それじゃあ、僕も次の試合の準備をしないといけないんで。一子さんも二回戦を頑張ってください。あっ、でも、あまり無茶は駄目ですよ。仙豆も後、1粒しか残ってないですし」

 

「うん、わかった。悟飯君も頑張ってね!!」

 

「はい! あっ、それと僕のことは秘密にしておいてください。話すのなら百代さんだけに」

 

「お姉様になら言ってもいいのね。わかったわ!!」

 

 そう言って部屋から出て行く悟飯。

 そしてそれと入れ違いにやってくる風間ファミリーのメンバー達。

 一方、一子の逆転劇が冷めやらぬ会場では試合が繰り広げられていた。

 

「一子ちゃんの様子を見に行きたいから悪いけどちゃちゃっと終わらせてもらうよ」

 

「むっかー」

 

 1回戦第5試合、松永燕VS板垣辰子。試合開始直後、対戦者に対し挑発的な言葉を投げかける燕。その挑発に辰子は頬を軽く膨らませパンチを繰り出すことで応える。その威力は大会参加者の中でも上位を誇っていただろう。しかし大振りな上に軌道の読みやすいテレフォンパンチであったその一撃はあっさりとかわされ空を切る。

 

「うわっー、凄い風切り音。まともに受けたら痛そうだね。けど、当たらなければどうということは無いってね」

 

 軽い口調の言葉と同時に放たれたカウンターの蹴りが顎を炸裂。その一撃で辰子は気絶し、燕の勝利となる。

 

「さてと、これでお見舞いに行けると言いたいところだけど……」

 

 そして勝利した燕だったが、直ぐに一子の所へは向かわない。次の試合の勝者と二回戦で戦わなければいけないからだ。燕は試合において事前に出来る限りの準備を重ねるタイプ。この試合はどうしても見ておかなければならなかった。

 

(ごめんね一子ちゃん)

 

 内心で詫びる燕。

 そして第6試合、鍋島正VSガーリックJr。鍋島は壁越えの武術家として関係者達の中では有名な人物であったが、観客の大部分が注目したのはガーリックJrの方であった。

 人間とは思えない異形の姿はジンジャーとの関連性を疑わせ、先程彼が一子に対し苛烈な攻撃を加えたこともあり、恐怖と嫌悪感を抱く観客達。

 同時にまるっきり子供のような小柄な姿をしていることで本当に戦えるのか心配したりする者も少なくなかった。

 

「ははは、この俺は見た目に惑わされたりはしないからな。全力で行かせてもらうぜ」

 

「ふふっ、みせてもらおうではないか、この大陸の武術家の力をな」

 

 舞台の腕で言葉を交わし互いに笑みを浮かべる、鍋島は豪快な笑いを、ガーリックJrは不敵な笑みを。

 そして試合が開始された。

 

「行くぜ!!」

 

 先にしかけたのは鍋島の方だった。ジャンプし高く舞い上がると、上空からガーリックJrの頭目掛けて拳を振り下ろす。それに対し、後方に飛び引いてかわすJr。

 そしてその次の瞬間、舞台が爆散した。

 

「ほお」

 

 空を切った拳が舞台にめり込み、周辺を巻き込んで陥没。小規模なクレーターを産みだしたのだ。生身の一撃とは思えない破壊力。しかしそれを見てもガーリックJrは焦ることも恐れることもなかった。

 

「なかなかのパワーではないか。どれ、今度はこの私の肉体でその力の程を確かめてやろう」

 

 先程のジンジャー同様に巨大化するガーリック。幼稚園児位の体格だったのが一気に2メートルを超える巨体へと変貌する。

 

「なかなか面白い芸だが、2番煎じの技じゃ関西では受けは取れねえぞ」

 

 ジンジャーが見せた巨大化と見た目の変化が同じであることを揶揄し、変貌に怯むことなく再び殴りかかる鍋島。

 先程以上の力を込めて放たれた強烈な一撃。それに対し、ガーリックJrはかわすようすを見せない。

 

「!?」

 

 鍋島の表情に驚愕が浮かぶ。彼の拳はガーリックJrによってがっちりと掴まれていた。その状態から逃れようと拳を引こうとする鍋島。しかし掴まれた腕はびくともしない。

 

「やはり悪くないパワーだ」

 

 自身の手に伝わってきた感触にニヤリとした笑みを浮かべるガーリックJr.

 そしてその掴んだ拳を離さないまま、ガーリックJrは腕を真上にまで持ち上げる。当然、鍋島の身体も持ち上げられ、ガーリックの身長に腕の長さを足した高さにまで浮かび上がらされてしまう。

 

「次はタフさを確かめてやろう」

 

「やめっ!!」

 

 そこで自身が何をされるのかを気づいた鍋島は制止の言葉をかけようとする。しかしそれよりも速く、ガーリックJrは動いた。高く上げていた腕を急速で振り下ろし、鍋島の身体を舞台に高速で叩き付けたのだ。

 

「がっ!!」

 

 舞台にクレーターが発生する程の勢い。その衝撃で白目を向いて失神する鍋島。勝負ありであった。

 

「こちらの方は期待外れか。まあ、候補には残しておいてやろう。……栄えある魔族の精鋭に加わる候補にな」

 

 気絶した鍋島を舞台に残し立ち去るガーリックJr.。それを見送りながら燕は試合内容を思い出していた。

 

(変身するのはさっきの一子ちゃんの試合から予想内だったけど、ジンジャーって人とは違って、力だけでなく速さもあがってた。こりゃあやっかいだね)

 

 どう戦うか頭の中でシミュレートする燕。しかし考え始めて直ぐにその思考を中断することを選ぶ。

 

「まっ、後でいっか」

 

 今は作戦を立てるよりも友人の見舞いの方が優先。そう結論をくだし、医務室へと急ぎ足を向けるのだった。

 そして第7試合は武蔵坊弁慶VS淋沖。日本の英雄のクローンと空想上とはいえ中国の英傑の名を受け継ぐ武術家、日中英雄対決とも言える試合であった。

 

「……強いね」

 

「あなたも」

 

 向かい合った瞬間、お互いの実力を見合う両者。

 そして試合が始まると互いが予想したように実力が伯仲した戦いが繰り広げられる。

 互いの得物も杖と槍、長物同士と言うこともあり決着は長引く。

 

「はっ!」

 

 そして最後に勝敗を分けたのは気持ちだった。弁慶は偉人のクローンとして、淋沖は梁山泊の代表として互いに簡単には負けられない誇りと責任を背負ってはいたが、気持ちの強さで勝っていたのは淋沖の方であった。加えて、彼女は守るものがある時に、その真の強さを発揮するタイプ。

 パワーでは弁慶、スピードと技量では淋沖に分がある戦いであったが、正面からのぶつかり合いで弁慶の薙刀を叩き落とすパワーを瞬間的に発揮する。

 

「しまった!!」

 

「やあ!!」

 

 そして武器を失った弁慶の胸を突く。これで決着、淋沖の勝利となった。

 

「トーマ、見てみて、僕頑張るよー!!」

 

「見てますよ。頑張ってくださいね」

 

 観客席に手を振る小雪。1回戦の最後となる彼女と清楚の試合は二人と同じ川神学園に通う生徒達にも予想がつかない者になっている。

 何故ならばつい最近まで小雪は学園内で実力を隠しており、一方、清楚の方はと言うとこういう戦い自体をするタイプと思われて居なかったからだ。そういう訳で今までとはまた違った意味での注目の一戦。その試合は誰もが予想できない展開を見せた。

 

「あの、皆さん、試合前に言って起きたいことがあるんです」

 

 試合が始まる前に観客席に向かって突如、清楚がマイクを持って口を開いたのだ。

 そして彼女は衝撃の告白をした。

 

「実は私は……項羽のクローンなんです」

 

 項羽、中国史上最強の英雄、その候補としてあげられるであろう偉人。その人物こそが清楚のクローン元であった。目の前の可憐な少女とイメージが結びつかず、川神学園の生徒達は驚くが、弁慶がそのクローン元と似ても似つかぬことを思い出す直ぐに然程大したことではないなと納得する。

 

「私自身も最近知って、他に知っているのは九鬼の人と後は一部の友達だけしかいません。けど、隠したまま戦うのはずるい気がして。あの、それと私戦う時はちょっと性格変わっちゃうみたいなんです。けど、お願いします。できれば怖がらないで今までどおり仲良くしてください!!」

 

 訴えかける清楚。それに対し観客席から肯定の声と応援の声が直ぐに帰ってくる。元々、百代がアイドル的扱いの学園である。項羽のクローンだと知ったところで、特別に気にする者が居る筈も無いが本人はその反応にほっとしたようだった。

 

「ふーん、項羽のクローンなんだ。けど、僕だって簡単には負けないよー」

 

 そして試合が開始される。対戦者の小雪は清楚が項羽のクローンだと知っても怯むことなく得意の蹴りを放つ。

 その瞬間に清楚の気が爆発的に膨れ上がった。

 

「えー!!??」

 

 その気だけで弾きとばされる小雪。そのまま場外に落下する。

 

「わはは、ぬるいぞ!!」

 

 そうして舞台に残ったのは性格ががらりと変わった清楚。こうして一回戦の全ての試合が終了するのであった。




ガーリックJrの強さについて劇場版では重量装備をつけた悟空やピッコロよりも強く、外した二人がコンビを組むと、多少善戦した後一方的に押される形でしたので、戦闘力にすると600程度が妥当と思われます。
しかしこの作品では魔界で鍛えたことで3倍程度にアップしていると思ってください。
ジンジャー達については原作のイメージ通りで戦闘力200~250位です。

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