親不孝通り、ならず者達が集まる街。その街の一角にある廃ビルを数年前から占拠している者達が居た。彼らに対して街の住人は決して手を出そうとはしない。何故ならば彼等は恐れられているからだ。常識を超えた強さと異形の外見を持つ彼等を。
そして彼らは一子達が参加する武術祭の出場者であった。
「誇り高き我等魔族の戦士がまさか予選で二人も敗退するとはな」
見た目は子供のように見える青い顔した背の低い異形の男、その前でその僕達が膝をつき頭を下げている。
大和達は彼等をマヤリト大陸の住人と想像したがその正体は当たっているとも当たっていないとも言える。確かに彼らはマヤリト大陸に住んでいた。しかし彼等は獣人達ともまた異なる魔族と呼ばれる人間達とは相容れない存在であったのだ。
「も、申し訳ありません」
「お許しをガーリックJr様!!」
主の漏らした侮蔑の言葉に対し謝罪する僕達。その名をニッキーとサンショと言い、彼らはガーリックJrやジンジャーと同じく武術祭に参加したのだが、二次予選で強敵とぶつかり敗退してしまっていたのだ。
彼等の態度に対し不機嫌そうに顔を背けるガーリックJr。しかしそこでふと思い直したように口の端を歪め、その表情を笑みへと変えた。
「まあいい。考えようによっては好都合だ」
彼らはある邪悪な目的を持ってこの武術祭に参加していた。その目的とは神への復讐である。
ガーリックJrの父ガーリックは先代の神と神の座を争い、力によって神の地位を手に入れようとしたが敗北して死亡。その際、先代の神は父親の邪悪さを受け継ぐガーリックJrに対し、放置しておくことは出来ないと考えたが、幼い子供であったため殺すのは忍びないとして魔界へと追放し二度と戻ってこれないようにすることにした。
しかしガーリックJrは父を殺された憎しみを忘れなかった。地獄で力をつけ、神の封印を破って地上へと舞い戻ったのである。
しかしそれは少しばかり遅かった。別の平行世界ではガーリックJrが地上へと戻ってきた時、ピッコロや先代の神の力は彼よりも少し下であり、更にドラゴンボールの力で不老不死を手に入れることに成功したのだが、この世界では彼の復活時には既に先代の神はピッコロと融合し一つになっており、余りにも大きな力の差が開いていたのだ。
そこでガーリックJrを彼の目から逃れるため、マヤリト大陸を離れた。しかしそれは復讐を諦めた訳ではなく、雌伏して時の至るのを待つためであった。
そしてまもなくその時は訪れようとしている。
「もう直ぐ魔凶星がこの星に近づく。それまでに何としても手に入れるのだ!!」
「はは!!」
彼が大会で狙うは復讐のための道具を手に入れること。その道具と魔凶星の力でピッコロを殺し、憂いを無くした後でドラゴンボールを使い不老不死を手に入れ、世界を支配する。それが彼の野望であった。
「遂に発表されたな」
金曜集会から数日後、最終予選の組み合わせが参加者達に告げられた。そこで風間ファミリーのメンバーは再び集まり、作戦会議を繰り広げていた。
「最終予選は予想通りトーナメントだ。まず、1回戦の組み合わせはこれだな」
ウルトラナメックマンVS石田三郎
ヒューム・ヘルシングVS源義経
ルー・イーVS黛由紀江
川神一子VSジンジャー
松永燕VS板垣辰子
鍋島正VSガーリックJr
武蔵坊弁慶VS淋沖
葉桜清楚VS榊原小雪
「とりあえず、1回戦で仲間同士で当たらなかったこととヒュームさんと当たらなかったことに関しては幸運と言っていいと思う」
まず、自分の意見を述べる大和。
本戦に進めるのは5位まで、例え2回戦で負けてもその後、敗者復活戦に出られるが1回戦で負けてしまえばそこで終わりである。1次予選にて他に比較にならない程、圧倒的な成績だった優勝候補大本命であるヒュームと当たらなかったことと身内で潰しあわずにすんだことは確かに彼の言う通り幸運と言えるだろう。
「だが、決して楽なグループじゃないぞ。ルー師範代は相当強いぞ」
しかしそこで百代が反論に近い言葉を述べる。それも的外れでは無い。
最悪は避けたものの、最高に運がよかったかとも言えない組み合わせであったからだ。由紀江の相手であるルー師範代は彼女と同じ壁越えクラスであり、百代の見立てではルーの方が実力的に上回っており、彼女が勝利するのはかなり厳しい相手であった。
そしてもう一方の一子の相手はと言うとこちらも楽観はできない。なにせ彼等からすれば得体の知れない不気味な存在なのだ。
「ワン子がやるのは例のマヤリト大陸の奴か。大和、一次予選の記録はどうだったっけ?」
「ああ。ベンチプレス350キロ、100メートル走3秒9だ」
「どちらも犬を上回っているな。だが、絶対勝てないと言う程の差ではなさそうだ」
「けど、予選では実力を隠してた可能性もあるかも。それに負けてるのは確かだから少なくとも有利とは言えないね」
「二次予選での情報は何かないのか?」
メンバーの各々が意見を述べる。とにかく1回戦を突破することが大事だ。二人とも敗退してしまえばそこで終わってしまうのである。逆にこの組み合わせなら両方が勝ち抜けば2回戦は仲間同士の対決となるので、どちらかは本戦進出確定できる。
「ジンジャーって奴は青龍刀のような刀を2本扱う2刀流の使い手、パワーよりもスピードを活かすタイプ、分かってるのはそれ位だな」
調べた情報は大和が告げる。それを聞いて、どのように戦うべきかを考える一子と百代。
「うーん、そうなるとアタシの有利は間合いの広さかしら」
「そうだな。2刀の使い方には色々とタイプがあるが、リーチでは薙刀に適う要素は無い。それに気による技もあるしな。気を飛ばして撃てるのはかなり有利だぞ。最も相手の方もそれが使える可能性を考える必要はあるが」
「じゃあ、基本はエネルギー波を混ぜながらのヒット&アウェイって感じでいいのかしら?」
「いいと思うよ」
「そうだな。まあ、後は実際に戦ってみて考えるしかないが、とりあえずはその戦法がベストだろう」
一子が考えを述べ、それに同意する京と百代。それ以上、他の意見も出ないようだった。
「じゃあ、ワン子の方はこの位かな。まゆっちの方は何かアドバイスある?」
「うーん、難しいな。何せルー師範代には弱点と呼べるようなものがない」
「うん。オラもそう思うぜ。あのおっさん、まゆっちの父ちゃん見たく達人って感じの雰囲気をぷんぷん漂わせてっからな」
ルー師範代は才能もあるが、長年の努力により実力を積み上げてきた武術家だ。それ故に目立った欠点と言ったものは無く、長年側に居た百代や一子ですら攻略法といったものは思いつかない相手だ。
答えが出ずに悩むメンバー達。するとそこで由紀江が立ち上がる。
そして緊張した表情を浮かべ、何度か口に出そうとしてそれを止めると言うことを繰り返した後、決意したのか自らの気持ちを語り出す。
「色々と考えて下さっている皆さんには申し訳ありませんが、私は下手な小細工をしても逆に付け入る隙を与えてしまうではないかと思います。ですから自分の全力を正面からぶつけていくつもりです」
自らの決意を述べた由紀江。その言葉に対し、数瞬の沈黙が落ちた後、風間が口を開いた。
「まあ、慣れないことしても失敗しそうだしな」
「どの道相手が相手だし、まゆっちの場合はそれが一番なんじゃない?」
「おう、俺様もそれでいいと思うぜ」
「まあ、俺達は武術に関しては門外漢だしな。姉さん達からも異論が無いなら俺もそれでいいよ」
「うむ、正々堂々。武士らしい戦い方だな」
「あ、ありがとうございます!!」
風間に続き、他のメンバーも次々と同意の言葉を口にする。自らの考えに理解を仲間が理解を示してくれたことに笑みを浮かべお辞儀する由紀江。こうして彼女の方針も決まるのであった。
そしてそれから数日が経過し、いよいよトーナメント1回戦の日を迎えた
「うわっ、凄い人数ね」
「それだけこの大会が注目されてるってことだろうな。多分、本戦はTV中継されるみたいだけれど、多分視聴率は凄いことになるんじゃないか?」
最終予選、その会場である舞浜スタジアムには数万人の観客が集まっていた。そしてスタジアム中央に作られた試合舞台では1回戦第一試合を戦う、ウルトラナメックマンと石田三郎が向かい合って立っていた。
「相手は石田か。うーん、弱くは無いんだが、ちょっと物足りないな」
風間ファミリーと並び応援席から試合を見る百代。ウルトラナメックマンの正体が予想通りなのかどうかその実力を確かめるには力不足な相手だと残念に思う。
一方、そんな評価をされているとは露知らずな石田は、自身満々な態度で声を上げていた。
「この大会はこの俺の出世街道となる。それを邪魔するものは容赦せん!!」
そして試合開始と同時に光龍覚醒を使いお馴染みの金髪な姿になると、刀を握り突撃しようとする。
「!?」
その次の瞬間、観客達は皆、目を見開いた。5メートル以上離れた所に立っていた筈のウルトラナメックマンが比喩でなく瞬き位の時間で石田の背後に周り込んでいたのである。
そして首筋に手刀が叩き込まれる。
「それまで!!」
その一撃で昏倒し倒れる石田。即座に審判の制止が入る。余りにも圧倒的な実力差。一瞬での決着に観客達は声も出ない。
(今の動き、私でも目で追うのがやっとだった。間違いない、あいつは……。ぶー、ちょっとむかつく。私にまで正体を隠すことないだろ)
その試合内容に正体を確信し、膨れっ面になる百代。
続いて第2試合、選手であるヒュームと義経が舞台に現れる。
「九鬼家従者零番、その実力の高さは知っている。けれど、義経も誇り高き偉人のクローンとして負けられない」
「ふん。気迫は買おう。しかし赤子の身で俺に勝とうとするのはおこがましいな」
緊張の面持ちで刀を握る義経に対し、ヒュームは平静そのもの。
そして試合開始が告げられ、その瞬間に試合は終わった。
「僅かだが反応したな。手加減したとはいえ、赤子にしてはよくやった」
そこには拳を突きつけた状態のヒュームと場外に跳ね飛ばされた義経の姿があった。この大会は天下一武道会にルールが合わせてある。即ち場外落ちは即敗北である。
「この大会が終わった後、お前が望むのならこの俺が鍛えてやろう」
負けた義経に対し、そう言い捨て立ち去るヒューム。こうして1試合目、2試合目共に圧倒的な実力差で一瞬にして決着が着くという結果に終わった。
しかし続く第3試合、これは激戦となることが予想される。
黛由紀江とルー・イー、剣聖の娘と川神流の師範代の対決という関係者注目の一戦の火蓋が切って落とされようとしていた。
ガーリックJrを魔界に封印うんぬんはオリジナル設定です。
ガーリックと神の戦いが数百年前ですからその間、ガーリックJrが何してたとか考えたらどっかに封印とかが妥当かなと思いこんな設定にしました。
ちなみに魔界の奥の方にはダーブラとかいましたが、ガーリックJrは会ったことは無い設定です。