悟飯in川神学園   作:史上最弱の弟子

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悟空が死んだことを以前に百代は悟飯から聞かされていたのに、知らないような会話をさせてしまったのでその辺りを修正しました。

追記:改訂後の方で悟飯から悟空のことを少し聞いていた一子がまるっきり知らないような台詞を吐かせてしまったので再修正しました。


手合わせ

「あれ、百代さんと……もう一人の女の子は誰だろう?」

 

 クローン達が転校してきて数日後、悟飯がふと校庭を見るとそこには百代と知らない少女が立っていた。その二人の間には川神院の師範代でもあり、川神学園の教師でもあるルーの姿が見える。

 

「もしかして決闘かな?」

 

 この学校に通っていれば自然見慣れる光景である決闘。二人が向き合う姿からそれを行っているのではないかと予測する。加えるなら見知らぬ少女がかなり強い気を持っていたこともそう推測した理由の一つだった。

 そして悟飯の予想はほぼ的中しており、百代が少女に向かって攻撃を仕掛けるのだった。

 

 

 

 

 

「いきなり川神流無双正拳突きーーー!!」」

 

 百代が放った戦艦の主砲にも匹敵する強烈な一撃。それを相手の少女は冷静に捌き、反撃の蹴りを百代の胴体に当てる。

 

「情熱的だね。びっくりしたよ」

 

「流石は松永。俄然面白くなってきた」

 

 1年の間に百代が経験した決闘は100回近く、戦った相手の数はその数倍に達するが、その中で彼女の初撃に対処して見せた相手は悟飯やウィロー達を含めても片手で余る程しか居なかった。久々に手ごたえのある相手との戦いに期待に胸を膨らませ興奮し、再度の攻撃をしかける。それに対し相手の少女も迎撃に応じる。互いに技を繰り出しぶつかりあう両者。スピードはほぼ互角、技量と試合運びの上手さはは相手の少女の方が僅かに上、しかしパワーは圧倒的に百代の方が上であった。

 

「いてて…うわ~、防御した腕がしびれっぱなしだあ」

 

「いいぞいいぞ。燕ホラ、武器使え!」

 

 百代の出した言葉から判明する少女の名前、松永燕。彼女は西の名門武家出身であった。武器の松永とも呼ばれ、その本領は武器を用いた時にこそある。

 その本領を見せようと武器を取る。

 

「それじゃあ、リクエストにお答えして」

 

 この戦いのために用意され、地面に置かれた沢山のレプリカ武器。その中から燕はヌンチャクを選び端を握って装備する。

 

「はっ!!」

 

 ヌンチャクを拾った燕は即座にその握った腕を大きく伸ばした。すると腕と一緒に武器も伸び、両者が一直戦になった。その先端は突きのとなって百代目掛けて撃ち込まれる。腕の長さと武器の長さを合わせればその間合いの長さは1メートルを超え、ちょっとした槍のようでもあった。素手の状態から大きく伸びた間合いに百代は一瞬感覚を狂わされ、回避をするために必要以上に大きく横によけてしまう。

 

「隙有り!!」

 

 その隙を狙って燕はヌンチャクを振り上げると、そのまま一気に振り下ろした。それに対して百代は拳で自身に迫るヌンチャクを殴って跳ね除けた。ヌンチャクは勢いより飛ばされ、燕の手からすっぽぬける。それに対して燕は手元から失われた武器に固執することなく、地面に置かれた武器の中から別の物、三節棍を手に取って戦いを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

「凄いな、あの人、次々に武器を変えて戦ってるよ」

 

「驚くのはまず姉さんと戦えてることだけどな。けど、確かに武器の扱いも凄いように見えるな」

 

 2-Fの教室から戦いを観戦し、感想を言い合う悟飯と大和。

 そして武器の扱いに対しては二人よりも詳しいクリスと京がより突っ込んだ評価をする。

 

「ああ、どれもなかなかに見事な腕前だ」

 

「けど、なかなかどまりでもあるね。ちょっと器用貧乏かも」

 

 三節棍を手に取って後もそれで終わることなく、太刀、鞭、ハンマー、薙刀。次々と武器を変えていく燕だったが、一つ一つの武器を扱う技量はそれほど卓越したものではなかった。しかしタイミングよく、そして速いスパンで武器を変えていくことで自身のリズムを掴ませず、実力の勝る百代に渡り合っている。

 

「けど、このまま行けば百代さんが有利かな」

 

 悟飯がそう評価する。燕の技の多彩さは確かに凄いが決定打が無い。何か切り札でもない限りは百代を倒すことはできない。

 逆に百代が燕を捉えるのは時間の問題だ。武器を如何に変えようとも基本となる体の動作にはある程度共通の部分が見られるし、そもそも武器の種類にも限りがある。

 故に戦いが長引く程百代が有利になる。しかし、戦いが長引くと言うことはありえなかった。そもそも、この戦いには時間制限が存在したからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次はどの武器を使うんだ」

 

「んー、今日はここらへんが潮時かな」

 

 興奮した面持ちで言う百代に対し、燕はレイピアをおろす。その行動に不服そうな表情を浮かべる理由だったが、直ぐにその行動の理由に気づく。HRの終わりを告げるチャイムが鳴り響いたのだ。この戦い、いやそもそも正確に言えばこれは戦いではなかった。燕は対外試合を家の許可なく行うことを禁止されており、今の二人の手合わせは歓迎代わりの稽古と言う名目でHRの時間を用いて行われたものだったのである。

 

「そんなに時間が立っていたとは。しかし楽しかったぞ。素晴らしい技の種類だったな」

 

 もう少し戦い続けたかったと少し残念に思いつつも、百代は燕の技を素直に賞賛する。

 

「いやもーこっちは必死だったよ。パワフルすぎ。よければ、これからも時々稽古してくれる?」

 

「こちらからお願いしたいと思っていた。そうだ!! 早速だが、今度の土曜に一緒に修行しないか。悟飯と一緒に修行すればきっともっと……あっ、いや、まずいか」

 

 燕の誘いに快諾し、そしていいことを思いついたとばかりに嬉々とした表情で百代は彼女を修行に誘う。しかしその言葉の途中で彼女は表情を曇らせた。

 

「モモちゃん?」

 

 その表情の変化に燕が心配そうな表情をするが百代は答えられない。

 悟飯と修行するようになって、彼女はその力を飛躍的に伸ばした。対等に戦っていたように見える燕との稽古でも彼女は気を抑えながら戦っており、実際には実力の4割程しか出していない。

 しかし燕にもまだ伸び代がある。一緒に修行し、実力を伸ばせば今度は全力の真剣勝負もできるようになるかもしれない、そう期待して誘おうと、それは悟飯の実力を隠すのを手伝うと言う約束に反した行動であることに気づいてしまったのだ。

 

「えと、ごはんと一緒に修行って、体にいい強くなれる食材を教えてくれるってこと? それなら私もとっておきのものを一つ知ってるよ」

 

「いや、悟飯と言うのは人の名前でな。それより強くなるためのとっておきの食材ってのは何だ。ちょっと興味があるな」

 

 答えの無い百代に対し、再度言葉を投げかける燕。約束を守るために百代はそれに乗って話の流れを変えようとする。その意図に燕は気づくが、追及しようとはしなかった。それはこの会話の流れもある意味彼女の期待通りのものだったからである。

 

「そ、れ、は、ね。っと、その前に。先生、マイクとか持ってます?」

 

 ルーからマイクを借りる燕。

 そして空に向かって何かをかざす。

 

「私が川神さん相手に粘れた理由、それは……この松永納豆!!!」

 

 かざしたのは実家の商品である納豆だった。実は彼女、納豆小町として関西では人気のローカルアイドル的存在であり、その魅力を十分に活かし、商品をPRし、この学園でも一躍人気者となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 百代と燕の稽古と称した勝負から数日が過ぎ、その週の土曜日が訪れる。

 毎週行われる悟飯との合同修行、その修行の場に待ち合わせの時間よりも大分早いにも関わらず、そこには百代と一子の姿あった。マヤリト大陸からやってくる武術家に対して期待するあまり開始時間よりも一時間早く来てしまったのである。

 

「ねえ、お姉様、悟飯君の知り合いってどんな人なのかしら?」

 

「どうだろうな。父親の親友と言っていたから私達よりもかなり年上だと思うが」

 

 訪れを待ちわびながら、やってくる人物に対して想像をめぐらす二人。

 

「あれ、二人とも早いですね」

 

 そして予定時間の20分前になって、悟飯が一人の人物を連れてその場に現れる。

 その連れてきた人物を見た瞬間、百代は失望を感じた。それはその人物の見た目があまりにも強そうに見えず、強者の雰囲気や覇気と言ったものをまるで感じなかったからだ。

 しかし彼女は直ぐに自分の目が曇っていたことに気づく。

 

(いや、違う!!)

 

「おっ、この娘達がお前の話してた娘達か。二人とも随分かわいい娘じゃないか。悟空と同じで女の子に興味を示さないかと思ったら学校行きだした途端に行き成り色気づきやがって。憎いねこの、この」

 

「そ、そんなんじゃないですでば。一緒に修行してるだけで、そんなこと言ったら一子さんや百代さんに失礼ですよ」

 

 二人の前で百代達を出汁に悟飯をからかう背の低い男性。その姿からは相変わらず強者のオーラをまるで感じさせない。傍目にはのりが少し軽く人の良さそうなただの一般人にしか見えないであろう。百代もその雰囲気に一瞬に惑わされてしまった。しかしその男性から感じる気は百代の全力さえも上回るものであったのだ。

 

(まだ戦闘態勢にも入っていない。極めて自然な状態でこれだけの強さとは。本気を出せば一体どれ程なんだ!?)

 

 

 戦慄を覚える百代。悟飯達に比べればコントロール力は劣るが、日本の気を扱える武術家達もある程度は戦闘力を上下させることができる。日常時には全力状態で無いのが普通で、黛や燕、小雪のように意識的に気を抑え実力を隠しているものも存在する。故に百代は男から感じる強大な気ですら全力とは限らず、寧ろそれ以上のものを秘めている可能性が高いと考えた。

 一子の方も男の力をある程度理解したらしく、驚いた表情を浮かべている。

 

「はじめまして、私は川神百代です。お名前を伺ってもいいですか?」

 

「あっ、川神一子です。今日はよろしくお願いします」

 

 直ぐにでも戦いたい気持ちを抑え、まずは礼儀を通すため、百代は自分の名前を告げた。男の強さに呆気に取られていた一子も慌てて姉に続く。

 

「百代ちゃん、一子ちゃんだな。俺はクリリン。よろしくな」

 

 気さくな感じで返事を返すクリリン。これでお互いに自己紹介を済ませたことになる。もうこれ以上我慢する理由は無いとばかりに百代は頭を下げ、勝負を申し込んだ。

 

「不躾ですいませんがお願いがあります。クリリンさん。私と手合わせしてもらえませんか?」

 

「!?……ぷっ」

 

 行き成りのお願いにクリリンは一瞬呆気に取られた表情をした後、吹き出す。

 そしてそのやや失礼な反応に対し、百代と一子は軽い不快感を抱くが、クリリンは笑いながら謝罪するとその行動について弁解した。

 

「ははっ、悪い。あまりに悟飯から聞いたとおりだったもんでつい。百代ちゃんは本当に戦うのが好きなんだな。悟空を思い出すよ」

 

「悟空って、物語にでてくるお猿さんじゃないわよね?」

 

 一瞬、西遊記の登場人物を思い浮かべ、直ぐに違うと思い疑問の声をあげる一子。クリリンが答える。

 

「ああ、悟空ってのは悟飯の親父で、俺の兄弟弟子だよ。馬鹿が付く位に戦うのが好きな奴でさ。色んな奴に挑んでどんどん強くなって行った。どんな状況でも何とかしてくれる本当に凄い奴だったよ」

 

 悟空について語るクリリンの表情。そこに浮かぶ感情は憧憬や親しみと言った様々な物が混ざり合い、正確には読み取ることができなかったが、少なくとも先程の笑いが嘲りを含むもので無いものであることを証明していた。クリリンは悟空に対し、正の感情を持っており、その人物に百代を重ねてしまったからこそ笑ったのであることがわかる。

 

(そう言えば初めて戦った時に悟飯からも印象がかぶるようなことを言われたな)

 

「確か悟飯君のお父さんって大きな武術の大会で優勝した凄い武術家なのよね?やっぱり悟飯君はお父さんから武術を教えてもらったの?」

 

 少し前に言われた言葉を思い出す百代。

 そしてクリリンの言葉から悟空が武術家である可能性が高いことに気づいた一子が悟飯との関連性について質問を投げかける。それに対し答える悟飯。

 

「ええお父さんは武闘家で、誰よりも強い人でした。けど僕が武術を最初に習ったのはお父さんのライバルだったピッコロさんと言う人です。後からお父さんにも教わりましたけどね」

 

「凄い人なのね。アタシも会ってみたいわ!!」

 

「あっ」

 

 一子の言葉に悟空が既にこの世に居ないことを聞かされていた百代は焦って注意しようとする。

 しかし彼女が指摘する前に、クリリンが僅かに表情をしかめながらその事実について告げた。

 

「ああ、その、こいつの親父さんは7年前に死んじまってな」

 

「あっ、ごめんなさい」

 

「いえ、気にしないでください。僕も今はあまり気にしてないんです。お父さんのことですから間違いなくあの世でも元気にやってるでしょうし」

 

 失言に申し訳なさそうな顔をして謝る一子。それに対し悟飯は困った表情で気にしないでいいと告げる。

 

「そうだな。お前の父親なら確かにあの世でも元気にやってそうだ」

 

 悟飯の言葉を一子に対する気遣いだと考え、彼の言葉に頷く百代。

 

「さてと、それじゃあ、希望通りいっちょ手合わせしますか。女の子と闘うのはちょっと気がひけるけど、まっ、悟飯の話を聞いた時点でこうなるとは思ってたしな」

 

そこで重い空気を変える意図も込めて、クリリンは話題を戻し、先程申し込まれた手合わせに対し了承の意を示す。

 そしてやる気を見せるように柔軟をして体をほぐし始めた。

 

「はい、お願いします!!」

 

「頑張って、お姉様!!」

 

 それに対して喜色を浮かべ、一子の声援を受けながら前に出る百代。

 こうして悟飯対百代に続く、マヤリト大陸と外の世界の武術家同士の試合が始まろうとするのであった。


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