「すなまいが、君を連れていくことは出来ない」
一子の願いに対し、少し迷った後、悟飯は断ることを決めた。身内の危機にじっとしていられない気持ちは彼にもよくわかる。それに百代の周りに感じる気の中に彼が警戒しなければならない程強い相手も存在しない。これならば自分が一緒に居れば十分守ってあげられるのではないかと言う考えも思い浮かぶ。
しかし相手が気のコントロールをできる相手かもしれないし、人造人間のように気を感じない存在が居る可能性もある。あるいは厄介な特殊能力を持っている相手が居るかもしれない。そんな未知の状況に彼女を連れて行くのはあまりにも危険だと判断したのである。
「何でだよ!! いいじゃねえか、ワン子はモモ先輩の妹なんだぞ!!」
悟飯の下した決断に岳人が不満の声をあげる。他に何人かも彼と同じように表情に不満を浮かばせていた。足手まとい、と口で言っても彼等は納得しないかもしれない。そう考えた悟飯は力の差を見せることを選んだ。
「今から気を解放する。地面にしっかりと踏ん張っていてくれ」
そう宣言し、あえて外側に放出されるようにして気を解放する。
「なっ!?」
それによって起きた変化に驚く風間ファミリーの面々。悟飯を中心にまるで竜巻が発生したようだった。風が吹き荒れ、砂が飛び散る。その状況に対し、事前に発せられた警告に従った訳ではなかったが、自然に地面に足を踏ん張ったり身を伏せたりしすることで、必死に吹き飛ばされないように彼等は体を動かした。
そしてその姿を確認した悟飯は気の放出を止めて彼等に対し語りかける。
「今、見せた力は百代さんの全力と同じ位だ。今から行く所にはこれだけの力を持った百代さんを捕らえることができる奴等が居る。そんな場所に君達は連れて行けない」
「……」
その言葉に彼らは反論できなかった。それも無理は無い。ただ力を解放しただけの彼に悟飯に対し、彼等はその場に踏みとどまることしかできなかったのだから。百代の持つ力に対し、彼等は知っているつもりでありながらその遠さと凄さを真に理解していなかった。ましてやその上の領域については完全に想像の外である。
「アタシじゃグレートサイヤマンさんの足をひっぱっちゃうのね……」
力の差を実感させられ落ち込む一子。他のメンバーに比べれば耐えられたが、気を解放した悟飯を前にまともに動けなかったのは同じである。そんな気落ちした彼女の姿を見て、つい悟飯は素に戻ってしまい、その状態で彼女を慰めた。
「残念ですけど……。でも、一子さんはこの3ヶ月で間違いなく強くなってます。今は力が足りませんが、このまま頑張れば絶対もっと強くなれますよ。そうすればきっと百代さんの力にもなれます」
「うん、ありがと。何だか、悟飯君に慰められているみたい」
「いっ!? あっ、いや、その僕は。その、私は彼の友人で!!」
正体に気づいた訳ではなく、単に似ていると感じた一子の発言に慌てる悟飯。そんな彼の様子を呆れとそしてそれ以上の驚きを抱えながら見るものがあった。
(見てて恥ずかしい位に分かりやすい奴だな。けど、あいつはさっき見せた姉さんと同じ位の力だって言ってた。信じられないけど、態度からして恐らく嘘は言っていない。ってことは孫の奴は姉さんと同等か下手をすれば上回る位の力を持ってるってことなのか? いや、気の強さだけが強さじゃないか。姉さんが負けるとはやはり考え辛い。けど、同レベルとは考えた方がいいだろうな)
大和である。絶対無敵な存在と考えていた百代と互角以上の存在が居ることに信じられない気持ちを抱いていた。半ば彼女の強さを神聖視している彼からすればそれは受け入れ難いことだ。
しかし、味方とすればそれはとてつもなく頼もしいことは確かだ。
(孫の奴はお人よしだしな。姉さんを見捨てるってことは考え辛い。心配なのは騙されやすそうって事位か。その辺は警告をしておくか)
「わかった。確かに俺達じゃ足手纏いにしかならないみたいだ。だが、あんたも十分に注意してくれ。相手は罠とか仕掛けてくるかもしれない」
「ああ。他に何か注意した方がいいことはあるかな?」
大和の頭の良さ、特にこう言った知恵を働かせる部分が優れていることを知っている悟飯は彼の言葉に耳を傾け、アドバイスを求めた。大和は少し考え答える。
「そうだな。相手は姉さんを人質に使ってくるかもしれない。正面からの突破は控えて、出来る限り裏から侵入した方がいい」
「わかった。気をつけるよ」
そしてアドバイスを聞き終えた悟飯は、他のメンバー達からもそれ以上言うことが無いことを確認し、舞空術を使って空へと飛び上がった。それを見てまたもや驚く風間ファミリーのメンバー達。
「必ず百代さんを助けてくるよ」
そんな彼等を尻目にそう言い残すと百代の捕らわれている場所に真っ直ぐに飛び立つのだった。
「あの建物から百代さんの気を感じるな」
百代の気を辿り、高速で飛行した彼は移動し始めて数分でドクターウィローの基地を見つける。そしてそこからは大和のアドバイスに従い、見つからないよう高度を下げて林の中を飛行し、直ぐ側までたどり着く悟飯。
「さてと、後はどこか忍び込める場所を……」
『よく来たな!!』
正面の扉とは別の場所へと移動しようとしたその時、スピーカーを通した声がその場に響き渡った。
『まず、ひとつ問う。貴様がグレートサイヤマンとやらか?』
どういう訳か悟飯の存在はばれていたようだった。これ以上隠れていても無駄と大人しく林から出て答える悟飯。
「そうだ!! 百代さんを解放してもらいに来た!!」
『ふふふ、いいじゃろう。ただしお前の力を見てからだ。私の所までくれば川神百代は解放してやろう』
その言葉と共に正面の扉が開く。
どうやら相手は百代を人質にするつもりはないようだと分かり、安堵した悟飯はその開いた扉から研究所の中へと足を踏み入れ走って進んだ。
そして彼は明るく広い部屋に辿りつく。当然、悟飯は知らないがそこは百代が戦闘生物と戦った場所だった。その部屋の真ん中に立ちふさがるのは全身が赤色と緑色をした2体の戦闘生物。そこで再びコーチンの声が聞こえてくる。
『さあ、グレートサイヤマン。このわしが作った戦闘生物を相手に川神百代が自分よりも強いと評したその力を見せてもらおう!! やれ、キシーメ!エビフリャー!』
創造主の命に応え悟飯に襲い掛かってくる2体の戦闘生物。キシーメの手刀とエビフリャーの蹴りが同時に彼を襲い、そして空を切った。
「!?」
「!!」
攻撃が当たる瞬間、狙いを定めていた悟飯の姿が消え、自分達の攻撃が空ぶったことに驚愕の表情を浮かべる2体の戦闘生物。その時、彼等の背後から聞こえてきた声に彼らは慌てて振り返る。
そこには一瞬の間に移動していた悟飯の姿があった。
「がああああ!!!!」
叫びと共に掌から冷気を放つエビフリャー。猛吹雪のようなその攻撃が悟飯を包み、その姿を見えなくする。
そして10秒程冷気を放った後、凍りついた悟飯の姿を予想し、攻撃を止めるエビフリャー。しかしそこで彼の表情が再び驚愕へと変わる。
「今みたいな攻撃は百代さんとの戦いで経験済みだ!!」
悟飯の体は宙に浮かび、彼の周囲は気によって作られた球形のバリアーによって包まれていた。
これはこの3ヶ月の修行で悟飯が新たに習得した技で、ピッコロから聞いた人造人間17号の技を真似たものである。
炎や氷などによって性質が変換された攻撃はそれ自体は普通に気を纏ったり気で肉体を強化することで防げるが、それでは技によって生じた熱や冷気の影響をある程度受けてしまう。それに対処するには体から離れた位置で攻撃を止めればいいのでは無いかと考え習得したこの技は、実際に今、狙い通りの効果を発揮していた。
「僕の力は今のでわかっただろう。こいつらじゃ僕には勝てない。大人しく百代さんを解放すれば許してやるぞ」
『くっ、やれ!!』
無駄な戦いは辞めようと勧告する悟飯に対し、自分の作った自信作を貶されたと感じたコーチンは戦闘生物に対し、再度攻撃を命じる。それに応じ、電気の鞭を振るうキシーメ。
それが決裂の合図だった。
「そっちがその気なら、もう容赦しないぞ!!」
その後のことは一瞬である。
電気の鞭を掻い潜って接近すると、エビフリャーの熱い胸板を拳で、キシーメの腹を蹴りでそれぞれ一撃で貫いて見せる。
圧倒的な力の差を見せ付けての決着だった。
戦いの一部始終を見ていたコーチンが呆然とした声を漏らす。
「信じられん、わしのつくった戦闘生物をこうもたやすく」
余りの衝撃に少しの間、呆けるコーチン。しかし、激しい破砕音によって正気に戻る。彼の居る部屋の扉が外側から破壊されたのだ。
「百代さんを返してもらうぞ」
その扉を破壊したのは戦闘生物を倒した後、一直線にここまで飛んで来た悟飯だった。部屋に押し入りコーチンを睨みつける。
「いいだろう。この女はもう用なしだ。貴様というDr.ウィロー様に相応しい体が手に入ったのだからな」
そう答え、コーチンがスイッチを押すと部屋の隅に拘束されていた百代が解放される。それを見て直ぐに彼女に駆け寄る悟飯。
「大丈夫ですか。百代さん!!」
「あ、ああ。すまない。助かった」
瞬間回復を封じるために電流を流され続けていた百代はかなり衰弱しているようだった。そんな彼女に悟飯はいざと言う時のために、マヤリト大陸を出る前に少しだけカリン様からもらっておいた仙豆を取り出す。
「これを食べてください」
「何だこれは?」
訝しがりながらもそれを口にする百代。すると仙豆の効果であっと言う間に完全回復する。
「これは!? 凄いな瞬間回復がDQのべ○マなら、これはFFのエリ○サーってところか」
体力や怪我ばかりか気まで全開回復したことに驚く百代。しかし何時までも驚いている暇は無かった。二人の目の前に戦闘生物最後の一体、ミソカッツンが現れたからだ。それに対し、悟飯が構えを取る。しかし百代がそれを制した。
「いや、待て。こいつは私にやらせてくれ!やられっぱなしじゃ、立場が無いんでな」
「えっ、いや、でも」
「心配するな。こいつの対処方法はもう思いついている。1対1ならどうにかなるさ」
「……わかりました。気をつけて」
プライドの高い人間はべジータで見知っている悟飯は百代の態度を見て彼女は引かないだろうと考え、大人しく引き下がることにした。
それを満足そうに頷くと前に出て構える百代。
百代とミソカッツン、両者は互いに睨み合い、そしてミソカッツンの方が先に動く。
「ガアアアアアア!!!」
接近し、拳を放つ。百代はその一撃を紙一重でかわすとカウンターで拳を放つ。それに対しニヤリと笑うミソカッツン。彼女の打撃が軟体ボディに通用しないのは先の戦いで既に証明されたことである。
「かかったな!!」
しかし百代は拳が届く直前その手をひらく。そしてその掌をミソカッツンの腹に押し当てた。
「川神流・雪達磨。フルパワーだ!!!!!!」
全ての気を注ぎ込む勢いで全力で冷気を放つ。その攻撃により押し当てられた腹を中心に凍結していくミソカッツン。
「グウォオオオオオ!!!」
抵抗し、拳を振るうミソカッツン。その攻撃に殴りつけられながら歯を食いしばり耐える百代。そして十数秒後、ついにその全身を凍りつかせることに成功する。
「川神流禁じ手!! 富士砕き!!」
凍りついたミソカッツン目掛け、残りの全ての力を込めて放たれる必殺の拳を放つ。硬く凍り付いてしまえば軟体ボディも意味がなく、その一撃により粉々に砕け散るのだった。
次回でDr.ウィロー編は完結予定です。