インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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天<アマツ>

noside

 

マドカが単機出撃を果たした頃、

亡國企業幹部であるスコール・ミューゼルは、

カタパルトを塞いだ瓦礫や残骸を、専用機、ゴールドフレーム天を使用し、

自身の機体が通れる程のサイズの穴を開けた。

 

「やっと通れる・・・!!さぁ、首を洗って待っていなさい、織斑一夏!!」

 

どれ程この時を待ちわびた事か、

オータムが殺されてからというもの、スコールは一夏に対する憎しみを日に日に募らせていた。

 

一夏を殺すことだけ今の自分の生きる道標、

目的に辿り着くためならばどんなことをしてでも構わない。

 

そんな事を思いながらも、瓦礫の間を進んで行く。

 

しかし、憎しみに彼女に気付く筈もない、

この戦争が、初めから何者かによって動かされていた事に・・・。

 

積年の恨みを晴らす、仮初めの時が、

彼女に訪れたのであった・・・。

 

sideout

 

noside

 

ナターシャ率いるチームCは、

各々の力を存分に発揮し、確実に亡國企業の拠点に近付いていた。

 

圧倒的な火力を持つデスティニーインパルス、

変幻自在な攻撃を繰り出すレッドフレーム改、

全方位攻撃を繰り出すドレッドノートの三機の前に、

ダガー達は次々に残骸へと変貌させられていった。

 

遠近のバランスが最も取れているチーということもあり、

彼等は互いをフォローしながらも進んでいく。

 

「ちっ・・・!!何処にいる!篠ノ之 束!!」

 

「怖じ気づいたか!?出てこい!!お前は私が殺してやる!!」

 

首謀者である篠ノ之 束に対し、個人的な恨みを持つナターシャと箒は、

迫り来るダガーを次々に葬りながらも口々に叫んでいた。

 

「もうやめろ!!なんでくだらねぇ理由で戦うんだ!?」

 

今だに戦うことに対しての抵抗をその胸に宿す雅人は、

迷いながらも、愛する者と生きて再び会うために、そしてその先へと共に歩む為に、

向かってくるダガーを次々に撃ち落としていく。

 

彼の叫びは虚しく響き、

心を持たぬダガー達が止まる事はない。

 

(なんでだよ・・・!!こんな戦いに意味はあるのか!?

篠ノ之 束、アンタは何が望みなんだ!?)

 

自分は一度も会ったことの無い人物、

篠ノ之 束に対しての憤りが、一夏への疑念と混ざり合い、

彼の心を乱していく。

 

正にその時だった、

彼等の機体のレーダーに、急速接近してくる機影が映し出される。

 

「新手か!?」

 

雅人は接近してくる方角にビームライフルを向け、

敵の正体を見極めようと目を凝らす。

 

彼の目の前に姿を現したのは、

特徴的なバックパックを背負った漆黒の機体、ゴールドフレーム天であった。

 

「なっ・・・!?ゴールドフレーム天だと!?そんなバカな・・・!?」

 

予想外の機体の登場に、雅人は驚愕の表情を隠せなかった。

 

ストライクダガーや、それに準ずる機体の登場には、

データを取られたという前提があったために驚きはしなかった。

 

しかし、ゴールドフレーム天となると、

どこからデータを取られたのかが分からない。

 

最も近いタイプの機体は、鈴のネブラブリッツではあるが、

彼女の性格上、戦闘が出来ているのか怪しい状態であったために、

データを完全に取れていたのかは疑問に残る。

 

「あら?ここには奴はいないのね・・・、来る場所を間違えたかしら?」

 

ゴールドフレーム天を駆るスコールは、

彼等から十メートル程離れた場所に機体を停止させ、

悔しそうに呟いた。

 

「アンタは篠ノ之 束の仲間か!?」

 

「御名答ね、加賀美雅人、私の名はスコール・ミューゼル、

亡國企業実働部隊のリーダーよ。」

 

ビームライフルを構えながら尋ねる雅人に、

スコールは邪悪な笑みを浮かべつつ答える。

 

「何故その機体、ゴールドフレーム天に乗っている!?答えろ!!」

 

「この機体の事かしら?良いわ、教えてあげる!

この機体はね、アクタイオン・インダストリーから奪ったデータで造ったのよ!

今までのISを上回る性能の機体に、束が改造してくれた姿よ!!」

 

自身の問いに答えたスコールの答えに、

雅人は全身の血の気が引くような錯覚を覚える。

 

(嘘だろ・・・!?尋常じゃ無い程セキュリティが強力なアクタイオンから盗んだだと!?

有り得ない・・・!!有り得ないが、目の前に実際現れてんだよな・・・!)

 

狼狽える自分自身を叱責し、

弱気、惑いを振り払うかのように彼は大きく頭を振る。

 

(奪われたのなら、そのデータの後始末を着けるのが、

アクタイオン社所属の俺の役目、やってやる!!)

 

「箒!ファイルス先生!コイツは俺が相手をする!!

ケジメを着けるためにも!!」

 

決意を固めた雅人は、

近くに佇んでいた箒とナターシャに向けて叫ぶ。

 

「分かった、私は手を出さないと誓おう。」

 

「任せたわ、加賀美君。」

 

彼の決意の固さを汲み取った箒とナターシャは、

彼の言葉に返答した後、周囲のダガー軍に対して攻撃を再開した。

 

「亡國企業、スコール・ミューゼル!!この俺が相手だ!!」

 

「望むところ!!織斑一夏の前に、貴様で準備運動ね!!」

 

闘志を宿した瞳をスコールに向け、

雅人は全てのドラグーンを射出、全方位からの攻撃を仕掛ける。

 

「行けよ!ドラグーン!!」

 

彼の意を受けたドラグーンは縦横無尽に駆け回り、

ゴールドフレームに向けビームの雨を降らす。

 

「はぁっ!!」

 

その光弾の中を、金色の機体はアクロバティックな動きを見せ、

機体に掠める事なく回避していく。

 

(チッ!やっぱりこの程度の射撃なんざ当たる訳も無いか!!)

 

ドラグーンを難なく避けている様にも見えるスコールに、

雅人は内心で盛大に舌打ちをしていた。

 

それもその筈、彼が狙っているのは死角やそれに準ずる角度からの攻撃であり、

余程の意識がなければ回避する事は出来ない。

 

それをやってのけるスコールは、

彼の目には相当の凄腕に映っているのである。

 

(くっ・・・!加賀美雅人、思ったより強い・・・!

こんな力を持った人間がどうして今まで目立たなかったの!?)

 

対するスコールも、雅人の力量に驚愕しながらも、

持てる限りの能力を以て、ドラグーンの光弾を回避していく。

 

言い方は悪いが、ハッキリ言って雅人は一夏や秋良の影に隠れがちではあるが、

彼自身の戦闘能力は彼等に引けを取らないものがある。

 

スコール自身は恋人であるオータムを殺した一夏だけを付け狙っていたため、

雅人の戦力を完全にノーマークにしてしまっていたのだ。

 

つまり、彼女自身は彼の力量、装備の類いを一切知らないまま、

彼に勝負を挑んだのだ。

 

それに対し、転生者である雅人は、

ゴールドフレーム天の機体特性を完璧なまでに把握しており、

どの距離が危険かという事も熟知している。

 

一見して、僅かな差にしか思えない差だが、

戦闘においては勝敗を決する決定的な差だ。

 

最初の内はなんとか掠めずに避けられていた光弾が、

ゴールドフレームの装甲を掠め始める。

 

「くっ・・・!!この私が押されてる・・・!?

そんな、そんなバカ事が・・・!?」

 

「このっ・・・!!退けよ!!」

 

ドラグーンを乱射しながらも、

雅人はシールド内蔵型ビームサーベルを展開し、

ゴールドフレームに向かっていく。

 

「ッ!!」

 

それを察知したスコールも、

トリケロス改よりビームサーベルを発生させ、彼と切り結ぶ。

 

「答えろ!!なんでこんな無意味な戦いを続けるんだ!?」

 

「無意味ですって!?貴方にそんな事を決めつける権利なんて無いわ!!」

 

雅人の問いに激昂しながらも、

スコールはビームサーベルを押し込む腕に力を籠める。

 

「貴方に何が分かる!?大切な人を!私はアイツに殺されたのよ!!」

 

「・・・ッ!!アイツって誰の事だ!?」

 

「決まっているじゃない・・・ッ!織斑一夏よ・・・ッ!!アイツは、アイツがオータムを殺したのよ!!」

 

「・・・ッ!!」

 

案の定とはいえど、やはり一夏が殺しを働いたと言う事実を受け止めきれない雅人は、

動揺した一瞬の隙を突かれ、大きく蹴り飛ばされてしまった。

 

体制を崩した雅人に、スコールは追撃として数発のビームを撃ちかける。

 

「ぐぁっ・・・!!くそッ!!」

 

一発被弾するも、立て続けの被弾を避けるためにフルアーマードラグーンをパージし、

盾の代わりにしてビームを防ぐ。

 

(あの野郎・・・!!どうしてこんな、憎しみを敵に植え付けるんだ!?

お前は、お前は何がやりたいんだよ、一夏!!)

 

Xアストレイ形態からイータ形態へと変更しながらも、

彼は自身の抱いていた一夏への疑念を更に大きくしていた。

 

「アイツがオータムを殺したのよ!!そうよ、これは復讐なの!!

貴方ごときが、ごちゃごちゃ言う筋合いは無い!!」

 

錯乱気味なスコールは、

血走った目を見開き、ビームを撃ちかけながらも迫る。

 

「ふざけんな・・・!!復讐の何が正しいってんだよ!!」

 

イータユニットをソードモードで起動し、

大出力ビームソードを展開する。

 

「復讐してソイツが本当に喜ぶのか!?

ソイツは、お前に生きて欲しいと思ってるんじゃ無いのか!?」

 

「黙れ!!貴様に、貴様に何が分かる!?」

 

「分からねぇさ!!何も!!だけどな!

憎しみは憎しみを生み出すだけだと、分かれ!!」

 

口々に叫び、言い合いながらも二機は交錯する。

 

ビームソードで、ビームサーベルで切り結び、時には拳を交える。

 

「おぉぉぉッ!!」

 

「はぁぁぁッ!!」

 

十度目の激突に、遂にゴールドフレームのトリケロス改が叩き割られた。

 

「・・・ッ!!」

 

「これで、終わりだぁぁぁッ!!」

 

その勢いのまま、彼はゴールドフレームのバックパックを破壊し、

戦闘能力を完全に奪い取った。

 

「クッ、クソォォォッ!!」

 

「投降しろ!!命まで取るつもりはない!!」

 

イータユニットをバスターモードに変更しながらも、

彼はスコールに投降を勧告する。

 

「ふ、ふざけるな!!投降して命長らえるぐらいなら!

私はお前を道連れに死を選ぶ!!」

 

しかし、スコールは投降勧告にも応じるつもりは毛頭なく、

叫びながらも機体をオーバーロードさせる。

 

雅人に組み付き、自爆しようと言う魂胆だ。

 

「やめろ!来るな!!」

 

バスターモードの砲口をスコールに向けながらも、

彼は止まる様に叫び続けた。

 

「来るな!!俺に、俺に撃たせるな!!」

 

「お前を、お前を殺してやる!!」

 

雅人の警告にも耳を貸さず、

猛スピードで彼に対し、特攻を仕掛ける。

 

「雅人!何をしている!!撃て!撃つんだ!!」

 

雅人に迫るスコールに気付いたのか、

箒が怒号を飛ばしてくるが、彼に届いているのかは不明だった。

 

(来るな、来ないでくれ・・・!!俺は、俺は・・・!!)

 

意識の中でトリガーに指をかけたまま、

雅人は躊躇っていた。

 

楯無ともう一度会う為に、自分が此処で死ぬわけにはいかない。

 

だが、その為には今、死ぬ覚悟で迫る敵を撃たなければ、

間違いなく自分の命も無い。

 

撃たなければ自分が死ぬ、そんな事ぐらい彼も理解している、

しかし、人殺しはしたくない。

 

その躊躇いが彼の指を押し止めていた。

 

(やめろ・・・!!来るな、俺に、俺に撃たせるな・・・!!)

 

「撃て!雅人!!」

 

「撃ちなさい!!加賀美君!!」

 

箒とナターシャが口々に叫び、

雅人に攻撃を促す。

 

その間にも刻々とゴールドフレームは彼に接近してくる。

 

「ウゥァァァァッ!!」

 

野獣の呻きの様な叫びをあげ、

雅人は遂に、トリガーを引いた。

 

威力を抑える為に課せられていたリミッターが外れ、

通常の何倍も強力なビームが発射された。

 

「ッ!!」

 

それは、ドレッドノートまで残り1メートルにまで迫っていたゴールドフレームを飲み込み、

臨界に達していたエネルギーと共に盛大な爆発を引き起こした。

 

爆発に巻き込まれたドレッドノートは大きく吹き飛ばされ、

海面へと墜ちていく。

 

「赦してくれ・・・ッ!!」

 

誰に向けたのか分からない詫びと共に、

雅人は頭から海に没した。

 

sideout

 




次回予告

潜水艦破壊ミッションを遂行すべく、
楯無とフォルテが海中を駆ける。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
凍てつく海で

お楽しみに。

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