インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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揺らぐ剣

noside

 

ナナバルクの先制攻撃により、

射出カタパルトが使用できなくなったマドカは、

一人通路を走っていた。

 

この建物は窓や出入り口が極めて少なく、

別の出入り口までは少し距離がある、

移動するにはそれなりの労力が要される。

 

だが、そんな些細な事は、走っている本人、マドカにとっては全く気にも止める必要もないモノであった。

 

目の前にまで仇敵が出向いて来ているのだ、

自分が討つと決めた相手をみすみす見逃せる筈も無い。

 

どす黒い復讐の念を胸に秘め、

通路をただひたすらに走り、外を目指した。

 

暫くの後、漸く非常口に辿り着き、

蹴破るかの様に外に出る。

 

吹雪や霧で視界は全くと言って良いほど利かないが、

遠くより鳴り響く爆発音だけはしっかりと耳に届く。

 

「待っていろ織斑一夏・・・!貴様はこの私が切り裂いてやる!

新たな牙、ミラージュフレームセカンドイシューでな!!」

 

誰に宣言するでもなく叫んだ後、

改修を施されたミラージュフレームを展開、凄まじい速度で飛翔した。

 

その先に、何があるのかも分からないままに・・・。

 

sideout

 

side秋良

 

空域のダガータイプの七割を殲滅し、

あと一息で先に進めそうになっている俺達チームBは、

それぞれをカバーしながらも迫り来るダガータイプを相手取る。

 

数が多いから厄介だけど、

なんとか片付けられそうにはなってきている。

 

「簪!秋良!オメェらエネルギーは大丈夫か!?」

 

俺達を心配してくれてなのか、

ダリルさんが通信を入れてきた。

 

「残ってます!それにチャージャーも持ってきてます!」

 

「俺も問題ないです!」

 

余分な装備を積んでない分、

回復用のバッテリーパックも多く持ってきている、

エネルギー切れの心配はあまり考慮しなくてもいいという事だね。

 

このまま進んで、束を捕まえればこの戦闘は終わる、

それを目指せば良いんだ・・・!

 

そう意気込んだ時、レーダーに急速接近してくる機体の反応が映った。

 

あまりにも速い速度で接近してくるから、

ダガータイプじゃない事は直感的に察する事が出来た。

 

恐らくは、俺達の戦闘データを使用した模造機だとは考えつくけど、

機体のタイプ、名称には思い当たる節は無い。

 

何が来ようとも、俺は大切な人を護るために戦う!

たとえ、誰かに利用されていたとしてもだ!!

 

「見つけたぞ!織斑一夏ァァァァ!!」

 

「なんだ!?」

 

声が響いた方向に意識を向けると、

日本刀型の実体剣と鉤爪を構えて突進してくる紫の機体があった。

 

と言うか、俺を兄さんと間違えるって、

どんだけこの顔に対して恨み辛みもってんだよ!!

 

そんな事を考えながらも、

シシオウブレードとウィングソーで実体剣と鉤爪を受け止めた。

 

って、あの顔はマドカか!?

なんで今回に限ってコイツが来るんだよ!!

 

「くははははっ!!お前を殺して、くーへの捧げ物にしてやる!!」

 

「ったく!!あの人は何をやってんだよ!!」

 

くーという名前に心当たりは無いけど、

どう考えても亡國企業側の人間なんだと推測出来る。

 

俺の知らない所で、あの人は一体何をやろうとしているんだ・・・?

 

こんな、敵に完全な悪意を植え付ける様な真似をして?

 

いや、今はそんな事を考えている暇は無い、

目の前にいる狂人を退ける事を考えないとね!!

 

「ちぃっ!!」

 

「はぁっ!!」

 

マドカが舌打ちしながらも、剣を押し込んで来るけど、

パワーでなら俺も負けねはいない!!

 

パワー競べの様相を呈しながらも、

互いに押されず押し込めずのまま拮抗する。

 

「秋良っ!!」

 

援護射撃のつもりか、簪がマドカに向けてプロトン・ライフルを撃ちかける。

 

「邪魔を、するなぁぁぁ!!」

 

俺から離れて光条を回避し、

残像が現れる程の速さで簪に接近する。

 

まずい!!今のアウトフレームじゃ近接戦闘には向いていない!

どう考えても格闘型に攻められたら勝てない!

 

「簪!」

 

駄目だ、間に合わない!!

 

簪に刃が届きそうになった時、あらぬ方向からビームブーメランが飛来し、

マドカの機体を襲う。

 

「チッ!!」

 

忌々しげに舌打ちしながらも、マドカは簪への攻撃を中断し、大きく距離を取った。

 

「おいおい、自分の大切な女ぐらい、自分で護れよ、秋良?」

 

弧を描き旋回するビームブーメランの軌道の先に、

バーミリオンの機体、ソードカラミティを纏ったダリルさんが佇んでいた。

 

「ありがとうございますダリルさん、コイツは俺が倒します、

簪はダリルさんとダガーを殲滅してくれ。」

 

「任せとけ、露払いは引き受けるさ。」

 

「うん、勝ってね?」

 

俺の言葉を聞き、ダリルさんと簪は周囲に展開していたダガーに向け、攻撃を再開した。

 

俺も、覚悟を決めよう。

目の前にいるのは敵だ、それを排除する事こそが、

俺の大切なモノを護るための唯一の手段。

 

ならば迷うことは無い、大切な人より大切なモノなんて、俺には無い!

 

俺は、俺のやるべき事をやる!それでいい!!

 

「来なよマドカ!俺が相手だ!!」

 

「望むところだ!!お前を殺してやる!!」

 

俺が切っ先を向けると、待ってましたと言わんばかりにこちらに突っ込んで来る。

 

これでもう、戦う以外に道は無くなった、ならば全身全霊で戦うだけさ!!

 

俺もシシオウブレードとウィングソーを構え、

マドカに向けて突進し、激突した。

 

sideout

 

noside

 

金属同士がぶつかり合う鈍い音を立て、

四本の得物が衝突する。

 

一見して、ピクリとも動かない程の拮抗状態に見えるが、

実の処はそうでは無かった。

 

実際問題として、機体の完成度、性能、パイロットの力量、

そして男女の筋力の差、全ての面で秋良がマドカを上回っている事は確かだ。

 

ならば何故、秋良は一気に押し込み、ケリを着けないのか?

 

答えは至極単純、

彼は前世で培われた記憶の中より、マドカが操る機体を探り当てたのだ、

無論、その能力まで全てだ。

 

ミラージュフレームセカンドイシューの最大の特徴、

それは四足形態による攻撃、通称ブルート・フォース・アタックである。

 

敵機の周りを残像を生み出す程の速度で高速移動し、

敵機に反撃をする隙を与えないという大技である。

 

対処するには、相手の感情を読み取り、

行動の先を予測しなければ到底避けきれるものではない。

 

そんな高度な芸当を然も当然と言わんばかりにやってのけられるのは、

彼の兄、織斑一夏ぐらいなものであろう。

 

秋良とて似たような真似は出来るが、

完全と言うわけにはいかない、いずれは限界が来ると分かっていた。

 

ならばと、距離を開けずにゼロ距離での攻防ならば、

ブルート・フォース・アタックを封じ込める事が出来ると判断し、

 

「チィッ!!このぉぉぉぉぉ!!」

 

「おぉっ!!」

 

力負けしている事に苛立つマドカと対照的に、

秋良はただ刀を振るい、斬るという想いだけを籠めていた。

 

「お前ごときが!お前ごときが私のプライドを蔑んだ!!」

 

そんな最中、マドカが叫ぶ。

 

秋良は自分には関係無いとは思いつつも、

一夏という役を演じるために無表情を貫く。

 

「私は兵器として生み出された!織斑千冬の劣化クローンだ!!

それでも、私はそれでも良い、寧ろ誇りに思っていた!!」

 

血を吐くような声で、マドカは叫んだ、

彼女の誇りは戦うことだけだった、それ以外の自由は殆ど無い、

しかしそれ故に戦いという物に誇りを持つようになったのだ。

 

今までは敵を葬る事など容易く行えた、

強敵との戦いも血が騒ぐような感覚を楽しめた。

 

だが、織斑一夏はその誇りを踏みにじった。

 

圧倒的な力の差をまざまざと見せ付け、

尚且つ眼中に無いとでもいうようなその態度・・・。

 

全てを否定された様な感覚に貶められた、

マドカはそれが赦せなかったのだ。

 

「私は戦うだけの存在だ!!それ以外に意味はない!!」

 

「そうやって自分で勝手に決めつけるのか!?」

 

マドカの叫びを、秋良は真っ向から否定した。

 

彼とて、自分は戦うことしか出来ないと理解している、

だが、自分の中にあるのはそれだけでは無いと知っている。

 

故に、それだけの事で囚われるマドカを哀れに思いながらも、

その感情を否定する。

 

「喩え誰かのクローンだったとしても!お前の心、感情はお前だけの物だ!!

それを作った周りを、否定してんじゃねぇよ!!」

 

秋良は怒り心頭の様子で叫び、

我武者羅に刃を押し込み、マドカの体制を崩す。

 

「お前の憎しみ、絶望を!この俺が否定してやる!!」

 

シシオウブレードで天羽々斬を弾き飛ばし、

ウィングソーで肩の砲塔を貫く。

 

その流れのまま、左手に装備されていたCソードBタイプを切り落とす。

 

「ぐっ・・・!?」

 

先程はうって変わった怒濤の攻めに、

マドカは一瞬の内に武装の半分を失った。

 

咄嗟に左脚を振るい、装備されていたCソードAタイプで攻撃を仕掛ける。

 

それは秋良の左手に保持されていたウィングソーを叩き折った。

 

「はぁぁっ!!」

 

だが、その程度で本気になった秋良を止める事は出来ない。

 

彼は直ぐ様シシオウブレードで脚部のアーマーの一部、

主に武装が装備されていた部分を切り裂き、近接武器の全てを奪い取った。

トドメと言わんばかりにアーマーシュナイダーを抜き取り、発射されようとしていた残っいるビーム砲に突き刺した。

 

「ぐぁぁぁっ!!」

 

エネルギーが行き場を失い、盛大な爆発を引き起こし、

ミラージュフレームは大きく吹き飛ばされる。

 

「ぐぅっ・・・!!くそぉぉぉぉっ!!」

 

戦闘手段を奪われたマドカは、

スラスターを吹かし、逃亡しようとする。

 

「待て!!」

 

それを認めた彼は、ゲイルストライクのスラスターを吹かし、

追跡しようとした。

 

だが、それよりも早く、ダリルのソードカラミティがミラージュフレームの前に割り込んだ。

 

「ッ!?」

 

「敵は全て消せと言われてるんでね、恨みもあることだ、消えろ!」

 

何かを言うやいなや、ダリルはシュベルト・ゲベールを重ね合わせ、

回避しきれなかったマドカを頭から真っ二つに切り裂いた。

 

断末魔をあげる暇すらも与えない、まさに一瞬の内に事を済ませた。

 

ミラージュフレームだったモノは、

慣性で僅かに進んだが、直ぐ様失速し、アラスカの氷原へと墜ちていった。

 

「だ、ダリルさん・・・!?貴女まで何を!?」

 

突然の事に驚愕し、

掠れた声ながらも、秋良はダリルに向けて問うた。

 

「何を、だと?秋良、お前は何か勘違いしているんじゃねぇか?

アタシはアタシのやるべき事、つまりは敵の殲滅をするだけだ。」

 

ダリルはシュベルト・ゲベールの切っ先を、

秋良と、彼に近付いていた簪に向けながらも言い発った。

 

「アタシは盟主の戦い方に賛同している、

それなら敵は全て殺せと命令されたに等しい。」

 

「そんな事は間違っている!!喩えテロリストだとしても、

ここで殺す道理にはならない!!」

 

ダリルの言葉はある意味、兵士、戦士としては当然の理なのであろう、

上官からの命令にはなんの疑問も抱かずに戦う、それが兵士と言うものだ。

 

「なら聞くが、何処で殺されるなら良いってんだよ!?

この戦争の後の法廷か!?そんなもん信頼できるか!!」

 

「・・・ッ!」

 

ダリルの怒号に、彼は何も言うことが出来ずにたじろぐ。

 

確かに、この戦いの後、テロリスト達は軍法会議やそれに準ずる法廷で裁きを受けるだろう。

 

しかし、下っぱなら切り捨てても構わないが、

首謀者である篠ノ之 束や幹部にもなれば話は変わってくる。

 

ISの生みの親である束を生かし、

ISの情報を聞き出そうと極刑を回避させ、利用しようという国も現れるだろう。

 

もしそれがなくとも、IS委員会が黙っている筈もなく、

圧力をかけようとするのは火を見るよりも明らかだ。

 

いや、最悪は今回の様な動乱を再び引き起こす恐れすらあるだけでなく、

女尊男卑に染まった者達の暴走も誘発させるであろう。

 

「アタシの事を間違いと言うなら、お前のそのちんけな情けは正義か?

違うな、ただの偽善、最悪は世界を滅ぼす事になるんだぜ?それを分かってんのか!?」

 

「・・・っ!!」

 

ダリルの言葉が容赦なく秋良の胸に突き刺さり、

迷いという名の傷口を拡げていく。

 

何も言い返す事が出来ぬまま、

秋良は呆然と佇む事しか出来なかった。

 

「お前の気持ちも分かるがな、今は戦争だ、殺らなきゃ殺られる、ただそれだけだ、

そんな覚悟もないなら、お前はさっさとナナバルクに帰れ、戦いの邪魔になるからな。」

 

そう吐き捨てた後、ダリルはシュベルト・ゲベールを両手に保持し、

単機ダガーの中に向かっていった。

 

「俺は・・・、何をやっているんだ・・・。」

 

彼女の背中を見送り、秋良は宙に佇んだまま動けずにいた。

 

正しいのは自分か?それとも一夏の理念に共感する者達か・・・。

 

いくら悩めど、一向に答えは出なかった・・・。

 

sideout




次回予告

仇敵を探すナターシャと箒の前に、
金色の機体が姿を現す。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
天<アマツ>

お楽しみに。

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