インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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始まりの砲火

side雅人

 

ナナバルクが襲撃を受けてから一時間後、

俺達は再度、作戦内容の確認及び、配置についてのブリーフィングを受けるために、

ブリーフィングルームに集合していた。

 

全員が生き死にに関わる重要な事のため、

口数も少なく、一夏が語る内容に耳を傾けていた。

 

彼のやったことを、俺はどうやっても理解できない、

彼処までやる必要がどこにある?

 

何がやりたいんだ・・・?

彼のやろうとしてる事の先が読めない・・・、

それが余計に疑心暗鬼を煽っていく・・・。

 

いや、喩え疑心暗鬼を抱こうとも、

一夏は俺達を裏切っていた訳じゃない、

そうでも思わねぇと、ガンダムチームとして戦う事なんて出来やしねぇよ・・・。

 

そうだ、ヤられたのは全部俺達の敵なんだ・・・!

一夏は戦士として敵を討ったに過ぎないんだ・・・。

 

自分を無理矢理納得させ、

改めて一夏のブリーフィングに意識を戻す。

 

「アクタイオンで説明した通り、更識楯無、フォルテ・サファイア両名は、

水中戦闘向けの機体を有しているとして、敵潜水艇の撃滅に当たって欲しい、

貴君らの働き次第で、この戦闘の勝敗は決する事を念頭に置いて欲しい。」

 

「分かったわ・・・。」

 

「任されたッス、やり遂げてみせるッスよ。」

 

楯無は歯切れが悪いながらも頷き、

フォルテさんは特に迷いもなく首肯した。

 

やっぱりと言うべきだな、楯無も一夏に対して、

疑心暗鬼を抱いている。

 

従うべきか、従わざるべきか・・・、

俺と同じく悩んでいるのだろうな・・・。

 

だが、フォルテさんは全く迷いが無い、

まるで、完全に割り切っている様な、もしくは、

一夏達と同じく、敵を倒すことだけを見ている様な気がした。

 

それは戦争に置いては最も重要な心構えなんだとは分かっている、

だが、どうしても腑に落ちない物がある・・・。

 

それが何なのかは、今の俺には分からなかったのだが・・・。

 

「次にナナバルクの護衛任務に着いて貰う三名を発表する、

ラウラ・ボーデヴィッヒ、凰 鈴音、山田真耶、

以上の三名はナナバルクの周囲に展開、攻撃してくる敵機を迎撃して欲しい。」

 

「分かりました・・・。」

 

「わ、分かった・・・。」

 

「了解しました・・・。」

 

三人とも、納得出来ない気持ちを押さえ、

役目を果たすために頷いていた。

 

それが普通の反応なのかは俺にも判断しかねるんだがな・・・。

 

「次に、無人機、及び有人機を本格的に相手取るメンバーだが、

一点突破を狙うよりも、三方からの進撃を試みた方が有効だと判断した。」

 

どういう事だ?

戦力を一点に投じた方が、早く敵拠点に辿り着けると思うんだが・・・?

 

「説明を要求する、どういう事か教えて欲しい。」

 

俺と同じ事を疑問に思ったのか、箒が挙手しながら発言した。

 

「一点に戦力を投じた場合、確かに敵拠点に辿り着ける時間は短くなるだろう、

だが、その場合、伏兵や討ち洩らした敵がナナバルクを狙いかねない、

その憂いを絶つために、三機一組のチームを三つ作り、各方面から敵拠点に攻めいるということだ。」

 

そういう事か・・・、

三方から攻めるのは、討ち洩らしを極力減らし、

防衛の任務を請け負っている三人の負担を軽減する狙いがあったのか・・・。

 

確かに、俺達の拠点はこのナナバルクだと見て良い、

ならば、敵もこの艦を落とそうと別動隊を寄越すだろう。

 

そこに俺達が討ち洩らした敵が流れれば、

負担が増加する、よく考えればすぐに分かる事だったな・・・。

 

「各チームに一名ずつ、アタッカー、近接援護、砲撃援護の役割を任命する、

チームA、アタッカーはこの俺、織斑一夏が務め、近接援護、セシリア・オルコット、砲撃援護、シャルロット・デュノアに任せる。」

 

「お役目、果たせていただきますわ。」

 

「やり遂げてみせるよ。」

 

一夏の言葉に、セシリアとシャルロットは何時もと何も変わりなく頷き、

彼から渡されていた資料に再度目を通す。

 

やはり、あの三人は行動を共にするのか・・・。

分かっていた事とは言えども、得体の知れない恐怖が沸き上がってくる。

 

「次にチームB、アタッカーは織斑秋良、近接援護、ダリル・ケイシー、砲撃援護を更識簪に任せる、諸君らは左舷より進攻して欲しい。」

 

「やるしかないんだろ?やるよ。」

 

「任されたぜ、やってやるよ。」

 

「分かった・・・。」

 

秋良はもう諦めたのか、仕方無くやると言う風に答え、

ダリルは気概に満ちた声で了解の意を表し、

簪はやはり何処か歯切れが悪い返事をしていた。

 

割り切った者、最初から戦うつもりの者、

迷いを捨てきれない者の分類が見事に表されている様で、なんとも言えない心地を味わう。

 

「続いてチームC、アタッカー、ナターシャ・ファイルス、近接援護、篠ノ之 箒、砲撃援護、加賀美雅人の三名で右舷から進攻せよ。」

 

「分かったわ、命令内で好きにさせてもらうわよ。」

 

「任せてくれ、私は戦う。」

 

ナターシャ先生と箒は仇敵が相手なだけに、

戦意をたぎらせながらも頷いた。

 

今はただ愚直に戦う事が正義ならば、

四の五の言わずに戦うしかない、か・・・。

 

「分かった、今回はチームで戦うんだ、俺も戦わせてもらう。」

 

そうするしか無いと、俺は自分自身に言い聞かせ、

やっとの思いで答えた。

 

「よし、それでは出撃する、各員戦闘準備だ!」

 

『了解!!』

 

完全に納得出来なくても、戦うべき時には戦うさ。

 

じゃねぇと、護りたい物を護れねぇからな・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

ブリーフィングルームを後にし、

俺達は直ぐ様格納庫に向かった。

 

アラスカに到達するまでもう間もない。

ならば、そろそろ出撃する事が妥当だと判断したためだ。

 

他のメンバーは両サイドのカタパルトにそれぞれ分かれて待機しているが、

俺はミーティアを装備しての出撃のため、センターカタパルトに待機している。

 

『一夏、ナナバルクも戦闘形態に移行し、

諸君らの援護を担当しよう。』

 

「ジョージ、頼んだぞ、なるべく射程ギリギリからの攻撃に専念してくれ、

帰るための脚が無くなるのは流石にキツいしな。」

 

アラスカから日本まではかなりの距離がある、

ただでさえ距離が開いているのに戦闘後にISで戻るのは本当にキツいしな。

 

『分かってるさ、私とて命は惜しいからな、

あぁ、そうそう、ロウがこの装備を搭載してくれたぞ、今データを表示しよう。』

 

データ?一体どんな装備だ?

発進前にそんなレクチャーはされてない筈なんだが・・・。

 

そんな事を考えている内に、

データが転送されて来た。

 

「って!?おいおい!?ローエングリンだと!?

こんなもん危なっかしくて使えるかよ!?」

 

ローエングリン、アークエンジェル級の戦艦に搭載された陽電子砲であり、

チャージに時間はかかるが、その威力は絶大、拠点制圧向けの装備であることは確かだ。

 

しかし、環境汚染が甚大な為、

地球上で使用する事は推奨されてはいない。

 

俺も正直言って、こんなもん使いたくは無い、

なんせ獲物が少なくなる。

 

『安心しろ、環境への被害は少ない様に設計されているそうだ、

これさえあれば、攻め入るにも幾分か楽になるだろう?』

 

「まぁそうなんだけどな・・・、

チャージを始めてくれ、俺達が出た直後に発射、敵の気勢を削ぐ。」

 

『了解した。』

 

やれやれ・・・、

派手すぎるのは好きじゃ無いんだが、

これは戦争だ、好きに殺らせてもらうさ。

 

回線を開き、待機しているメンバー全員に対して、

俺は出撃の指示を下す。

 

「各員に通達、順次発進し、敵拠点に対して攻撃を仕掛ける、

今回の作戦も全員の帰還を以て作戦の成功とする。」

 

何人に届いているかは知らないが、

俺は誰にも死んでほしくは無いからな。

 

ミーティアとストライクノワールを連結させ、

カタパルトに移動させる。

 

さぁ、これから開く扉の先には、

何が待ち構えているのやら・・・。

 

それを確かめに行くとするかな。

 

「織斑一夏、ストライクノワール+ミーティア、出るぞ!!」

 

sideout

 

noside

 

アラスカ、亡國企業実働部隊拠点のモニタールームに、

接近するナナバルクの艦影が映し出された。

 

「来た来た・・・、漸く仇を討てるよ・・・、

待っててねくーちゃん・・・、すぐにアイツをそっちに送ってあげるよ・・・。」

 

「待っていなさいオータム・・・!私が織斑一夏を殺し、

その首を貴女に捧げるわ・・・!」

 

「待っていた・・・!待っていたぞ織斑一夏・・・!!

今日こそ、私がお前を殺してやる・・・!!

そして、私こそが本物だと知らしめてやる・・・!!」

 

ガンダムチームの盟主、織斑一夏に対して、

個人的な怨恨を持つ束、スコール、マドカの三人は、

念願が果たせると言わんばかりに、仄暗い笑みを浮かべた。

 

「さぁ!!ダガーを全機発進させて!私達も出るわよ!!」

 

「クックックッ・・・!!私がアイツを殺す!!」

 

スコールとマドカは嬉々として叫び、

モニタールームから飛び出していった。

 

仇敵が目の前まで来ているのだ、

その首を切り落とす絶好の機会だと思っているのであろう。

 

「フフフフ・・・、さぁ行こう、私の最強のIS、ニクスプロヴィデンス・・・、

あのふざけた男を、血祭りにあげようね・・・!」

 

待機形態であるブレスレットを撫で、

束も部屋を出ていった。

 

「一夏・・・、お前と束は、私が止めてみせる・・・、

馴染み同士が戦うなんて、あってはならないんだ・・・。」

 

ただ一人、他の者達と目的を他にする千冬は、

小さく呟き、モニタールームから去って行った。

 

自分が、大きな手違いを犯している事に気付かぬままに・・・。

 

sideout

 

noside

 

ナナバルクより発進したガンダムチームは、

それぞれの任務を遂行するために分かれていく。

 

一夏達進攻組はナナバルクの前方に、

楯無とフォルテの潜行組は海に潜り、

真耶達防衛組は艦の側面、及び、後方に待機する。

 

「ジョージ、ISの発進口をローエングリンで狙ってくれ、

これ以上の敵の増加を防げる。」

 

『承知している、既に照準も合わせてある、

射線上から直ぐ様退避してくれ。』

 

「了解した。」

 

ローエングリン発射のタイミングを得た彼は、

ミーティアの船体にブルデュエルとヴェルデバスターを掴まらせる。

 

「セシリア、シャル、俺達で中央の敵を殲滅する、

お前達二人は、ミーティアの死角からくる敵の対処を頼んだ。」

 

「承知しましたわ、私達はカバーに専念いたします。」

 

「敵は一夏を目指して来るもんね、色んな恨みを買ってるしね。」

 

「違いない。」

 

セシリアとシャルロットの言葉を聞きながらも、

ミーティアのスラスターを吹かし、先陣を切って敵陣に乗り込んでいく。

 

「一夏達は行った様だな、アタシらも行こうぜ、

ここまで来て迷うなよ?」

 

「・・・、わかってます。」

 

「・・・、はい。」

 

左舷を任されたチームBのメンバーは、

シュベルトゲベールを引き抜き、如何にもヤル気満々なダリルに促される形で、

今だ煮え切らない秋良と簪と共に進攻を開始した。

 

「私達も進むわよ、篠ノ之さん、加賀美君、援護は任せたわ。」

 

「任せてください、ファイルス先生の背は取らせません。」

 

「了解しました。」

 

戦いへの意欲をたぎらせるナターシャ、箒とは対照的に、

やるしかないと思い詰める雅人の表情に余裕は無い。

 

しかし、戦闘時にそんなことを気にしてはいられない、

そう言うことは、自身で解決してもらうしか無いと割り切り、

チームCも進攻を開始した。

 

『ローエングリン一番、二番展開、

カウントダウンを開始する、各機射線上から退避せよ!!』

 

ナナバルクからの通信で、ジョージが各機に警告を発し、

ローエングリンが展開、砲口に光が集まり始める。

 

『5・・・、4・・・、3・・・、2・・・、1・・・、

ローエングリン、発射!!』

 

カウントダウンが遂にゼロを刺した時、

砲口から眩いばかりの光の奔流が発生した。

 

それが、この決戦の火蓋を切って落とす一撃になるのであった・・・。

 

sideout

 




次回予告

復讐、使命感、様々な想いが織り成し、
戦いは熾烈さを増していく。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
アストレイズ

お楽しみに。

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