インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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飛び立つ想い

side一夏

 

ナナバルク艦内に入った俺達は、

通路を進み、ブリッジでは無く、パイロット控え室に着いた。

 

無重力では無いために、

勿論床に足を着けて歩いているのだがな。

 

それはさておき、

何故にブリッジに行かないと言えば、

それには深い訳があるのだが、それは追々話す事にしておくとする。

 

「戦闘までの間、ここで待機しているように、

尚、艦は離陸の際に大きく揺れる事がある、怪我をしないように気を付けていろ。」

 

全員に注意を促した後、

壁に備え付けられていたコンソールを操作する。

 

「そういえば一夏様、先程から艦内に私達以外の気配がありませんが、

どういうことなのですか?」

 

「そうだよね、まさか僕達以外、誰も乗ってないとは言わないでね?」

 

そんな時だった、セシリアとシャルが俺に訊ねてきた。

 

彼女達だけではない、

他のメンバー全員が疑問に思っている事は確かだろう。

 

実際問題として、

この艦には俺達以外の人間は乗艦していない、

なんせ、その必要も無いからな。

 

「この艦にはグリーンフレームに搭載されているAIとは別種の自律支援型AIが、

人間に代わり、整備を除く航行手順を全て代行してくれている、

つまりは無人で翔ぶことも、攻撃を敢行する事も出来るんだ。」

 

「そんな事が出来るの!?」

 

俺の説明を聞き、楯無が驚いた様に声を張り上げた。

 

そんなに驚く所でも無いぞ、

こんなことごときで驚いていたら身がもたん。

 

「あぁ、それにグリーンフレームのAIとは違い、

人格、いや、人間ではないから人格とは言わんが、

感情を持ち、俺達とコミュニケーションを取ることも出来るのさ。」

 

「そんな事まで・・・、アクタイオンの技術が、

ここまで凄まじい物だとは思いませんでした・・・。」

 

山田先生が感心した様に呟いたのを心地よく思いながらも、

コンソールを操作し、存在しているであろうアイツを呼び出す事にした。

 

「ジョージ、いるんだろう?姿を見せてくれ。」

 

『キャプテンと呼べ!一夏!』

 

俺達以外の声が控え室に響き渡り、

何事かと全員が身構えた。

 

ったく、タイミングが良いことだ、

俺の思考を読んでるかの様に現れてくれる。

 

『ようこそ諸君!!私がこの艦の艦長、キャプテンジョージ・グレンだ!』

 

再び声が響くと同時に、一人の男が姿を現した。

 

連合軍の軍服を身に纏い、

色の良い金髪を帽子で隠した男、彼こそこの艦のキャプテン、ジョージ・グレンだ。

 

「う、嘘!?何処から出てきたの!?」

 

簪が驚いた表情を見せながらも、

部屋の中を見回していた。

 

それもその筈、

彼は入り口から入ってきた訳では無い、

 

「彼はキャプテンジョージ・グレン、この艦の操舵、管制、砲撃を代行してくれる、

疑似人格だ。」

 

「か、彼がAI?そんな馬鹿な・・・。」

 

ジョージがAIだと信じられないのか、

箒は動揺しながらも言葉を紡いだ。

 

そりゃそうか、

どう見てもそこいらにいる人間の男と変わりは無いからな。

 

一つ違いがあるとするならば・・・。

 

『ふむ、やはりこれだけでは信じてもらえないか、

一夏、ちょっといいか。』

 

そう言いながらも、ジョージは俺の頭に向けて手を伸ばしてくる。

 

はいはい、分かってるっての、

もう慣れてるから良いさ。

 

そんな事を思っている内に、

彼の手は俺の顔をすり抜けた。

 

『!?』

 

目の前で起こった不可解な出来事に、

全員が驚愕の色を濃くする。

 

『はっはっはッ!驚いたかね?この身体はホログラムなのさ、

この艦の中ならば、何処でも現れる事が出来るのだ!』

 

「ほ、ホログラム!?」

 

そら信じがたいよな、

こんだけベラベラ喋る奴がAIに見えんしな。

 

まぁ、俺は何度も会話をしているから慣れた。

 

っとまぁ、こんなことをしている暇は無い、

さっさと出撃だ。

 

「そんな事より、出撃準備は出来ているのか?」

 

『システムオールグリーン、何時でも発進できるぞ。』

 

「了解した、よろしく頼む。」

 

『合点承知した、発進シークエンスを開始しよう。』

 

互いに頷きあった後、

ジョージはホログラム化を解除して消えた。

 

「ほ、本当にホログラムだったんだ・・・。」

 

「この艦には他にも仕掛けがある、

もっとも、見付ける事が出来るかはお前達次第だ。」

 

呆然と呟く簪を他所に、

俺はさっさとコンソールに向き合う。

 

「管制室、こちら織斑一夏、

これよりナナバルクにて発進する、発進許可を願う。」

 

『こちら管制室、ナナバルク発進を許可する!ゲート開放!』

 

エンジンの駆動音が響き、艦が動こうとしている事が分かる。

さぁ、遂に戦いの幕が開く・・・。

 

俺が聞きたい答えを、世界が返すか否か、

楽しみじゃないか。

 

『ナナバルク!発進する!!』

 

sideout

 

noside

 

艦後方のメインスラスターに火が入り、

周囲の大気を震動させる。

 

第三ドッグのゲートが大きく開かれ、

着々と発進シークエンスが進められていく。

 

『カタパルト展開、ナナバルクを固定。』

 

管制官を務めるエリカ・シモンズのオペレートと同時に、

艦の真下のデッキが徐々に傾いていく。

 

『ナナバルク、発進どうぞ!!』

 

エリカの号令と同時に、

メインスラスターがより一層出力を上げ、

その巨体を宙へと押し上げた。

 

蒼い戦艦は、大気を震動させながらも宙へと飛翔する。

 

交錯する14の意志を乗せ、戦いの舞台へと赴くのであった。

 

sideout

 

side秋良

 

ナナバルク艦内にて、

俺達は改めて開示された情報に目を通す。

 

地上に基地らしき建造物、

氷の下に潜水艦が直結している構造らしい。

 

なるほど、もし攻めて来られて、尚且つ身の危険が迫った際には、

潜水艦で逃げられると言うことか・・・。

 

実に合理的な立地だと思うね。

 

でもなぁ、俺、寒いの嫌いだからこんなところには血迷っても基地は造りたくないね。

 

兄さんは色んな気候に強いから気にしないとは思うけどね。

 

「それにしても、すげぇな・・・、

マジモンの戦艦に乗るなんて思わなかったぞ、俺は。」

 

「俺も思わなかったよ・・・、まさかこんなものを造ってるなんてね・・・。」

 

雅人と共にしみじみと話しながらも、

自分の頭の中でどういう風に攻めるかを思案する。

 

兄さんはセシリアとシャルロットと共に、

何やら俺達とは違うデータに目を通している。

 

何のデータなのかは見当もつかないけど、

知られたく無い事なんだとは想像がつく。

 

三人は口数も少なく、

ただ頷き合っているだけだから傍目からはどんな事で話し合っているのかも分からない。

 

確認してみたいところなんだけども、

流石に不味い物が表示されてたら俺が消される危険性もある。

 

触らぬ神に祟りなしってね・・・。

 

それは兎も角、

対空防御システムの類いに当たる訳が無いんだけど、

やはり効率よく攻めれば被害も少なく終わらせられると思うんだ。

 

「さて、どう戦おうか?」

 

「さぁな、俺は一夏みてぇに頭回らねぇし、

細かい戦略よりも、目の前の敵を倒す事しか俺には出来ないさ。」

 

やっぱりそう言うと思ったよ、

雅人って、良く言えばまっすぐ、悪く言えば単純だからなぁ・・・。

 

戦略的な面よりも、戦略を成功させる為の戦力なら、

彼ほど優れた戦士は兄さんを除いて、なかなか見付かる事は無いと思う。

 

「やはり正面突破以外に道は無いだろうな、

奴等は力に溺れている、真正面から崩せば弱いもんだと思うぜ。」

 

それしか無いか・・・、

俺も、本気で戦う以外無いと言うことなんだね・・・。

 

「そうだよね・・・、

兄さんがどう言う風に攻めるか分からないから、

俺達だけが単独で攻める訳にもいかないしね。」

 

「確かにな、あいつらなら、そんな事考えなくても大丈夫だと思うけどな、

何を仕出かすか分かった物じゃ無い。」

 

そう、兄さん、セシリア、シャルロットの三人は、

敵を完全に抹殺しようとするだろう。

 

他の面子で今の所不用意な殺しをしない人間と言えば、

俺、雅人、簪、楯無、ラウラ、鈴、そして真耶先生だけだと思う。

 

ナターシャ先生はどちらかと言えば、復讐が主目的だから兄さん寄り、

箒、ダリルさん、そしてフォルテさんは良く分からない。

 

いや、箒は完全に束を敵視している、

ダリルさんとフォルテさんは、箒に姉殺しをさせない為に自分が代わりに討ち取る気なんだと思う。

 

つまり、その為の障害になるものがあるなら、

彼女達は躊躇無く破壊し尽くすだろう。

 

戦争においては、兄さん達の様に敵を完全に滅ぼす事が正しいし、

戦うという行為自体が正義だ。

 

そこに迷い、異論、情を持ち込む事は合ってはならない、

それは俺も分かっている。

 

分かってはいるけど、どうしても心の何処かで受け入れられないんだ・・・。

 

俺はどうすれば良い、どうあれば良いんだ・・・。

 

思い悩む俺の耳に、

突如としてけたたましい警報の音が飛び込んできた。

 

「なんだ!?」

 

「ジョージ、何があった?」

 

兄さんがコンソールを弄り、

ジョージに状況を確認していた。

 

『この艦に向けて急接近してくるIS数機を確認した、

識別から確認して、亡國の機体では無い。』

 

「なんだって・・・!?」

 

やっぱり、国を裏切った女達が、

亡國に取り入る為に俺達と敵対するのか・・・?

 

くそっ・・・!予想してたけど、

現実に起きるとなると、心構えが・・・!

 

「ジョージ、ミーティアの発進準備だ、

俺が排除してこよう。」

 

『了解した、ストライクE、発進してくれ!』

 

「分かった。」

 

俺が躊躇っている内に、

兄さんはジョージと交信し、

あっという間に出撃にまで漕ぎ着けていた。

 

「兄さん!!まだ敵と決まった訳じゃない!!

攻撃してはならない!!」

 

俺達と共に戦おうとする人達かも知れない!

なのにいきなり攻撃を仕掛けるなんて馬鹿げている!!

 

「せめて話し合いの場を・・・、がっ!?」

 

止めようとした俺の顔面に、

兄さんの拳が叩き込まれた。

 

突然の事に、受け身を取ることも出来ずに、俺は床に倒れた。

 

「話し合うだと?寝言は寝ながら言う物だぞ?お前はこれを聞いても同じ事が言えるのか?」

 

強烈な打撃に、身体を起こす事も出来ない俺に、

兄さんはコンソールを操作し、ある音声を発生させた。

 

『あの戦艦からISの反応が多数あるわ。』

 

『見たところ、篠ノ之博士の戦艦じゃ無さそうね。』

 

『アクタイオンのマークがあるわ!ちょうど良い、

篠ノ之博士への手土産にしましょう!!』

 

束に気に入られたい魂胆が丸見えの会話が、

スピーカーを通して聴こえてくる・・・。

 

どうやら、本当に篠ノ之 束に着こうとする連中の様だ・・・。

 

「お前の頭は随分と幸せな作りになってるようだな?

いい加減、現実を受け入れろ、さもなくば、この戦争で死んでしまえ。」

 

俺を冷めた瞳で見下ろしながら、

兄さんは控え室から出て行った。

 

「俺は・・・、何を見ていたんだろうか・・・。」

 

兄さんの瞳は、以前とは違う暗さがあった、

覚悟を決めたとかそんなんじゃない、人間としての感情があるか否かの問題だと、

俺の中の何かがひっきり無しに告げている。

 

兄さん・・・!アンタは、本当にどうしちまったんだ・・・!?

 

sideout

 

side一夏

 

ミーティアが置かれている格納庫に到着した俺は、

ストライクノワールを展開し、ミーティアとの接続作業に入る。

 

今回は初稼働と言うこともあり、

出力は抑え目に設定し、慣らし運転を行う事にする。

 

テストも何も無しにフル稼働させるなど、

何か不備があれば取り返しのつかないことになる。

 

まだやるべき事が山程残っている身だ、

安全第一で行こうじゃないか。

 

「CPC設定完了、核エンジン起動、ミーティアとの連動システム接続、

マルチロックオンシステム調整、各兵装へのエネルギー充填完了、ミーティア改、システムオールグリーン。」

 

全システムのチェックを終えたと同時に、

カタパルトが展開し、ハッチが開いていく。

 

『進路クリアー!ストライクノワール、発進してくれ!』

 

「了解!織斑一夏、ストライクノワール+ミーティア改、出るぞ!!」

 

ジョージの発進アナウンスを受け、

俺は一気にスラスターを吹かし、カタパルトから飛び出す。

 

初速からかなりの速度が出ている、

お陰で俺の身体にかかるGは恐ろしい程に強烈だ。

 

だが、それで良い、この加速から生じるGこそが、

コイツの化物じみた性能を如実に表している。

 

最高だ、俺の好みを体現している・・・!

 

さぁ、思う存分暴れようぜ、

愚か者共に、地獄と言うものを見せてやるためにな!!

 

sideout

 




次回予告

ミーティアを駆る一夏は、
容赦無く襲撃者を圧倒する。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
無慈悲なる嵐

お楽しみに。

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