インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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戦闘準備

noside

 

一夏達、ガンダムチームの面々がアクタイオン社に移った翌日、

亡國企業の主力機、ストライクダガーを中心とする無人機の軍勢が、

全世界に対して攻撃を開始した。

 

宣戦布告から僅か二日、

あまりにも早い攻撃開始に、ろくな準備も出来なかった国家郡は、

完全に遅れを取ることになった。

 

だが、これは試合ではない、

掛け声があってからの戦闘開始というものは有り得ない、

つまりは互いの生き死にをかけた殺しあいということなのだ。

 

それは軍関係者、当然IS操縦者である者達も理解していた。

 

しかし、それ故にIS操縦者の女達は、

実際に戦争になると、国家の命令を無視、

戦いに赴く事を拒否するという行為に出た。

 

彼女達は恐らく、ISは競技用だと思い込んでいる、

もしくは戦闘用だと分かっていながらも、

実際に戦争になるとは思っても見なかったのだろう。

 

それだけで済めば良かった、

しかし、悪いことは幾つも重なって起きるものだ・・・。

 

国家の意志と反し、

国を裏切り、亡國企業に着こうとするIS操縦者達まで現れようとしていた。

 

これでは討って出る事も、国土を防衛する事すら儘ならない。

 

各国は、軍事施設のみならず、

本来ならば巻き込まれてはならない民間人にすら被害を出す結果となった。

 

しかし、世界が最早これまでかという時にあっても、

彼等はまだ、動いてはいなかった・・・。

 

sideout

 

side秋良

 

戦闘の準備が終わり、

何時でも出撃出来るという状況になった俺達は、

ブリーフィングルームに集合していた。

 

「全員がここに集ったということは、

既に戦闘準備が完了している物として扱う、

待ったは聞かん、時間があまり残されていない物でな。」

 

そう言いつつ、兄さんはコンソールを操作して、

何やら図面をモニターに映し出す。

 

「アクタイオン諜報部が入手した、

亡國企業実働部隊の潜伏場所の位置、そして見取り図だ。」

 

そんな物が手にはいったのか・・・、

まぁ、ルキーニ達の腕ならば分かるけどさ・・・。

 

「場所はアラスカの氷原地帯、氷と雪に覆われ、視界も非常に悪い、

それに、氷の下は極寒の海と来ている、こんなところによく基地を造る気になったと思ったが、

どうやらあながち間違いではなかったのかも知れんな。」

 

「説明を要求します、どういうことですか?」

 

一人で納得したような表情をする兄さんに、

ラウラが疑問の声をあげた。

 

「アラスカは北アメリカ大陸の先端、

ロシアやアジア、それに、ヨーロッパにも程好く近い、

それに、海が氷に覆われているため、船での侵入は不可能、

だが、潜水艦を使えば氷の下を通れる、

更には衛星にも見付かる確率は極端に低いとなった、

見つかりにくさも相当な物って訳さ。」

 

確かにその通りだ、主要都市に近ければ攻めやすく、

そして海の下に隠れる事が出来れば潜伏する事なんて容易い、

まさに自然の恩恵を活用していると言えるね。

 

「同志諸君も知っているとは思うが、

今現在、世界は無人機の襲撃に曝され、

軍もマトモに稼働していないという状態に陥った、

現状で動けるのは恐らく、俺達だけと見て間違いはない。」

 

「そうだろうな、その為にアタシらをここに集めた訳だろ?」

 

そんなことぐらい、改めて言われなくても分かってる、

だから、俺達は準備をしていた訳なんだ・・・。

 

「ここで作戦を発表する、俺達はアラスカに向かい、

亡國企業と一戦を交える、その際、敵の逃亡を防ぐため、

海中にも機体を配置する。」

 

「海に?まさか潜水艦を破壊しろとでも言うのかよ?」

 

「そうだ、逃走ルートは海面下、もしくは高高度に限られる、

高高度には他のガンダムで対応できるが、

水中に入れる機体は少ない。」

 

そう、ISはどんな場所でも動けるには動けるけど、

やはり空気中での戦闘が主流、常識だ。

 

つまり、常識ならば相手も当然把握しているだろうから、

もし逃走することになっても水中からならば悟られることなく逃げれると言うことか・・・。

 

そこで投入するのが水中戦に適した機体、

フォビドゥンブルー、ブルーフレームスケイルシステム、

他に候補を入れるならば俺のゲイルストライク、そしてネブラブリッツぐらいかな。

 

他の機体は、エネルギー兵装主体だし、

空中戦に特化してる機体の方が多い。

 

それだけに実弾兵装主体の機体が、水中では重宝されるんだよな。

 

「フォビドゥンブルー、そしてブルーフレームスケイルシステム装備は、

この任務に当たって欲しい、奴等を逃がせば、次に討たれるのは俺達だと思え。」

 

兄さんが言っていることは真実だし、事実でもある、

故に正当性を備えている様にも聞こえる。

 

だけど、俺は以前ほど、その言葉の全てを受け止め、

肯定する事が出来なくなっていた。

 

「自分が討たれる、つまり、アンタに討たれる可能性もあるということか?」

 

俺の発言に、ブリーフィングルームの空気に緊張が走る。

 

「可能性は今のところ無いと言っておこう、

俺達は軍では無いが、明確な裏切りがあれば、誰に消されても文句は言うな。」

 

つまり、自分が手を下す事もあると言うわけか・・・、

分かったよ、もう良い。

 

「この戦いの悪は亡國企業だ、敵を討つためなら一番効率の良いことをする、

兵士として当然の行いだね。」

 

そう、戦争に平等、公平なんて物は無い、

互いが生きるか死ぬかを賭けて戦う、そこにどんな汚い手を使おうとも、

勝って生き残ればそれで良い。

 

「けど、この戦いで亡國企業の実働部隊の殲滅が出来たとしても、

何時まで戦い続ければ良い?全てを消すまでか?」

 

「兵士はそんなことを考えなくてもいい、

ただ目の前の敵と戦い、滅ぼす事だけを考えるものだ、

戦に身を置くものとしては当然だ、個人的感情よりも、

勝利が優先される。」

 

そう、個人的感情は淘汰され、全体の利益を求めるために動く、

それが組織に属する人間にとっては当然の事だ。

 

俺も敵を討ち、勝利を得るための力を手にした、

それは戦うことを覚悟し、戦士、兵士となることを受け入れたと同義だ。

 

こうやって悩み、立ち止まるということは、

俺が敵と戦うことを疑問に思っている、

つまり、戦士に成りきれていないかもしれない・・・。

 

その点、兄さんは迷っていない、

やるべきこと、倒すべき敵を見定めている。

 

戦士としては鑑となる姿なんだとは思う。

 

「言いたいことはそれだけだな?

話を戻すぞ、今回の作戦においては、攻める場所が場所だけに、

ISスーツでは露出が多いため、凍傷になる可能性も捨てきれない。」

 

話を戻されたけど、

俺には反論する言葉がないため、取り敢えずは彼の言葉を聞く。

 

「まぁ、その通りッスね、空中なら兎も角、

私達みたいに海に潜る連中は、確実にエネルギー切れたらヤバイッスよ。」

 

「そう、溺れ死ぬ事は間違いないな。」

 

「ちょっ・・・!そんなハッキリ言わないでくれッス・・・。」

 

兄さんのあまりにもハッキリとした発言に、

フォルテさんは少し焦った様な表情を見せた。

 

そりゃもちろん、溺れ死んだ場面なんて想像したくもないだろうしね・・・。

 

「そこで、今回のミッションでは、同志諸君らに特殊なスーツを来てもらいたい。」

 

そう言って、兄さんはアタッシュケースを取り出し、

全員に見える様に開いていく。

 

って、これは・・・。

 

「特注のパイロットスーツだ、

諸君らのバイタルデータを基に作ったから、

身体に完全にフィットする仕様になっている、

ヘルメットもあるが、これを被るかどうかは個人で決めろ。」

 

おいおい、これはSEED世界で普及してるパイロットスーツそのままじゃん、

連合、オーブ、それにザフトの物まである・・・。

 

確かに、これ等をフル装備しておけば、

外気に殺られる事は無いし、水中でも助かる可能性が向上する。

 

備えとしてはかなり効果的だと想う。

 

「種類は数多い、どれを身に着けるかは諸君らが勝手に決めて欲しい、

出撃は三時間後だ、第三ドッグに集合しろ、以上だ。」

 

そう言って、彼はブリーフィングルームから出ていった。

 

「もう・・・、戦うしかない、か・・・。」

 

彼が去った後、俺は小さく呟いた。

 

俺達が進む道には、どう行っても戦いが待っている、

それならば、戦う以外道は無いな・・・。

 

それで良いんだ、今はね・・・。

 

sideout

 

side雅人

 

ブリーフィングから一時間後、

俺は更衣室で私服からパイロットスーツに着替え、

集合時間を待っていた。

 

俺が選んだのは、

白を基調としたオーブ系のパイロットスーツだ。

 

説明を読んで見たが、

ISスーツ以上の防弾性、機体へのレスポンスを誇り、

尚且つ、露出が殆ど無いため、外気とは無関係に体温を常に一定に保てる。

 

お陰で、今回の出撃先がアラスカということもあり、

ISスーツならばまず手足の一本二本を凍傷で失うことを覚悟しなければならないが、

これさえ着ておけば、ISが解除されても凍死という嫌な結末からはなんとか回避できる様にもなる。

 

だが、今はそんな事を考えている余裕もあまり無く、

ずっと同じ考えが渦巻き続けている。

 

本当に、このまま戦い続ける事に意味はあるのか・・・?

 

一夏がやろうとしている事は、恐らく正しいと言えるんだろう。

 

今、この瞬間にも亡國企業によって、

人の命が奪われている事は確かなんだ。

 

力を持つ俺が戦わないと、力の無い、罪の無い人々が被害を被る事になる。

 

力を持つ者には、それ相応の責任がある、

俺は、少なくともそれを果たさなくてはならない。

 

だが、やはり俺には戦い続ける事が正しいのか分からない。

 

一夏と秋良のやり取りを見る限り、

一夏は完全な戦士、兵士に成りきっているのに対し、

秋良には、俺と同じく兵士に成りきれていない素振りも見えた。

 

一夏を最強たらしめている物、

それは一切の迷いを捨て、自分がやるべき事を見据えているからだ。

 

並大抵の事では無いし、そこまでの境地に自分を持っていける事は、

純粋に尊敬できる物だ。

 

だが、それは人間としての感情を捨て、

自分を戦闘マシーンとしている様な物だ。

 

戦闘マシーンは考える事をしない、

目の前の全てを破壊し尽くすまで止まらない・・・。

 

いや、一夏がそんな事になる筈が無い・・・。

アイツは人間だ、情ってヤツも残ってる筈なんだ・・・。

 

一抹の不安を覚えつつも、

俺は立ち上がり、格納庫に向けて歩き出す。

 

今はただ、戦うしかないのだから・・・。

 

sideout

 

noside

 

集合時間になり、

全員が第三ドッグ前に集結した。

 

第三ドッグは屋外に設けられた巨大施設であり、

戦艦クラスの物体も楽々と入ってしまう。

 

そんな建造物の前に立つと、

どうしても圧迫感を覚えてしまうのが人間というものだ。

 

「全員集まった様だな、これよりアラスカに向けて出撃する。」

 

「出撃っつってもさ、輸送機で行くのは良いが、

帰りはどうする?燃料も足りねぇし、撃墜される可能性もあるぜ?」

 

そう、敵とて易々と移動手段を見逃す訳が無い、

寧ろ、帰還できない様に真っ先に落としにかかるだろう。

 

「安心しろ、そんないかにも落としてくださいという物で行くかよ、

もっと威圧的で、面白い物で乗り込むぞ。」

 

雅人の言葉をうけ、ニヤリと笑った一夏は、

格納庫のシャッターを開け放つ。

 

他のメンバー、セシリアやシャルロットですら、

彼の言葉の意味が分からずに、互いに顔を見合わせていた。

 

シャッターが開ききり、

中に入って行った一夏に倣い、他のメンバーも格納庫に入っていく。

 

その中には、一隻の巨大な戦艦が佇んでいた。

 

全体的に暗い蒼で塗装され、

特徴的なラインを持つ巨大な戦艦であった。

 

「こ、これは・・・!?」

 

「まさか、ガーディー・ルー!?」

 

転生者であり、過去の記憶を継承している秋良と雅人は、

自分達の眼前にある戦艦に覚えがあった。

 

「ガーディー・ルー級戦艦、<ナナバルク>、

今作戦で我等が使う母艦だ。」

 

一夏が手を掲げたのを合図に、

タラップがナナバルクに向けて伸び、ハッチの下部と連結する。

 

「さぁ、乗り込めよ、戦いへの渡し船にな。」

 

口角を吊り上げて笑いながら、

一夏はタラップを歩き、ナナバルクへと乗り込んだ。

 

その脚には、なんの躊躇いも無く、

前に進んでいくという意志が表れている。

 

そんな彼につられる様に、他のメンバー達もナナバルクに乗り込んでいった。

 

各々が胸の内に様々な感情を抱えたまま・・・。

 

sideout




次回予告

交錯する14の想いを乗せ、
ナナバルクが行く。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
飛び立つ想い

お楽しみに。

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