インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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流星

side秋良

 

IS学園を出て暫くの後、

俺達を乗せたリムジンはアクタイオン社に到着した。

 

この二時間の間に、

色々な事が起こりすぎて、俺の頭は既に飽和状態だった。

 

兄さんが陰で人殺しを平然と行っていた事、

本音が裏切り、殺された事・・・。

 

処理する内容が多い、そしてどれもが重いため、

俺の頭の中で処理しきれずに溜まり続けている・・・。

 

簪は、突然の幼馴染みの裏切り、

そしてその死に戸惑い、ここに来るまでの間、

ずっと泣いていた。

 

鈴も、ラウラも、そして俺も、

なんと言えばいいのか分からなくて、

ただ背中をさする事しか出来なかった・・・。

 

いや、本当は俺が触れて良かったのかも怪しい、

なんせ、裏切ったとはいえど、彼女の幼馴染みを殺したのは、

俺の実の兄と言うこと・・・、これだけは紛れも無い真実だった・・・。

 

兄さん・・・、

アンタは何がしたいんだよ・・・。

 

これからの流れ、俺は何をすればいいんだ・・・。

 

誰が正義で、誰が悪なんだ・・・、

俺には・・・、分からない・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

アクタイオンに到着し、俺はメンバー全員に対し、

何よりもまず先に機体の再調整を命じた。

 

戦闘仕様にチューンナップする目的もあるが、

ある物も積んでおく目的がある。

 

全員が荷物を置きに行く間も惜しみ、

アクタイオン社のメカニックと共に、調整に勤しんでいた。

 

「一夏、注文通り、全ガンダムタイプの整備と、

新規武装の追加をさせているわ。」

 

「エリカ・シモンズ、仕事が早くて大助かりです。」

 

俺に全機体に施す調整、

武装追加プランが記された端末を見せながら、

エリカ・シモンズ主任が作業員に指示を出していた。

 

大体の機体は調整と、

ミラージュコロイドウィルスを使用したアンチフィールドと、

ウィルスが互いに干渉しない様にプロテクトを装備する事になっている。

 

だが、特定の機体、グリーンフレームやドレッドノート等、

本人の適性が機体コンセプトと別、もしくは武装が少ない機体に対して、

追加装備が施される運びとなっている。

 

「アサルトシュラウドtypeGと、フルアーマードラグーンも用意はしたけど・・・、

この手の装備は機体の運動性を大きく損なうわ。」

 

「そうですね、その辺りは本人の意向で決定させます。」

 

装備ばかりは、俺が口出しする事では無い、

変に関わってしまえば、戦闘において無駄な犠牲を出しかねないからな。

 

「それよりも、あれの準備は出来ていますか?」

 

別に他人の事はどうでも良い、

俺は俺の事を気にしていれば良い。

 

「えぇ、何時でも出撃出来る状態にしてあるわ、

こっちよ、着いてきて。」

 

「了解。」

 

エリカ主任に先導され、俺は歩き出す。

この戦いの鍵になる、流星の名を持つ兵器の下に・・・。

 

sideout

 

side雅人

 

ドレッドノートの調整を行いながらも、

俺は今日一日で起こった出来事を処理できずに、

どうしようもない感情をもて余していた。

 

一夏が人殺しを是としていた事、

目の前で本音が惨殺された事・・・。

 

全てが俺の知らないところで進行し、

最後だけ見せられると、なんとも言えぬ感情が沸き上がる・・・。

 

どうしてこんなことになっている・・・?

何故俺は、得体の知れない者となった一夏と共闘しようとしている?

 

正しいのは誰だ?

一夏?束?それとも・・・?

 

分からない、分からないから余計に思考が堂々巡りになってくる・・・。

俺は何をすればいいんだ・・・。

 

「ドレッドノート・・・、お前となら、答えを見付けられるか・・・?」

 

俺の目の前には、追加装備が施された姿のドレッドノートが佇んでいた。

 

フルアーマードラグーン・・・、

その名の如く、駆動部以外にドラグーンが装備された追加パーツを装備した姿だ。

 

ドラグーンは未使用時は補助スラスターとして使用できるから、

重量の増加による機動力の低下は最低限に抑えられている。

 

ドラグーンの形状は、プロヴィデンスに採用されていたドラグーンに酷似しているが、

カラーリングはドレッドノートの機体色に合うように、白を基調としていた。

 

Xアストレイ形態で使用すれば、

バックパックに四基、両腰に二基、肩部に三基ずつ、

そして、両脚部に四基ずつの、

合計二十基ドラグーンが装備された超高火力機体になる。

 

しかも、他の形態でもこのフルアーマードラグーンは装備できるという事で、

今まで以上に強力な機体に生まれ変わる事だけは確かだ。

 

機体はただの無機物、思考を持たない為、

質問や問い掛けをしても、答えが返ってくる筈もない・・・。

 

決めるのはお前だと、言われている様な気もしないではない・・・。

 

分かってる、あぁ分かってるさ・・・、

俺は俺だ、やってやるしかないだろ?

 

喩え一夏が、どんな事をしでかそうとも、

俺は俺のままでいればいいんだ。

 

俺がやるべき事はただ一つ、

俺の正義、大切な人を守るために戦い続ける、

これだけで良い。

 

sideout

 

side一夏

 

アクタイオン社、工場区画の最深部まで、

俺はエリカ・シモンズ主任に案内されやって来た。

 

社員の中でも、特に選ばれた者しか入る事の出来ない区画の為、

俺ですら入るのは初めてだ。

 

「開けるわよ?」

 

「お願いします。」

 

エリカ主任に問われ、俺は首肯しながらも返す。

ゆっくりと巨大な隔壁が開かれていき、中から眩い光が溢れ出す。

 

目が慣れてきた時、

俺の前に、ISの何倍もあるだろう大きさのモジュールが姿を現した。

 

二門の砲塔に、巨大な後部スラスター、

各所にミサイルハッチが見受けられる事からも、

火力は相当な物だと推測出来る。

 

見紛う筈も無い、

このモジュールはまさしく・・・。

 

「ミーティア、改めて見てみると、ここまで巨大だとは思わなかったな。」

 

ミーティア、

流星の名を冠するIS専用の強化モジュールであり、

元はフリーダム、ジャスティスの為に造られた兵器だ。

 

核エンジンの様に、半永久的なエネルギー供給が約束されている動力を積んだ機体にのみ、

使用が許された装備だが、

その中にも、幾つかのバリエーションが存在する。

 

その内の一つに、ミーティア自体に核エンジンを搭載したタイプの、

マイナーチェンジを施した機体だ。

 

つまり、通常バッテリーしか積んでいない機体でも、

これを装備することで、半永久的なエネルギーを確保出来ると言うことだ。

 

「ミーティア改核エンジン搭載型・・・、これを造れと依頼された時は流石に耳を疑ったわ、

こんな無茶な代物、どこで使うのかともね。」

 

俺の隣で、エリカ主任は苦笑の度合いを濃くし、

データを俺に渡してきた。

 

まさかこんな事になるとは思いもしなかったのだろうが、

完璧に仕上げてくれた事には純粋に感謝だ。

 

「元々、大気圏内では使用できない装備を、

PICを使って無理矢理使用可能にしたの、

貴方の身体にかかるGは計り知れないわ・・・。」

 

そう、このミーティアは、元々は無重力、

もしくはそれに近い低重力環境下でないと使用出来ない装備だったのだ。

 

情勢から考え、この世界での宇宙戦闘は無いと踏んだのだが、

俺は敢えて、ミーティアを大気圏内戦闘に使用する事を決めたのだ。

 

だが、その驚異的な加速は、搭乗者にかかるGも恐ろしい程に大きくなる。

 

並の人間では、喩え搭乗者保護機能があったとしても、

ブラックアウトは免れる事は出来ないだろう。

 

しかし、俺は転生者であり、肉体の強度はスーパーコーディネイター並、

そして、鍛え抜いた結果として、耐G性は常人の数倍を優に越える程になっていた。

 

つまり、大気圏内でミーティアを使用できるのは、

耐G性を与えられた転生者である、この俺以外にいないということだ。

 

「それに、もし破壊されたら貴方は核の炎に焼かれる事にも・・・。」

 

「ご心配ありがとうございます、主任、ちゃんと生きて戻ります。」

 

リスクを背負わない戦いには、何の意味も無い、

味方の犠牲は最小に、敵の被害は最大に、

兵法の、指揮官としては当然の責務だ・・・。

 

それでも、何かしらの被害を恐れてばかりでは、

味方の犠牲は広がり、敵の被害は少なくなる。

 

それでは、喩え勝利したとしても、

俺には悔いしか残らない。

 

ならば、俺が出来ることは、ただ前を向いて進むだけさ。

 

「ミーティア、ストライクE・・・、お前達となら、

俺は駆け抜けられる筈だ・・・、頼りにしてるぞ。」

 

sideout

 

side簪

 

皆がせしわなく整備に動いている最中、

私は区画の端の方のベンチで、独り俯いていた。

 

私も機体の整備をしなくちゃいけないと思ってる、

でも・・・、脚が全然動いてくれない・・・。

 

それは、ついさっき起こった事・・・、

私の幼馴染みが、私の友人である一夏に惨殺された事だ・・・。

 

どうしてこんな事になってしまったの・・・?

 

本音・・・、貴女はなんで、一夏を売ろうとしたの・・・?

どうして、貴女は・・・。

 

分からない、何もかもが分からない内に進んでて、

私の頭は混乱するだけで、何も考えられる状態じゃ無い・・・。

 

「私は・・・、これからどうすれば良いの・・・?」

 

無意識の内に、

私はアウトフレームの待機形態である指輪を撫でていた。

 

答えが返ってくる事を期待してたわけじゃないけど・・・、

何故か立ち上がれと言われた気がした・・・。

 

そうだよね、ここで座ってても何かが変わるわけないもんね・・・、

私は行くよ。

 

今ある、大切な人達を護りたいから・・・。

 

sideout

 

noside

 

一夏達が各々の想いを馳せている頃、

他のガンダムチームのメンバーは、己の機体の調整を行っていた。

 

駆動部の調整、武装の追加等、各々が必要とする事を行う。

 

「ねぇ、なんであんな事をしたの?」

 

そんな最中、楯無が近くにいたセシリアに話しかける。

あんなこと、言うまでも無く、本音を殺した事である。

 

「見せしめですわ、一夏様、いいえ、このチームの全員を裏切れば、

喩え私やシャルさんでも、一夏様は躊躇われる事無く、首を斬り落とされるでしょう。」

 

「そう言うことだよ、他に特に深い意味なんて無いよ、

楯無、貴女も分かっていたんでしょ?僕達が容赦しないことをね?」

 

問われたセシリアと、彼女と相談をしていたシャルロットは、

当然と言った風に話す。

 

「だからって!あんな事をして、赦されるとでも思っているの!?

いくらなんでもやりすぎだわ!!」

 

「では、放っておいて、一夏様が死ねば良いとでもお思いで?」

 

「それに、いかに裏切りと言っても、何処の法律でも裁く事が出来ないからね、

だから僕達が粛清した、何か間違っている事でもあるの?」

 

「・・・っ!」

 

セシリアとシャルロットの言葉は正しい、

あのまま放っておけば、間違いなく一夏を捕らえられる口実を与え、

モルモットの様に扱われるのを待つだけだ。

 

自己防衛の為に、危険分子を排除する行為は当然と言える。

 

感情だけで否定した楯無には、

反論する言葉すら浮かんでこない。

 

「楯無、オメェの負けだ、セシリアとシャルロットは正しい、

ここで変にいざこざになって、チームが内部分裂を起こせば、

今度はお前が消されるぞ。」

 

彼女達の近くで、事の成り行きを見ていたダリルが、

これ以上は止せと言わんばかりに止めに入った。

 

「アタシだって、あれはやり過ぎだとは思う、

だがな、アタシらの今の敵は一夏か?違うだろ。」

 

「ダリルちゃん・・・っ!」

 

「アイツを、裏切り者を狂わせたのは亡國と篠ノ之 束だ、

憎しみ、怒りの矛先を間違えてんじゃねぇよ。」

 

あくまで敵は亡國と篠ノ之 束だと言い、

その憤りをぶつけろと、ダリルは楯無に仄めかした。

 

だが、それにどうしても納得出来なかった楯無は、

苦い顔をしながらも、自分の作業に戻っていった。

 

「・・・、でもよ、納得出来ねぇのは、アタシも同じだぜ?

盟主に従うのは従うが、アイツは何をしようとしてんだよ?」

 

楯無の背を見送ったダリルは、

一夏が何をしようとしているかを、

彼の隣に立ち続けるセシリアとシャルロットに問う。

 

「私達にも、一夏様がお考えになられている事全ては分かりませんわ。」

 

「でもね、分からない方が彼が何を成すか、楽しみじゃないですか?」

 

「そういう見方も出来るって事かよ、ったく、

めんどくさい奴等だな、アイツも、お前らもよ。」

 

セシリアとシャルロットの意地悪い答えを鼻で笑いながらも、

そういう事にしておくのか、ダリルは自分の作業に戻っていった。

 

「誰にも、分かる筈がありませんわ、

一夏様の、私達の望みなんてね・・・。」

 

「そうだね。」

 

セシリアとシャルロットは互いに無表情で頷きあいながらも、

機体の調整に戻っていった。

 

その胸の内に、何かを秘めたまま・・・。

 

sideout

 




次回予告

準備が整った一夏達は、
与えられた情報を基に作戦を立てる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
戦闘準備

お楽しみに~。

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