インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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処刑 前編

noside

 

亡國企業が宣戦を布告し、世界は一斉に驚愕と疑念に包まれた。

 

散発的にテロや、襲撃を行ってきた亡國企業が、

何故今になって宣戦を布告するに至ったのか、全くもって見当がつかなかったのだ。

 

だが、演説が続く最中、

亡國企業の幹部と思われる者と共に、篠ノ之 束が姿を現したのだ。

 

ここで世界は一気に凍り付いた。

 

宣戦布告を行った団体に、ISの産みの親である篠ノ之 束が着いたのだ、

恐らくは現行のISを遥かに凌駕する性能を秘めた機体を開発して、

世界を落とすことを目的としていることが瞬時に理解できたのだろう。

 

上手く立ち回ることが出来れば、

最先端、いや、その先を行く技術も手に収める事も可能だろう。

 

だが、当然それ相応の対価を支払わなければならない事も、また必然、

それが民の命、金、何であったとしてもだ・・・。

 

ここに、世界は史上最悪の窮地へと追いやられる事になったのだった・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

「・・・、これが亡國が先程行った演説、いや、宣戦布告の内容だ・・・。」

 

IS学園会議室にて、ガンダムの力を持つ者達は、

俺が用意した映像を観ていた。

 

因みに、セシリアとシャルにはある用事を任せている、

この後のお楽しみのな。

 

「おいおい・・・、これはどうみても、世界乗っとるぜ的な何かが見えるんだが?」

 

「そうッスね・・・、イカれてるとしか思えないッスよ。」

 

ダリルとフォルテは呆れと困惑、その両方が混ざった声をあげ、

深々とため息を吐いていた。

 

そんな気分になるのは分かるが、

今はそんな事を気にしている場合では無い。

 

さて・・・、ここで何人かをシンパに引き込めれば、

楽に事が進むのだが・・・。

 

「もう気付いていると仮定して話すが、

以前より俺達を襲撃してきていたのは亡國と、篠ノ之 束だ。」

 

俺が事実を告げると、全員が箒に気遣わしげな視線を送る。

 

そうなるのも当然だろうな、

箒にとって、束は実の姉、他のメンバーにしてみれば戦わせてやりたくないのだろう。

 

まぁ、当の本人はそんなもの気にして無いみたいだがな。

 

「心配しないでくれ、私は私の意志で、戦う覚悟は出来ている、

姉さんだろうと何だろうと、仲間を傷付けた者を、私は赦さない。」

 

「箒・・・。」

 

簪がまだ心配している様な目をやるが、

箒の瞳には決然たる意志が宿っていた。

 

「言うねぇ、篠ノ之、だけどな、お前に実の姉を討たせる訳にはいかねぇ、

アタシがお前の代わりに、アイツを切り裂いてやるよ。」

 

「ダリル先輩の言う通りッスね、私達が肩代わりッスよ、

私達をコケにした礼もしたいッスしね~。」

 

ダリルとフォルテは見込んだ通りだったな、

俺に力を貸してくれそうなタイプというわけだ。

 

後は・・・、ナターシャだな、

彼女の力量を考えればこの戦いだけでも協力させたいものだ。

 

それは良い、引き込むにはタイミングという物がある、

今はまだ、少し早いのだ。

 

「話を戻そう、対抗できる力を持つのは、無論俺達ガンダムの力だけだ、

だが、それでも限度はある。」

 

「相手の物量という事ですね・・・、確かにこれまでの事を考えて、

相手は物量戦で来ると推測出来ますね・・・。」

 

流石は山田先生だ、冷静に分析をしてくれるだけ、

俺の手間がかなり省ける。

 

「御名答、と言いたい所ですが、

それだけで済んだらまだマシな方でしょうね。」

 

「どういう事?」

 

ナターシャが俺の言葉を不審に思ったのか、

訝しげに尋ねてきた。

 

少しは察して欲しいが、考えたくも無いんだろうな。

 

「今回の戦いでは、国家軍等アテに出来ん、

それに、100%に近い確率で向こうに着く国家もあるだろう。」

 

「それは・・・。」

 

ナターシャが言葉に詰まり、国家に所属している者達が一斉に苦い顔をした。

 

所詮、国家は自分達の利益を最優先するものだ、

特に、今の時世はISコアをより多く保有している国家が強いとされる。

 

つまりは、この機会に亡國に着き、

戦争が終わった後に、優遇されようと言う魂胆の国家も現れるのは必然だと言える。

 

まぁ、ある意味正しい判断だと思えるが、

破滅への道とも捉える事も出来るだろう。

 

「信じたくは無いだろう、だが、これが現実に興りうるとなるならば、

俺達は祖国に対して刃を向ける事にもなるだろう。」

 

「そうね・・・、その通りだわ・・・。」

 

俺達の中で唯一、二つの国家に属している楯無は人一倍苦い顔を浮かべている。

 

ロシアと日本、どちらとも敵に回すか、それとも・・・。

 

いや、これは実際になってみないと分からない事だ、

今詮索しようとも無駄な事だ。

 

「俺は俺の仲間を傷付けた亡國、そして篠ノ之 束を赦さない、

喩え世界を敵に回そうとも、戦い続ける。」

 

「俺もだ、仲間を守るためなら、戦ってみせる。」

 

秋良が俺の言葉に賛同し、力強く頷いてみせた。

 

それで良い、お前の力を利用させてもらうさ。

 

「この戦いは見ように依れば、俺達は逆賊だ、

だが、この戦いは世界を救う為の戦いである。」

 

ノートパソコンを取り出し、

ある画面を全員に見せる。

 

「国家からの拘束を回避するため、

この戦いで亡國と一戦を交える覚悟がある者は、

IS学園の学籍を抹消し、自分のコアネットワークから独立させろ。」

 

追跡から逃れる為もあるのだが、

それ以外にも、コアを支配されて強制解除されない為なのだ。

 

まぁ、これだけでは完璧と言い難いから、

保険としてある物を加えるんだけどな。

 

「俺とセシリア、そしてシャルはこの作業を既に実行している、

参加者がいないなら、俺は即刻アクタイオン・インダストリーに戻り、

戦闘準備を開始する、

簡単に決められる事では無いと思うが、五分待つ、その間に参加するか、否かを決めてくれ。」

 

気持ちの整理を着け、

意思決定をするにはそれなりの時間を要するだろう。

 

俺とて、直ぐに決めろと言うほどでは無い、

これぐらいの猶予は与えてやっても良かろう。

 

だが・・・。

 

「篠ノ之 箒、作戦に志願する。」

 

「同じく、ダリル・ケイシー、作戦に志願するぜ。」

 

「フォルテ・サファイア、作戦に志願するッス。」

 

箒、ダリル、フォルテの三人組が真っ先に手を挙げ、

それぞれ学籍を抹消していった。

 

「頼む一夏、この戦いに協力させてくれ、

姉さんが行った事の落とし前は、この私が着けたいんだ!!」

 

「アタシも戦う、これ以上世界を乱さないためにもな。」

 

「戦う時に戦わないのは、この力に対する裏切りッスよ。」

 

本人達の意志は非常に固い、

ならばそれを尊重するのが俺の役目だ。

 

「分かった、直ぐに移動できる準備を始めてくれ、

それから後は、俺に協力してくれ。」

 

「分かった。」

 

「良いぜ。」

 

「了解ッス。」

 

俺の指示を受け、

三人は力強く頷いてみせた。

 

「私も行く、友達だけを戦わせたりはしない。」

 

「私も行こう、喩え祖国を敵に回そうとも、

悪を放って置くことなど出来ん。」

 

「アタシも戦う!!」

 

簪、ラウラ、そして鈴も次いで立ち上がり、

学籍を消していた。

 

「おいおい、先に言われちまうと、

俺達の立つ瀬が無いじゃないか。」

 

「まったくだね、俺もいくよ。」

 

「私も行くわよ、アイツらの好きにさせるわけになんていかないしね。」

 

雅人、秋良、そして楯無まで挙手し、

自分達の手で学籍を消していた。

 

「上等だ、お前らの覚悟、この俺がしかと受け取った、

貴女方はどうされるんですか?俺は引き留めもしませんし、

参加を促したりもしませんよ?」

 

俺は意地悪く、今だ参戦を決めかねている山田先生と、

ナターシャに問う。

 

悩むのも仕方無いが、教え子に触発されるってのは無いのか?

 

「私は一応・・・、国家直属だからね・・・、

動こうにも動きにくいわ・・・。」

 

「私も、迂闊には動けません・・・、

生徒を護ることが役目なので・・・。」

 

テストパイロットってのも、教師ってのも大変だよな、

俺らみたいに即断即決できる訳じゃないからな。

 

それは良い、だが、

ここで個人的感情を大きく動かせれば、

手駒として使うことは容易いだろうな。

 

あの情報を使ってみるか、

効果はそれなりにありそうだしな。

 

「ファイルス先生、貴女は確か、銀の福音を子も同然の様に想っていましたよね?」

 

「えぇ、その通りよ、福音は我が子、いいえ、私の半身の様に想っていたわ。」

 

ほう、かなり深い愛着を持っていた様だな、

これなら利き目もあるだろう。

 

「では、御伺いします、貴女は福音から翼を奪った者を、

どうされたいですか?」

 

「そんなこと聞いて、どうしようと言うの?」

 

疑ってかかる、か・・・、

悪くない予防線、そして対応だな。

 

「復讐したいと思いませんか?福音から翼を奪った敵にね?」

 

「っ・・・!?」

 

「どういう事ですか?」

 

動揺するナターシャの様子を不審に思ったのか、

山田先生が俺に訝しげに尋ねてきた。

 

他の連中も首を傾げるか、

ナターシャの様子を訝しんでいた。

 

「先程の言葉通りですよ、俺は銀の福音を地に堕とした黒幕をね・・・。」

 

「それは・・・!!」

 

雅人が俺の言葉の先を予測したのか、

驚愕の色を浮かべていた。

 

「あの日は確か、俺達は臨海学校の二日目だったよな?ラウラ?」

 

「は、はい、その前日からの計四日ほど、私達はあの場所にいました、

それが何か関係があるのですか・・・?」

 

「まぁ、待て、二日目に起きた事を、覚えている限り全部答えろ。」

 

そこから話が発展していくのさ、

お前はただ、事実だけを話せば良いのさ。

 

「私が覚えている範囲でしたら・・・、

あの日は確か、IS稼動試験日で、私達は海岸沿いに居ました、

その時、篠ノ之 束が箒にISを渡していました、その直後に福音事件が・・・、!?」

 

ラウラが何か合点がいったように、

その愛らしい顔を驚愕の色で染めた。

 

「ラウラは気付いた様だ、簪、どういうことだか理解出来るか?」

 

「え・・・?ゴメン、全く分からない、どういうこと?」

 

「出来すぎてるとは思わないか?何故同じ日に、二つのISが動かされたんだ?

紅椿は箒に渡され、福音は暴走した、どういうことか分かるかな?」

 

ここまで言えば、勘の鈍い奴以外は気付くだろう、

この裏に隠された策略にな。

 

「篠ノ之 束は箒に紅椿、最新鋭機体を駆らせ、暴走したIS、銀の福音を駆逐させる事を目的としたんだよ、

そう、十年前の白騎士事件と全く同じやり方でな。」

 

「そんな・・・!!」

 

楯無が絶句し、ナターシャは俯き、拳を握り締めていた。

 

怒り心頭ってところだろうな、

まぁ、次が決め手だ。

 

「そう、銀の福音を縛り、そして世界を乱したのは、

全て篠ノ之 束の個人的な気紛れによるものなのさ。」

 

俯くナターシャに近付き、耳元に囁きかける。

 

「憎いでしょう?貴女の半身を貶めた、篠ノ之 束が?

貴女には力がある、その力を、有効に使うべきではありませんか?」

 

「・・・。」

 

俺の言葉を聞いた数瞬の後、

ナターシャは立ち上がり、自分の教員証明書を棄てた。

 

「福音の仇は、私が討たせてもらうわ、それで良いかしら?」

 

「なーちゃん・・・。」

 

「問題ない、貴女がそうしたいなら、俺が止める理由はない。」

 

ナターシャを心配する山田先生を尻目に、

俺は彼女に肯定の意を返した。

 

「・・・、分かりました、私も戦います、

危険な戦いに、生徒だけ行かせる訳にはいきません。」

 

山田先生も立ち上がり、教員証明書を投げ棄てた。

 

上等だ、このメンバー全員を誘い込めたとなると、

十分な戦力になる。

 

さぁ、準備は整った、後は高らかに宣言しよう!!

 

「全員が戦う意志有りと見た、我ら十四人を同志として、

ここにガンダムチームの発足を宣言する!!」

 

sideout

 

side秋良

 

兄さんの話術に、俺は得体の知れない悪寒を感じた。

 

対象者の憎しみを掻き立て、

戦いへと赴かせる。

 

並大抵の技術じゃないとは思うけど、

どう考えても、俺には理解し難い。

 

何故そこまでの事をしてまで、

戦いに赴かせようとするのか・・・、

あの人の考えが全く分からないんだ・・・。

 

今まで、何よりも怖い事だ。

 

「さて、同志諸君、悲しいお知らせだが、

裏切り者が現れた様だ。」

 

「なっ・・・!?」

 

いきなりか!?

一体誰が裏切ったと言うんだ・・・。

 

「だが安心してくれ、同志諸君の中にはまだ、裏切り者はいない、

だが、俺達に近しい人物が、悲しいことに裏切り者だったのだ。」

 

「じゃあ、一体誰が裏切ったと言うの・・・!?」

 

楯無が驚きを隠せないまま、

兄さんに裏切り者の正体を問い質す。

 

俺だって、内心誰が裏切ったと言うのかが気になって仕方無い、

しかも俺達に近しい人物がそうだったと聞けば、なおさらだ。

 

「今、セシリアとシャルに身柄を押さえさせている、

連れて来させるとしようかね?」

 

耳に着けていたインカムに言葉を発し、

恐らくは離れた所にいるセシリアとシャルロットに指示を出してるんだろう。

 

一体誰が裏切ったと言うんだ・・・?

いや、その前にどうやって裏切り者を炙り出したんだ?

 

分からない事ずくめで混乱しているんだ、

もう訳が分からない・・・。

 

「どうやら、来たようだな、入っていいぞ。」

 

報告が入ったのか、

兄さんが入室の許可をインカムに向けて出していた。

 

裏切り者が誰なのか、

そして、なんで裏切ったのかなんて分からないけど、

理由を聞かない事には分からないな。

 

『・・・!?』

 

扉が開き、セシリアとシャルロットにガッチリとホールドされ、

項垂れた少女が入ってきた。

 

だけど、全員があまりの衝撃に絶句し、

声をかけることもままならないようだった。

 

いや、目の前の光景を信じたく無いと言った方が適切かもしれない、

俺もそう思ってるから・・・!!

 

何故彼女が・・・!?

 

困惑する俺達を他所に、兄さんは高らかに宣言した。

 

「こいつが俺達を売ろうとした裏切者、布仏本音だ!!」

 

sideout




また前後編に別れてしまいました・・・(汗)

次回予告


秋良達に突き付けられた裏切者の正体、
驚愕する彼等を尻目に、一夏は己の武器を振りかぶる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
処刑 後編

お楽しみに。

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