インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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青と蒼

sideセシリア

 

一夏様の命を受けまして、私は先程と同じように、

ピットの真下付近まで機体を移動させました。

 

視線を移した先には、

青いフレームを持ったガンダム、ブルーフレームセカンドが佇んでいます。

 

同じ系統の色でも、

彼女の機体、ブルーフレームは明るい青の色を持っているのに対して、

私の機体は闇の様にくすんだ蒼の色を持っている。

 

まるで、私達の関係、立場を表しているみたいに思えまして、

とても皮肉なのですがね。

 

そんな事はどうでも良いですわね、

今はそんな事よりも大切な事が有りますもの。

 

「さて、図に乗った愚かな女に鉄槌を与えましょうか?」

 

彼女はご存知無いのでしょう。

ガンダムの力を得たとは言えども、所詮はまだ付け焼き刃。

そんな物で一夏様と戦おうとするなど烏滸がましいにも程がありますわ。

 

一夏様の本気を与えて頂けるのは、

この私、セシリア・オルコットと、私の唯一無二の盟友、シャルロット・デュノアさんしかいませんわ。

 

「なんですって?誰が図に乗ってるっていうのよ!?」

 

「そんな事も理解していないのですか?

だとすれば、救いようがありませんわね。」

 

嘆かわしい事この上無いですわね・・・。

強い力を得た途端に図に乗る・・・、まるで以前お会いした彼等と同じですわね。

 

そう言えば、彼等はどうされているのでしょう?

私達ファントムペインと異界の教官が完膚なきまでに叩き潰した後は、

どうなったか全く存じあげておりません。

あれで懲りていれば良いのですが・・・。

 

「よろしいですこと?貴女は確かにガンダムの力をその手に持っています、

ですが、ただそれだけの事、力はただ力でしか御座いません、

扱う者の腕がなっていなければ無意味ですわよ?」

 

「つまり私が弱いと言いたいわけ!?

貴女こそ図に乗ってるんじゃないの!?」

 

「ふふっ、そう思うのならば、そう思えばよろしいのですよ?

ですが、自身の実力を見誤る愚かな女に、私は倒せませんわよ?

自分がお強いと思ってらっしゃるなら、織斑一夏様が片翼、セシリア・オルコットを踏み越えてごらんなさい!!」

 

「上等よ!!その傲慢な態度、とれない様にしてあげるわ!!」

 

ふふっ、その強気な態度、

いつまで保つ事が出来るのでしょうか?

 

この私に叩き潰され、泣き叫び、力尽きて跪き、赦しを請う姿を見せてくださいな!!

 

sideout

 

noside

 

まず先に動いたのは、

青の機体、ガンダムアストレイブルーフレームセカンドLを駆る、更識楯無だった。

 

背中に装備していたタクティカルアームズを引き抜き、

スラスターで加速しながらもブルデュエル目掛け突き進む。

 

だが・・・。

 

「その程度の突進、見切れないとでも思いまして?」

 

楯無を嘲笑うかのごとく、

セシリアは僅かに身を沈めるだけでタクティカルアームズの斬撃を回避、

リトラクタブルビームガンの連射を浴びせかける。

 

「くっ・・・!このっ・・・!!」

 

楯無は数発被弾しながらも、

左太股からアーマーシュナイダーを引き抜き、ビームを弾く。

 

(一夏様と同じ対処ですか、

ですが、攻撃を避けられた後の被弾は頂けませんわね。)

 

冷めた目で楯無を見据えつつも、

セシリアは状況判断を怠る事は無い。

 

(まぁ、私が調教して差し上げれば良いだけのことですわね。)

 

そんな物騒な事を考えながらも、

セシリアはドラグーンを八基全て射出する。

 

「行きなさいルーヴィアドラグーン!!

あなた達の力!存分に振るいなさい!!」

 

「っ!?」

 

セシリアのかけ声と共に、

自身の周囲に展開されたドラグーンに驚きつつも、

楯無は撃ちかけられるビームをアーマーシュナイダーで弾いたり、

機体を縦横無尽に動かすことでなんとか回避する。

 

しかし、ガンダムの力に覚醒した時期が早く、

戦闘のセンス、能力共に楯無を上回るセシリアに、

彼女が勝てる道理は殆ど無いに等しい。

 

セシリアのドラグーンによる攻撃は更に苛烈さを増し、

ブルーフレームの装甲を幾重もの光条が掠める。

 

(なんて射撃精度・・・!!

攻撃する隙が全然見当たらない・・・!!)

 

分が悪いと悟ったのか、

彼女はブルーフレームの形態をサードに変更し、

大型ソードでより多くのビームを切り裂く。

 

(えぇい!!鬱陶しい!!

なんて厄介なの!?このドラグーンって装備!!)

 

(あら?意外と状況を見る目はあるのですね、

一夏様への負の感情に取り憑かれた愚物かと思っていましたが、

そんな事も無い様ですわね。)

 

回避するだけとはいえど、

自身のドラグーンから逃れる楯無を見て、

セシリアは意外性に目を丸くしながらも、自身も攻撃を開始する。

 

スコルピオン機動レールガンを撃ちかけ、楯無の回避の先を阻む。

 

その最中、彼女はドラグーンの射撃の雨の中にISが一機だけ逃れられる隙間をわざと作りだす。

ブルーフレームがそこに逃げるように誘導し、タイミングを見計らい、スティレットを投擲する。

 

「キャアァァッ!?」

 

三発のスティレットはブルーフレームの左腕に着弾し、

盛大に爆ぜ、大型ソードとアンカーユニットを破壊した。

 

「あらあら?この程度の搦め手でダメージをお受けになるなんて・・・。

私としては、もう少し粘っていただけないとつまらないですわね。」

 

「くっ・・・!!このっ!!」

 

セシリアの挑発に乗せられたのか、

背部にマウントされていたビームライフルを二丁とも抜き放つ。

 

「鬱陶しいのよ!!この羽虫がぁぁ!!」

 

縦横無尽に動き回るドラグーンに向け、

ビームライフルを乱射する。

 

どうやら先にドラグーンを落とし、

自分に分がある近接格闘に持ち込む魂胆の様だ。

 

しかし・・・。

 

「私の可愛い猟犬達がその程度で落ちると思いまして?」

 

複数のドラグーンがビームバリアを形成し、

他のドラグーンを護るかの様にビームを弾き返した。

 

「そんなっ・・・!?ビームバリアも展開出来るなんて・・・!?」

 

驚愕のあまり、楯無は一瞬動きを止めてしまう。

 

だが、その一瞬の硬直は、

戦闘においては死に直結する愚かな間である。

 

「もらいましたわ!!」

 

セシリアはレールバズーカ<ゲイボルグ>を呼び出し、

楯無に狙いを定め、トリガーを引いた。

 

実弾兵器であるゲイボルグは、ビームに比べればその弾速は非常に遅い、

しかし、ビームの様に単純に標的を焼き貫くのではなく、

着弾点をごっそりと爆破で抉る事を目的としている。

 

その上、ゲイボルグは他の実弾兵装と比べてもかなりの威力があるため、

直撃した際に削り取れるシールドエネルギーの量は計り知れない。

 

「・・・ッ!?」

 

反応が遅れた楯無は、回避する事も出来ずにバズーカ弾に直撃する。

 

凄まじい爆音と爆煙が辺りを包み込んだ。

 

sideout

 

sideセシリア

 

楯無にゲイボルグの弾が直撃した事を認め、

私はゲイボルグをルーヴィアストライカーに装着し、

ルーヴィアドラグーンも全て呼び戻します。

 

正直に申しまして、楯無は現段階で既に箒さんより格下と見て良いでしょう。

箒さんは無闇に突っ込む事は致しませんでしたし、

何より、ご自分の力量をしっかりと把握しておりました。

 

ですが、楯無は自分の力量を完全に見誤り、

自惚れている様では、箒さんにすら劣りますわね・・・。

 

一夏様は何故、この女にガンダムの力を託したのでしょうか・・・?

こんな女・・・、そこら中に転がっているものですのに・・・。

 

そう思った時でした、爆煙の中から青い機体が飛び出して来ました。

 

「ッ!!」

 

咄嗟にビームサーベルを二本とも引き抜き、

バスターソードの斬撃を受け流します。

 

「私はッ!!まだ負けて無いわよ!!」

 

「フフフッ、そう来なくては面白くありませんわ!!」

 

ブルーフレームセカンドリバイですか、

Lに似通ってはいますが、微妙に形状が異なっているので見分けがつきます。

 

どうやら、直撃の寸前にフォルムチェンジし、

タクティカルアームズⅡで弾を防いだ様ですわね。

 

面白い、先程の評価を改めなければいけませんね、

これからは私もそれなりの力を示しましょう!!

 

「はぁッ!!!」

 

「はっ!!」

 

私のブルデュエルデーストラに速度で挑むおつもりなのか、

楯無はタクティカルアームズⅡをスラスター形態に戻し、

アーマーシュナイダーを両手に保持して此方に向かって来ます。

 

ならばと、私もビームサーベルを両手に持ち、彼女と打ち合います。

 

よく訓練されてはいますが、

大した事はありませんわね、ですが、機体に慣れれば確実にお強い事なのでしょう。

 

ですが、今回は図に乗せないためにも、

この私が完膚無きまでに叩き潰して差し上げましょう。

 

「くっ・・・!!この私が押されてるというの・・・!?」

 

「当然の結果ですわ、私と貴女では抱く理想、愛、全てにおいて私が勝っていますもの。」

 

一夏様のお隣で戦い続け、私とシャルさんは変革いたしました、

この力も、愛しい一夏様に与えて頂いたものなのです。

 

ですから、私達に敗北は許され無いのです。

最後の最期まで、あの御方の両隣に立ち続けると決めましたから・・・。

 

「黙りなさい!!私は!負ける訳にはいかないのよ!!」

 

激昂しながらも、楯無は私が押し込むビームサーベルを押し返そうとしております。

 

「何故そんなに熱くなられるのです?

それほどまでに一夏様に敗れた事が悔しいのですか?」

 

一夏様に敗れるということは、新たな自分への目覚めの切っ掛けになる筈です、

私は一夏様に敗れたからこそ、あの御方の強さを学び、最後には越える事を目標に定める事が出来ました。

 

それなのに、この女は何故か敗北した事で、より自分を追い詰めている様に見えます。

 

「煩いわね!!私は負ける訳にはいかないのよ!!

私が簪ちゃんを護らなきゃいけないのに、こんなことで負けられないのよ!!」

 

「どういう事ですの?」

 

「簪ちゃんを護るのは姉である私の役目なの!!

だから!私は誰よりも何よりも強くないといけないのよ!!」

 

なるほど、簪さんを護るという事に拘り過ぎて、

自分を追い詰めているのですね。

 

悪いことでは無いとは思いますわね、

姉として、妹を護ろうとするその心、実に美しいですわ。

 

ですが・・・。

 

「護られる事を、簪さんが是としますか?」

 

「なんですって!?」

 

「簪さんはとてもお強い、もう貴女に護られなくとも一人で時分を護れます、

もう貴女の助け、加護を必要とはしておりませんわよ?」

 

それぐらいの事は、

友人の一人としてお付き合いさせていただければ理解出来ますわ。

 

それなのに、家族、それも姉妹という最も近い関係にある彼女が、

それを理解していないということは、

楯無さんは簪さんが昔の、ご自分の後ろに隠れているままだと思い込んでいるのでしょう。

 

「黙れ!!貴女が簪ちゃんの何を知っているというのよ!?」

 

「では、貴女は現在<いま>の簪さんを見ているのですか?」

 

現実から目を背けてる様な女に、この私が倒される道理はありませんわね。

それではそろそろフィナーレといきましょう。

 

「ならば何故、簪さんは貴女と話そうとしないのですか?

答えは至極簡単ですわね、それは―」

 

「だ、黙れ!!」

 

フフフッ、良いお顔をされますわね、

さぁ、私に絶望にうちひしがれるお姿を見せてくださいな。

 

「簪さんが、貴女を必要としていないという事ですわ、

お姉さんなんて要らない、私は姉なんて知らないと思っているのですわ。」

 

「―」

 

あら、半分冗談でしたのに、

お顔が真っ青になって墜落して行きましたわね・・・。

 

では、遠慮なく、フィナーレとさせていただきましょうか。

 

ルーヴィアドラグーンを全て射出し、

全基、バーストモードで展開し、フルバーストを一斉に楯無に撃ち込みました。

 

半分ほどしか残っていなかったブルーフレームのシールドエネルギーは一瞬にして底を尽き、

アリーナの地面に激突した直後、機体が量子格納されました。

 

何の気無しに収音を最大にしてみますと・・・。

 

『簪ちゃん簪ちゃん簪ちゃん簪ちゃん簪ちゃん簪ちゃん―』

 

楯無はブツブツと譫言の様に簪さんの名を呟いていました・・・。

 

な、なんだか空恐ろしいものがありますわね・・・、

流石に愛しいからと言えど、あそこまで酷い事は私でもいたしませんわ・・・。

 

一夏様にもご迷惑がかかるでしょうし、

先にアリーナに戻しておきましょうか・・・。

 

な、なんだかとっても疲れましたわね・・・。

 

sideout




次回予告
ナターシャの相手をするシャルロットは、
ナターシャが戦う理由を問う。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
破壊者と運命

お楽しみに!!

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