インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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力への誘い

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年が明けた1月3日。

 

IS学園は冬休みが他の高等教育機関よりも少々長めの為、

いまだ寮に人影も少なく、閑散としていた。

 

恐らくだが、翌日の1月4日になれば帰ってくる者もいるだろうが、

今では全学年、教職員合わせても百人に充たないほどしかいなかった。

 

そんな中、寮内の一角に二人の男女の姿があった。

 

「こんなところに呼び出して、一体どうしたというのだ?」

 

「休暇中に呼び出して悪かった、だが、

その分を十分に補える物をくれてやる。」

 

黒髪ポニーテールの少女、篠ノ之 箒は、

自身を呼び出した男、織斑一夏に用件を尋ねる。

 

「まぁ、お前からの呼び出しには応えないのも失礼に値する、

折角私を鍛えてくれている師を蔑ろには出来ない!」

 

「そこまで言わんで良い、俺はお前を生き残らせる為に鍛えているだけだ、

っと、そんなことは良い、お前にこれを渡そうと思う。」

 

何やら拳を握り締めながら熱く語る箒に苦笑しつつ、

一夏は右手に持っていたアタッシュケースを彼女に手渡す。

 

「これは一体なんなのだ?」

 

アタッシュケースの中身が判らない箒は、

不審な物かと勘繰り、一夏に問い掛ける。

 

「アクタイオン社で製作した新装備だ、

その名もタクティカルアームズⅡL、見た目は巨大なバスターソード、

しかし、変形させる事でスラスターやビームアロー、そしてマガノイクタチ、ヴォワチュール・リュミエールを利用した高速機動も可能な複合型兵装だ。」

 

手持ちのディスプレイからデータを呼び出し、

何かの宣伝でも行うかの如く説明する。

 

「なっ・・・!?こ、こんな装備は貰えない!

どうしても使いこなせると思えないんだ!」

 

あまりの装備の煩雑さ、そして強力さに若干引きぎみなほうきは、

自分が扱い切れる自信がなかった為に受け取りを辞退しようとした。

 

しかし、一夏は大声で笑った後、大きく首を横に振る。

 

「案ずるな、これはお前の力になってくれる、

俺には無用な物でな、せめて、お前が使ってやってくれればこいつも幸せだろう。」

 

「・・・、分かった、ありがたく使わせて貰おう、

だが、またレクチャーをしてくれるか?」

 

「当然だ、この織斑一夏、アフターケアも怠る気はないさ。」

 

「ありがたい、ではな。」

 

一夏からデータが入っているアタッシュケースを受け取り、

箒は彼に背を向けて去っていった。

 

その背中を見送り、一夏は懐から手帳を取り出し、

あるページを開いて何やらチェックを入れる。

 

「箒にタクティカルアームズⅡLは渡せたな・・・、想像通りに進んだな・・・、

だが、これからややこしい奴等が固まってるからな、ま、そこをなんとかするのが俺の腕だな。」

 

手帳の中には、それぞれの武装及び、データを渡す先の候補が記されており、

箒もその一人だったのだ。

 

「さて・・・、次はアイツだな・・・、クックックッ・・・。」

 

sideout

 

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「簪ちゃ~ん・・・、雅人ぉ~・・・、何処なの~・・・?」

 

情けない声を出しつつ、更識楯無は寮の廊下を徘徊していた。

 

彼女は最愛の妹と、最近なんとなく気になる相手をクリスマス前から探し回っていた。

 

しかし、一向に見付からないまま年が明け、嫌な予感が頭を過りはじめていた。

 

「なんで二人ともいないのよぉ・・・。」

 

「さぁな、拉致でもされたんじゃないか?」

 

「!」

 

探し続ける楯無を嘲るような声が響き、

彼女は弾かれた様に振り返る。

 

そこには薄い笑みを浮かべた彼女の宿敵、というか犬猿の仲である一夏が立っていた。

 

「貴方・・・!!何か知ってるわね!?」

 

「なんのことやら?俺はただ可能性を提示しただけの事、

真実を知ってるとは限らんぜ?」

 

「黙りなさい!簪ちゃんと雅人の居場所を知ってるのね!?教えなさい!!」

 

普段は人をからかう様な雰囲気を持っている楯無も、

完全に自分を馬鹿にしたような態度をとる一夏に苛立っていた。

 

「・・・。」

 

「黙って無いでとっとと吐きなさい!!」

 

「いや、お前が黙れと言ったから黙ってるんだけどな?」

 

「・・・!!」

 

完全に挙げ足を取られ押し黙る楯無を、

一夏はさも愉快という表情をしながら眺める。

 

「クックックッ・・・、良い表情をしてるな?そんなに俺が嫌いか?」

 

「嫌いも嫌い、大嫌いよ!」

 

「ハッハッハッ!!それは結構、俺もお前ごときを歯牙にかける程暇じゃない。」

 

楯無の言葉を聞いた一夏は盛大に笑った後、踵を返して歩き去ろうとする。

 

そんな彼を睨みつけるが、どうあがいても現状で勝てる確率があまりにも低いために飛びかかる様な事はできなかった・・・。

 

そんな時、一夏がふと足を止め、

振り返りつつ何かを投げてくる。

 

「っ!?」

 

USBの様な物だった為、楯無は避ける事なくキャッチした。

 

「俺が気に入らないならソイツを使いこなして俺を倒してみろ、

そんな気が無いなら壊しても構わんよ、それじゃあな。」

 

楯無を指差し、今度こそ彼は踵を返して角を曲がった。

 

「倒してみろですって・・・?

何処まで上から目線なのよ・・・!!」

 

一夏の態度が一々癪に障ったために、

楯無は怒りに震え、拳を握り締めていた。

 

「良いわ!絶対に見返してやるわよ!!覚悟して置きなさい織斑一夏!!」

 

誰に宣言するでもなく、楯無はそう叫んだ後、

一夏が歩き去った方向とは別の方向に向けて歩き去った。

 

「・・・、行ったか、単純というか扱い易いというか・・・、

馬鹿正直な奴だな・・・。」

 

楯無が去った後、廊下の角からひょっこりと一夏が姿を現す。

 

どういう対処法を採るのか気になった彼は、

気配を可能な限り消し、盗み聞きしていたのだ。

 

結局、予想した通りに事が進んだため、

なんとなく拍子抜けした様な感じを受けたのだ。

 

「まぁ良い、思ったより楽に事が進んだな・・・、

さて・・・、残るは四人、か・・・、誰を選ぶとしようかね?」

 

またしても手帳を取り出し、楯無の欄とタクティカルアームズⅡの欄にチェックを入れる。

 

「次は・・・、あの二人をけしかけてみるかね?」

 

次の候補を選定し、一夏はその方向に向けて足を進めようとした、その時・・・。

 

「おう、織斑会長じゃねぇか。」

 

「こんな所でなにやってんッスか?」

 

ダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアの両名が彼に話しかけてきた。

 

「おや、これはこれはお二方、明けましておめでとうございます、

調子は如何ですかな?」

 

「まぁまぁって所ッスかね。」

 

「おう、ま、アタシらの事はどうでも良いじゃねぇか、

会長殿がこんな所まで来てる理由をお聞かせ願いたいね。」

 

調子を尋ねる一夏の言葉に返しながらも、

ダリルは何故彼が二年寮と一年寮の境目付近まで来ていたのか尋ねる。

 

「それに、さっきは楯無をからかってたみたいじゃねぇか?

スカッとしたぜ~?」

 

「アイツに言葉で勝てた人間を見るのは初めてッスよ、

流石は最強を名乗るだけはあるッスね。」

 

「楽しんでいただけた様でなにより、

ファンサービスの一環としてお教えしましょう。」

 

ダリルにせよフォルテにせよ、

楯無のからかいを快く思っていなかった様だ。

 

そこに楯無よりも年下の一夏が、

完全に楯無をからかい抜き、彼女の平静さを欠かせたのだ。

 

驚くのと同時に、自分達が為せなかった行為に純粋な興味を抱いたのだ。

 

「実は今、少々協力者を集めている所でしてね、

データを録るのにご協力願えないかと思いましてね?」

 

「ふーん、じゃあなんでアイツをからかってたんだよ?」

 

「そうッスね、普通ならそんな事をする必要なんて無いッスよ?」

 

一夏の言葉に違和感を覚えた彼女達は、

彼の真意を探るべく、楯無を引き合いに出す。

 

「普通ならね、アイツは俺の事を目の敵にしています、

つまり真正面から協力を依頼しても断られるのが関の山。」

 

「まぁ、そうだろうな。」

 

「想像できるッスね。」

 

一夏の説明を聞いた二人はごもっともという風に頷く。

まぁ、先の一夏と楯無の会話を見ていれば一目瞭然だろうが。

 

「で、俺はわざとアイツを馬鹿にしたような態度をとって、

反骨精神を煽ってそうとは知らずにこちらに協力させてるって事ですな。」

 

「へぇ~、中々に策士だなお前。」

 

「人を手玉にとる方法をよく知ってるスね~。」

 

「恐縮です。」

 

彼の説明に感心したかの様に、彼女達は目を丸くする。

 

実際、彼女達は一夏の事を恐怖統制を全面に押し出した戦争屋タイプの人間だと思っていた。

しかし、実際に会ってみて会話をした彼は、

戦士然とした全校集会から受けた印象とは違い、

人の搦め手を突く策士の一面を垣間見せたのだ。

 

オールマイティに力を発揮する一夏に、

彼女達は純粋な尊敬の念すら浮かべていた。

 

「そこで、貴女方にもお手伝い願いたいのですが、引き受けていただけませんか?」

 

一夏は懐より二本のUSBを取り出し、

ダリルとフォルテに差し出す。

 

「それはなんスか?」

 

「これはアクタイオンで実験段階にある新しい機体のデータです、

実験機のデータですが、通常のISを凌駕しています。」

 

「おいおい、そんなモン、アタシら部外者に渡しても良いのか?

リークしちまう可能性もあるのに?」

 

一夏の思わぬ提案に彼女達はまた違う意味で目を丸くする。

あまり関わりの無い自分達に、まさかそんな提案をしてくるとは思わなかったのだ。

 

「ご心配なく、IS以外の端末では作動しない様にプロテクトをかけています、

貴女方が力を欲する時に使用してください、きっと貴女方の力となるでしょう。」

 

「・・・、良いのか?」

 

「構いません、俺としても少しでも護りとなる力が欲しい物ですから。」

 

「分かったッス、有り難く使わせてもらうッスね。」

 

一夏の手より、ダリルは赤みがかかったオレンジのUSBを、

フォルテは青いUSBを受け取る。

 

「織斑会長、恩に着る。」

 

「またよろしく頼むッス。」

 

「はい、それでは失礼します。」

 

ダリルとフォルテに一礼した後、一夏は背を向けて歩き去った。

 

「それじゃ、アタシらも行くとするか?」

 

「そうッスね。」

 

彼が歩き去った事を確認し、

彼女達もその場を立ち去った・・・。

 

 

「さて、これで四人・・・、後は・・・、あの二人か・・・、

どうも気が進まないな・・・。」

 

その場所から少し離れた場所で、

一夏は再び手帳を開き、何やら苦い表情をしていた。

 

「あんな感じじゃなかったら何の躊躇いもなく頼めてたんだがなぁ・・・。」

 

頭痛でもするのか、顔をしかめつつ次のターゲットがいるであろう場所を目指す。

 

そんな時、彼の携帯に着信が入った。

 

「・・・、はい、織斑です。」

 

激烈に嫌な予感がしつつも電話に出ると、

受話器からIS学園理事長、轡木十蔵の声が聞こえてくる。

 

『一夏君ですか?実は捜索をお願いしたいのですが・・・。』

 

「・・・、あの二人ですか?」

 

『はい、お願い出来ますか?』

 

「分かりました、用事も有りましたので都合が良いですし。」

 

『お願いしますね。』

 

十蔵からの電話が切れたのを確認し、

一夏は盛大なため息を吐いた。

 

「なんで今日はこんなに都合良く動くのやら・・・、

まぁ良い、さっさと用事済ませるとするかね。」

 

頭痛が酷くなることを自覚しつつも、

彼は役目を果たすために行動を開始した。

 

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それから二時間の後、

一夏はセシリアとシャルロットの助力もあり、

なんとか真耶とナターシャを見つけ出した。

 

「さて・・・、今日こそは何かしら懲罰を与えましょうかねぇ?」

 

「い、一夏君・・・、せ、せめて正座をやめてもいいですか・・・?」

 

「さ、流石に足が痛いわ・・・。」

 

いい加減、頭に来た一夏に正座させられる真耶とナターシャは、

涙目になりつつも彼に尋ねる。

 

「黙れこの中身中学生どもが、

アンタらに与える慈悲なんてねぇんだよ。」

 

「「酷いッ!?」」

 

一夏の辛辣な言葉に、

真耶とナターシャは泣きたい気分を抑えながらも叫んだ。

 

「酷かねぇわ!!アンタらが一々迷子になるからこうやって説教してんだろうが!!

22にもなってこんなんとか、アンタらいい加減にしやがれや!!」

 

「「うぅっ!?」」

 

痛い所を突かれ、彼女達は胸を抑えて呻く。

年齢を言われれば情けなく感じるのであろうか・・・?

 

そんな事はどうでも良いとして・・・。

 

「まぁ良いでしょう、迷子云々はこの際、不問にさせて頂きますよ、

貴女方にお願いしたい事もありますしね、

これから理事長室に向かってください、理事長がお呼びです、

それと・・・。」

 

一夏は少々棘のある言葉を吐きつつも用件を伝え、

懐から二本のUSBメモリを取り出す。

 

「アクタイオンで実験段階にある機体のデータです、

データ検証の為に、貴女方の機体に組み込んでおいてください。」

 

「「えっ?」」

 

一夏の予想外の言葉に、

真耶とナターシャは目を丸くする。

 

「最近何かと物騒ですからね、

少しでも護りとなる力が欲しいのです、

山田先生とファイルス先生のお力、お貸し願いたい。」

 

真耶に緑色のUSBを、ナターシャには青紫のUSBを手渡す。

 

「えっと・・・、一夏君?」

 

「なんで、私達にこれを・・・?」

 

「裏など何もありません、ただ、この学園とそこにいる全ての者を護る力が必要なのです。

国家ISパイロットだった貴女方のご助力、期待しています。」

 

戸惑う真耶とナターシャにそれ以上何も語らず、

一夏はセシリアとシャルロットを連れて歩き去った。

 

その場に残された二人は、

互いに顔を見たわせた後、一夏に言われた通りに十蔵の下へと向かう為に歩き出す。

 

一夏の思惑に疑問を感じながらも・・・。

 

 

「・・・、さて、これで全て渡せたか、結構時間がかかっちまったな・・・。」

 

寮の自室に向けて歩いていた一夏は、

手帳を開き、真耶とナターシャの欄にチェックを入れる。

 

「一体、何を渡されていたのです?」

 

「新しい機体のデータって言ってたけど、データだけ渡しても意味があるの?」

 

彼の隣を歩くセシリアとシャルロットは、

何時もの事ながら、彼のやろうとしている事を理解しきれずに尋ねる。

 

「まぁ見ていれば良い、どう転んでも、面白い事になりそうだからな・・・。」

 

楽し気に話す一夏の言葉に、

二人は互いに顔を見合わせながら首を傾げる。

 

(一夏様は一体何をお考えなのでしょう?)

 

(機体のデータだけ渡しても戦力にはならないよね?)

 

((もし、データが役にたつとするな・・・?))

 

「「・・・!?」」

 

一夏がとった行動と自分達の経験を当て嵌め、

彼女達は彼の考えに辿り着いた。

 

「まさか・・・!」

 

「データだけを渡した理由って・・・!」

 

「クックックッ・・・、楽しもうぜ、アイツらが歩む道をな。」

 

彼女達の驚愕を他所に、

一夏は薄く笑い、歩みを進めた。

 

まるで彼の行く先が、彼の望む物であるかの様に・・・。

 

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はいどーもです!

アリアンさんの小説、IS~凶鳥を駆る転生者~にて、本格的なコラボが始まりました。

秋良達の涙が見れますww

それでは次回予告
冬休み終了二日前、
IS学園に危機が迫る。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
誘われし者 前編

お楽しみに!

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