インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

60 / 116
最狂対最強 後編

side一夏

 

試合開始の合図と同時に、

俺と楯無は得物を呼び出し、高速で周囲を飛び回りつつ、

攻撃を仕掛ける。

 

と言っても、俺の射撃は兎も角、

奴のバルカンは牽制程度にしかならない。

 

俺の機体は近接戦寄りの万能機だが、

アイツの機体は近接格闘向けだろう。

 

唯一警戒するべき技は、

清き熱情<クリア・パッション>だけだろうが、

奥の手がそれすらも無効に出来る。

 

つまり、絶対的に俺が有利と言うわけだ。

しかし、油断と慢心はそんな状況をひっくり返してしまう。

 

ま、油断などせんがな。

 

「どうした楯無?そんな射撃では俺には当たらんぞ。」

 

バルカンの射撃を回避しつつ、

左腕に装備してあるコンバインドシールドのガトリング砲を連射する。

 

アイツのバルカンよりも俺のガトリング砲の方が威力は高いが、

連射力という点を見れば五分五分といったところだ。

 

と言っても、当たらなければ意味は無いんだがな。

 

「そっちこそ、全然当たらないじゃない!」

 

俺も人の事は言えんな、

直撃コースでも、あの水に阻まれて弾の勢いが完全に殺され、

届く頃には効き目がない状態になっている。

 

I.W.S.P.は気に入ってるんだが、

ビーム兵装が少なすぎるのが難点だな。

なんとか出来なくはないが、あの水はやはり邪魔だな。

 

仕方ねぇ、使いたくはないが、四の五の言ってられねぇか。

 

ビームブーメランを投擲し、

楯無が回避している内に距離を取る。

 

「チェンジ!サムブリットストライカー!」

 

I.W.S.P.を量子格納し、

今だ一度も使用した事のなかったサムブリットストライカーに換装する。

 

「これがストライカーシステム・・・!?」

 

初見は確かにこれだけで驚くだろうが、

本当に驚くのはこれからだ。

 

八連装ミサイルとトーデスブロック改を同時にを発射し、

楯無が回避すると目されるポイントに、

アグニ改の超大出力ビームを撃つ。

 

目論み通り、楯無が回避した方向に極太ビームの奔流が、

彼女に襲い掛かった。

 

sideout

 

side楯無

 

「キャアッ!?」

 

一夏君が撃ってきた大出力ビームを辛うじて回避したけど、

剰りにも威力が高かったせいか、掠めた程度なのにシールドエネルギーの四分の一を持っていかれてしまった・・・。

 

お陰で水もかなり蒸発させられちゃったし・・・。

 

しかもそのビームはアリーナのシールドを突き破って、

遥か彼方の空へと消えて行った。

 

不味いわね・・・!あんなの喰らったら間違いなく死んでしまう!!

でも、あの手の兵装は連射が効かない筈!

 

(なら、まだ勝ち目はあるかも・・・!!)

 

蒼流旋とラスティーネイルを呼び出し、

撃ちかけられるミサイルの砲弾を何とか回避しつつ、一夏君へランスを突き立てようとした。

 

だけど・・・。

 

ランスの突きは、一夏君の残像を空しく突いただけだった。

 

「なッ!?」

 

「遅いな、この程度で最強だと?笑わせるな。」

 

私の右側から彼の冷たい声が聴こえてきた・・・!

 

それと同時に右肘に凄まじい衝撃を感じ、

思わず握っていたランスを手放してしまった。

 

「突きってのは、こうするんだよ。」

 

「なっ・・・!?」

 

嘘でしょ・・・!?

なんで・・・、なんで・・・!?

 

「なんで私のランスを使えるのよ!?」

 

「貴様が知ることは無い。」

 

いつの間にか翼の様なバックパックに換装した一夏君が、

私に猛然と迫ってくる。

 

「ハッ!」

 

「くうっ!?」

 

は、速い・・・!!

それに一撃一撃がとてつもなく重い・・・!!

 

ラスティーネイルと水で何とか防いでるけど、

どうあがいても反撃が出来そうも無い・・・!!

 

「ハァッ!!」

 

一夏君は地面にランスを突き立て、

大車輪の様に回転してきた。

 

「ヤバッ・・・!?」

 

水を前面に展開し、腕を交錯させて少しでも衝撃を和らげようとする。

 

その直後、一夏君の蹴りが襲い掛かる。

 

sideout

 

side一夏

 

俺の渾身の回し蹴りを楯無は何とか防ぐが、

回転による遠心力もつけていたため、

ラスティーネイルは折れ、彼女も大きく後方に吹っ飛んでいた。

 

だが、かなりの威力が削がれてしまった、

本当なら今の一撃で勝負を決めるつもりでいたのだが・・・。

 

(流石は更識楯無、見事な判断力だ。)

 

やはり相手にとって不足はなかったな。

 

「なんでよ・・・、なんでなの!?

どうしてこれ程の力が有りながら、人殺しにしか使わないの!?」

 

腕を押さえながら立ち上がった楯無が、

俺に向かって叫んでくる。

 

俺の力が羨ましいのか、

それともそれを奴が掲げる正義の為に使わない事に疑念を抱いているのか・・・。

 

恐らくは後者だろうが、

俺にとっては関係ない事だ。

 

「それが俺の役目だからだ、

理事長に依頼され、俺が承諾し、人殺しの役目を担っているだけの事だ、

快楽が出てきたのは予想外だったがな・・・。」

 

ルカスのデータが俺に仕込まれた時からもう諦めていたさ、

殺戮、破壊がこの上無い刺激になること位な・・・。

 

だが、それでも・・・、俺は俺だ。

織斑一夏という一人の人間だ!

 

「だとしても・・・!!断ることも出来たでしょ!?なんで貴方が・・・!?」

 

「なら、俺に拉致されて解剖されて殺されろとでも言うのか!?

お前は俺達に死ねと言っているのか!?」

 

「・・・!」

 

「テメェ勝手な事をぬかしやがって!

テメェが簪のストーカーなんぞやってるから、

俺という闇が生まれたと何度言えば気が済む!?」

 

人殺しはいけない事、悪い事と言うのは簡単だ。

だが、それは理想論でしかない!

 

向こうは俺達を殺しに来る!

そして俺達の大切な物を壊しに来ている!

 

俺は何も喪いたくない!

ならば俺は、俺の大切な物を護る為に戦う!

 

それに何の間違いがある!?

 

「テメェが俺を気に入らないのは勝手だがな!

テメェもいい加減!現実を受け入れやがれ!!」

 

蒼流旋を叩き折り、俺は楯無目掛け一気に接近、

ケリを着ける為にだ。

 

バリー・ホー、

アンタの技、借りるぜ!

 

「はぁぁ・・・、拳神!!」

 

この技は、相手の内部に直接衝撃を与える打撃であり、

如何に絶対防御に覆われたISですら、防ぐ事は出来ん。

 

だが、どうやら向こうも俺と決着を着けたいのか、

あの技を使おうとしていた。

 

「熱き熱情<クリア・パッション>!!」

 

熱き熱情<クリア・パッション>、

周囲に水蒸気爆発を起こす荒業であるが、

その威力は絶大。

 

通常のISならばその空間から逃れない限り、

蹂躙されるのがオチだ。

 

だが、俺のストライクノワールはそんなに柔じゃねぇんだよ。

 

「装甲リミッター解除、VPS装甲強度最大値!」

 

リミッターを一部解除し、装甲をVPS装甲へと戻す。

 

PS装甲系列の装甲は実体兵装を無効にするだけでなく、

耐熱性にも優れており、水蒸気爆発だろうが大気圏突入時の摩擦熱だろうが、

耐えきる事が出来る。

 

つまり、ヤツの奥の手は完全に封殺されたという訳だ。

 

俺が奴の射程圏に入った瞬間、周囲を盛大な爆発が襲う。

 

だが、俺はそれを物ともせずに突き抜け、

楯無の眼前に迫る。

 

「そんな・・・!?」

 

「そんなこけおどしが効くかよ!!」

 

楯無、アンタの思う正義が何だか知らねぇが、

俺は後には退けねぇんだ!!

 

「ハァァァァッ!!!」

 

楯無が防御する暇もなく、

俺の拳は彼女の鳩尾に突き刺さった。

 

内臓が傷付かない程度には手加減したが、

それでも気絶させるには十分過ぎる威力だ。

 

シールドエネルギーはあまり減少しなかったらしいが、

彼女自身が気絶してしまえばそれまでだ。

 

程無くして、ミステリアス・レディが量子格納され、

楯無は地面に倒れ込んだ。

 

「楯無、俺は俺の正義を押し通す、

だが、それが終わった後は、お前がお前の正義を押し通せ。」

 

彼女に背を向け、俺はピットへと戻る。

 

彼女を運ぶのは俺の役目じゃねぇ、アイツがいるしな。

 

『試合終了!!勝者!織斑一夏生徒会長!!』

 

俺の勝利を告げるアナウンスが聴こえてくるが、

別にどうだって構わない。

終わった事だしな。

 

「お帰りなさいませ、一夏様。」

 

「スポーツドリンクあるけど飲む?」

 

ピットに戻った俺を、

セシリアとシャルは満面の笑みで迎えてくれた。

 

「何時もすまないな、貰おう。」

 

シャルが差し出してくれたドリンクボトルを受け取り、

溢れる事も構わずにがぶ飲みする。

 

無性にそうしたい気分だったからな・・・。

 

「ふぅ・・・、流石に少し疲れたか・・・。」

 

身体自体は大して疲れていないが、

気持ち的な面でかなり疲労が溜まったようだ。

 

「人殺しはいけないって、まだ楯無は言ってたの?」

 

「あぁ、アイツなら分かってると思っていたが、

俺の思い違いだったみたいだ・・・。」

 

先の戦いの中で俺が言いたかったのは、

自分が正しいと思わねぇとやってられないってことだ。

 

間違いだと思い続けてしまえば、

それだけで心が押し潰されそうになるような感覚になってしまう・・・。

 

まぁ・・・、それが俺の心の弱さだな・・・。

 

「まぁ良い、アイツはアイツの役割がある、

それまでは俺達が出張れば良いだけだ。」

 

「喩え私達が裁かれる日が来ようとも・・・。」

 

「後は皆が引き継いでくれるしね。」

 

よく解ってるじゃねぇか、

それでこそのセシリアとシャルだな。

 

「帰るぞ、夜は長ぇしな?」

 

「「はい♪」」

 

二人を引き連れ、俺は自室へと戻るべく歩みを進める。

 

俺が目指すのは、破滅だけさ・・・。

 

sideout

 

side楯無

 

「うっ・・・?ここは・・・?」

 

身体中に走る鈍痛に叩き起こされ、私の意識は覚醒する。

 

どうやら保健室に担ぎ込まれたみたいね・・・、

最後に一発大きいの貰っちゃった後の記憶が無いしね・・・。

 

「あはは・・・、やっぱり歯牙にもかけて貰えなかった、か・・・。」

 

圧倒的、それも今まで戦った事がない程の強大な力の前に、

私は為す術なくあっさりと敗れた。

いっそ清々しいまでの敗北だった・・・。

 

結局・・・、私は彼に自分勝手な正義観を押し付けていただけなのかもしれない・・・。

私が自分の使命を放り出したせいで、一夏君達が人斬りをしなくちゃいけなくなったのも・・・。

 

私が間違えたの・・・?

私がいけなかったの・・・?

 

「おっ、起きたな?」

 

「雅人・・・?」

 

マイナス思考に陥りそうになる私の前に、

何時もと同じ笑顔を浮かべた雅人が現れた。

 

「心配したぜ?呼び掛けても中々呻きもしなかったからな?」

 

そんな所で生きてるかどうか判断してたの・・・?

間違ってはないと思うけど・・・、ねぇ?

 

「ありがと、ずっと着いててくれたの・・・?」

 

「まぁ・・・、心配だったしな・・・。」

 

照れてるのかしら?可愛い所もあるじゃない。

 

っと、何時までも寝てもいられないわね・・・。

そう思い、起き上がろうとしたら雅人に止められた。

 

「まだ寝てろ、一夏の最後の一撃は、下手すりゃ内臓が傷付いてたかも知れねぇんだ。」

 

「あはは・・・、やっぱりあれってそんなに凄かったんだ・・・。」

 

一瞬嘔吐する気分に襲われたしね・・・。

 

でも・・・、負けた事には変わりないのよね・・・。

 

「ねぇ雅人・・・、私、間違えちゃったのかな・・・?」

 

「・・・。」

 

「私が間違えたから・・・、一夏君も、簪ちゃんも、

皆の感情を狂わせちゃうのかな・・・?」

 

私なんか、いなくても良かった・・・?

 

いや・・・、イヤ・・・!嫌・・・!!

 

「楯無。」

 

「まさ・・・、と・・・?」

 

恐怖に囚われそうになる私を、

彼は抱きすくめ、背中を軽く擦ってくれる。

 

「お前は間違ってない、間違ってないさ。」

 

「あ・・・、あぁ・・・。」

 

「苦しいなら、俺に吐き出せば良い、

安心しろ、喩え一夏が何と言おうと、俺はお前の味方だ。」

 

彼の言葉に、私の胸につっかえていた何かがストンと落ちる様な気がした・・・。

それに何だか目頭が熱いよ・・・。

 

「泣いて良い、お前は泣けるんだから・・・。」

 

彼の優しい声に、堰を切った様に涙が溢れて来た・・・。

 

それから、私は彼の胸を借りて盛大に泣いた・・・。

何時振りだろう、こんなに泣いたのは・・・。

 

彼は私が泣いている間も、ずっと背中を擦っていてくれた・・・。

雅人・・・、ありがとう・・・。

 

sideout

 




はいどーもです!

楯無と雅人にフラグが立ったような立ってない様な感じに成りました。

それは置いといて次回予告
遂に始まろうとするリーグ戦、
しかしそこに忍び寄る魔の手があった。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
光の目醒め 前編

お楽しみに!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。