インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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最狂対最強 前編

noside

 

リーグ戦まで後三日と迫ったとある日、

一夏達生徒会役員は何時もの如く書類作業を行っていた。

 

一夏にしては珍しく、何やら実行したい事が有るために、

教員達への根回しを行っていた様だ。

 

「ふむ・・・、大体こんなもんか?」

 

一夏はチェックリストに目を通し、

根回しが終わっていない教員がいない事を確認し、満足気に頷く。

 

「セシリア、シャル、そっちの書類はもう片付いたか?」

 

「私の担当は終わりましたわ。」

 

「僕のも終わったよ、これで最後。」

 

執務机にて書類作成及び、整理を担当していたセシリアとシャルロットは、

一夏の問い掛けに直ぐ様応答し、終えた事を報告する。

 

(なんかここ最近、ずっと事務作業しかしてない気がするな・・・、

気のせい・・・、な訳ないか・・・。)

 

肩凝りが酷いのか、一夏は気だるそうに首を回していた。

いくら常人より遥かに強靭な肉体を持っていても、

彼とて所詮は人間、疲労の蓄積による気だるさからは逃れられない。

 

「なら部屋に戻るぞ、いい加減眠りたい。」

 

本当に疲れているのか、一夏は大きな欠伸をしていた。

 

「そうですわね、私も眠たくて仕方ありませんわ・・・。」

 

「今日も三人で一緒に寝ようね~・・・。」

 

セシリアも眠たそうに答え、

シャルロットは一夏に甘えていた。

 

「当然だ、お前達がいてくれねぇと眠りづらいしな。」

 

二人に微笑みかけながらも席を立ち、

書類を全て片付けていく。

 

「よし、行くとするか。」

 

「「はい♪」」

 

一夏は彼女達を促し、

何時もの様に連れだって生徒会室を後にした。

 

「あー・・・、マジで眠い・・・、

今日はなんか要らん事で体力使った気がする・・・。」

 

そんな事をボヤきながらも廊下を進んでいると、

曲がり角から更識楯無が姿を現した。

 

その表情は穏やかな物ではなく、

何かを問い詰める気満々である様にも見えた。

 

「よぉ更識楯無、こんな夜分に何の御用かな?」

 

「貴方達三人に確認したい事があるのよ。」

 

一夏は漸くやって来たかという様な表情をし、

楯無はそんな彼に不快感を抱いたのか、更に表情を険しくした。

 

「そうかい、俺が答えられる範囲なら答えてやるぜ?」

 

もう何を聞かれるのか分かっているのか、

彼は深い笑みを浮かべていた。

 

「なんでこの仕事を自分からやってるの?」

 

この仕事、つまりは影の殺しである。

 

表立って言わないのは、彼も分かりきっていると感じたからであろう。

 

「そんな事か・・・、小さすぎて答えるのも面倒だが、

良かろう、答えてやる、自分の身を護る為ってのもあるが、

一番デケェのは、理にかなった殺しができる事だな。」

 

一夏は愉悦に顔を歪ませ、掲げた拳を握り締める。

 

「向こうは非合法で俺達を拐いに来ている、

ならば此方も非合法手段でその脅威を排除する、ただそれだけだ。」

 

一夏は然も当然といった風に答える。

彼にとって、悪とは自分を拉致しようたしてくる側の人間であり、

その者達を切り殺す事に躊躇いを一切感じないのだ。

 

「そんなこと!!そんな事赦される筈ないでしょう!?

どんな理由があっても!人殺しが正当化される訳がないでしょう!?」

 

「ふざけないでよ!!」

 

「ッ!?」

 

正論を振りかざす楯無の言い種に

今まで黙っていたシャルロットが声を張り上げた。

 

あまりの声の大きさに、楯無は驚き、口をつぐんだ。

 

「貴女が簪のストーカーなんかやってるから、

僕達が貴女の代わりをしたまでです!自分の事を棚に上げて、一夏を責める権利は貴女には無い!!」

 

シャルロットの辛辣な言葉に、楯無は何も言い返す事が出来ない。

 

いや、言い返す事が出来たとしても、

シャルロットが発した言葉の全てが真実であるが故に、

反論するだけ無駄と言うことが理解出来ているのであろう。

 

「シャルさん、この方に何を言っても骨折り損ですわ、

自分の信条を他人に押し付ける事しか御存知無いのですから。」

 

「なっ・・・!?」

 

セシリアはシャルロットの肩に手を添えつつも、

楯無を冷ややかな目で見ていた。

 

「セシリア、シャル、そこまでにしといてやれ、

痛い所を突かれて顔が真っ赤になってるしな。」

 

「申し訳ありません、つい熱くなってしまいましたわ。」

 

「ホントだ、林檎みたいになっちゃってるね。」

 

一夏が二人を止めるような素振りを見せるが、

それは間違いなく挑発以外の何物でもなかった。

 

「あんたは分かって無い様だが、闇が一つ消えれば、

その闇の代わりとなる闇が一つ生まれるんだよ、

つまり、あんた一人の自分勝手が、俺達人斬りを生んだ!

それから目を背けてんじゃねぇぞ!」

 

楯無を指しながらも、

一夏は彼女を睨み付ける。

 

「でも・・・!だからって・・・!」

 

「いくら止めても、俺達の考えは変わらん、

あんたもいい加減、他人の事を知ろうとしてみな。」

 

まだ何かを言おうとする楯無を尻目に、

一夏はもう話す事はないと言わんばかりに背を向ける。

 

楯無も言うべき事が見つからないのか、

彼らをひき止める事が出来ない。

 

だが、突然一夏が脚を止め、首だけで振り向いた。

 

「俺達の行動に納得がいかないなら、

テメェ自身が生徒会長に返り咲けば良い。」

 

つまり、自分に挑み、倒してみろという事だ。

 

「ま、そんな気分がテメェにあるならの話だがな。」

 

一夏はそう言い、今度こそ歩き去っていった。

 

sideout

 

side楯無

 

彼らが歩き去っていくのを、

私は呼び止める事も出来ずに見送る事しか出来なかった・・・。

 

私だって闇に立ち入った人間、必要に応じて人を殺めなければいけない事は理解している。

 

だけど、彼は、彼らはその領域の更に向こう側、

人を斬り殺す事に快楽を見出だしている様な気がしてならない。

 

その先に待つのは、破滅の闇・・・。

 

だから、彼等を止めようとしたけど、

もう言葉での説得では止められない事を知った。

 

「それでも・・・、私は彼を止める!」

 

人を殺め続ける事に幸せなんてない!

 

「たとえ彼と争う事になっても・・・、絶対に止めてみせる!」

 

sideout

 

side一夏

 

「貴方に決闘を申し込むわ!!」

 

朝、食堂にて朝食を採っていると、

いきなり楯無に決闘を申し込まれた。

 

俺とセシリア、それにシャルは理由を知っていたのだが、

何も知らなかった秋良達は飲み物を噴いたり、いきなり飲み込んだりして噎せていた。

 

まさか昨日の今日で手袋を叩き付けられるとは思わなかったが、

ちょうどいい、ここらで誰が本当の最強か決めておく必要があるしな。

 

で、俺がそれを慎んで受け取ったため、

その日の内に決闘と相成った訳だ。

 

放課後、俺は第1アリーナのピット内で、

ある考え事をしていた。

 

「どうやって戦おうかね・・・、割と真面目にやらなければ失礼だしな。」

 

それが決闘の流儀だと俺は思っている。

 

それはどうでも良いとして・・・。

 

俺ほどではないにせよ、奴は近接戦闘力も高い、

腕も2、3年最強だろう。

 

専用機持ちの中では中位に位置するものの、

下には経験の浅い箒や、個々の実力が然程高くない連中がいる。

 

無論、トップはこの俺だ。

 

「一夏様、御武運を。」

 

「勝ってきてね。」

 

「当然だ、決闘は何時も本気なんでね。」

 

二人に見送られ、俺はカタパルトに機体を固定する。

 

あの残姉さんに闘いとはなんたるか、生き方とはなんたるかを教えてやるためにも、

そろそろ行くとするかね。

 

『進路クリアー、発進どうぞ!』

 

「織斑一夏、ストライクE+I.W.S.P.、出るぞ。」

 

sideout

 

side雅人

 

「楯無!やめとけ!アイツは手加減なんてしねぇぞ!?」

 

「雅人。」

 

一夏との試合の直前、

俺は楯無が控えているピットに駆け込み、

彼女を止めようとした。

 

一夏は間違いなくこの学園の誰よりも強い、

山田先生だろうがファイルス先生だろうが、ブリュンヒルデだろうが、

アイツには到底敵う筈がない。

 

「分かってるのか!?今のお前じゃ勝ち目は無い!!

下手すりゃ再起不能にまで追い込まれるぞ!」

 

言ってしまえば、楯無が一夏に勝てる筈がない、

技量もそうだが、何より機体の相性が悪すぎる。

 

「分かってるわ、それでも私は戦わなくちやいけないの、

だから、今回だけは止めないで。」

 

「っ・・・、分かった、だが、危うくなったら止めに入らせてもらうぞ?」

 

それぐらいしねぇと、

アイツは戦いを止めそうにも無いしな。

 

「心配性なのね、ありがと。」

 

そう言って、楯無は機体を展開してカタパルトへと向かって行った。

 

(一夏、絶対に無茶な事はすんじゃねぇぞ・・・。)

 

sideout

 

noside

 

『さぁさぁ!やって参りました!

IS学園史上最高の決戦が始まろうとしています!』

 

一夏達がピット内でそれぞれ話し込んでいた頃、

会場となっている第1アリーナは大盛り上がりとなっていた。

 

『IS学園現生徒会長織斑一夏と、

元生徒会長更識楯無の最高峰の決戦が今!幕を開けようとしています!!』

 

実況担当の黛 薫子の煽りにより、

会場に集った観客は更にヒートアップしていく。

 

「うひゃ~・・・、凄い熱気だね。」

 

「そうだな、1年の、いや、実質敵無しの兄貴に、

元最強が挑むのだ、興奮しない筈がない。」

 

観客席の一角にて、

今回の決闘にあまり関係の無い秋良達が何時もの調子で試合開始を待っていた。

 

「でも・・・、なんでお姉ちゃんは一夏に決闘を申し込んだんだろ・・・?」

 

「うんうん、あの二人、接点ない・・・、よね?」

 

何故この決闘に至ったのか理解出来なかった簪が首を傾げ、

二人に明確な接点が無いことを疑問に思った鈴がオドオドしながら発言していた。

 

「まぁ何かあったんじゃないかな?

兄さんも兄さんで色々やってそうだし。」

 

秋良は呑気にもそう返すが、

三人の疑問は晴れる事はなかった。

 

程無くして、アリーナにトリコロールの機体と水色の機体が全く同時に飛び出してきた。

 

sideout

 

side一夏

 

「まさか昨日の今日で申し込んで来るとは思ってなかったが、

一体どういう風の吹き回しだ?」

 

俺と全く同時に飛び出してきた楯無のミステリアス・レディに通信を入れ、

軽く挑発するつもりで声をかけてみた。

 

「間違ってる人を止める事に理由なんて要らないわ、

私は貴方を倒す、ただそれだけよ。」

 

「なら、俺にしてみればお前こそ間違いだと言えるがな?」

 

「どういう意味?」

 

俺の言葉の真意が理解出来なかったのか、

楯無は眉間に皺を寄せ、俺を睨み付けてくる。

 

「正義や悪は見ようによってはコロコロとその性質を変える、

お前から見た正義は、そっくりそのまま俺の正義とは言えない。」

 

「・・・。」

 

何も言わない、か・・・、

ならばまだ続けさせて頂くとするか。

 

「お前の正義観はどうか知らんが、

俺に仇なす者は容赦なく斬り棄てる、それが俺のたった一つの正義だ。」

 

それが俺が今掲げるたった一つの正義、悪即斬だ。

 

だが、楯無には到底受け入れられる物ではなかったらしい。

 

「そんなの間違ってる!!その仇をなす者が、自分の家族、若しくは親しい者でも斬り棄てるの!?」

 

「裏切りは赦さん!!喩え秋良だろうが雅人だろうが、駄姉だろうが、

そして、セシリアだろうがシャルだろうが、俺に仇なす者は全て俺が斬り殺す!」

 

「・・・ッ!?」

 

俺の殺気にあてられたのか、楯無は言葉を詰まらせた。

 

まぁ良い、無駄話もこれ迄だ。

ここから真の戦いが幕を開ける。

 

「だが、あえて言わせてもらう、お前が自分自身を正義だと言うならば、

この血肉を貪る暴龍を従わせてみせろ!」

 

『両者規定の位置へ!試合開始まで、5・・・、4・・・、3・・・、2・・・、1・・・、試合開始!!』

 

雌雄を決する戦いの火蓋が、今ここに切って落とされた。

 

sideout

 




はいどーもです!

久々に前後編に分かれてしまいました・・・。

それでは次回予告
一夏と激戦を繰り広げる楯無、
だが、次第に劣勢に追い込まれていく。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
最狂対最強 後編

お楽しみに!!

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