インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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文化祭終焉

side一夏

 

オータムの亡骸を処理した後、

俺は事後報告の為に理事長室に脚を運んでいた。

 

「そうでしたか・・・、遂に亡國企業が・・・。」

 

「ええ、雅人からの報告によりますと、

アメリカ軍のIS、アラクネが出現、撃退して捕縛しようとしたらしいのですが、

自爆してコアも失われたそうです。」

 

「パイロットはどうしましたか?」

 

「私が処分しました、その際、イギリスのサイレント・ゼフィルスが乱入してきましたが、

パイロットの技量は大した事もなく、後少しで撃墜することが出来ましたが、

無人機が乱入、対処の間にサイレント・ゼフィルスに逃げられてしまいました。」

 

大まかな事は伝えて、一部嘘を交えておく。

これでコアの破壊の非をオータムに擦り付ける事が出来る。

 

「そうですか・・・、パイロットの命はどうでもいいのですが、

個人的にはコアの方も確保して欲しかったのですがね・・・。」

 

「申し訳ありません、しかし、余計な火種を取り込むのは無謀ではありませんか?」

 

まあ、この好好爺には考えと言うか、

策略がありそうだから気にしてないんだがな。

 

「構いません、寧ろ交渉のカードとして利用できますからね。」

 

「なるほど、ですが、無人機、もしくは無登録のコアは破壊します、よろしいですね?」

 

「それについてはよろしくお願いします、貴方の手腕は高く評価していますからね。」

 

「恐縮です。」

 

本当に評価してくれてンのかは疑問だが、

波風立てん為にも頭下げとくのが最善だろう。

 

「それでは閉会式がありますので失礼します。」

 

「あぁ、そう言えばそんな時間でしたね、私も参りましょうかね。」

 

そう言えば挨拶と言うか、〆の言葉みたいなのを言うんだよな。

ああ面倒なこった。

 

理事長も席から立ち上がり、

俺も彼に随伴し、理事長室を後にする。

 

さてと最後の仕上げと洒落こむかね。

 

sideout

 

side雅人

 

閉会式が終わった後、

俺は一夏の所に急いだ。

 

理由は単純だ、オータムがあの後どうなったのかが気になる。

 

一夏なら逃がす事はないだろうが、

念の為に聞いておく必要はある。

 

「一夏!」

 

「なんだ?・・・って、雅人か、どうした?」

 

布仏先輩と何やら話していた一夏は、

もろ仕事人の様な顔で俺の方に振り向いた。

 

マジで恐ぇからやめてくれ。

 

「さっきの侵入者の話だが・・・。」

 

「ああ、亡國企業の事だな?

サイレント・ゼフィルスの乱入、及び、無人機のストライクダガーの介入で逃がしてしまった。」

 

「なんだと・・・!?」

 

って事は逃げられたのか・・・、

次に戦うことがあれば、俺が必ず捕まえてやる。

 

それにしても、ストライクダガーが無人機として介入してきたか・・・、

やはり俺達が紛れ込んだ為にイレギュラーが発生したのか・・・?

 

「イレギュラーかどうかは知らんが、

恐らく俺と秋良の機体データが盗まれているのは確かだろうな。」

 

「それでストライクダガーなのか・・・?」

 

確かにそれなら説明がつく、

盗んだ機体データを反映させるのに最も効率が良いのは、

機体データをそのまま使って原型機の模倣品を造る事だろう。

 

「確証はないがな、秋良にも伝えておけ、

サイレント・ゼフィルスのパイロットは侮れん、それにダガーもな。」

 

「分かった、先に失礼するぜ。」

 

一夏に背を向け、

俺は片付けを始めているであろうクラスに戻った。

 

sideout

 

noside

 

片付けもあらかた終わり、

中庭では後夜祭の準備が始められていた。

 

今回の文化祭で出たリサイクル出来ない加工品(金属の類いは抜いている)や、

可燃物をキャンプファイアの燃料とするらしい。

 

なんともエコである。

 

「秋良、一夏達はどうした?」

 

参加する者達の中には、

秋良や雅人、それに加えて、一夏より許可を貰った弾や数馬、蘭がいた。

 

そんな中、雅人が秋良に話し掛けていた。

 

「さあ?生徒会長だし、なんかやることがあるんじゃないかな?」

 

「なるほどな、探しても無駄か。」

 

仕事中の一夏を見付けるのは困難を極める為、

特に用事も無いため彼等は最初から探さないことにしたらしい。

 

それはある意味、実に賢明な判断ではある。

故に彼等は知らない、一夏の、否、一夏達の裏の顔を。

 

そんだこんだしている内に、

組み上げられた可燃物に火が付き、盛大に燃え上がった。

 

「おお!スゲェ迫力だな!」

 

「だね、兄さんも来れば良かったのにね。」

 

「全くだ。」

 

二人は笑いつつ、持っていたコーラのペットボトルを開け、

それぞれ口をつける。

 

「く~!良いねぇ!」

 

「全くだね、今晩は楽しもうか!」

 

秋良と雅人が盛り上がっている頃、

彼等の反対側の場所では・・・。

 

「ま、また会いましたね・・・。」

 

「そっ、そうね・・・。」

 

置かれていた丸太に腰掛け、

なんとなく気まずそうにしている弾と虚がいた。

 

どちらとも何も言えず、

ただ時間が流れていくだけだ・・・。

 

どちらも俯き、話すタイミングが掴めていない様子であった。

 

一夏が見れば間違いなくイライラするだろうが、

幸いにして彼はその場に居なかった。

 

「そっ、そのっ!!」

 

「はっ、はいっ!!」

 

虚が大声をあげたかと想えば弾が反応し、

弾が大声をあげたかと想えば虚が反応するのを繰り返し、

結局の所、なんの進展もなかった。

 

(うぉぉぉ・・・!ヤベェ!なんて喋ったら良いか分からねぇ!!)

 

(あぁぁぁ・・・!どうしよう!?なんて話し掛けよう!?)

 

二人とも、今まで経験したことの無い感覚に戸惑っているのか、

彼等は俯いたまま何も言えずにいた。

 

だが・・・。

 

「お兄!!なにしてんの!!」

 

「うごっ!?ら、蘭!」

 

「帰るよ!」

 

「ちょっ!待てって!!痛ッ!!耳を引っ張るな!!」

 

「あっ・・・。」

 

蘭に引っ張られていく弾を、

虚は残念そうな表情で見送っていた。

 

(どうしたら彼に近付けるかなぁ・・・。)

 

sideout

 

noside

 

「マドカァッ!!何故オータムを死なせたの!!?」

 

「・・・ッ!」

 

とあるホテルの一室にて、

グラマラスな金髪美女が千冬によく似た少女を殴っていた。

 

憎しみを籠め、何度も、何度も少女を殴る。

 

少女は口の中を切ったのか、口の端から血が滲んでいた。

 

金髪の女性の名はスコール・ミューゼル、

一夏に惨殺されたオータムの上司兼、恋人だった女性だ。

 

「何故ッ!何故なのッ!!答えなさい!!」

 

「スコール様、お取り込み中申し訳ありません。」

 

激昂する彼女が拳を振り上げたのと同時に、

男が一人、部屋の中に入ってきた。

 

「邪魔しないで頂戴!!コイツを切り刻んで・・・!!」

 

「篠ノ之 束と名乗る者からコンタクトがありました、如何なさいますか?」

 

「なんですって・・・?」

 

男が話した内容に、スコールはマドカを殴る手を止める。

 

「直ぐに繋いで頂戴、録音も忘れないでね。」

 

「かしこまりました。」

 

男が出ていき、

部屋に設けられていたモニターに、

一人不思議の国を体現している女性、篠ノ之 束の顔が映る。

 

『やぁやぁこんばんわ~!初めましてだね、亡國企業、スコール・ミューゼル。』

 

「ええ、こんばんわ篠ノ之 束、初対面なのによく分かったわね。」

 

『ふふふっ、この篠ノ之 束に分からない事はないのだ!』

 

「そうなの、何故私達に接触してきたのかしら?」

 

スコールと束は対面の挨拶をするが、

何故束が接触してきたのか分からず、スコールは訝しみつつ尋ねた。

 

『仕返ししたい相手が居てね、君達が彼と敵対しそうだったから接触してみたんだ~!』

 

「そうなの、それなら私にも理由があるわね、大切な人を貴女の敵に殺されたの。」

 

『ふふっ、なら私達の利害関係は一致したね?』

 

「そうね、良ければこちらと合流しないかしら?

一度ちゃんと会って話しましょう?」

 

『良いよ~!後でこのアドレスに座標を送ってね~!』

 

利害関係を確認し、会見を約束した後、束は通信を切った。

 

「フフフッ、待っていなさい織斑一夏・・・!

私がこの手で貴方を葬ってあげるわ・・・!」

 

仄暗い笑い声が部屋の中に木霊し、

これから起こる波乱を予感させた。

 

sideout

 

side一夏

 

「待って!殺さないで!!」

 

「死ね。」

 

命乞いをする女を切り殺し、俺はストライクEを解除する。

 

「学園生を殺したのは初めてだな、

ま、いずれこうなることは予想してたがな。」

 

たった今、俺が切り殺したのは一年二組の生徒だった、

巧妙に隠されてはいたが、彼女の戸籍は偽装されたものだった。

 

十年前からの経歴を調べあげたが、

当事既に潰れていた学校に通っていた事が判明し、

完璧に黒だと判明した。

 

全く、入ってる情報が少し古いからって、

流石にこりゃねぇわ。

 

ま、お陰で俺はスパイを抹消出来たから良いんだがな。

 

さてと、死んだスパイとは言え、

自分の女でもない女の服を剥ぐのは気が引ける。

 

「お任せください一夏様、女の身剥ぎは私が行いますわ。」

 

「すまんなセシリア、シャルはどうした?」

 

「シャルさんなら、理事長に掛け合って、

このメス豚の学籍を抹消してくださっていますわ。」

 

「アイツにも、そしてお前にも色々と苦労を掛けてるな・・・。」

 

いくら俺の女になると宣言し、

俺が受け入れたとしてもコイツらには苦労を掛けてる事には変わりない。

 

ま、埋め合わせは俺の命を賭けてでもやってやるさ、

それがセシリアとシャルを闇に引き込んだ俺の役目さ。

 

「一夏様、やはりあのオータムと名乗った女と同じ刺青がありましたわ、

下着に隠れた場所でしたわね。」

 

「やはりな。」

 

俺がやらなくて良かった、

端から見れば間違いなく強姦魔だ。

 

まあそれは置いといて・・・。

 

「黒い薔薇のマークが亡國企業の紋章か・・・。」

 

趣味としては悪くはないな、

だが、俺は真っ赤に咲き誇る薔薇の方が好きなんだよな。

 

「さてと、コイツを捨てに行くとするか。」

 

「はい♪」

 

sideout

 

noside

 

一夏達の仕事の様子を、

物陰からじっと見つめる影があった。

 

暗がりの為、その者の正確な容姿は判別出来ない。

 

だが、その者の纏う雰囲気には、あからさまな敵意が見てとれる。

 

事実、彼女は織斑一夏達を敵視している。

 

気に入らない、

これまで裏の仕事を請け負ってきたのは紛れもなく自分達だった。

 

後ろめたさはあったが、誇りを持っていた。

 

故に、男性IS操縦者が現れたからと言って、

別段気にする事はなかった。

 

だが、織斑一夏はそれだけでは止まらなかった。

自らが更識楯無に代わり、生徒会長を名乗りだし、

自分達の仕事であった影の仕事まで行い始めた。

 

まるで自分達がこれまでもそうして来たと言わんばかりの態度で。

 

許せなかった、自分達の矜持を踏みにじり、

挙げ句、王にでもなったかの様な振る舞いをする彼を。

 

だから、彼を失脚させようと動いているが、

あまりの手際の良さに何時も現場を押さえる事が出来なかった。

 

しかし、今回漸く尻尾を掴む事が出来た、

後はこの情報をリークすれば良い。

 

「何が男性IS操縦者だ・・・、図に乗るな・・・。」

 

その者は長い袖を引き摺らぬ様、

遅い歩調で消えて行った。

 

sideout

 




はいどーもです!

色々とダークになって来ました。

さて次回予告

キャノンボールファスト十日前、
一夏達の誕生日が近いと知った少女達は各々行動を起こす。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
穏やかな気持ちで

お楽しみに!!

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