インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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夏休みの一幕 邂逅編

side一夏

新学期を目前に控えた日曜、

俺はセシリアとシャルとで出掛けることにした。

 

外出なんて久し振りだ、

昨日の夜までずっと仕事漬けだったしな。

 

勿論、影の人斬りの仕事も毎晩の様にこなしている。

今月だけで三桁以上の人間を斬り殺した。

 

正確な数も、そして死に際の断末魔も鮮明に覚えている。

いや、覚えていなければならないと言うべきだな。

 

幾ら任務とは言え、生きる者の命を奪った事からは逃れられない。

だから、存在を消された奴等の事を永遠に覚えておく、

それが俺に斬り殺された者達への敬意と礼儀だと思っている。

 

ま、今はそんな話は良いか、

死んだ人間よりも、生きて隣にいる女を見つめなければ失礼というものだ。

 

「済まないなセシリア、シャル、折角の夏休みだったのに今の今まで何処にも連れていってやれなくてな。」

 

「お気になさらないでくださいな一夏様。」

 

「僕達は一夏と一緒にいられればそれで満足だから。」

 

仕事を手伝わせてばかりなのにな、

本当に可愛い女だよ、セシリアとシャルは。

 

「ま、今日は思いっきり楽しもうぜ、

そう言えば何処に行くか決めてなかったな。」

 

「そう言えばそうでしたわね。」

 

「うん、何処に行く?」

 

最悪だな、デートに出掛けるってのに、

何処に行くか決めてねぇなんて、紳士失格だな。

 

そう言えば、そろそろ夏も終わりだし、

秋物の服を見に行くのも悪くはないな。

 

よし、そうするか。

 

「取り敢えずレゾナンスに行ってみるか、

そこで秋物の服を見るのも悪くはないだろう?」

 

「あ、良いねそれ!」

 

「私も行ってみたいですわね。」

 

シャルは乗り気だし、セシリアもたまにはいい刺激になるだろうからちょうど良いな。

 

そう思っている内にモノレールは駅に着き、

俺達は席を立った。

 

sideout

 

noside

 

「これなんかどうだ?」

 

レゾナンス内部の一角にある服屋に三人の姿はあった。

 

一夏とセシリアが服の品定めを行い、

あーでもないこーでもないと言いつつも服を選んでいく。

 

因みに、彼等が店に入った時、

店内にいた全ての人間が手を止め、彼等に見とれていた。

 

「少し派手ではありませんか?」

 

「いや、シャルにはこれぐらいがちょうど良い。」

 

セシリアが白を基調とする服を薦めるのに対し、

一夏はオレンジや赤を基調とし、尚且つ黒のワンポイントが入った服を薦める。

 

「確かに白も悪くない、だが、シャルには赤やオレンジの明るい色が似合う、

セシリアは逆に白や青、それから水色も似合うだろうな。」

 

「そうですが、今回は敢えて黒の下地に白のカーディガンという組み合わせもありますわ。」

 

「むっ、そのチョイスは頭に無かったぜ、流石だなセシリア。」

 

「お褒めに与り光栄ですわ。」

 

黒髪のワイルド系イケメンに優雅にお辞儀をする薄金髪の美少女は、

一枚の名画の様に美しい光景である。

 

「う~ん、僕はどっちも好きだなぁ、でも、今日はセシリアの選んでくれたのにしようかな?」

 

「それでは試着してみてくださいなシャルさん。」

 

「うん、ありがとセシリア♪」

 

そして、彼等のすぐ近くに控えていた濃金髪の美少女が、

薄金髪の美少女から服を受け取り、身体に当ててみる。

ただそれだけの行為だが、十分に絵になる。

 

「そう言えば一夏様の私服も、選ばせて頂けませんこと?」

 

「俺のか?」

 

「うん、一夏ってば、僕達を気にかけてくれるのは嬉しいんだけど、

ちょっとは自分の事に気を使って欲しいな。」

 

セシリアとシャルロットに言われ、

一夏はその端整な顔を少し歪める。

 

彼とて身嗜みにはそれなりに気は使っているが、

それが足りないと言われている様に感じたのだ。

 

「そうか?自分なりに選んでいるつもりなんだが・・・。」

 

「それが足りないからお嬢ちゃん達が言うのよ。」

 

「んっ!?」

 

自分の言葉に重ねられる様に言われた言葉に驚きつつ振り向くと、

そこには柔らかい金髪を持った美女が柔和な笑みを浮かべて立っていた。

 

セシリアとシャルロットは彼女が何者か分からずに一瞬警戒するが、

一夏はその美女に見覚えがあった。

 

「ナターシャ・ファイルス・・・?」

 

「ええ♪久し振りね織斑一夏♪」

 

「あぁ久し振りだ、ってなんで貴女が此処にいるんだ?」

 

ナターシャ・ファイルス。

臨海学校の際、暴走した銀の福音のテストパイロットである女性。

 

本来はアメリカ軍イレイズドに所属している筈の彼女が、

何故自分の目の前に立っているのかが理解出来なかった一夏は、

少々警戒しつつも尋ねた。

 

「そんなに殺気立たなくても良いじゃない、

私は挨拶に来ただけよ。」

 

「挨拶?なんのだ?」

 

「ふふっ、それはね、9月からIS学園で勤務することになったって事なの♪」

 

どう?驚いたでしょ?

とでも言いたそうに笑うナターシャを、

一夏達は幽霊でも見たような表情をして凝視する。

 

「?どうしたの?」

 

「いや、初めて聞いたから驚いているのもあるし、

そんなことは学園側からも一切知らされてないから余計にな。」

 

「?それは当たり前じゃないの?発表は9月の全校集会って言ってたわよ?」

 

「いや、そうじゃ無くて、そんな書類は来てないぞ」

 

「えっ?」

 

『えっ?』

 

一夏の言葉を聞き、

ナターシャの表情がどんどん青ざめていく。

 

その様子を見て、一夏達の表情がどんどんひきつっていく。

その表情からは、また面倒が来るのか・・・?

と言った困惑と諦念が見て取れる。

 

「まさか・・・、いえ、そんな筈はないわ!!」

 

かなり慌てながらも、ナターシャは自分の鞄の中を探る。

一夏は最悪の結末を予想し、今すぐにでもこの場から走り去りたいと思った。

 

だが、悲しい事に最悪の予想と言うものはほぼ確実に当たるのだと・・・。

 

「あっ・・・!?」

 

『あぁぁ・・・。』

 

ナターシャが探り当てたのは、IS学園へ送る筈の書類だった・・・。

それを見つけ出したナターシャは崩れ落ち、

一夏達はもう諦めたのか額に掌を当てていた。

 

「(またか・・・、これで何回目だ?)」

 

「(夏休みだけだと十回目だと思うよ・・・。)」

 

「(もう馴れてしまいましたわね・・・。)」

 

打ちひしがれるナターシャに背を向け、

三人は嫌だ嫌だと言った風に話す。

 

出来ることなら逃れたいが、

生徒会長であり、そう言った雑務をこなさなければならない立場上、

嫌とは言えない彼はため息をつきながらもセシリアとシャルロットに詫びる。

 

「(セシリア、シャル、済まないが・・・。)」

 

「(分かっておりますわ。)」

 

「(でも、埋め合わせはよろしくね?)」

 

「(恩に着る。)ナターシャ・ファイルス先生?」

 

「ううっ・・・、なに・・・?」

 

一夏の呼び掛けに、

ナターシャは涙目になりつつも彼に顔を向ける。

 

「取り敢えず学園に行きましょう、

俺がなんとか理事長に御願いしてみますから。」

 

「本当に・・・?」

 

「しょうがないでしょう、学園としても、

貴女に来てもらわなければ困るんですよ。」

 

ナターシャに手を差し出し、立ち上がる様に促す。

彼女は立ち上がり、ストッキングについた埃を払う。

 

「分かったわ・・・、ありがとうね、一夏・・・。」

 

「お気になさらず。」

 

sideout

 

side一夏

・・・と、言うわけで・・・。

 

何処かのドジッ娘さんのお陰で、俺達はショッピングから早々に切り上げ、

現在理事長室に出向いている。

 

理事長にはあんまり頼みたくはないが、

学園全体の為にもそうは言っていられない。

 

「そう言うわけで、期日は恐らく過ぎてるとは思いますが、

この書類を受理して頂きたいのですが?」

 

「そうですか、いやはや、ファイルス先生の天然っぷりは慣れているつもりでしたが、

まさか出し忘れていたとは・・・。」

 

あ・・・、やっぱりドジッ娘だったのね・・・。

 

美人なのにドジって・・・、

何処かの誰かさんの二番煎じを見ている様な気がしてならない・・・。

 

―クシュン!!―

 

 

ん?今何処かでくしゃみが聴こえた様な気がしたんだが?

いや、そんなうまいことはないか・・・。

 

「ところで、理事長とファイルス先生は以前からのお知り合いなのですか?」

 

「そうですよ、以前米軍代表との対談の際に、

彼女は私の案内役をしてくれていました。」

 

「・・・、そこで今日みたいなドジを連発した、と?」

 

「鋭いですね一夏君、まったくもってその通りです。」

 

なんかもー、さっきみたいなドジをされると、

毎度の事なんだろうなぁ・・・、と思ってしまうんだよな。

 

「何も無い所で転んだり、書類をぶちまけたり、

中学生が背伸びしてる感が否めない可愛らしい女性ですよ。」

 

「ただのドジッ娘って言うんじゃ無いんですか・・・?」

 

なんてこった・・・、

どうして年上勢に限ってダメな方向に変わっちまってんだよ・・・。

 

いや、もういいや・・・。

取り敢えず考えることを放棄したいぜ・・・。

 

「それでは織斑生徒会長、ファイルス先生を部屋に案内してあげてください。」

 

「了解しました、それでは失礼します。」

 

轡木理事長に一礼し、

理事長室から出ると、今だ半べそをかいているナターシャと、

そんな彼女の様子に苦笑しているセシリアとシャルが待っていた。

 

「ナターシャ・ファイルス先生、お部屋に御案内します、

こちらへどうぞ。」

 

「は、はい!」

 

うわずった声をあげつつも、

ファイルス先生は俺の後をついてくる。

 

「それで・・・、私は・・・。」

 

「理事長がちゃんと書類を受理してくださいました、

貴女は本日付でIS学園の英語科の教諭として勤務してください。」

 

不安そうに話し掛けてくるファイルス先生を宥めるつもりで、

俺は淡々と理事長に言われた事を伝える。

 

「よかったぁ・・・、今度こそダメかと思っちゃったわ・・・。」

 

「そりゃね、あんなドジを大量にやってたら当然だ。」

 

なんか敬語も疲れるから、

完全にタメ語になったが別に構わんだろう。

 

「うっ・・・!ま、まさか・・・、十蔵さんから聞いたの・・・?」

 

「あぁ、ドジする可愛らしい女性って言ってたよ。」

 

「ウゾヨドンドコドーン!!」

 

「ケンジャキ!?」

 

どこぞのライダーで聞いた事があるような台詞を吐きつつ、

ファイルス先生は床に膝をつき、orzの体勢になった。

 

あまりにも一瞬でやってのけたため、俺ですら捉えきれなかった。

 

「ううっ・・・、恥ずかしい・・・、

年上とかならまだしも・・・、6つも違う子に知られたなんて・・・。」

 

「そこまで落ち込まんでも・・・。」

 

と言うより21か22なんだな、年齢が。

思ったより若かったんだな、駄姉と同い年かと思ってたぜ。

 

「えぇい!もうこうなったら自棄よ!!煮るなり焼くなり犯すなりなんなりして!!」

 

「落ち着け!!今の状況で言われると冗談に聞こえん!!」

 

ほんと、ダメだこの残姉さん、早く何とかしないと・・・。

 

「あれ?なーちゃん?」

 

あぁ・・・、なんで今日に限って嫌な事が立て続けに起こるんだよ・・・。

 

もう諦念を通り越し、どうにでもなれと思いつつ振り向くと、

緑髪の超絶ドジ眼鏡っ子、山田真耶が立っていた。

 

「え?まーやん・・・?」

 

「やっぱりなーちゃんだ!」

 

ファイルス先生だと分かると、山田先生はこっちに小走りで寄ってくる。

 

だが・・・。

 

「へぶっ!」

 

思いっきり足を挫いて転けた。

うわぁ・・・、スゲェ痛そう・・・。

 

「まーやん大丈夫!?」

 

ファイルス先生も立ち上がり、山田先生に駆け寄ろうとするが・・・。

 

「ぼふっ!!」

 

ベチャッ!!

という擬音がマジで見えるような、

見事な転倒を見せてくれた。

 

正直言って、見たくも無かったが・・・。

 

「「・・・。」」

 

二人はほぼ同時にムクリと起き上がった。

転んだ際にぶつけたのか、鼻の先が赤かった。

 

「「あははぁ~♪」」

 

何があははぁ~♪だ!

この残姉さんどもめ!!

 

残姉さんはおかしいか、なら、

この残念な美女どもめ!!

 

くそっ!見ててイライラしてきたぜ!

 

「(一夏様・・・、私、頭が痛くなってきましたわ・・・。)」

 

「(僕はお腹が痛いよ・・・。)」

 

「(奇遇だな、俺は頭も胃も痛ぇよ・・・。)」

 

あぁぁ・・・、誰か頭痛薬と胃腸薬をくれ・・・。

ストレスで死にそうだ・・・。

 

「もう知らん・・・、山田先生、ファイルス先生の案内をお願いしてよろしいでしょうか?

積る話もあることでしょうし。」

 

「わかりました~、鍵をください。」

 

「お願いしますよ。」

 

鍵を渡し、仲良く歩いて行く二人の背中を見送り、

ドジッ娘二人が見えなくなった直後、俺達は盛大にため息を吐いた。

 

「・・・、部屋に帰って寝るか・・・。」

 

「賛成・・・。」

 

「左に同じですわ・・・。」

 

その前に保健室に寄って胃薬と頭痛薬を貰って帰るか・・・。

 

 

この時の俺はまだ気付く事が出来なかった・・・。

 

それから五時間の後、山田先生とファイルス先生が学園内で迷子になり、

捜索隊を集めなければならない事を・・・。

 

 

夏休み最後の休みは、何故か今までで一番疲れる日になってしまった・・・。

 

 

本当に勘弁してくれて・・・。

 

 

sideout

 




はい!どーもです!

第三、第四の残姉さんの登場でした。

またつっこんでくださる事を期待して待っています。

それでは次回予告
新学期が始まり、
一夏達の新たなる日常が始まる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
二学期始動

お楽しみに!

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