インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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夏休みの一幕 ストーカー編

side雅人

 

「あー!暇だ!!」

 

しょっぱなから叫んで申し訳ない、

初めましての方は初めまして、第三の転生者、加賀美雅人だ。

 

昨日の内にアクタイオンからIS学園の寮に移ったんだが、

今日はアリーナが点検中と言うことで機体を動かしての訓練が出来ない。

 

ならばと、一夏を訪ねて、

この世界の案内を頼もうとしたが、

どういう訳か部屋にいなかった。

 

そう言えば、奴は何か仕事を任されている様な雰囲気だったな、

なら仕方ねぇか。

 

と言うわけで、今は秋良に相手してもらおうと、

彼を探しているんだが、如何せん、この学園は広くて何処にいるかが全く判らん。

 

案内板を見ても、何処がどの場所かなんて全然判らん。

迷走を続けること十分、漸く秋良らしき人影を見付けた。

 

「おっ、いたいた、オーイ、秋良・・・?」

 

声をかけようとしたが、

彼の周りに三人の少女の姿があった。

 

あれは、IS三大ロリータの鈴、ラウラ、簪じゃないか。

なるほど、これから秋良と何処かに出掛けるんだろうな。

 

三人ともすげぇ楽しそうに笑ってるし、察する事なんて容易に出来る。

やれやれ、このまま話しかければ俺はお邪魔虫になりそうだ。

 

部屋に戻って教本でも読むとするか。

そう思い、踵を返そうとした俺の視界に、

水色の髪を持った変態が映り込んだ。

 

・・・、そう言えば・・・、

前に一夏が楯無は変態ストーカーになってるって言ってたな・・・。

 

このままだと秋良達をずっと尾行しかねんな。

しょうがねぇ、俺が止めといてやるか?

 

いや、その前に幾らなんでも距離が近すぎないか?

大体十メートルも無いぐらいの距離だ。

 

そんな近くにいたら簪は兎も角、

秋良とラウラに確実に勘づかれるって。

 

やっぱりアイツらに見付かる前に止めとくべきだな。

 

秋良はどうか知らんが、

一夏なら間違いなく半殺しにして行動不能にするな。

それもトリックオアトリート、サーチアンドデストロイ並に・・・。

 

そんな惨劇を見たくも無いし、アイツにさせたくもない。

なので、俺はあの残姉さんに話し掛ける事にした。

 

「オーイ、そこの変態ストーカーさん?」

 

後ろからこっそり近付き、

肩を叩きながら声を掛けた。

 

「~~っ!!!?」

 

その瞬間、彼女は無茶苦茶小さい悲鳴をあげながら飛び上がった。

ある意味凄い器用な事をするな。

 

「(お、嚇かさないでよ!!今簪ちゃんの可愛いところをじっくりたっぷり観てるんだから!!)」

 

これまた器用な事に、小声で叫ぶという芸当までやって見せていた。

 

「(ワリィワリィ、だが、今声を掛けとかねぇと、

あんたずっとストーキングを続けるだろ?

美人さんが犯罪を犯すのを見てられなくてね。)」

 

「(犯罪なんかじゃないわよ!!これは姉としての義務よ!!)」

 

犯罪行為を堂々と胸張って正当化してんじゃねえよ!

 

こりゃホントに重症だな・・・。

一夏の言った通りだったんだな。

 

そんな事を考えつつ、先程まで秋良達がいた場所を見ると、

そこには既に誰もいなかった。

 

「ちょっ!?なんてことしてくれたのよ!!

見失っちゃったじゃない!!」

 

「俺に言うな!!あんたが犯罪行為を堂々としてるからだろうが!!

取り敢えず落ち着け!!」

 

楯無を宥め、落ち着かせるがこの変態シスコンストーカーはこのまま止まる訳がないと言うことは肌で感じた。

 

どうするべきか?

秋良達に被害を出さない様に、そして尚且つこの残念シスコン変態ストーカーに満足して貰うには何か重要な一手が要るな。

 

ん?そう言えば・・・、この前秋良がこの残念シスコン変態猟奇ストーカーに遭遇したら使えと言っていた物が有ったな?

 

イヤホンみたいな物が着いていたが?

・・・って!?これ完璧に盗聴器じゃねぇか!!

 

・・・、なるほどな、

簪に被害を出さない程度に、この超絶シスコン変態猟奇残念ストーカーを満足させろと。

 

「なんか私の呼び方がどんどん酷くなってない!?

最初は変態シスコンストーカーだったのに最終的に超絶シスコン変態猟奇残念ストーカーになってるし!!」

 

「気のせいだって、それよりこれを耳に嵌めてみな。」

 

涙目になりながら喚く楯無の言葉を流しつつ、

彼女にイヤホンを渡す。

 

『楽しみだね~!夏休みに入ってからの上映だったからずっと楽しみにしてたの!』

 

『そうなんだ、そんなに楽しみなら今日は思いっきり楽しみなよ。』

 

案の定と言うべきか、簪や秋良の声が聴こえてきた。

なんとも楽しそうに会話をしてるな。

 

そう言えば、簪達は秋良に惚れてるんだったっけか?

なら、ここまで楽しそうなのにも納得だ。

 

好きな相手の前では素直になりたいという気持ちはよく分かる。

その逆もまた然りだがな。

 

「こっ、これは簪ちゃんの声!!

グフフフッ!!簪ちゃ~ん!!可愛すぎるわぁぁぁ!!」

 

「・・・。」

 

駄目だこの変態・・・。

声を聴いただけでこれとか・・・、無いわぁ・・・。

 

「待っててね簪ちゃん!!今から追い掛けるからねっ!!」

 

「あっ!?オイコラ!待てこの変態!!」

 

このまま行かせてたまるか!

そう思い、俺は走り出した楯無を追いかけた。

 

sideout

 

noside

 

「あ~ん・・・、なんで入れなかったのよぉ・・・。」

 

「しょうがねぇだろうが、子供に人気の映画なんだし、

いっぱいになるのが当たり前だ。」

 

レゾナンス内部のカフェテリアにて、

ひとりの変態と、ひとりの苦労人が同じテーブルに座していた。

 

IS学園元生徒会長更識楯無と、

世界三番目の男性IS操縦者、加賀美雅人である。

 

パッと見、見た目麗しい美女と、

ワイルド系のイケメンがデートの小休止を取るために向かい合っている様にも見えなくは無いが、

彼等を取り巻く雰囲気はそれを完全に否定していた。

 

「あーもう!なんで止めたのよ!!」

 

「アホかお前は!!一般人を締め上げてチケット奪い取ろうとしたら止めるだろうが!!」

 

そう、劇場がいっぱいになった事を知った楯無は、

あろうことか同じ映画を見ようとした大きいお友達からチケットを奪い取ろうとしたのだ。

 

まあ、それは雅人が必死に止めたために未遂に終わったのである。

 

「何よ!簪ちゃんの可愛いところを見る事の何がいけないのよ!?」

 

「犯罪行為を犯さない程度ならの話だ。」

 

食いかかってくる楯無を宥めながらも、

もう末期だなコイツ・・・、と思う雅人であった。

 

だが、そう思うと同時に、

何やら違和感という物が彼の中には有った。

 

「なあ。」

 

「何よ?」

 

「なんで簪に直接話し掛けないんだ?」

 

彼が腑に落ちない事、

それは何故楯無が簪をストーキングするだけで、直接話し掛けないことだ。

 

「・・・。」

 

彼の問いに、楯無は何も言うこと無く俯いてしまった。

 

「・・・、何かあったのか?」

 

暗く湿っぽい空気を察した雅人が、

何時もより声のトーンを下げつつも尋ねた。

 

彼とて転生者、概ねの理由は転生前から知っている。

だが、同じ転生者の先輩である一夏達の話では、

少々拗れていても可笑しくはない。

 

「・・・、聴いてくれるの・・・?」

 

「嫌なら話さなくて良い、

だが、簪とちゃんと会話をしたいなら話せ。」

 

半ば話せと強制している様な物だが、

彼等にとってそんなことはどうでも良かった。

 

そして、楯無は小声ながらも今日に至った経緯を話始めた。

 

sideout

 

side雅人

楯無の話を纏めると、

最後に話したのは簪が中学に上がる前。

 

能力の差を理由に簪は楯無を避け始めた。

楯無はと言えば、なんとか話をしようとしたが、良い方法が思い付かず、

簪の日々の同行を観察する事を実行しだした。

 

・・・、で、それが変に拗れてエスカレートして、

変態猟奇残念シスコンストーカーが完成したと・・・。

 

「・・・、お前、残念過ぎるだろ・・・。」

 

「酷っ!?こっちは必死なのよ!?」

 

うん、必死なのはこっちにも伝わって来たがな、

如何せん、ベクトルを間違え過ぎてる。

 

「ううっ・・・、どうしたら簪ちゃんと話せるのよ・・・。」

 

「答えは単純、ストーキングを止めろ。」

 

「簡単だ!!でも無理!!」

 

無理なのかよ!

ったく・・・、ストーキングだけならいざ知らず、

職務放棄してるのは流石に庇いきれんな。

 

だが、何故そこまで簪に拘る?

それが分から・・・。

 

そこまで考えて気が付いた。

 

(なんだよ・・・、変わらねぇじゃねぇか。)

 

姉妹仲を修復しようとするが、

空回りして進展しなかった、原作の楯無と、コイツはなんら変わりねぇじゃねぇか。

 

(そうじゃねぇか、俺は楯無のそんな所に惹かれたんじゃねぇか、

空回りしようとも、諦めず妹との仲を修復しようとした楯無と何も変わらないじゃねぇか!!)

 

いけねぇいけねぇ、要らねぇ事に気をとられて、

大切な物を見失う所だったぜ。

 

惚れた女が悩んでるなら、

助けてやるのが俺の務めだな。

 

「しょうがねぇ、俺がなんとか仲を取り持ってやるよ。」

 

「ほ、本当!?」

 

「あぁ、嘘は吐かねぇ、それが俺の信条だ。」

 

分かりやすい奴だな・・・、

本当に裏組織の当主か?

 

ま、十代の頃には隠しきれない感情と言うのもあるか。

 

「その代わり、絶対にストーキングをするなよ?

やったら二度と手は貸さないからな?」

 

「うっ・・・、それで簪ちゃんと話せるの・・・?」

 

「あぁ、お前さえ変われば、簪はきっとそれに応えてくれる。」

 

相手に変わって欲しいなら先ずは自分が変わらなければいけない、

俺は前世からずっとそう思っている。

 

だから、楯無にも変わって欲しい、

ここで立ち止まるのでは無く、新たな扉を開いて欲しい。

 

そう思いつつ、盗聴器のイヤホンを耳に嵌めると・・・。

 

『そうだ、ゲーセンに行かないかな?』

 

『あ!良いね!』

『賛成!』

『ゲーセンとはなんだ?』

 

映画を見終わった秋良達の会話が聴こえてきた。

 

なるほど、映画の次はゲーセンか、

青春満喫ルートだな、悪くないな。

 

だが、デートで行く所ではないと思うぞ秋良?

一夏に話したら激しく同意してくれそうだ。

 

と、まあそんなことはどうでもいいとして・・・。

 

「楯無、動くぞ。」

 

「えっ!?ちょっ!?待ってよ!?

ストーキングをするなって言ったじゃない!?」

 

「確かにな、だが、このまま帰るのもなんか癪だ、

今から俺に付き合え。」

 

「ええっ!?ちょっ!?待ってよ!?」

 

sideout

 

noside

レゾナンスより少し離れた場所にあるゲームセンターに、

雅人と楯無はやって来ていた。

 

なるべく秋良達に勘づかれない様に、

少々距離を開けていたため、ゲームセンターに入ったのは秋良達の少し後である。

 

だが、到着直後、楯無が用をたすと言い、何処かに行ってしまったため、

雅人は少々手持ち無沙汰になってしまった。

 

で、彼もトイレに行くことにした。

 

「はぁ~、なんか疲れた・・・。」

 

「お疲れの様だね、雅人?」

 

彼の隣に秋良が立った。

 

「うおっ!?ビックリさせるなよ?」

 

「あはは、ごめんごめん、そんなつもりはなかったんだけどね。」

 

ちょっと慌てる雅人だが、

すぐに落ち着き、秋良に向き直る。

 

「やっぱり気づいてたか?」

 

「そりゃね、雅人も楯無も気配が駄々漏れだったしね。」

 

「そうか、精進させてもらうよ。」

 

自分の隠密性の低さに自嘲しつつも、

雅人は軽妙に笑ってみせた。

 

「事中報告だ、簪と面と向かって話をさせる為にストーキングを辞めさせる、

だから・・・。」

 

「分かってる、そこはかと無く簪に働き掛けてみるよ、

悪いね、本当なら俺がやるべき事なのにさ。」

 

「気にするな、今はお前の女を楽しませる事を考えときな。」

 

悪いねと一言残し、秋良は去っていった。

一人残された雅人は何処か満足した様に自分も歩き出した。

 

「あっ!何処行ってたの!?」

 

雅人がトイレから出ると、

楯無が何故か食いかかってきた。

 

「化粧直しだ、察せよそれぐらい。」

 

「男なのに化粧直しって可笑しいわよ!

普通にトイレに行っていたって言いなさいよ!!」

 

「いちいちうるせぇな、気にするなよ。」

 

楯無に苦笑しつつ、

雅人は彼女を宥める。

 

「さてと、帰るぞ。」

 

「あっ!待って!」

 

踵を返し、立ち去ろうとした雅人を楯無が呼び止める。

 

その理由が分からず、雅人は首を傾げつつも振り返る。

 

「貴方の名前、教えてよ!」

 

楯無にそう言われ、彼はそう言えば教えてなかったかと苦笑する。

 

「雅人、加賀美雅人だ、覚えとけよ更識楯無。」

 

小悪党が去り際に叫ぶような言葉を残し、

雅人は今度こそ楯無に背を向け、歩き去った。

 

「雅人・・・、覚えておくわ。」

 

一人残された楯無は、

彼の背を見ながら呟く。

 

彼の後ろ姿は、彼女の脳裏にしっかりと刻まれたようだった。

 

 

sideout




次回予告

夏休み終了を目前に控えたある日、
一夏達はある場所に出掛ける。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
夏休みの一幕 邂逅編

お楽しみに!

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