インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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新型ストライカー 前編

side一夏

夏休みを目前に控えた金曜日、

俺は生徒会室にて何時もと同じ様に仕事をしている。

 

どんな風の吹き回しか、今日は秋良達が手伝いにやって来た。

何時もは俺とセシリア、そしてシャルだけが仕事をしてる様なもんだからな。

 

さてと、そんだこんだしている内に仕事も片付いちまったな。

 

「お疲れさん、今日の仕事はこれで終わりだ。」

 

全員に切り上げを命じ、

俺も印鑑や書類を全て片付けて行く。

 

今日こそは夜の仕事も無いことを願いたい。

最近は忙しすぎてマトモに睡眠が取れていないしな。

 

それに明日から実質的な夏休みだ、

夜型街道まっしぐらでも文句言われねぇのは有り難い。

 

「明日は土曜日だし、今夜はゆっくりしたいなぁ。」

 

「そうですわね、ここ最近、ろくに眠れませんものね。」

 

それに関しては全力で同意したい、

あのど阿呆なシスコンのせいで余計な仕事が舞い込んで来てるしな。

 

せめて今晩から明朝にかけてはゆっくり眠りたい。

 

だが、そう願っても無駄なのはわかってる、

何故かって?俺の携帯が着信音を鳴らしてるからな・・・。

 

「はいもしもし?」

『一夏か?久し振りだな!イライジャだ。』

「イライジャさん!お久しぶりです!」

 

俺の電話の相手はイライジャ・キール、

ガンダムSEEDアストレイシリーズに登場するキャラだったが、

この世界にはサーペントテールのメンバー共々、実働部隊として活動してくれている。

 

「いきなりですね、今日はどうしたんですか?」

 

『悪いな、明日から夏休みだろ?

だから、アクタイオンの方に戻って来いだと。』

 

「分かりました、俺達もそうしたかったんで、

後、何人か連れていきますが、大丈夫ですか?」

 

『あぁ、少し確認を取ってくる、待っててくれ。』

 

イライジャさんが受話器から離れたのか、

待機音が流れてくる。

 

「兄さん、明日からアクタイオンの方に行くのかい?」

 

「ああ、目立った仕事は無くなりそうだしな、

俺達だけと言うのも何だし、コイツらも連れて行こうと思ってる。」

 

「ふーん、じゃあ外泊届けを人数分貰ってくるね。」

 

秋良はそう言って生徒会室から出ていく、

後はアイツに任せておこう。

 

暫くして、待機音が止み、イライジャさんの声が再び聞こえてくる。

 

『一夏?社長から許可が出たぞ、信頼できるメンバーだけを連れて来いだとさ。』

 

「またざっくりしてますねぇ・・・、分かりました、一応迎えには来てくれますか?」

 

『当然だ、モノレール駅に朝の8時に迎えに行く、頼んだぞ。』

 

「分かりました、それでは失礼します。」

 

電話を切り、いつの間にか淹れられていた紅茶を啜る。

この淹れ方はセシリアだな、苦味を出さない上手い淹れ方だ。

 

「ありがとなセシリア、良い味だ。」

「お気に召した様で光栄ですわ♪」

 

セシリアが微笑みながらも俺に一礼してくる。

うむ、優雅でよろしい。

 

「取りあえず、お前ら全員外泊届を書いてこい、

明日の朝8時にモノレール駅に行くぞ。」

 

『はい?』

 

「アクタイオン社に出向く、お前達も着いてこい。」

 

秋良から渡された外泊届に記入しつつ、

全員に指示を出す。

 

騒がしくなりそうだ。

 

sideout

 

noside

翌朝、秋良達はIS学園から二駅離れたモノレール駅にて、

人待ちをしていた。

 

夏休み初日だからと言うべきか、

チラホラとモノレールから降り、タクシーに乗ったりしている生徒も確認出来る。

 

「・・・、眠い・・・。」

「・・・。」

「・・・、はふぅぁ・・・。」

 

だが、一夏とセシリア、そしてシャルロットは凄まじく眠そうにしていた。

 

何せ、昨晩も三人は影の仕事をこなしていた為、

やはりと言うべきか寝不足なのである。

 

「どうしたの三人共?」

「ちょっと羽目を外しすぎてな・・・。」

 

簪の質問に答える一夏だったが、

言葉を選び間違えたからか、簪が顔を真っ赤にしてしまう。

 

「そ、そそそ、それって・・・!?」

「ま、まさか、えええ!?」

「む!?セシリアとシャルロットの事をこれから姉御と呼ぶべきか!?」

 

簪につられたか、鈴とラウラまでもが顔を紅くし、テンパる。

 

「朝から元気だな。」

「まったくだね。」

 

面白そうだからと着いてきた箒と、その隣にいた秋良が三人を微笑ましく思いながら見ていた。

 

その様子はまるで自分の子供を見る親の様でもあった。

 

「秋良、箒、年寄りみてぇだからやめろよ。」

 

「微笑ましい光景を見て、微笑む事の何処がいけないんだ!!」

 

「お前がやると犯罪臭がするんだよ。」

「酷いや兄さん・・・。」

 

実の弟に此処までバッサリと毒を吐けるのは、

恐らく一夏以外にいないだろう。

 

まあそれは置いといて・・・。

 

暫く待っていると、彼等の前に二台のリムジンが停車した。

 

「待たせたな一夏、秋良。」

「イライジャさん、わざわざ御苦労様です。」

 

その内の一台から、銀髪の優男、イライジャ・キールが降りてきた。

 

「急かす様で悪いが取り敢えず乗ってくれ、話はそれからだ。」

 

「分かりました、セシリアとシャル、それから箒は俺と同じ車に乗れ。」

 

イライジャからの指示を承った一夏が、

それぞれが乗る車を指示する。

 

全員が乗車し、二台のリムジンは走り出した。

 

sideout

 

side一夏

 

俺達を乗せたリムジンは一時間程走り、

都心から少し離れた郊外にそびえるビルの前に停車する。

 

ここがアクタイオン・インダストリー社だ、

新興企業と言う仮の姿をしているが、

その正体は俺達転生者のバックアップをしている神の道楽だ。

 

俺達の転生時に受け取った装備以外の兵装は、

アクタイオンからの支給品だ。

 

で、今日呼び出されたのは、

俺達の機体がセカンドシフトを果たしたため、

データを取る必要があったからだ。

 

何故夏休みに呼ばないのかは知らんが、

恐らくは込み入った話があるのだろう。

 

「一夏、その足で社長室に行ってくれ。」

「分かりました。」

 

イライジャさんに秋良達の案内を任せた後、

俺は一人で、いや、いつも通りセシリアとシャルを連れて、

社長室に向かった。

 

「広いね・・・、迷子になっちゃいそうだよ・・・。」

 

「まあな、俺も最初に入った時は迷っちまった。」

 

お陰でかなり手間取った、一時間で済む筈の用事が丸一日掛かっちまったからな。

 

そんだこんだしている内に、俺達は目的地である社長室に辿り着いた。

 

「失礼するぞ。」

『どうぞ~♪』

 

俺がドアをノックすると、

中から入室を許可する返事が帰って来る。

 

扉を開け、中に入った時は俺の視界に飛び込んで来たのは、

広々とした間取りの割りには、目立った装飾品も無い割と質素な部屋だ。

 

「お帰りなさ~い!久し振りだねぇ!」

「ウゼェ、こっちは寝不足なんだ、あんまり騒ぐんじゃねぇよ。」

 

部屋に入るなり、ピンク色のロングヘアーをした女がこちらに近寄ってくる。

 

彼女の名はミーア・ベル・オーウェン。

このアクタイオン・インダストリー社の社長で、

俺と秋良をこの世界に転生させた女神の部下。

 

つまりは神の僕という事になるな。

それを言うなら、俺もそうなるのか・・・。

 

「あはは~、相変わらずの毒舌、いや、前以上だねぇ!」

「黙ってくれ、アンタのテンションには着いて行けねぇんだ。」

 

ったく、コイツは俺が殺そうとしたウサミミ天災と似すぎている。

 

まあ、コイツの社交性はある意味病的な程良いんだけどな。

 

「さっきから凄くけなされてる気がするんだけど?」

「気のせいだ、取り敢えずとっとと本題に入れ。」

 

社長に対してこの言い種は無いだろうが、

コイツはそんな小せぇ事を気にする様な珠じゃねぇ。

 

「じゃあ話すね、一夏が想像した通り、今日呼び出したのはストライクEのデータ取りと、

新型のストライカーの試験をして欲しいんだ。」

 

「了解した、何時もの場所か?」

 

「そーだよ♪新型のアナザートライアルに、アナザーシリーズ、

それからライブラリアンのストライカーの幾つかは完成してるよ。」

 

コイツは本当に先を見越して何かを用意してくれてるから、

俺は自由気ままに活動出来る。

 

有り難い事この上無い。

 

「済まない、何時も迷惑をかける。」

 

「良いよ~、私は楽しめればそれで良いからね♪」

 

「了解した、俺も楽しませていただこう、それではまた後で。」

 

一礼し、俺はセシリア達を促し、社長室を後にする。

 

「そう言えば、ストライカーってストライク系のIS専用なの?」

 

シャルが思い出した様に俺に聞いてくる。

 

そう言えば、ストライカーパックの事をあまり話したことは無かったな。

 

「そう言う訳でも無い、ストライカーパックを使用出来る機体にはある特徴があるんだ、

まあ、恐らくこれはお前達全員が疑問だろうし、全員を集めて教えるさ。」

 

今はこれで待ってもらおう、

何せ、話始めると長いんだわ。

 

 

そんな事を考えつつ、

俺達は地下へと続くエレベーターへと向かった。

 

sideout

 

noside

ISスーツに着替え、

地下訓練場に降り立った一夏達を出迎えたのは、

先に準備を整えていた秋良達と、エリカ・シモンズを中心とする技術スタッフ達であった。

 

「あ、報告終わったかい兄さん?」

 

「ああ、お前の方はもうストライカーの準備は終わったか?」

 

「まあね、I.W.S.P.とソードストライカーは取っ払ったし、

インストールしたのはマガノイクタチストライカーだけだったからね。」

 

一夏は秋良と事務的な会話をしつつも、

自身もストライカー非装備状態のストライクEを展開、

すぐさまセッティングを行える状態にする。

 

「一夏君、機体に何か不備は有りませんか?」

 

そんな彼の傍に近付く一人の女性エンジニアがいた、

 

彼女はユン・セファン。

元はSEED世界の国防企業、モルゲンレーテ社のメカニックエンジニア、

後にジャンク屋の一員として優れた手腕を発揮した女性である。

 

この世界ではエリカ・シモンズの部下としてアクタイオン・インダストリー社に勤務している。

 

「ユンさん、実は駆動系統の反応がかなり甘くて、

俺の反応に追い付いて無いんです。」

 

「分かりました、一夏君はストライカーのインストールを行ってください、

私が駆動系統のプログラムを改良してみますね。」

 

一夏はおねがいしますと言った後、

自分の好みに合うストライカーから順に選んでいく。

 

(やはり俺にはI.W.S.P.が一番だな、秋良のヤローは何故これの良さを理解出来ないのか謎だ、

まあ良い、アナザートライアルは二つとも積んで、アナザーストライカーも三つとも積めば・・・、後一つか・・・。

マガノイクタチストライカーにしておくか。)

 

一夏は秋良が残したI.W.S.P.を量子変換し、

ストライクEに格納する。

 

「へぇ・・・、アナザートライアルとアナザーシリーズを全て積んで、

ギリギリ余裕があるのか・・・。」

 

「一夏君、アップデート一回目終わりました、

機体の調子を確認してください。」

 

「了解しました。」

 

ストライクEのバッスロット要領に軽く驚きつつ、

ユンからの指示を受け、機体を動かす。

 

「う~ん、前より動きやすくはなりましたけど、

やはりと言うべきですかね、まだ固いですね。」

 

一夏は腕を回したり、

脚を思いっきり開いたりするが、満足していないかの様に顔をしかめる。

 

「分かりました、何か明確な要望は有りませんか?」

 

「人間と全く同じ運動が出来る様に機体をチューンアップしてください、

そうじゃないと、俺はいつか負ける。」

 

ユンの質問に、一夏はキッパリと答える。

 

「人間と全く同じ・・・ですか?」

 

「はい、装甲と装甲とをスライドさせれば、

ストライクEが本来持っている運動性を完璧に活かせる。」

 

「確かにそうですが・・・、

そうなると耐弾性が低下して、被弾時のシールドエネルギーの減少量が増えてしまいます。」

 

ユンの言う通り、装甲と装甲をスライドさせれば確かに機動力、運動性は飛躍的に向上するだろうが、被弾時に受けるエネルギーの量は増加してしまう。

 

「お願いします。」

 

「分かりました、全体的に改修を施すので、

起動状態で解除してください。」

 

ユンの言うことに頷いた後、

一夏はストライクEから降り、秋良達の所に歩いていく。

 

「ねえ一夏、ストライカーパックの事を教えてくれないの?」

 

シャルロットが一夏に近寄り、先程の話の続きを要求する。

 

「そうですわね、一夏様の話を聞くだけでは完全なストライク系の専用装備に聞こえてしまいますわ。」

 

セシリアも彼に尋ね、興味深そうにしている。

 

「ストライカーパックは別にストライク系の専用装備と言う訳では無いんだ、

謂わば、すぐさま換装出来る追加パッケージみたいなもんさ。」

 

一夏は何処に置いていたのか、

ホワイトボードを用意し、そこに水性ペンで何やら図を書いていく。

 

「ストライカーパックの利点はどんな状況にも即座に対応出来る、

その利点はお前達も承知の事だろう?」

 

「うん。」

「はい。」

 

一夏がISの絵を書き、

バックパックとしてエールの絵を書く。

 

「ストライカーパックは背中、いや、ISのボディの何処かにプラグさえあればそれで装備できる、

言い換えれば、プラグの規格さえ合致すればお前達の機体にもストライカーパックは装備できる。」

 

「へぇ~、つまり一夏がもし僕達にデータを渡せば僕達の機体もストライカーを使えるんだね?」

 

「まあそう言う事だ、一応換装とは言えないが、

装備して使用する事は出来るぞ、アクタイオン内部ならば裏切り者がいない限り、

情報が漏洩することも無いし、好きに使用して良いぞ。」

 

 

一夏はそう言いつつ端末を操り、あまりのストライカーが無いか調べ始める。

 

「セシリア、シャル、お前達二人には特にこれらの装備に触れてほしい、

セカンドシフトした際、もしかしたらストライカーシステムが発現するかも知れんしな。」

 

そこで一夏はウインドウを操る手を止め、

セシリアとシャルロットの方を向き、口許を歪めて笑う。

 

「俺達の殺しの幅が更に広がるのさ。」

 

彼の言葉を聞いた彼女達は、

我が意を得たりと言った風に微笑む。

 

その妖艶さは、まさに告死天使と呼ぶべき物だ。

 

そんな雰囲気の中・・・。

 

「兄さん、機体の調整は終わったかい?

終わったんなら俺と模擬戦をしようよ。」

 

秋良が少し離れた場所から一夏に呼び掛ける。

 

無論、先程の一夏達の会話は聞き取れていない。

 

「まあ待て、ストライクEの駆動系統を改修してんだ、

もう少し待ってろ。」

 

「つまんねぇの、簪、鈴、ラウラ、ちょっと相手してくれないかな?」

 

秋良は一夏と戦えない事を悟ると、

つまらなさそうに去っていく。

 

だから彼は気付く事が出来なかったであろう、

一夏達がこれから何をしようとするのかを・・・。

 

「さてと、ちょいとやることがあるな、手伝ってくれるか?」

 

「かしこまりましたわ。」

 

「勿論だよ。」

 

一夏は秋良を見送った後、

セシリアとシャルロットを伴い、己の作業を開始した。

 

sideout

 




はいどーもです!

またしてもバランスの問題で前編、後編に別れてしまいました・・・。

ああ・・・、調子悪いなぁ・・・。

次回予告

新たなるストライカーを受け取った一夏と秋良は、
これまで以上の戦いを繰り広げる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
新型ストライカー 後編

お楽しみに!!

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