インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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番外編 残姉さん日記

side一夏

初仕事から一週間がたったある日、

俺は第一生徒会室にて書類作業を行っていた。

 

あれから何人の敵を斬った事か、

夢の中にまで斬った瞬間が浮かんできたぜ。

 

眠れない事はない、寧ろ精神的にはいい感じだ。

その事実は、俺が完全な人斬りだと思い知らされている気分だ。

 

だが、それでも一向に構わない、

俺が俺で有るために、それは仕方がない事だ。

 

「申し訳ありません、一夏会長。」

「良いんですよ、これも仕事ですしね。」

 

なんて顔は笑顔で言うけど、実際、

あの能無にかなりの不満がたまっている。

 

「虚さん、なんであれが当主で会長なんですか?

簪の方が有能ですよ。」

 

現に、簪は俺と秋良を除けば、セシリアとシャルに匹敵する程の強さを誇っている。

仕事も放り出す事は無いし、尚且つ責任感も強い。

当主になるなら確実に簪の方が適任だ。

 

「私に聞かないでくださいよ・・・、ここに来るまではマトモだったんですが・・・。」

 

あー・・・、虚さんが匙を投げた・・・。

こりゃもう手の施しようが無いな・・・。

 

ま、考えても仕方ない、

取り敢えず俺は俺の仕事をやるとするか。

 

「さてと、終わりましたよ、確認お願いします。」

 

虚さんに書類一式を全て渡し、俺は席から立ち上がる。

 

やーっと仕事が終わったよ。

さてと、戻るとするかな?

 

そう思い、何の気無しに本棚を開いてみると、

何冊かの本が崩れてきた。

 

「おわっ!?なんだ!?」

 

崩れ落ちて来た本、いや、厚さ的にはノートだな。

その内の一冊を手に取り、表紙を見てみた。

 

『簪ちゃん観察日記』

 

 

「・・・。」

 

・・・、何故だ、俺は今、開けてはいけない箱を開けた気がする・・・。

 

いや、何も見なかった事にしようか・・・?

 

だが、一応何をしてるか見ておく必要がありそうだな・・・。

 

「どうしました?」

「・・・、いえ、なんでもありません、

用事が特に無いのでしたら失礼します。」

「はい、ご苦労様です。」

 

虚さんにバレない様にノートを身体で隠しつつ、

俺は生徒会室を出た。

 

「・・・、持ってきたはいいが、これどうしようか・・・?」

 

恐らく、これを読んでしまえば俺は絶望を見てしまう事は、

火を見るより明らかだ。

 

「おーい、兄さ~ん。」

「おう、秋良じゃねぇか。」

 

簪達を引き連れた秋良が廊下の角からひょっこりと顔を出した。

 

「・・・。」

簪が俺の手にあるノートの題名を見て、

冷や汗を滝の様に流していた。

 

「・・・、兄さん、これは一体・・・?」

「・・・、知らん・・・、生徒会室に有った・・・。」

 

見たくない、だが、確認はしておかなければならない。

 

なんなんだこの嫌な葛藤は・・・。

 

「と、取り敢えず、場所を移すぞ、

被害を受けるのは俺達だけで充分だ。」

 

全員を促し、俺は寮の自室に戻るべく歩き出す。

 

途中、セシリアとシャルが合流し、

俺達は俺の部屋に到着した。

 

「・・・、えー、取り敢えず、内容だけを見てみるか?」

 

俺は簪に確認を取るが、彼女は青ざめてガタガタと震えていた。

 

「簪、寒いのか?」

「ラウラ?空気を読もうね?」

 

ラウラの的外れな言葉を秋良がツッコむと言う見事なコンビが出来上がっていた。

 

まあそんなくだらない事はどうでも良いとして・・・。

 

「覚悟は良いな?頼むから絶対にキレるなよ?」

 

この部屋で暴れられたらたまったもんじゃない。

 

俺は溜め息をつきつつ、表紙を開いた。

 

sideout

 

sideノート

『4月3日、今日は簪ちゃんの入学式!!

あぁぁ!!嬉しいわ!!今日から毎日簪ちゃんをじっくりたっぷり堪能出来るわ!!

ああぁ!!凄く幸せぇぇぇぇ!!』

 

『4月4日、朝御飯を食べる簪ちゃん!!

はぁぁぁ!!可愛い!!可愛すぎるわ~!!

クラス代表にもなったみたいだし!!クラスリーグマッチは絶対に良い席を確保するわ!!』

 

『4月15日、簪ちゃんが織斑秋良君と接触!!

キィィィッ!?あんな至近距離で簪ちゃんと会話ですってぇ!?

羨ましい!!羨ましいわぁぁぁ!!』

sideout

 

side一夏

「・・・、案外まだマシだったな・・・。」

 

俺の安心した一言に、部屋にいる全員が一斉に頷いた。

 

「まあ、まだただの妹好きの姉で片付けられる内容だね。」

「簪さん、何かされた等、具体的な被害はお有りですか?」

 

シャルが首をかしげ、セシリアは冷静に具体的な被害状況を尋ねるが、

簪は思い当たる節が無いのか、首を横に振る。

 

ふむ、ただ遠くから見て満足してるだけなのか?

 

「まあ良い、次行くぞ次。」

 

sideout

 

sideノート

『5月5日、簪ちゃんも学園に馴れて来たころでしょうし!!

そろそろ本格的に仕掛けるわよ!!さてと!!今日は何をしようかしら!?』

 

sideout

 

side一夏

「待て待て待て待て待て待て待て待て待て。」

 

俺は慌ててノートを閉じた。

5月に入った途端に危険度が跳ね上がったぞ!?

おかしいだろ!?慣れてきた頃に仕掛けるのか!?

 

「いや!話し掛けるだけかも知れないよ!」

「そんな場面見たことねぇよ!!」

 

取り敢えず、次見てみよう!

 

sideout

 

sideノート

『5月5日、ぐフフ!!今日は簪ちゃんのベッドの下でこれをしたためているわ!

簪ちゃんの寝息が聞こえるだけで、お姉ちゃんもう幸せぇぇぇぇ!!(途中から涎の痕で字が読めない。)』

 

『5月25日、今日は簪ちゃんの入ったお風呂の残り湯を頂きに来ました~!!

十分ほど漬かって、一リットル位飲んだわ!!

中々のお味だったわ!!そう言えば、昨日は織斑君達が入ってたのかしら?

お風呂から織斑先生がとても嬉しそうな顔をして出てきたわね。

フフッ、同志がいることがこんなに嬉しいのね!!』

 

 

sideout

 

side一夏

机が凹む勢いで、俺はノートを力任せに閉じた。

 

怖ェェ・・・、やってる内容が完全に犯罪じゃねぇか!

てか駄姉よ!!アンタまで何やってんだ!!

 

訴えたら勝てるレベルだな!!

間違いなく!

 

「こ、こっから先、見る気がしないんだが・・・。」

「直視に耐えないよ・・・!!」

 

秋良が頭を抱え、簪は布団にくるまり、

ガタガタと震えていた。

 

なんか吐き気までしてきたんだが・・・!?

 

てか、逆にスゴいと思えてきた・・・!!

訓練の中で培った技術をストーキングに惜しみもなく使うところが!!

 

いや、惚れ惚れしてはいけない事は分かってるぜ?

でもな、流石に此処まで極められたら脱帽する以外無いんだわ。

 

「と、取り敢えず、他に何してるかの確認だ、続きを読むぞ!」

 

そう言いつつ、俺はノートを開いた。

 

sideout

 

sideノート

『6月6日、流石にベッドの下は慣れてきたわね、

だって寝息は聞こえても、簪ちゃんの可愛い寝顔が見れないじゃない!!

どうしようかな~、隠しカメラでも着けようかしら?』

 

『6月10日、今日は天井裏でこれをしたためているわ!

グフフフフフ!!簪ちゃ~ん!!なんでそんなに可愛いのぉ~!!

ハァハァ・・・!!これだけで三回は逝けるわ!!(涎や妙な液体の痕で字が読めない。)』

 

sideout

 

side一夏

「うぉぉぉぉいッ!?」

「危険度が更に上がった!?」

 

なんかムチャクチャヤバイカミングアウトしてるぞ!?

隠しカメラを取り付けてんのか!?

 

後で簪の部屋を調べよう。

 

「い、一夏!秋良!簪がぁ~!!」

 

涙声の鈴が、簪の背中を擦りながら俺達を呼ぶ。

うわぁ・・・、顔面蒼白に加え、必死にリバースを堪えて脂汗がすげぇ事になってる・・・。

 

「ど、どうする!?まさかとは思うが、買い物の時にも着いてきてたかも知れんぞ!?」

「ヒィィィィ!!」

「と、とにかく続きを読むぞ!」

 

sideout

 

sideノート

『7月3日、今日は簪ちゃんのお買い物をこっそり覗き見してるわ!!

ああッ!!胸の事で落ち込む簪ちゃん・・・!!可愛い!!可愛いわぁぁ!!

あぁ!!私の胸を簪ちゃんにあげられないかしら!?

巨乳な簪ちゃん・・・!!アリね!アリだわぁぁ!!』

 

『7月9日、簪ちゃんが臨海学校に行ってからもう3日も経つのよね~・・・、

寂しい・・・、寂しいわぁ!!簪ちゃんの姿を見れないのは苦痛だわぁぁぁぁ!!

ああッ!!簪ちゃんの寝顔を見たいよぉぉぉぉぉ!!』

 

『7月10日、簪ちゃんが帰ってきたわ!!予定より遅かったから、かなり我慢したわ!!

でも、今日でそれもお仕舞い!!私は甦るのよ!!

更識楯無は何度だって甦る!!簪ちゃんの可愛い姿がある限り!!』

 

『7月11日、グフフフフフ!!今日は簪ちゃんのベッドに潜り込みました!!

あぁぁぁ!!柔らかい!!簪ちゃんのほっぺ!柔らかくて気持ちいいわぁぁぁ!!』

 

sideout

 

side一夏

『・・・。』

 

全員が一斉に黙りこみ、

恐怖に身体を震わせていた。

 

簪はとうとう堪えきれなかったのか、

鈴に連れられ、バスルームで盛大にリバースしていた。

 

駄目だコリャ・・・。

 

かく言う俺も、吐き気と頭痛が酷すぎる。

 

何やってんだよ・・・、もうストーカーの域を越えて、

猟奇殺人犯と同じ雰囲気がするわ!!

 

怖ェよ!

関わりたくねぇよ!!

 

だが、俺は第2生徒会長!!

生徒の安全を護ることが義務なのだ!!

 

「殺るしかないか!」

 

携帯を取り出し、犯罪者の居場所をもっともよく知っているであろう人物に電話をかける。

 

『もしもし?どうかされましたか一夏君?』

「どうもです虚さん、唐突ですけど、ダメ生徒会長の居場所を知りませんか?」

『突然ですね、今まさに第一生徒会室に居ますが・・・。』

「今から制裁を下しに行きたいので、頑張って引き留めててくれませんか?」

『お願いします、是非ともあのくそったれて腐った根性を叩き直して下さい。』

「分かりました、直ぐに行きます。」

 

俺は電話を切り、一息つく。

まさかあの虚さんがくそったれなんて言葉を吐くとは思わなかった・・・。

そんだけ根に持ってるんだろうけどさ。

 

「秋良、あの犯罪者を制裁しに行くぞ!」

「勿論だとも!」

 

俺と秋良は部屋を飛び出し、第一生徒会室に向けて走った。

 

sideout

 

noside

「無い!!無い無い無い!!」

 

第一生徒会室にて、とある女子生徒が大慌てで何かを探していた。

 

容姿的には美人なのであろう、

緩いウェーブがかかった水色の髪も、チャシャ猫の様に人をからかう雰囲気も、

Eカップはある胸も、それとは対照的なくびれたボディも、

全てが人を魅了してやまない。

 

彼女の名は更識楯無、日本政府直属の対暗部用暗部更識家の17代目当主であり、

織斑一夏と共にIS学園の生徒会長に君臨する学園最強の一角である。

 

普段は余裕の笑みと態度を浮かべている彼女だが、

今は何やら絶体絶命の様な雰囲気を漂わせている。

 

「無い!!何処にも無い!!なんで!?ここにしまったはずなのに!!」

「どうしましたか?ダメ生徒会長さん?」

「ひどっ!?虚ちゃん私のこと嫌いなの!?」

「はい。」

「酷すぎぃっ!?」

 

虚の辛辣な言葉に、楯無は涙目になりながら叫ぶ。

 

「そんなことより!!あれが無いのよ!!」

「あれとはなんですか?」

「・・・!!」

 

言えない、言える訳がない。

あれとは楯無直筆の簪ストーキング日誌なのである。

 

バレてはただでは済まないだろう、

布仏虚は真面目な上、こう言った事にはとことん厳しいのである。

 

「え~っと・・・、そのぉ・・・。」

「この日記の事だろ?」

「そーそー、日記のこ・・・と?」

 

唐突な声に肯定してしまい、楯無は顔をひきつらせながらも振り向く。

 

そこには織斑一夏と秋良が立っており、

一夏の手には彼女の直筆の日記、『簪ちゃん観察日記』が有った。

 

「あ・・・!?そ、それは・・・!?」

「それはなんですか?」

「これを読んでみてください。」

「あーっ!!?」

 

一夏は慌てふためく楯無を尻目に、

虚にノートを渡す。

 

楯無は必死に取り替えそうとするが、

一夏と秋良の連携に阻まれ、虚に近付く事すら出来ない。

 

ノートを渡された虚は何の気無しに一番酷い内容が書かれているページを開いた。

 

「・・・、オイコラ楯無。」

「「「うえっ!?」」」

 

虚に似合わない汚い言葉に、楯無のみならず一夏と秋良すら驚き、

彼女から少し遠ざかる。

 

「仕事をほったらかしてる上、よくもまあこんな事が出来ますね?」

ノートを机の上に置き、何処から取り出したのか、

メリケンサックをその手に嵌めた虚がゆっくりと楯無に近付いていく。

 

表情こそ笑顔だが目が笑っていない上、

背後には何故か黒い魔物が見えた。

 

「や、ヤバイ!」

「逃げよう兄さん!」

 

身の危険を感じた一夏と秋良は、慌てて生徒会室から逃げる。

その時、扉の鍵がガチャリと閉まった。

 

「ええぇっ!?ちょっ!?助けてぇ!!?」

 

楯無が涙目になりながらも、

扉を開けようと必死にもがく。

 

『『さあ、お前の罪を数えろ!』』

 

扉の向こう側から、

二人の声が聞こえ、楯無は更に慌てる。

 

「ええぇっ!?罪って何よ!?私何もしてないじゃない!?」

「お嬢様?」

「ぴいっ!?」

 

悲鳴をあげながら振り向くと、

そこには凄まじい形相をしている虚が立っていた。

 

さながら、狩られる兎と、捕食者である虎の様でもあった。

 

「人様に仕事を押し付けて!!貴女は何をやってるんですかーーーーーーっ!!?」

 

「ほぎゃあぁぁぁぁぁ!!!?」

 

この日、文字通りIS学園の校舎が揺れた。

 

 

翌日、

何やら妙にすっきりした表情をみせる虚と、

真っ白に燃え尽きた楯無が見付かったらしいが、

簪の調子は戻らなかったらしい・・・。

 

sideout

 




はいどーもです!

えー、ウチの楯無はこんな感じです、
これからどんどん壊れて行きます。

『おい!楯無さんはこんなんじゃねぇよ!!』
と、文句がある方は感想の方までどうぞ。
楯無メインの小説を書いてる方は、その楯無を連れてきて頂きたい。

次回はストライクEとゲイルストライクの機体説明を行います。

それではまた!!

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