インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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箒、怒る

side一夏

駄姉にビーチバレーで快勝し、

良い気分のまま俺達は夕食を採るべく、

浴衣に着替え大広間にやって来た。

 

IS学園は国際校としての側面が強いため、

様々な文化、宗教が入り乱れている。

 

その為、座敷での正座に慣れていない生徒の為に、

テーブル席もしっかりと用意されている。

 

まあそれは置いといて・・・。

 

原作と同じと言うべきか?

刺身やら吸い物、他には天ぷら等、かなり豪華なメニューになっている。

 

「うん、旨いな。」

流石は一流旅館、調理法も味付けもかなり巧い。

 

「ふわぁ、美味しいねぇ♪」

「美味しいですわねぇ♪」

 

俺の両隣でシャルとセシリアが初めて食べる刺身に舌鼓を打っていた。

そりゃ、ヨーロッパじゃあ魚を生でとかあんまり無さそうだもんな。

 

個人的には大好きなんだがな?刺身・・・。

 

まあそんな事より・・・。

「セシリア、シャル、脚大丈夫か?」

 

欧州人の二人の事だ、正座にも慣れていないだろう。

自惚れている訳ではないが、俺の為に無理してもらう必要など無いからな。

 

「いえ、平気ですわ。」

「一夏がお仕置きとかで正座させるから慣れちゃったよ。」

 

そういやぁそうだったな。

シャルが性別明かした翌朝から、

この二人は俺のベッドに忍び込む様になったんだ。

 

最初の二週間は起きる度に正座させてたんだよな、

しかも一日ずつ時間を少しずつ延ばして・・・。

 

まあその成果(?)か、二人は普通に正座が出来るようになったんだ、

いやぁ、有り難い事この上無いな。

 

因みに秋良の隣にはラウラしかいない。

クラスの違いと言う壁は越えられないのか、

鈴と簪は別の場所で血の涙を流しながらこの旨い料理を食してる。

 

因みに秋良は俺を凄まじい形相で睨んでくる、

まあしょうがねぇって、お前の女が違うクラスなんだしな。

 

その点、俺は恵まれてるな、アイツを見てつくづく思うよ。

 

ま、今は食事を味わう事だけを考えるとするか。

そう思い、俺は箸を進めた。

 

sideout

 

noside

夕食後、

一夏と秋良は露天風呂を使用した後、

部屋に戻る途中においてあった卓球台で卓球をすることにした。

 

ピンポン玉の跳ねる音がその空間に響く。

 

「いや~、いい湯だったね。」

「そうだな、湯治にも悪く無さそうだ。」

 

一夏と秋良は軽めの言葉を交わしつつ、互いに玉を打ち返す。

延々と続くラリーの最中、一夏があの話題を切り出す。

 

「そう言えば見たか?」

「何を?」

「中庭に機械のウサ耳が刺さってるのを。」

 

一夏の発言に、秋良は跳ね返された玉を打ち損ねる。

 

「・・・、そう言えばそうだった・・・、明日福音事件と紅椿の件が有るんだった・・・。」

「俺もあれを見て思い出した、なんつーか、イヤな予感しかしないんだよな・・・。」

 

再び始まったラリーを続けながらも、

一夏と秋良はボヤく様に話す。

 

「そう言えばさ、箒って原作以上に束の事を嫌ってないかな?」

「あぁ、薄々感じてたが、恐らくそうだろうな。」

「やっぱり、俺達が知らない所で何か有ったんだろうね。」

 

そう言いつつも、ラリーは続く。

 

「アイツは、ISの存在を嫌っているのかもな・・・。」

「え?」

 

独り言の様に呟かれた一夏の言葉を僅かに聞き取り、

秋良は聞き返そうとするが、それに気を取られたが故に、またしても失点を赦してしまう。

 

「・・・、お前、本当に集中力無いな。」

「ちくしょー!!」

 

一夏の言葉に、秋良は床を叩いた。

 

 

sideout

 

sideシャルロット

一夏が露天風呂に行ってる頃、

僕達一夏と秋良の取り巻きは織斑先生に呼ばれ、

教諭室に来ていた。

 

一体何の用だろう?

この気持ちは織斑先生を除いたここにいる全員が思ってる事だと思う。

 

「お前達、アイツらの事をどう思ってる?」

ビールを呑みながら尋ねてきた内容に、

僕は危うく溜め息をつきたくなった。

 

忘れてた、この人ブラコンだった・・・。

一夏と秋良が織斑先生と関わりたくない理由の一つがそれなんだよね・・・。

 

「私はネタの対象としてですかね。」

「私は一夏様の下僕ですわ、一夏様にどう思って頂いても、それは変わりませんわ。」

「あ、アタシは、ふ、二人とも、す、好き・・・、です!」

「僕、いえ、私は一夏の心に惹かれました。」

「私は二人を尊敬できる師であると思っています!」

「私は光明を諭してくれた秋良が好きです。」

 

分かりにくいと思うから説明するね、

上から箒、セシリア、鈴、僕、ラウラ、簪の順番になってるよ♪

 

「確かに、アイツらは料理も出来れば掃除洗濯は完璧にこなす、

それに、マッサージ等も最高の一言に尽きる。

しかも腕っぷしはお前達も知っているだろう、ま、付き合える女は得だな、

どうだ?欲しいか?」

 

意地悪く聞いてくるけど、僕達は欲しいとは言わない、

何故なら、彼らが僕達を導いてくれるって知ってるから。

 

「要りません、私は現実の男に恋愛感情は抱かないので。

それに、一夏達を盗られたら困るのは千冬さんでしょう?」

「そうですわね、聞けば織斑先生はご自分で家事も料理もなされないそうですし、

一夏様と秋良さんがいなくなればご自分が苦労しますからね。」

 

箒とセシリアの言葉に、織斑先生は左胸を押さえる。

確実に言葉の矢が刺さったね。

 

因みに、セシリアは一夏の傍に着いてから料理の腕前がかなり上達しているから、

最近では一夏と僕とでよくお菓子を作ってる。

だから、織斑先生の事をボロクソに言っても、誰からも責められない。

 

「それに、一夏と秋良に頼りすぎて織斑先生は往かず後家ですし、

更に言えばブラコンは間違いなく弟から嫌われますからね。」

「あー、分かる、ウチの姉もシスコンなの、ウザったいったらありゃしないわ。

弟妹の為とか言うけど、結局は自己満足の方が強いもの。」

 

僕と簪の容赦無い言葉に、織斑先生は仰け反る。

なんだか少し楽しくなって来ちゃった。

 

あー、そう言えば簪のお姉さんも織斑先生と同類なんだっけ?

めんどくさそうだね・・・。

 

「教官の事は確かに尊敬していますが、兄貴と秋良が迷惑がっているのは事実です。」

「あ・・・、えと・・・、アタシ達の恋路、邪魔しないで、ください・・・!」

 

織斑先生に対して何も言わなさそうなラウラと鈴の言葉がトドメになったのか、

織斑先生は思いっきり後ろに倒れ、陸に打ち上げられた魚みたいに大きく痙攣していた。

 

「織斑先生、失礼します・・・、って、きゃあぁぁぁっ!?

しっかりしてください織斑先生~!!」

 

山田先生が涙目になりながら織斑先生をがくがく揺らしてる、

あー、お酒呑んでた人にそれをするのは駄目ですよ?

 

「私は・・・、ダメ人間なのか・・・?」

「そうです!・・・、じゃなくて、しっかりしてください!!」

『本音が出た!?』

 

僕達がツッコミをいれるのと同時に、

織斑先生は山田先生の腕の中で力尽きた。

 

「それでは。」

「私達はこれで失礼しますわ。」

「一夏達を探したいですし。」

 

箒、セシリア、僕の順番で山田先生に告げた後、

僕達は教諭室を去った。

 

 

因みに、この事を一夏と秋良に教えたら爆笑しながらサムズアップしてくれた、

・・・、ちょっと嬉しいな。

 

sideout

 

side秋良

翌日、旅館から少し離れた崖で、

俺達はISの機動試験を行う事になった。

 

各国の軍艦が、それぞれの代表候補生に追加パッケージを持ってきてる事から、

かなり大がかりな事になりそうなのは目に見えてる。

 

当然、アクタイオンインダストリー所属の俺と兄さんにも、

新型ストライカーの試験はある訳で・・・。

 

俺は現在、ルージュを微調整しつつ、ストライカーを装備しない状態にしておく。

 

少し離れた所では兄さんが俺が渡したライトニングストライカーのテストをしている。

あれの射程距離はエグいからね~。

 

「待たせたわね、秋良。」

俺に声をかけて来たのは緩いウェーブがかかった茶髪をした三十路位の女性、

エリカ・シモンズ技術主任だ。

 

元々はSEED世界でアストレイシリーズの開発者だった女性、

この世界ではアクタイオン社で俺達の機体の追加装備や、整備を主に請け負ってくれている。

 

「いえ、待ってませんよ、それで、頼んでおいたエールストライカーは出来ていますか?」

「ええ、一夏が使ってる物と全く同じ物を製作してきたわ、今からセッティングするわね。」

「お願いします。」

 

すぐさまインストールが開始され、

俺は流れ込んでくるデータに目を通す。

 

高出力な分、旋回等に気を配らなければならないか、

大体理解できたし、後は実践あるのみだね。

 

「インストール完了、私は一夏の方にいるから、

何か問題があれば教えてね?」

「あ、はい、ありがとうございます。」

 

エリカさんは俺の機体の調整を終わらせると、兄さんの方へ歩いて行った。

 

sideout

 

side一夏

秋良がエリカ・シモンズ主任にエールストライカーの調整を行って貰っている頃、

俺はストライクにライトニングストライカーを装備し、十キロ離れた沖合いにある岩を狙い撃っていた。

 

流石は超長距離狙撃用のストライカーと言うべきか、中々良い感じだ。

その気になれば二十キロ先も狙い撃てるからな、本当に便利だ。

 

「調子良さそうね、ライトニングストライカーの使い心地はどうかしら?」

「問題ない、寧ろ良好だ。」

 

砲を分割収納し、話しかけてきたエリカ主任に向き直る。

どうやら秋良の方の用事は終わったらしい。

 

「依頼していた装備は?」

「ご免なさい、I.W.S.P.はパーツが足りなくて再生産出来なかったわ。」

 

やはりか、新しいストライカーにパーツを回さなければいけない中で、

損傷機の修復、生産は困難を極める。

 

つまり、I.W.S.P.は諦めろと言う事だ。

 

「代わりと言ったらなんだけど、ノワールストライカーのテストモデルを持ってきたわ、

正式機とほとんど変わらないと思うから、使ってみて?」

「助かります、こいつがあるだけでもかなりの戦力になるでしょう。」

 

発展機ならなんとかなるか?

いや、今のストライクでは性能の半分も引き出せるかどうかも怪しい。

 

まあ、無いよりマシなんだが・・・。

 

「さてと、セッティングしますかね・・・。」

そう思い、手を着けようとした時・・・。

 

「ちーちゃーーーーーーん!!」

アホみたいな叫び声と共に、天災が飛び降りてきた。

 

「うるさいぞ束。」

駄姉は鬱陶しそうにしながら、束にアイアンクローをかましていた。

ほう、飛んでくる人間を鷲掴みにして振り回せるのか、

ま、俺も似たような事は出来るがな。

 

「やあやあちーちゃん!会いたかったよ!!さあさあ、はぐはぐしよ~!!」

うわ・・・、鬱陶しい・・・、いくら美女にされたからと言っても、

確実に嬉しくないな・・・。

 

まあ、俺にはあんな鬱陶しい友人はいないから別に良いんだが。

 

俺が呆れている内に、コミュ障兎は駄姉のアイアンクローから逃れ、

誰かを探す様な素振りをしている。

 

「やーや~箒ちゃ~~ん!!」

 

大きい岩影に隠れていた箒は、

束にみつかっていた、南無三。

 

「っ!!」

箒は束に見つかった瞬間、何処からか取り出した木刀で殴りかかっていた。

おいおい・・・。

 

「イタァァッ!!何するの!?箒ちゃん!?」

「黙れ!!」

 

頭を押さえながら唸る束に、箒は追撃と言わんばかりに木刀を振り上げる。

死にはしないだろうか、間違いなく重症になるだろうが、別に構わない。

それが箒の望みだと、俺は薄々感じ取っていたからな。

 

「やめなよ箒、そんな事をしても何の意味も無いよ。)

だが、寸での所で秋良のヤローが木刀を握り、

箒を止めやがった。

 

「何をする秋良!?止めるな!!」

「こいつを殺すなら木刀じゃなくて真剣を使いなよ。」

 

秋良は遠回しに諦めろと言っているのか、

箒から木刀を取り上げ、自分の腕で叩き折る。

 

さてと、何が起こるのかねぇ、

原作なら紅椿が箒に譲渡されるだろうが、

この世界では原作などアテにならない。

 

だから、俺はもっと凄絶で、心踊る様な場面を期待している。

 

俺は事の成り行きを見守るべく、

ストライクを待機形態に戻し、喧騒の方へと脚を向けた。

 

sideout

 

noside

「さあさあ、ご覧あれ~!!」

 

調子を取り戻した束が上空を指さしたと同時に、

コンテナが一つ落下してきた。

 

「ふふーん!オープンセサミ~!!」

コンテナが開き、中から紅いISが姿を現す。

 

「聞いて驚けぃ!その名も紅椿!!現行する全てのISを越える機体だよ~!!」

我が子の晴れ舞台を喜ぶ母親の様に誇らしげに語る束とは対照的に、

箒はうつむき、肩を震わせていた。

 

無論、歓喜では無い、憤怒から来る震えだった。

 

彼女と比較的親しい者達は、彼女の様子を見て何かを察した様な表情を見せた。

 

「一夏・・・、秋良・・・。」

「なんだ?」

「なんだい?」

 

静かに、だが、ハッキリと聞こえる声に反応した一夏と秋良は、

声の主である箒の方を向いた。

 

「あのISを壊してくれ。」

その瞬間、辺りが驚愕に包まれた。

 

「な、何言ってるの箒ちゃん!?」

「了解した。」

 

自身の妹の発言に驚く束を尻目に、

ストライクを展開した一夏はエールストライカーからビームサーベルを抜き放ち、

紅椿を破壊しようと動く。

 

「やめろ一夏!!」

千冬の制止も聞かず、一夏は腕を振り抜く。

 

だが・・・。

「・・・、何しやがる秋良、邪魔をするな。」

憎々しく呟く一夏の目線の先には、

シュベルト・ゲベールを用い、一夏のビームサーベルを止めた秋良がいた。

 

「いや、気付いてよ、俺達の機体はこの世に無い技術を使ってる、

あのアホウサギに見せる訳にはいかないだろう?」

「失念していた、すまんな。」

 

小声で言われた言葉に一夏は納得し、

ビームサーベルを戻し、ストライクを解除する。

 

「箒ちゃん!専用機だよ!?欲しくないの!?」

「そんな物!!私には必要無いっ!!」

 

訳が分からない様に叫ぶ束に、

激情を剥き出しにした箒が殴りかかろうとする。

 

「箒さん!!」

「落ち着いて!!」

しかし、セシリアとシャルロットが止めに入る。

 

「放せ!!放せぇ!!」

彼女達の拘束から逃れようともがくが、

代表候補生として鍛えられている彼女達の拘束は巧く、

どれだけもがいても逃れられない。

 

(こいつは相当だな、嫌ってると言うより、憎んでると言う事か?)

(なるほど、だから束の話題が出る度に拳を握り締めていたのか。)

 

一夏と秋良は、箒が時折見せていた怒りの表情の由縁を理解した。

 

そんな時だった・・・。

 

「た、大変です織斑先生!!」

真耶が息を切らせながら走ってくる。

 

その手には何やらディスプレイの様な物を持っている。

 

「これは・・・!!注目!!稼働試験は中止!!用具を片付け、即刻旅館に戻れ!!」

 

ディスプレイに表示されていた情報を読み取った千冬の表情が一気に険しくなり、

彼女は手を叩き、一般生徒に指示を出す。

 

「え?いきなり中止って・・・。」

「訳が分からないよ・・・。」

 

いきなりの指示に戸惑いの声がちらほら上がる。

 

「ぐずぐずするな!!迅速に行動しろ!!指示に従わない者は容赦なく懲罰を与える!!良いな!?」

『は、はい!!』

 

千冬の怒号に震え上がった少女達は、

直ぐ様旅館の方へと戻っていく。

 

「専用機持ちは私と来い!!篠ノ之!!お前もだ!!」

 

指示が下り、今だ怒りが収まらない箒を含めた専用機持ち達は、

千冬の後に続き旅館の方へと走っていく。

 

(篠ノ之 束の登場、そして福音事件、

この二つは間違いなく繋がっている・・・。)

 

一番最後にその場を去った一夏は、

束を軽く睨みながら思案する。

 

(さてと、俺は何処まで守りきれるだろうか・・・。)

 

一夏はこれから先に起こる事件を憂い、

溜め息をついた。

 

sideout




はいどーもです!

特に何も言うこともないので次回予告!

迫り来る福音に対し、
一夏達専用機持ちは作戦をたてる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
想いを力に 前編

お楽しみに!

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