インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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約束

side一夏

結局、シャルルは俺の部屋にルームメイトとしてやって来た。

 

まあそっちの方が色々と都合はいいんだが。

 

にしても荷物が少ないな、理由は分かるがな。

「これからよろしくね一夏。」

「こちらこそ、よろしくシャルル。」

 

俺とシャルルは互いに挨拶をし、

決まり事を幾つか決めておいた。

 

荷物の片付けが終わり、シャルルに緑茶を出してやった。

 

互いに向かい合う様にベッドに腰掛ける。

「これが緑茶・・・、本当に緑色なんだね。」

「まあな、慣れないかもしれないけど飲んでみてくれ。」

「うん、頂きます。」

 

取り敢えず話は落ち着いてからの方が良いと判断し、

なるべく緊張を解しておく。

 

しかし・・・、この世界に来て初めて悩んでるな、

どうやって切りだそうか?

 

何、彼女が悲しまない様にフォローはするさ、

その為に俺はここにいる。

 

「ふぅ・・・、緑茶って不思議な感じだね、紅茶とはまた違って美味しいよ。」

「気に入ってくれなら良かった。」

 

大分解れたか、なら、ちょっと切り出しても良いだろう。

 

「なぁ、シャルル、お前女だろ?」

「ッ!?」

分かっていた事ではあるが、彼女はビクリと身体を震わせていた。

 

「な、何言ってるの一夏?僕は――」

「見た目は仕方ないとして、まず男と女じゃ骨格が違うし、

この年頃の男にしては声も高い、

更に言うならお前は男としての意識が薄いってとこだな。」

「・・・。」

 

俺の推理――と言うよりは前世での知識――を聞き、

シャルルはどんどん青ざめていく。

 

「デュノア社は第三世代機を開発出来ていない、

フランスはイグニッション・プランから外されているため、

データが圧倒的に足りていない。

デュノア社は経営難に陥り、倒産の危機に陥った。

そこに俺と秋良という世界初の男性IS操縦者の出現、

そして、今までに無いバックパック換装システムを実装した機体、

これに目を着けたデュノア社長に無理矢理、って所か?」

「どうしてそれを!?」

「さあな?俺が所属してる企業を考えてみな?」

 

説明するように述べ、シャルルにヒントを与える。

 

「アクタイオン・インダストリー社・・・。」

「そう言うことだ、彼処には世界最高峰のハッカーや技術者が揃ってるからな。」

 

俺がそう言った瞬間、シャルルは何処か観念した様な表情を見せた。

 

「敵わないなぁ・・・、まさかこんなに早くばれちゃうなんて・・・。」

自嘲気味に呟きながらも、シャルルはジャージの中に手を入れ、

胸を抑えていたコルセットを取り外して俺に見せる。

 

「一夏の言う通り、僕は女だよ・・・、

そして、社長である父に命令されてここに来たんだ・・・。」

「ああ、大体察した、他に何か言いたい事はあるか?

全部聞いてやる。」

 

シャルルの口から語られた話は、

小説を読んでいる時よりも重く、そして何よりも痛々しかった。

 

織斑一夏にも親はいない、

一応俺と秋良は産まれた時、つまりは転生した時から意識はあったから、

何故消えたかとかは分かっている。

 

亡國企業の構成員だったこの世界の親父と御袋は、

裏を知りすぎたが故に消されたのだろう。

どうして駄姉や俺達に被害が無かったのかは分からないが、

それは良い、俺達には関わりの無いことだ。

寂しいとも悲しいとも思わない。

 

だがシャルルは違う。

 

シャルルは母親に先立たれた故の孤独だ・・・、

俺には分かってやる事は出来ない、

分かるなど言ってはいけないのだ。

 

「ふぅ・・・、話したら胸が楽になったよ、

騙しててゴメンね・・・。」

「・・・、何故泣かない?」

 

思わずそんな言葉が口から飛び出てきた。

自分でも驚いてる、けど、止まらない。

 

「えっ・・・?」

「辛いなら泣けば良い、苦しいなら吐き出せば良い、なのに何故、お前は泣かない?」

「で、でも僕は・・・、皆を、一夏を騙して・・・!」

「シャルル。」

 

気が付けば俺は立ち上がり、シャルルを抱きすくめていた。

 

「い、一夏・・・?」

「辛かったんだろ、苦しかったんだろ?

泣けよ、俺はお前を責めるつもりなど無い。」

「うぅ・・・、あァァ・・・。」

 

シャルルの声が、戸惑いから嗚咽へと変わり始めた、

後もう一押しだな・・・。

 

「今までよく頑張ったな、もう堪えなくて良い、

ここには俺とお前しかいない、だから、気が済むまで泣いていいんだ。」

「うァァァァ・・・!あァァァァっ・・・!!」

 

シャルルは俺の胸に顔を埋めて、思いっきり声をあげて泣いた。

俺は何も言わずに、彼女の背中を擦っていた。

 

暫くして、泣き声が治まりシャルルは顔を上げる。

 

「もう良いのか?」

「うん、ゴメンね一夏・・・。」

「気にするな、俺がそうしてやりたかっただけだからな。」

「ふふっ、ありがとう一夏。」

 

落ち着いたみたいで何よりだ、

でないと、やった意味が無いからな。

 

「一夏、心臓の音、凄かったよ?」

「ッ!何を馬鹿なことを・・・。」

「ずっと胸に耳を当ててたんだもん、分かるよ。」

「・・・。」

 

は、恥ずかしいぃぃぃ!!

クールぶってんのが裏目に出たぁ!!

 

くっ、地味にダメージ受けちまった・・・。

 

「ねぇ一夏ってば~?」

「分かったよ白状する、お前を抱き締めてたからドキドキしてたんだよ。」

「ふぇっ・・・?も、もう一夏ってば・・・。」

 

ッッ!!照れてる所とかマジかわいい!

女神よ、今更だけど転生させてくれてありがとう!

 

「悪かったよ、シャル。」

「シャル?」

「お前の本名、シャルルが男の名前なら女の名前はシャルロットだろ?

下手に使い分けてると何処かでボロが出るからな、親しみを込めて渾名を考えて見たんだが、

嫌だったか?」

 

と言うのは口実で、本当は俺がそう呼びたかったからだ。

 

「ううん!すごく良いよ!ありがとう一夏♪」

「喜んでくれて良かったぜ、ほら、顔洗ってきな。」

「うん♪」

 

シャルル改め、シャルは笑顔で頷き、

洗面台に向かっていった。

 

これで半分は解決、後はどうやって学園に留めるかだな。

 

取り敢えず、シャルが帰ってきたら取り敢えず話をつけるか。

 

sideout

 

sideシャルロット

洗面所に入り、僕は冷たい水で一気に顔を洗う、

散々泣いて火照った顔に、冷たい水は心地良かった。

 

タオルで顔を拭き、鏡を見ると、

目を真っ赤に腫らした僕の顔があった。

 

シャルルを名乗りはじめてから、自分の事が嫌いになった、

皆を騙していることが、そして何より、嘘をつかなくちゃいけない、

自分自身が嫌いだった・・・。

 

でも、一夏はこんな僕を赦してくれた、

泣いて良いと、優しくしてくれた。

 

(一夏・・・。)

彼を想うだけで心が暖かい気持ちで満たされていく、

何も感じる事が出来なくなっていた僕に、

歓びの感情が溢れていく。

 

赦されるのなら、僕は彼と一緒に居たい。

 

(このままフランスに戻っても、どうせ良いことなんて無い、

それなら、できる限り一夏の傍に居たい!)

 

僕の心は決まった、

後は彼と話をしよう。

 

そう思いながら洗面所から出た。

 

sideout

 

side一夏

新しい緑茶を用意していると、

シャルが洗面所から戻ってきた。

 

先程までの涙の後はすっかり消えていた。

 

「ようシャル、緑茶を淹れ直したんだが、飲むか?」

「ありがとう一夏、頂くよ。」

 

俺が差し出した湯飲みを受け取り、

シャルは緑茶を口に含む。

 

待っているだけでは退屈なので、

俺も緑茶を飲む。

 

さてと、落ち着いたところで話し掛けてみるか。

 

「お前はこれからどうするんだ?」

「決めたよ、僕は一夏と一緒に居たい!だからここに残る!」

「その言葉を待ってたぜ、俺はお前を歓迎する。」

 

俺は湯飲みを置き、決断したシャルの頭を撫でる。

 

これで良い、俺は彼女を救えた。

・・・、いや、まだだ、たとえシャルの心を救えていても、

まだ身体を求めてくる下衆がいるはずだ。

 

今の世界、男は普段虐げられている分、

こう言う女の弱味を握ったら凌辱の限りを尽くす筈だ。

 

自分で言っていてなんだが、ヘドが出るぜ。

 

だから、確実にシャルを守るには後もう一押し必要だ。

 

「それと、三つ約束をしてほしい。」

「約束?」

「ああ、何、身体とかそんなんじゃねぇから。」

 

不安そうな彼女を安心させる為に頭を撫でる。

 

「まず一つ目、学園の中にいる時も、外に行く時も、

なるべく俺から離れない事、二つ目、もし変な奴にこの事で迫られたら、

隠す事なく俺に言ってくれ、三つ目、俺に頼ったり甘えたりすること、

この三つを守ってくれないか?」

 

なんとか約束させていれば気休めになるしな。

 

「良いの・・・?僕、一夏にならなんでも・・・。」

「シャル、これは俺の為じゃねぇ、お前自身の為に言ってる事なんだ。

俺の事なんて考えなくて良い。」

「一夏ぁ・・・。」

 

シャルは湯飲みを置き、俺に抱きついてきた。

 

「シャル?」

「僕、甘えてもいいんだね?」

シャルは微笑んで俺に尋ねてくる。

 

そんな彼女の仕草が可愛くて、結構ドキドキしてきた。

 

「構わない、お前にはその権利がある、

だから、甘えたい時に甘えれば良いさ。」

「うん♪」

 

これで一件落着かね?

恋人関係になるかどうか分からんが、できる限り俺がサポートしますかね。

 

sideout

 

 

 




はいどーもです!

次回は閑話を入れます。

モッピー大暴走です。

それでは次回予告
IS学園の一角にある部屋、
そこである会合が行われようとしていた。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
番外編 腐女子組合

お楽しみに!

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