インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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最終回其ノ1 明日への扉

noside

 

ISがガンダムに滅ぼされ、ガンダムが姿を消してから既に十年の歳月が流れた。

 

世界は、ロンド・ミナ・サハクが行った英雄否定の演説の基、

人々は個々人が掲げる思想、理念を同じくする者達と手を携え、

尚且つ、他者の理念を妨げぬ限り、自身の理念に従って生きる、

新たな社会の形成に力を入れるようになっていた。

 

その結果、今だ種族、人種的な偏見は残ってしまったものの、

露骨な差別や嘗ての女尊男卑の様な風潮は消えてなくなり、

人々から忌み嫌われる風潮として、反面教師の様に語り継がれている。

 

それと同じ様に、ガンダムは人々を救った救世主として、

また、二度と世界に現れてはいけない破滅の象徴となった。

 

これは、今の世界がまた悪しき方向へと向かわぬ様に、

また彼等の様な戦人を産み出さぬ様にと、戒めを籠めて広まった事である。

 

しかし、ガンダムを英雄、民の味方と捉える思想は根強く、

嘗てのIS学園があった場所には、15のガンダム達を型どったブロンズ像が立っている。

 

やはり、彼等が成し遂げた偉業、ISの殲滅や女尊男卑の事実上の破壊は、

これまで虐げられていた者達にとっては救いの神の様に映ったのだろう。

 

だが、この思想も否定される事なく存在しているのは、

世界の在り方が変わっていったが故だろう。

 

こうして、生き残った者達は、死んでいった数多の命への慰めに、

より良き世を作ろうと努力していた・・・。

 

sideout

 

noside

 

「それじゃあ行ってくるよ、簪。」

 

とある住宅の玄関にて、二十代半ばの青年が出掛ける準備をしていた。

 

癖のある黒髪を肩まで伸ばし、何処か穏やかな雰囲気を纏った青年は、

彼の背後に立っていた二十代半ばの女性に振り向きながらも出掛ける事を告げた。

 

彼の名は織斑秋良、嘗てガンダムチームの一角として戦い、

今の世界が誤った方向へと向かわぬ様に見守る者達の一人だ。

 

「うん、義兄さんによろしくね、私達は留守番してるから。」

 

水色の癖のある髪を持つ女性は、新たな命が宿っているお腹を擦りながらも、

彼に向けて微笑みかけた。

 

彼女の名は織斑簪、旧姓更識 簪。

彼女もまた、ガンダムチームの一角を担い、戦い抜いて来た者だ。

 

彼等は最終決戦の後、IS産業から、ワークローダーを製作する企業へと変わったアクタイオン社に就職し、互いが22歳の時に結婚、今はアクタイオン社の近くに住居を構え、

簪の身体に宿った新たな命を迎える準備をしている。

 

歳は26になっていても、十年前と何も変わらない雰囲気で、

彼等は会話をしていく。

 

そこには、目には見えずとも確かに存在する強い絆があった。

 

「身体を冷やさない様に気を付けて待っててね?

風邪なんてひいたら大変だし。」

 

「うん、分かってるよ、この子と待ってるから。」

 

幸せそうに微笑む簪に向けて微笑み返した後、

彼は彼女に背を向け、何処かへ出掛けて行った。

 

sideout

 

side秋良

 

車を走らせる事一時間、俺はある場所に辿り着いた。

 

そこは、嘗ての武家屋敷を連想させる様な造りながらも、

全く古めかしさを感じさせない豪邸だった。

 

普通なら、観光目的以外で訪れる事なんて先ずもって無い場所なんだろう。

 

だからと言って、別に物怖じする場所で無いのは分かってるけど、

やっぱり肌に合いそうにない場所だなと感じる事ぐらいは解って欲しい。

 

まぁ、ここに来たのもある理由があるからなんだけどもね。

 

門の前で暫く待っていると、中から一人の男性が歩いてきて、

車の窓をノックした。

 

「悪いな秋良、待たせちまったな。」

 

「いいや、大丈夫だよ義兄さん。」

 

「昔の呼び名でいいさ、むず痒いし。」

 

ドアのロックを解除し、俺は彼を助手席に招いた。

 

彼の名は更識雅人、旧姓加賀美雅人、

元ガンダムチームのメンバーの一人で、俺達同様生き残った者としての使命を果たそうとする者だ。

 

彼は現在、更識家当主にして、俺のお嫁さんのお姉さんと結婚している為に、

俺にとっては義理の兄と言うことになっている。

 

もっとも、彼はあんまりそう呼ばれるのが好きじゃないみたいだけどね。

 

彼がシートベルトをしたのを確認して、

俺は車を発進させる。

 

本当の目的はここから先にあるからね。

 

「また義姉さんがごねてたの?独りにするなーって?」

 

「いいや、今日は単純に準備に手間取っただけさ、

アイツも簪と同じだからな。」

 

「そう言えばそうだったね。」

 

楯無も簪と同じ様に、その身体に新しい命を宿している。

 

つまりは、俺達は同じ時期に父親となると言う事なんだ。

 

こうやって二人きりで行ける機会も、もうほとんど取れそうに無いから、予定を合わせていたんだ。

 

暫くの間、他愛もない会話をしている内に、

俺達は目的の場所に辿り着いた。

 

そこは、IS学園跡地・・・、

今は新平和記念公園と呼ばれる様になった場所だ。

 

嘗ての激戦の中心だった場所には、

壊されたままの校舎や八割方壊れたアリーナ跡等がそのまま残されている。

 

俺達はここで、学び、生活し、そして、大切な人達との別離を経験した・・・。

 

今でも思い出せば苦い物が込み上げてくるのが分かるけど、

それでも、最近ではそれすらも受け入れられる様になってきている。

 

それは、俺が成長できたと言う事なのか、

それとも、ただ時の流れがそうしてくれたのかは分からないけどね・・・。

 

駐車場に車を停め、後部座席に積んでおいた紙袋を持って、俺達は車を降りて更に歩いていく。

 

暫く歩いていると、海に面した広場に着いた。

 

そこには、15のガンダム達を型どったブロンズ像が円形に配置されていた。

 

その中でも一番目立つ場所に立つブロンズ像の前に、

俺達は立った。

 

特徴的な翼を背負い、地面に刀を突き刺した状態で虚空を見るその姿は、正しく英雄に相応しい姿とも言えるだろう。

 

そう、そのブロンズ像とは、嘗てガンダムチームを率い、自らが汚れを引き受けた者が駆った機体、ストライクノワールだ。

 

しかし、その頭部はガンダムフェイスではなく、

人の顔を型どった様な形をしている。

 

その顔は、俺の兄、織斑一夏そのものだった。

 

何故彼だけ顔が彫られているのかと言うと、

ガンダムチームの中でも、唯一彼だけが全世界に顔を晒していた為、何者かがガンダムフェイスではなく、

彼の顔そのものを彫ったんだと思う。

 

因みに、彼のブロンズ像が地に突き刺してる刀は、

嘗ては俺が使っていた愛刀、シシオウブレードだ。

 

量子変換しないまま、スターゲイザーを爆破したから、その時に壊れる事なく残っていた。

 

それを彼のブロンズ像に持たせたと言う訳だ。

 

「にしても、相変わらずイケメンすぎやしねぇか?」

 

「そんな事ないさ、本人はもっと格好良かったよ。」

 

雅人と軽口を叩きあいながらも、

兄さんの立像の横に立つブロンズ像、ブルデュエルとヴェルデバスターの前に花を供え、

グラスを三つ用意してノンアルコールスパークリングワインを注ぐ。

 

運転して帰らなきゃいけないし、そこは守らなくちゃいけない所だよね。

 

「三人で酒を飲む事は出来なかったが、

せめてこれぐらいはしないとな・・・?」

 

「そうだね・・・、侘しい事には変わりないけどね。」

 

兄さんのブロンズ像の前にワイングラスを置き、

俺達も各々グラスを持つ。

 

「じゃあ・・・、乾杯しようか・・・。」

 

「あぁ・・・。」

 

雅人とグラスを静かに合わせ、

ノンアルコールワインを口に含む。

 

俺達のグラスからワインは減るけど、

もうここにいない兄さんのグラスからは一切減ることは無い。

 

分かっている事実だったとしても、やっぱり何処か悲しい事には変わりないね・・・。

 

「そう言えば、他の皆はどうしてるのかな?

五年前に集まって以来、顔を合わせてないけど・・・。」

 

生き残ったガンダムチームのメンバーは、

各々別々の道に進み、顔を合わせる機会も殆ど無くなった。

 

俺が知ってるのは、鈴とラウラ、それにダリルさんとフォルテさんだけだ。

 

鈴は最初の内はアクタイオンで働いていたけど、

五年前に数馬の所に嫁いだ。

 

と言っても、彼女自身がハッキリ嫁いだと認識してるかは全然知らないけどね。

 

ラウラはドイツには戻らず、アメリカに戻っていったダリルさんの義妹になったらしく、今でも二人一緒に写った写真と手紙を送ってくれる。

 

フォルテさんも故郷に帰った後、

海洋調査隊の一員となるべく勉強してるみたいだ。

 

多分、フォビドゥンブルーに乗ってた縁なのかもね。

 

「俺はこの前、ばったりと箒に会ったぜ、

売れっ子作家になったから忙しそうだったな。」

 

「へぇ・・・、あの本、そんなに売れたんだ・・・。」

 

箒はあの後からすぐに書き始めた漫画(BでLな内容だった)を売り出した所、

まさか全世界で一千万部を売り上げるベストセラーになってしまった。

 

う~む、特典の力って本当に怖いなぁ・・・。

 

「何が当たるかなんて分からねぇよ、

それが人生ってヤツじゃねぇか?」

 

「そうだね、その通りだよ。」

 

その後も、雅人はナターシャさんと真耶さんの事を話してくれた。

 

ナターシャさんはアメリカに戻って教師を始めたらしい。

 

あの人のドジッ娘が直っていれば良いなと思うね、ホントに。

 

真耶さんも日本の何処かで教師をやってるらしく、

近々同僚の男性と結婚するらしい。

 

もう皆、自分各々の道を見つけ、

その道を歩いていっている。

 

あの痛ましい出来事の記憶を背負い、

それでも必死に生きていく。

 

それが俺達が兄さんから与えられた役目なんだろうか・・・。

 

今となっては分からない事は山程ある、

だけど、それを解き明かすのはまた何時か出来るだろう。

 

「兄さん、世界は兄さんが願った形になって行ってるよ、

誰も虐げられない、本当に平和な世界にね。」

 

だけど、まだまだ課題は残されてる、それこそ数えきれない位にね。

 

だけど、俺達は独りきりじゃない事を知ってる、

誰かを支えて、誰かに支えられていると知ってる。

 

だからこそ、どれ程困難な道だったとしても、

歩いていけるんだと思う。

 

俺達は、それを見守る役目がある、

それを死ぬまで果たしていこうと思う。

 

「じゃあ、そろそろ行くね、

そっちには後五十年は逝かないけど、それまでセシリアとシャルロットと楽しんでなよ。」

 

「またな、一夏、そっちで会えたら、こんな形じゃなくて、面と向かって飲もうぜ、

一緒に飲むって約束、果たせてねぇしな。」

 

俺と雅人は、彼のブロンズ像に背を向けて歩き出す。

 

もう、ここに来ることは無いかもしれない、

でも、構わないだろう。

 

彼の魂はこの世界にはいないと知ってるから、

ここに来ても彼に会える訳じゃないから。

それよりも俺達は何時の日か、彼の下へ召される時に誇れる様に生きていく事が大切なんだ。

 

だから俺達は振り返らずに歩いていく。

 

まだ見ぬ明日を見るために、

平和な明日を求めて・・・。

 

sideout




またしてもバランスが怪しくなったので、
最終回も二部構成にしてしまいました(汗)

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
最終回其ノ2 終わりなき旅路へ

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