インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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最後の力 後編 其ノ2

side簪

 

ミサイルが尽きたライオットストライカーAをパージして、

プロトン・セイバーの二刀流でシャルロットに斬りかかる。

 

向こうもミサイルが尽きたのか、

ビームサーベルでの応戦にシフトして、近接格闘戦を挑んでくる。

 

近接格闘には一応の心得はあっても、

それは所詮訓練の中でだけ、実戦で技を研いたシャルロットには及ばないのは分かってる。

 

でも、それでも私はやらなくちゃいけない、

でないと、私は前に進めないから・・・!!

 

「へぇ?やっぱり腕を上げたね!ここまで押し込めないのは君が初めてだよ!!そんなに僕が憎い?

それとも自分の弱さが憎いのかな!?」

 

「両方よ!!私の弱さも、迷いも憎い!

でも、こんな無意味な事を続ける貴女も憎い!!」

 

私の弱さも迷いも確かに忌むべきモノだと思う。

 

だけど、それよりもずっと憎いのは、

こんな無駄な争いを何時までも続けようとする一夏達だ・・・!!

 

どうして簡単に人を殺せるの・・・!?

 

答えてよシャルロット・・・!!

 

「意味がないだって・・・!?よくもそんなことが言えるね・・・!!僕達がやってるのは世直しだよ!?

もう二度と!あんな狂った世界にしないためのね!!

それが無駄なんて言わせない!!」

 

「だけど・・・!!貴女はそれで良かったの・・・!?その為に自分が穢れても、何も思わないの・・・!?

それが本当に貴女の本心なの!?」

 

そんなの悲しすぎるよ・・・!!

愛してる人の為なのは、同じ女として痛いほど伝わって来る!

 

だけど、それだけで汚れを背負い込むのは悲しい事じゃないの・・・!?

 

プロトン・セイバーを振り抜いて、

なんとかシャルロットとの距離を取る。

 

でも、距離は取れたとしても油断は出来ない、

向こうは全身武器庫の様な機体、ミサイル以外にも幾つも火器は残ってる。

 

そして、アウトフレームに残されてるのは、

ビームサイン、プロトン・セイバー、プロトン・スパイカーの近接格闘戦用装備のみ・・・。

 

はっきり言って不利な状況には変わりはない・・・。

 

だけど、やるしかないって分かってる、

絶望視ばかりしてたら、勝てる勝負も勝てなくなるから・・・!!

 

だから、たとえ私の正義が間違っていたとしても、やり遂げる事が責任なの!!

 

sideout

 

sideシャルロット

 

「構わないよ!僕は元から汚れてたさ!!

君みたいなちっぽけなコンプレックスじゃない、大きな汚れがあったんだよ!!

本心からそう思ってなかったら!彼の隣になんかいないよ!!この身体も捧げてないさ!!」

 

そうだ、僕は汚れてる、

愛人の子とかそんなことはどうだっていい。

 

一番の負い目は一夏を騙していた事だ。

 

性別を偽って彼の近くに来て、

データを盗む様に命令されていたから・・・。

 

でも、それは所詮被害者面してただけなのかも知れない、在るわけもない父親の情にすがって、自分を偽って・・・。

 

でも、彼には、一夏にはそんなことは見透かされていた・・・。

 

僕が嘘を吐いていたのも、被害者面してただけだって事も・・・。

 

「でも、それでも彼は僕を受け入れてくれた、愛してくれた!!

だったら!その気持ちに応えて何がいけないの!?」

 

あの時、彼の運命を聞かされた時に、

僕は彼の絶望の深さを見た様な気がした・・・。

 

自分を偽っていても、無意識の内に僕達を護ろうとしていた事にも気付いてた・・・。

 

あの時、彼から離れていればこうならなかったのははっきりと分かる。

 

でも、僕にはそれが出来なかった。

 

一夏の寂しそうに笑ったあの顔が見たくなくて、

ちゃんと笑って欲しくて、僕は彼に着いてきたんだ!

 

その選択を間違いなんて言わせない、

何も知らないで、常識を押し付けるする事しか出来ない奴には!!

 

「君みたいな甘ったれが僕達に口出しするな!!

理想論は紙にでも書いて飾っておけばいいんだ!!

僕達の愛に、君が言える事は無い!!」

 

ヴェルデバスターに残った全砲門を開き、

アウトフレームに向けて一斉に発射する。

 

だけど、アウトフレームは在るわけもない隙間をすり抜け、こっちに向かってくる。

 

どう言うこと?さっきまでと動きが違う・・・!?

 

「ふざけないでよ・・・!一夏が望んでる事は、

そんなことじゃないでしょ!!」

 

sideout

 

side簪

 

シャルロットの言葉は確かに理にかなっている様に聞こえる、

だけど、どうしても私はある単語に拒否反応が出てしまった。

 

確かに、三人の絆に私がどうこう言える立場じゃ無いことは理解している。

 

でも、シャルロットが自分の身を削ってまで戦うことを一夏が本当に良しとしている訳が無い!!

 

彼だって女を愛してる一人の男、

それなら、自分の恋人の身の無事を第一に考えているに違いない!!

 

だから、一夏の為なら自分の身を汚しても構わないって態度が、私は許せなかった!!

 

「一夏が望んでる事は、貴女とセシリアの幸せでしょ!?こんなことに加担させる事じゃない!!」

 

「君に何が分かるの!?ただ寂しさを埋めて欲しくて秋良の傍にいるくせに!!僕達はそんなちっぽけな関係じゃないんだよ!!」

 

「そうだよ!私は寂しさを埋めて欲しくて秋良に近付いたのかも知れない!!でも、それだけならあの時に距離を取ってる!!そうしなかったのは秋良を本気で好きになったからよ!!」

 

そう、最初はシャルロットの言う通りだった、

姉とも分かり合えず、独りで殻に閉じ籠ってた私を連れ出してくれたのは秋良だった。

 

他に友達も少なかったから、彼にその寂しさを埋めて欲しかったんだと思う。

 

でも、それだけだったなら、彼の正体を知った時に距離を置いていたと思う!

 

だから、私が今戦ってるのは、秋良の為なんかじゃない、自分が求める未来の為なんだ!!

 

「良いよ!だったら、僕のこの愛と、君の愛、

どっちが正しくて強いかを賭けて戦おう!!」

 

「望むところよ!!私の全てを賭けて貴女を倒す!!」

 

もう悩まない!愛は、ただ相手に尽くすだけじゃない!!

 

sideout

 

noside

 

雷鳴轟く中、リミッターを解除した二機は、

目まぐるしく動き回りつつも、互いに対して攻撃を仕掛ける。

 

どちらも強く、譲れない信念を持つが故の激闘だった。

 

「ハァァァァッ!!」

 

「タァァァァッ!!」

 

魂の叫びをあげつつも、二機はぶつかり合い、

閃光を走らせた。

 

ヴェルデバスターのハイパービームサーベルが、

アウトフレームの肩部を焼き、

アウトフレームのプロトン・セイバーはヴェルデバスターの肩部ガンランチャーを貫いた。

 

互いに同じタイプの戦法、武装を装備している二人にとっては、相手が次にどの様に動くか等は予想が付けやすく、それがより一層回避率を上げていた。

 

しかし、それでも予測しきれなかった斬撃が、

それぞれの機体の装甲を抉り、傷を増やしていく。

 

(くっ・・・!もうエネルギーが無い・・・!!

後一回激突出来るかどうかかな・・・!?)

 

(もうエネルギーが・・・!バーストモードは使えない・・・!!)

 

彼女達は全く同時に距離を取った。

 

PICで制動をかける事が煩わしいのか、

脚部で地面を抉りながらも速度を落として停止した。

 

機体のエネルギー残量を確認し、次の手を考える。

 

と言っても、互いに使える戦法は限られており、

最早、ビームサーベルでの斬撃でダメージを与える事しか有効な手段が残されていないのだ。

 

(それなら、僕の全てを賭けて、この一撃で決めてやる!!)

 

(もう後がない、一か八か、賭けてみるしかない!!)

 

覚悟を決めた二人は、己が得物を握り直し、

一直線に互いに向かっていく。

 

二機の距離は瞬く間に縮まり、

ほぼ同時にビームサーベルを突き出す。

 

激しくぶつかった切っ先は閃光を散らし、周囲を照らす。

 

一瞬の拮抗の後、耐えきれなくなった柄が砕け散る。

 

シャルロットは残ったハイパービームサーベルを引き抜こうと、左腕を動かす。

 

「まだよッ!!」

 

だが、その隙を突くかの如く、

簪は右腕下部に装備していたプロトン・スパイカーを展開し突き出した。

 

それは吸い込まれる様にシャルロットの鳩尾に突き刺さり、止まった。

 

抉られた装甲が彼女の身体に突き刺さり、

止めどなく血が流れ出す。

 

「は・・・、はは・・・、強く、なったね・・・、君の、勝ちだ・・・。」

 

コアを貫かれたヴェルデバスターを纏ったまま、

シャルロットは笑いながらも地に倒れた。

 

「シャルロット・・・、貴女、わざと私に切らせたでしょ・・・!?どうして・・・!?」

 

アウトフレームを量子格納し、

簪は返り血が付くことも気にすることなく、

シャルロットの身体を抱き起こした。。

 

「優しいんだね・・・、秋良が君を尊敬してるの・・・、やっと、分かった気がするよ・・・。」

 

「どうして・・・、本気で振り抜かなかったの・・・?私の方が、負けてたのに・・・!?」

 

そう、簪は分かっていた、

シャルロットがわざとワンテンポ遅れて腕を動かした事を、そして、自分にわざと身体を貫かせた事も・・・。

 

更に言えば、シャルロットが本気だったならば、

自分が真っ二つに切り裂かれていた事も、簪は理解していた。

 

それ故に、シャルロットの行動が解せなかったのだ。

 

「・・・、それは、一夏が教えてくれるよ・・・、

どうせ、僕はもう、助からないから・・・。」

 

シャルロットの死を覚悟した様な表情に、

簪はいたまし気に顔を伏せる。

 

その際、彼女の頬を涙が伝い、

シャルロットの頬に落ちる・・・。

 

「どうして、泣いてるの・・・?

笑いなよ・・・、君は、憎い敵を、討ったんだ・・・、誇らしい事じゃないか・・・。」

 

「貴女は・・・!敵なんかじゃない・・・!

私達はずっと、ずっと仲間で、友達だったじゃない・・・!その事まで否定しないでよ・・・!!」

 

自身に笑いかけるシャルロットに、

堪えていた感情が溢れだし、涙が止めどなく零れる。

 

どうしてこんなことになってしまったのか、

後悔と困惑が入り乱れた雫は頬を伝い落ちてゆく。

 

「はは・・・、ありがとう、簪・・・、

秋良と、幸せになってね・・・。」

 

「嫌よ・・・!そんな言葉、今は聞きたくない・・・!

ずっと後で、私達の結婚式のスピーチで聞かせてよ・・・!お願いよ・・・、シャルロット・・・!!」

 

僅かに残された力を振り絞り、

笑いかけるシャルロットに対し、簪は涙ながらに叫ぶ。

 

その叫びは、身を切るような切実さが滲み出ていた・・・。

 

(はは・・・、感覚が無くなってきたなぁ・・・、

これが死ぬって感覚なんだ・・・、ま、良いかな・・・、

・・・、一夏、セシリア・・・、大好きだよ・・・、

僕は、先に逝って待ってるよ・・・、だから、安心してね・・・。)

 

ゆっくりと瞼を閉じるシャルロットの脳裏には、

自身に笑いかける愛しき彼の笑みと、

彼の反対側で微笑む盟友の姿が浮かぶ・・・。

 

そうだ・・・、自分はこの幸せの為だけに戦い続けたんだ・・・、喩え自分が汚れようとも、

彼等と共に生きたかったから戦えたんだ・・・。

 

簪の声が遠ざかっていく・・・、

何を言ってるのかは分からないが、恐らくは自分の為に泣いてくれている事だけは確かだろう・・・。

 

道を違えた自分の為に涙してくれる嘗ての友に感謝しつつも、彼女は満ち足りた感情を味わう。

 

もう、あの暖かく、優しい日々には戻る事は出来ない・・・、

だけど、怖れる必要なんてない。

 

愛しき人達を置いていく訳じゃないから・・・。

 

簪の手に握られていたシャルロットの手から力が抜け、

だらりと垂れ落ちた。

 

「シャルロット・・・?嘘・・・、冗談よね・・・?ねぇ、起きてよ・・・!」

 

嘘だ、信じたくないと言う思いを籠め、

簪はシャルロットの身体を揺さぶる。

 

「一夏もセシリアも待ってるのよ・・・!?

三人で一緒に生きるんでしょ・・・!?だから、起きてよ・・・!シャルロット・・・、シャルロット・・・!!」

 

嘗ての友の名を呼び続ける簪の声に、

言葉を返す声は、二度と聴こえる事はなかった・・・。

 

sideout

 





次回予告
彼は何を求め、何の為に戦ったのか、
その答えは何処にあるのか・・・?

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
一夏

お楽しみに。

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