インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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最後の力 中編

noside

 

「行きなさいルーヴィアドラグーン!!私の主様の道を阻む愚かな者に裁きを与えなさい!!」

 

ブルデュエルデーストラが装備するルーヴィアストライカーより、八基のドラグーンが射出され、

雅人のドレッドノートに向けて嵐の如くオールレンジ射撃を仕掛ける。

 

「ドラグーンを得意としてんのは、お前だけじゃ無いんだぜ!!行けよドラグーン!!」

 

雅人の掛け声と共に、亡國企業戦時に装備されたフルアーマードラグーンとは別に製産されたフルアーマードラグーンを装備し、計二十基のドラグーンでセシリアのドラグーンと弾幕合戦を開始する。

 

ドラグーンの数で勝る雅人のドラグーンがルーヴィアドラグーンに襲いかかるが、

性能的にはセシリアが駆るルーヴィアドラグーンの方が断然上である。

 

そのため、僅か八基しか無いにも係わらず、

ドレッドノートが操るドラグーンと互角、否、僅かだがそれを押している様な戦いを繰り広げる。

 

「くっ・・・!!これほどの力を持っているとは・・・ッ!!」

 

「どうされましたか?動きが止まって見えますわよ!!」

 

ドラグーンを操る本人達も縦横に動き回り、

オールレンジ射撃の嵐を掻い潜りながらも相手に向け、ビームを撃ちかける。

 

一見してどちらとも攻撃が当たっていない様にも見えるが、目を凝らして見ると、

所々ビームが装甲を掠めている事が伺える。

 

つまり、彼等は互いの動きを読みながらもドラグーンを操り、その上で攻撃、回避の為に機体を縦横無尽に動かしているのだ。

 

それは並大抵の人間が出来るような真似では無く、

正に選ばれた者だけが為せる神業にも等しい行為だ。

 

しかし、その選ばれた者の中にも当然ながら優劣や力の大小は多少ながらも存在する。

 

その差が浮き彫りになり始めたのか、

セシリアのドラグーンの射撃が、競り合いを続けていたドレッドノートのドラグーンを捉え始めた。

 

「そこっ!!」

 

左肩のラックより抜き取ったスティレットを、

セシリアは雅人目掛けて投擲する。

 

ロケット推進によって加速したスティレットは、迎撃しようと構えたドレッドノートのビームライフルに着弾、盛大な爆発を引き起こした。

 

「うわっ・・・!!くっ・・・!何故だ!!何故これ程までの力を持ちながら、何故一夏の悪行に手を貸すんだ!?」

 

爆発する寸前にビームライフルを捨てた雅人は、

左腕に装備されているシールドからビームサーベルを発生させ、セシリアに迫る。

 

それを察知したセシリアも、リトラクタブルビームガンを格納し、両手にビームサーベルを保持し、彼を迎え撃つ。

 

「悪行?それは何を指しての悪行なのですか?

人殺しがですか?それとも世界を支配しようとしている事ですか?」

 

「両方だ!!お前達がやろうとしてることは、

悪行そのものじゃねぇか!!

人を殺し、人の運命を弄くり回して!!それが正しい行いな訳がねぇだろ!!」

 

ビームサーベルの光刃が互いの機体を掠めるが、

両者はそれでも激突し続けた。

 

「では、私達が行った悪行で、何れ程の人間が救われましたか?救われた人間の方が消された人間よりも多いのではありませんか?」

 

「っ・・・!!」

 

セシリアの言葉が胸に突き刺さった雅人は、

動揺してしまい、自身の左側から飛んできた蹴りをもろに食らい、体勢を崩す。

 

セシリアの言っている事は紛れもない事実だ、

彼等の計画内で消されたのは、ISを使用してガンダムの前に立った者、女尊男卑を推し進める政治家、資産家など一部の権力者だ。

 

一般人には被害はほとんど出ていない、

出ていたとしても、それは以前より威張り散らしていた一部の女尊男卑主義の女である事を、雅人も分かってはいたのだ。

 

所詮、彼は個人的な善悪の感情で彼等の行動を測り、

それに自分が相容れないだけという、子供じみた感情なのだと思い知らされたのだ。

 

「貴方は個人の感情に流され過ぎていますわね、

今一度、その甘さを叩いて差し上げましょう!!」

 

「くっ・・・!!こんなところで・・・ッ!!

俺はァッ・・・!!止まる訳にはいかないんだっ!!」

 

セシリアの光刃が、雅人を切り裂くべく迫る・・・。

 

sideout

 

noside

 

「はぁぁァッ!!」

 

セシリアと雅人の戦場より少し離れた場所にて、

ヴェルデバスターシーストラを纏うシャルロットと、

アウトフレームDフルアーマーライオットを纏う簪が凌を削っていた。

 

両者の装備は非常に似通っており、

パイロットの得意とする戦法も全く同じと言っても過言では無かった。

 

互いに全く同じタイミングでミサイルを発ち、

迎撃としてビームライフルでミサイルを撃ち落とし、

大出力ビームサーベルを振るい、切り結ぶ。

 

「あははっ!!良いよ簪!前より強くなってるね!!

吹っ切れたのかな?それとも、僕が憎いからかな!?」

 

狂った様に笑いながらも、

シャルロットはハイパービームサーベルを押し込み、

簪の体勢を崩そうとする。

 

「シャルロット!!どうしてこんな事をするの!?

貴女は一夏のやることが正しいと思ってるの!?」

 

簪はそれに負けじとプロトン・セイバーを押し返しながらも、シャルロットに向けて叫ぶ。

 

筋力の差を見るならばシャルロットの方が上だが、

簪は力の受け流し方に長けているため、押し込まれる刃の角度をずらす事で拮抗状態に留めている。

 

「僕が戦う理由なんて決まってるよ、

一夏とセシリアと三人で一緒にいるためだよ、

それに、あんな世界、僕は大嫌いだったしね!!」

 

「だからあんな虐殺をしたの!?たったそれだけの理由で!?」

 

然も当然の如く言い放ったシャルロットの言葉に、

簪は我を忘れて猛攻を仕掛ける。

 

拮抗状態から離れ、ミサイルとプロトン・ランチャー、プロトン・ライフルをヴェルデバスターシーストラに撃ちかける。

 

しかし、それを読んでいたかの如く、

シャルロットは全兵装を発射、それらを全て相殺していく。

 

「それだけだよ!僕の信じる正義は一夏への愛だけだよ!それが間違いなんて言わせない!!」

 

「ぐっ・・・ッ!!」

 

爆煙より飛び出したシャルロットの蹴りを回避する事が出来ず、

簪は後方へと大きく吹き飛ばされた。

 

「君だって、変わろうとする世界は分かってるでしょ!?前までの世界を憎んでる人にとっては、君達はそれを邪魔する巨悪だって事をさ!!」

 

複合バヨネット装備型ビームライフルを平行連結し、

その方向を簪が吹き飛ばされた方へと向け、大出力ビームを発つ。

 

「っ・・・!!それでも!人殺しが正当化される訳なんて無い!!貴女は間違ってる!!」

 

スラスターを全開にし、アリーナの外壁に叩き付けられる前に射線上より退避した。

 

直後、アリーナの外壁に大出力ビームの光条が直撃し、巨大な穴を穿った。

 

「貴女もセシリアも、そして一夏も!!

人を殺した事は事実でしょう!!それを正当化なんて出来るわけがないっ!!」

 

「じゃあ人を殺さなくても破滅に追い込まれる人はそのままで良いの!?何もしてないのに殺される人はそのまま死んでも良いの!?」

 

「・・・ッ!!」

 

自身の言葉を即座に否定、それも正論を正論で返された為、簪は言葉に詰まってしまう。

 

そう、確かに殺人は許されない所業なのであろう、

だが、それは日常生活の中での話だ。

 

戦争、革命、大きな動乱が始まってしまえば、

今まで当然の様に送ってきた日常は失われ、

殺し殺されが日常となる。

 

簪が言う正論は日常生活の中では絶大な意味を持つ、

しかし、シャルロットが言う正論は、どの状況でも通用する正論であった。

 

何の云われもない人間が気に入らないという理不尽な理由で牢屋に押し込まれる事も、

冤罪を被る事になったのは歪んだ体制が大きく原因となっている。

 

無論、簪とてそれは理解しているであろう、

だが、人を何の躊躇いも無く殺し、

世界に君臨しようとする彼等の姿への怒りの為に、

そこまで思考が回らなくなっていた。

 

そこに突きつけられた事実は重く、

プロトン・ランチャーを握る手が震え始めた。

 

心の奥に封じ込めていた筈の迷いが再び沸き上がり、

彼女の動きを鈍らせていた。

 

「君は現実から目を逸らしてる!

そんなんじゃ君は僕には勝てない!!」

 

「それでも・・・ッ!それでも私は・・・ッ!!」

 

自身に絶対的な正しさが無いと悟りつつ、

それでも生きるために簪は抗う。

 

たとえ、自分が間違った道を歩んでいたとしても・・・。

 

sideout

 

noside

 

IS学園跡地より少し離れた洋上にて、

一夏と秋良は刀を交えていた。

 

雷鳴と共に金属と金属がぶつかり合うような異音が周囲に響き渡り、不協和音を奏でていた。

 

「ハーッハッハッハッ!!腕を上げたな!だが、

些か力任せだな?それほどまでに俺が憎いか?」

 

ビームブレイドを片手で振るいながらも、

秋良に問い掛ける。

 

「あぁ、憎いさ!!こんな事を仕出かす貴様の行いが!こんな所まで止められなかった俺自身がね!!」

 

スターゲイザーを駆る秋良は、機体の基本装備を今だ使用する事なく、自身が最も得意とする戦法、

一刀流による近接格闘を挑んでいた。

 

鞘も使った連撃はストライクノワールの装甲を掠め、

そのひび割れつつあった箇所を砕いていく。

 

「お前が俺を止められなかったのは、お前の甘さ故だ、お前はそれを分かっているんだろ?

それを棚に挙げて俺を憎むか?実に愚かしい。」

 

「あぁそうさ!俺は自分の甘さを棚に挙げて貴様を憎んだ!だけど、今は違う!!」

 

一夏の言葉に、何の躊躇いも無く言い返し、

秋良は距離を取ってビームライフルを撃つ。

 

「今はあの時の俺の無力が憎い!

貴様の蛮行も俺に取ってはどうでもいい、

俺が気に入らないのは貴様の態度さ!!」

 

「迷いを断ち切ったか、上等だ、ならば心のままに戦おうじゃねぇか!!」

 

ビームを切り裂きつつ、一夏はビームライフルシヨーティーを撃ちかけながらもスターゲイザーに迫る。

 

近接格闘では心許ないと考えたのだろう、

ビームライフルシヨーティーならば、彼が得意とする間合いを維持しつつ、射撃を行えるのだ。

 

しかし、秋良もそれは承知の上、

一夏の攻撃を封じる為に、彼は切り札を切る。

 

「ヴォワチュール・リュミエール!!フルオープン!!」

 

スターゲイザーの装甲各部にある溝が、

金色の光を放ち、周囲に緑色に発光するリングが幾つも現れる。

 

これぞスターゲイザーの特徴的な武装、

ヴォワチュール・リュミエールの真骨頂である。

 

触れる物を切り裂くビームサーベルを機体の周囲に展開させた様な物で、

ビームライフル程度のビーム射撃すら弾く事の出来る、正に結界と呼ぶに相応しい代物である。

 

その結界を展開し、撃ちかけられたビームを弾きながらも一夏へと迫る。

 

「クックックッ・・・、ヴォワチュール・リュミエールか、これは不味いな、ノワールでは手に剰るぜ。」

 

円形のビーム刃の一部が自身に迫ってきているのを察知した彼は、

咄嗟にビームライフルシヨーティーを犠牲にし、

スターゲイザーとの距離を取った。

 

如何に性能の高いストライクノワールとは言えど、

全身に纏われたビームサーベルを潜り抜けて攻撃する事は不可能に近い。

 

「逃がすか!!ここで貴様を仕留めてやる!!」

 

それを知っている秋良は、

一気に攻勢に転じ、ストライクノワールを攻め立てる。

 

「チッ!相性が悪すぎるか、

しょうがねぇ、エネルギーが切れるまで粘ってやるか!!」

 

機体の相性が悪すぎると判断した一夏は、

ヴォワチュール・リュミエール最大の欠陥、燃費の劣悪さを利用し、エネルギーが切れた所を狙う事に戦いの重点を置くことにした様だ。

 

エネルギーが切れてしまえば、

ヴォワチュール・リュミエールの展開は不可能となり、如何にスターゲイザーとは言えどもただの脆い機体へと成り下がる。

 

だが、それは秋良も承知の上、

エネルギーが切れるまでに意地でも彼を落とそうとするだろう。

 

正に苛烈、熾烈な戦いが繰り広げられつつあった・・・。

 

sideout

 





次回予告
何が正しいのか、何が間違っているのか、
答えを出すための戦いに終焉の時が訪れつつあった。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
最後の力 後編

お楽しみに。

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