side真耶
ナナバルクを護衛し、アクタイオン社に戻った私となーちゃんは、一夏君が指定した場所まで向かうため、
こっそりと機体を駆り、空を飛んでいます。
ミラージュコロイドを展開してるので、
バレる確率はそれほど高くは無いと思いますが、
やはりこちらから見えているとなると、
少し緊張するものです。
「まーやん・・・、本当にこれで良いのかな・・・?」
どれぐらい飛び続けた時だったでしょうか、
私の横を飛ぶなーちゃんが、何処か不安げな声で話しかけてきました。
「分からない・・・、でも、アイツが作った世界を変えれるなら、私は一夏君に着いていこうと思ってるよ。」
そう、今までの世界は間違った力で歪められ、
一部の者の私利私欲で構築された世界・・・。
そこに生きて、中心に近い場所で、歪ませた力を持って行動していた私が言うのも可笑しいとは分かってる、自分が犯した過ちも、そして罪も・・・。
だから、私はこの世界を正そうとしている彼に力を貸した、たとえそれが、どれ程の返り血を浴びる事になっても、間違った事をそのままにはしたくなかった。
でも、不安がなかった訳じゃない、
布仏さんが殺された瞬間からずっと思ってること、
彼を裏切れば、次にあんな感じになるのは私だと。
それが怖かったのかもしれない、
でも、それ以上に不気味さもなかった訳じゃない。
彼がやろうとしてることの先、
ISの完全破壊を終えて、そこから先でやろうとする事が全く分からない。
普通に考えれば、自分が頂点に立ち、
世界を思うように動かしていく事が思い付く。
でも、彼はそんなことは興味が無いように、
ただ、世界を変えようとしているだけの様に見える・・・。
それが余計に不気味さを増長させて、
まるで底無しの闇の中にいるかの様な錯覚を覚えます。
でも、それでも構いません、
私の目的はこの世界の悪を正すこと、
それが達成されるなら、彼の動向は二の次でも構わない。
それで良いんだと思ってます。
そんな事よりも、今は迷わない様に飛ぶ事が優先ですよね。
そう思いながらも、私はグリーンフレームを駆り、飛び続けました。
後ろから接近する機体の存在に気付きながらも・・・。
sideout
noside
日本、IS学園跡地。
大戦後、ISへの不信感が高まった事で、身の危険を感じた教員、生徒全員が退職、退学、または国家からの指示で祖国へと戻った為に、休校扱いとなっている。
だが、実際には存在意義と言っても過言ではない程に重要なISが全機、連合に徴集され、アラスカで破壊されてしまったため、閉校同然となっているのだ。
しかし、設備の全ては通常時と全く変わることなく残されていた。
そこに、七機のガンダムが舞い降りた。
ストライクノワール、ブルデュエルデーストラ、ヴェルデバスターシーストラ、レッドフレーム改、ソードカラミティ、フォビドゥンブルー、そしてハイペリオンだった。
「フッ、久しく訪れていなかったが、
随分と寂れた物だな、時代の流れをそのまま体現したみたいにな。」
ストライクノワールを駆る一夏は、
何処か皮肉を含んだ言葉を呟く。
彼でなくてもそう思うことだろう、
時代の最先端、いや、世界その物を作り出したと言っても過言ではない場所、物が時代の荒波に抗えずに消えて行こうとしているのだから。
いや、彼にとってはそんな事など至極どうでも良い事なのであろう、事実、彼の目は既に別のモノに向けられていた。
「さて、ダリル、フォルテ、箒、ラウラ、
最後の宴と行こうじゃないか?
セシリア、シャル、手を出すなよ?」
彼はビームブレイドを抜き放ち、
その切っ先をダリル達に向ける。
それと同時にセシリアとシャルロットに待機する様に指示し、自身はガンダムフェイスを出現させた。
「へっ、待ってたぜ、この時をな!」
「褒美をもらい受けるッスよ!!」
「その全力を私にくれ!!」
「引き戻せぬなら、私に最後の稽古を着けてください、兄貴!!」
四人が四人とも、己の得物を呼び出し、彼に向けて迫る。
その気迫は、まるで自分が一夏を討ち取ってやると言わんばかりのものである。
「来い、お前達に俺の本気を刻んでやる!!」
一夏はビームブレイドを振るい、
ダリルのシュベルト・ゲベールと切り結ぶ。
「フッ、腕を上げたな、以前より振りが良くなっている!」
口許を愉悦に歪めながらも、シュベルト・ゲベールを弾き、ソードカラミティの腹部に蹴りを入れ、吹き飛ばす。
間髪入れずに飛び掛かってきたフォビドゥンブルーのトライデントを、
ビームを切ったビームブレイドで受け流し、
その背中を蹴り、援護しようとしていたハイペリオンに迫る。
ラウラは向かってくるストライクノワールにザスタバ・スティグマトを向けようとするが、それより早く、一夏が彼女の懐に潜り込み、殴打を叩き込む。
よろけたハイペリオンを足場に、タクティカルアームズⅡLを構えて向かってくる箒に対し、
シュベルト・ゲベールを呼び出して斬りかかる。
「良いぞ箒、タクティカルアームズⅡLを見事に使えているな、それでこそだ。」
「ありがたい限りだ、この力、今こそお前に示そうではないか!!」
嬉々として振るわれる刃を受け止めながらも、箒は自身の内側で心が昂っていく事を自覚する。
自身よりも遥かに強い男の本気を、
今その身で感じている。
恐怖が興奮に掻き消されているためか、
彼女は防御をかなぐり捨て、彼に突進していく。
「アタシを忘れて貰っちゃ困るぜ!!」
箒との拮抗状態から離れた一夏に、
ビームブーメランを左手に保持し、シュベルト・ゲベールと二刀流で構えたダリルが突っ込んでくる。
「見事な判断だ、だが、その程度で俺を落とせると思うなよ!」
「くっ・・・!やっぱ強ぇよ、お前は!!」
自身が攻めているにも関わらず、
押され始めている事に気付きながらも、彼女は嬉々として一夏に向かっていく。
「私もいるッスよ!!盟主殿!!」
フォルテはスーパーキャビテーティング魚雷を発射しながらも、フォノンメーザーを発射、
それと同時にトライデントを構え、一夏に迫る。
その勢いは捨て身も同然、
勝てないと悟りながらも格上の相手に挑む。
一夏は撃ちかけられるビームや魚雷をシールドを呼び出すことで防ぎ、トライデントにシールドを貫かせ、
フォルテにビームブレイドの斬撃を喰らわせる。
「はぁっ!!」
ビームナイフを二本保持し、
ハイペリオンを駆るラウラは烈迫した気迫と共に一夏へと迫る。
ヴォーダン・オージェも開放し、
普段以上の反応速度を持って一夏へと迫る。
フォビドゥンブルーに攻撃した隙を突かれた一夏は、
ストライクノワールの右肩部アーマーに直撃を許すも、それ以上の機体の破損はさせない。
ラウラを蹴り飛ばし瞬時にI.W.S.P.に換装、
コンバインドシールドでガトリングガンの連射を浴びせかける。
ラウラは左腕のアルミューレ・リュミエールを展開し弾丸を防ぐが、一夏はそのまま接近、
シールドの発生着に対艦刀を突き立てた。
「くっ・・・!流石は兄貴・・・!
私なんかよりも、ずっとお強い・・・ッ!!」
「腕を上げたようで何よりだ、もっとも、今日が最後なんだがな!!」
最後という言葉の意味は分からないが、
一夏はラウラの腹部、鳩尾を殴り、盛大に吹き飛ばし、校舎に叩き付ける。
空中4メートルにて弾き飛ばされたため、
ハイペリオンは二階部分に直撃、
校舎に巨大な亀裂が走る。
「グ、ハァ・・・っ。」
激突の衝撃があまりにも強烈だったためか、
彼女は壁にめり込んだまま動かなくなった。
「ハァァッ!!」
そんな事は御構い無しと言わんばかりに、
箒のレッドフレーム改がヴォワチュール・リュミエールを展開し、超高速で彼に迫る。
「ハッ!!」
一夏はそれをモノともせずに、
対艦刀で逸らし、同時に峯でレッドフレーム改を叩き飛ばす。
「がはっ・・・!!」
ラウラと同じ様に、箒も校舎に叩き付けられる。
それに追い撃ちをかけるかの如く、
一夏はレールガンを発射する。
「ぐぁぁぁっ!!」
直撃する直前になんとか逃れるが、
着弾時の爆風で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「どうした!!もう御仕舞いか!?」
「ま、まだだぁっ!!」
一夏の叫びに応える様に、
箒はガーベラストレートを構え、突撃する。
彼女の渾身の突きを紙一重で回避、いや、頭部装甲の一部を抉られながらも、箒の鳩尾に殴打を叩き込む。
「がはっ・・・、アァァァ・・・ッ!!」
吹き飛ばされた箒は、校舎を砕きながらも吹き飛ばされ、海に落ちた。
「余所見してんじゃねぇぞ!!」
「私達もいるッスよ!!」
彼の背後より、ダリルとフォルテが己の得物を構え、
一夏の首を掻き斬ろうと迫る。
「分かってるさ!」
一夏は振り向く事なくI.W.S.P.をパージ、
キャリバーンストライカーに換装し、
I.W.S.P.をシュベルト・ゲベール改で突き刺し、フォルテを狙う。
「なっ!?」
まさかの攻撃に回避する事が出来ず、
機体への直撃を弛し、大きく後方へと突き飛ばされ、
アリーナの外壁にまで弾き飛ばされ、叩き付けられる。
しかも当たり所が悪かったのか、
フォルテは地表に倒れ込み、動かなくなった。
「へっ!やっぱり最後はアタシと一騎討ちか!?
デートに誘って貰った気分だぜ!!」
「アンタなら歓迎したい所だな、だが、
今は俺を殺れる想像でもしてろ!!」
ダリルはシュベルト・ゲベールを二刀流で保持し、
一夏はシュベルト・ゲベール改、そしてカラドボルグを保持し、凄絶な斬り合いを行う。
あまりの剣撃の応酬に、
周囲に衝撃波が発生、二人が足場としている地面が徐々に凹み、陥没していく。
何度目になるかも分からぬ激突の直後、
一夏とダリルは弾き合うように離れ、空中に飛び上がる。
「オォォォラァァァァッ!!」
「ガァァァァァァッ!!」
獣の咆哮とも取れる叫びをあげ、
トリコロールと赤橙色の機体は速度を上げながらぶつかり合う。
シュベルト・ゲベール改の斬撃がアリーナの外壁を抉り、
カラドボルグの斬撃が瓦礫を、粉塵を焼く。
シュベルト・ゲベールの斬撃はストライクノワールの装甲を掠め、その機体に傷を増やしていく。
そんなモノを気にも止めず、一夏はシュベルト・ゲベール改を振り抜く。
疲労により、衰えを知らぬ彼の斬撃を受け止め切れず、遂に盛大に吹き飛ばされ、寮の壁に叩き付けられる。
「がはっ・・・ッ!!や、やっぱ強ぇよ・・・、一夏・・・!」
苦悶の表情を浮かべながらも、ダリルは何処か満足げに笑った。
悔いは無い、まるでそう言っている様だった・・・。
「お前の力、見事だった、これで悔いは無いな?」
「へへっ・・・、あぁ、無い。」
自身の前に降り立つ一夏の問いに、
ダリルは何の躊躇いもなく言い切った。
「分かった。」
彼は短く答え、シュベルト・ゲベール改を振りかぶった・・・。
sideout
noside
一夏達がIS学園跡地にて同士討ちを始める30分前、
アクタイオン社にて、秋良達は出撃の準備を行っていた。
一夏から届いた一通のメール、
それにはただ簡潔に、IS学園があった場所で待つとだけ書かれていたのだ。
その文面を見た彼等は、すぐに一夏の意図を察した。
彼は自分達を呼び寄せ、そして叩き潰す事で自身の目的を果たそうとしているのだ、と。
これが最後の決戦になる、
考えなくとも判る事柄に対する臆面も見せず、
四人は準備を急いだ。
特に、スターゲイザーでの初陣となる秋良は、
かつての愛機、ゲイルストライクに搭載されていた装備の幾つかをバッスロット内に積み、他の三名よりも明確な意志が籠った強い瞳を、ここにはいない一夏に向けていた。
「PIC出力調整完了、VL出力良好、
各武装格納、機体とのマッチングクリア、システムオールグリーン、スターゲイザー、出撃準備完了。」
カタパルトに移動しながらも、
秋良はスターゲイザーの最終調整を行っていた。
最強と名高い一夏との命を賭けた最後の戦いだ、
半端なメンテで水を射される訳にはいかないからだ。
「準備は良いかい?これが最後の出撃だ、
全員でまたここに戻ってこよう。」
「当然だぜ、俺はまだやりたい事はいっぱいあるんだ、こんな事で死ねるかよ。」
「そうね、雅人と生きるためにも、私も生き残るわよ。」
「秋良、発進の号令、お願いね。」
雅人、楯無、そして簪は、彼の言葉に笑って頷く。
彼等の表情にも迷いの色は見えず、
前に進んでいく意志が見てとれた。
「分かった、これよりガンダムチームは裏切り者、織斑一夏とその一派を討伐するために出撃する、
この作戦は全員の生還をもって成功とする!」
『了解!!』
全員との通信を切った後、彼は目を閉じた、
何か感慨深げな、否、心を落ち着けている様な雰囲気を醸し出している。
『進路クリアー、スターゲイザー、発進どうぞ!!』
出撃の許可するアナウンスが彼の耳に届き、
秋良はカッと目を見開く。
「織斑秋良、スターゲイザー、行きます!!」
決然たる意志を乗せた純白の機体は大空へと飛び出し、その先に待ち受ける戦場へと向かっていく。
そこに何があるのかは分からぬままに・・・。
sideout
次回予告
分かたれた兄弟の道が、
戦場にて再び交錯する
次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
最後の力 前編
お楽しみに