インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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真の狂気 後編

noside

 

空母や巡洋艦より発進したISの機体数は、

全世界に残存するコアの総数とほぼ同じ数だった。

 

リヴァイヴや打鉄といった量産機を中心に組織されているが、

中には軍用機、トライアル機体もちらほらと見受けられる。

 

それはまるで、総力戦とでも言うような気合いの入れようだと言える。

 

空を埋め尽くさんばかりに展開したIS達は、

陣形を組むことすらせずに、我先にと目標を目指した。

 

しかし、そう易々と落とされるほど、

一夏側も愚かでは無い、

直ぐ様拠点より無数のダガーが出撃し、IS部隊に対して攻撃を仕掛ける。

 

その光景を見たIS連合のパイロットは、

一様にやはりかという様に表情を歪めた。

 

織斑一夏は自分達を蹴落として世界を支配しようと目論んでいる、ならば自分達が奴を殺せば、

再びISの天下が訪れる。

 

そう考えた彼女達は、

ダガーから撃ちかけられる光条を回避しつつ、

拠点へと突き進んでいく。

 

自分が憎き敵の首を取る、

どす黒い感情を剥き出しに、彼女達は機体を駆った。

 

sideout

 

side秋良

 

始まったアラスカ攻防戦(命名俺)を、

俺達はアクタイオン社のブリーフィングルームのモニターで見ていた。

 

俺達は一夏達と敵対しているとはいえ、

IS連合に与している訳でも無い。

 

だからこの戦いは傍観し、

どうなるのかという見極めをしているんだ。

 

ちなみに、この映像は全世界に向けて放送されている訳では無く、

何のつもりか、アクタイオン社のみに流されている。

 

自分達が攻め落とした拠点をアジトとしている事も理解出来ないけど、

何をしようとしているのかも全く分からない。

 

わざわざ敵に自分が潜伏する所在を明かすような真似をしたのだろうか。

 

「これ程の戦力・・・、一夏達でもキツいんじゃ無いのか?

包囲されればガンダムでも勝てないと思うがなぁ・・・。」

 

「さぁねぇ・・・、ただ、何も分からない・・・。」

 

雅人の懸念も疑問ももっともな事だろう、

ガンダムを最強たらしめているのは、

確かに性能、そしてパイロットの力量に依る物が大きい。

 

つまり、物量で攻められれば流石のガンダムでもかなりキツいだろう。

 

それは奴も理解している事だろうに、

それなのに、奴は自分の手の内を明かし、

敵を呼び込んだ様にも見える・・・。

 

待てよ・・・?

 

敵を引き付ける為にわざと呼び込んだのだとしたら?

 

その為に目立つ場所を選んで、

誘き寄せる為の物だとしたら・・・?

 

誘き寄せて一気に叩く、

戦術の中でも基礎に入る戦術なんだけど、

それには絶対的な兵力が必要になる。

 

しかし、今の戦力の差は然程無く、

むしろ拮抗していると見ていい。

 

そんな状況で誘き寄せるならば、

もうひとつ策が必要になってくる。

 

そう、例えば敵の戦力をまるごと奪い取れる様な・・・。

 

「・・・ッ!?まさか、それが狙いか・・・!?」

 

sideout

 

side一夏

 

クックックッ・・・、

憐れな雌豚どもめ・・・。

 

俺の策を知らぬまま、わざわざ死にに来てくれた様だ。

 

拠点から11㎞離れた地点で、

俺はセシリアとシャルと共に双眼鏡で戦闘を眺めていた。

 

あの拠点にそれほど重要な意味は無い、

むしろ、ただ敵を引き付けるためだけの囮だ、

本命の起爆スイッチは、俺の掌にある。

 

「クックックッ・・・、最低でも八割は誘い込みたいモノだな、

でなければ、後々取り逃がす獲物も少なくて済む。」

 

「それはよろしいのですが、本当に私達が出なくともよろしいのですか?」

 

「ラウラ達を信じてない訳じゃ無いけど、

僕達が出た方が手っ取り早いよ?」

 

俺の拳に握られたスイッチを見ながら、

セシリアとシャルは俺に問いかける。

 

確かに仲間、いや、同志を信じたいとは思うが、

果たしてこれから起こる光景を見ても着いてこようと思うかは別だ。

 

しかし、そんな事はどうでもいい、

協力するならばそれで良い、

裏切るならば消せば良い、ただそれだけだ。

 

「裏切るならば裏切れば良い、だが、アイツらがそれをするか?

アイツらも知ってるんだよ、もう前の世界には戻れねぇって事をな?」

 

そう、戻れるならば抗うなりなんなり出来る、

だが、戻れないのならば、流れに身を任せるなり、

その流れに乗って更に進む以外道は残されない。

 

それにアイツらはこの世界に半ば失望している、

だから俺に着き、世界を壊すこともいとわなかった。

 

ならば俺はその意志を汲み取り、

アイツらが望むようにしてやればいい。

 

「それに知ってるか?人間てのはスイッチを押し込むだけで、簡単に死ねるんだぜ?」

 

そして、俺も俺の思うがままに事を運ぶだけだ、

それがどんな結末をもたらそうともな。

 

その時、今まで聞こえて来たモノよりも、

一際デカイ爆音が響き渡った。

 

恐らくはメインゲートが破られたのだろう、

ダガーは性能を落とし、わざと攻撃しかしないようにプログラミングしてある。

 

所詮は無人機、幾らでも替えは効くし、

こういう策にはうってつけの駒だ。

 

それに、ダガーも後の世には遺しておく訳にもいかないしな・・・。

 

「もう少しだ、地獄を見るのはな・・・?」

 

sideout

 

noside

 

メインゲートを破ったIS連合の一部は、

拠点内に侵入、次々に重要と思える設備を破壊していった。

 

今の所、織斑一夏や他のガンダムは姿を見せていない、

しかし、この拠点内の何処かにいるはずだ。

 

これだけ破壊活動を行っているのだ、

黙って傍観などしている暇でもなくなるだろう。

 

そう思い、彼女達は更に奥へと進んで行った。

 

その先に何が待ち受けているのかも分からぬままに・・・。

 

 

一方、拠点外部でダガー郡を相手にしていた機体達も、

次々に無人機を葬り、拠点内に侵入しようとしていた。

 

ほとんどのパイロット達は、周りの勢いに便乗し、

拠点の内部へと機体を駆った。

 

しかし、その中でもごく僅かな者達、

国家代表の中でも特に腕の良いパイロット達は、

あまりにトントン拍子に進む戦局を不審に思い、

何かの罠かとも警戒し始めていた。

 

しかし、周囲の機体の勢いに逆らう事は出来ず、

自分達もその流れに乗る事しか出来なかった。

 

だが、そこで気付くべきだったのかもしれない、

それが何者かによって引き起こされた、最悪のシナリオの一部なのだと・・・。

 

sideout

 

noside

 

「そろそろか・・・、各員に通達、

これよりサイクロプスを起動させる、

巻き込まれない位置まで退避、及び待機せよ。」

 

先程よりも更に2㎞離れた地点で、

一夏は待機しているガンダムに通信を入れる。

 

IS同士の通信では無く、

端末同士の通信の為、傍受される恐れは無い。

 

指先でスイッチのカバーを上に弾くように開け、

ボタンに指を置く。

 

「この尊き犠牲が新世界への幕開けになる、

俺が望む世界のな・・・。」

 

彼は目を閉じ、感慨深げに呟いた。

 

まるで、その瞬間をずっと待っていたと言わんばかりに・・・。

 

「さぁ、目覚めろよサイクロプス!!

その力を存分に振るえ!!」

 

目を見開き、高らかに宣言しながらも、

彼はスイッチを押し込んだ。

 

sideout

 

noside

 

獲物を独占しようと、全機体に先駆け、

拠点内最深部に近付いていた機体に異変は起こった。

 

突如、ブンッ・・・と短い唸りをあげたかと思うと、

次の瞬間には全てのモニターが一瞬の内に切れ、PICも停止し床に膝まづいた。

 

パイロットの女性は慌てて計器を見ようと必死になった、

しかし、モニター投影型計器を採用していたISでは、

その行為すら出来ない。

 

まさかエネルギー切れ?

彼女はそう思ったが、エラーサイン一つ無く全てのモニターが死ぬなんて有り得ない・・・。

 

そこまで考えた時、彼女は自身の身体が圧迫される様な違和感を覚えた。

 

いや、違う、

圧迫されているのでは無い、身体が膨れ上がっている為、ISスーツが押し留めようとしているのだ。

 

恐怖のあまり、叫びをあげるが、

その間にも喉元まで内臓が競り上がってきている。

 

次の瞬間には、彼女の身体は弾け、鮮血が噴き出した。

 

何がどうなっている!?

 

そう考える間もなく、彼女の思考は途切れた。

 

サイクロプス、

ギリシャ神話に登場する一つ目の巨人の名を持つその恐るべき兵器。

 

その概要は、強烈なマイクロ波を発生させ、

精密機械を停止に追い込み、なおかつ水分を瞬間的に加熱、沸騰させる事で蒸発の勢いを高める、

謂わば、超強力な電子レンジなのである。

 

その結果、水蒸気が皮膚を突き破る事で、

人間をはじめ、体内の半数以上が水分で構築されている生物はたちまち破裂してしまう。

 

また、弾薬や燃料にも影響を与え、

ISを誘爆させる効果も兼ね備えている。

 

しかも核爆発の様に環境に与える影響は極めて少なく、自爆するにはうってつけの兵器となってしまっている。

 

そのあまりにも強烈で、残忍な兵器を、

一夏は躊躇うことなく使用したのだ。

 

サイクロプスは最初の一基を中心とし、

次々に起動、その効果範囲を円形状広げていく。

 

既に最深部付近まで来ていた者達は、

後方にいる味方に警告を発する間もなく消えていく。

 

漸く異変に気付いた後続機は、

顔面蒼白になりながらも必死に機体を駆り、

サイクロプスのマイクロ波から逃れようとした。

 

しかし、中には青白く揺らめく死神の手に捕まり、

墜落、爆散していく機体もあった。

 

いや、逃れた機体の数よりも、死神の手に捕まり、

鉄屑へと還った機体の方が圧倒的に多かった。

 

爆心地は巨大なクレーターと化し、

周囲から海水が流れ込み、加熱された大地を急速に冷やす。

 

その影響により、上空では狂おしい程にまでの美しさを発つオーロラが乱舞していた・・・。

 

sideout

 

sideラウラ

 

『各機に通達、敵残存機を殲滅せよ、一機たりとて逃がすな。』

 

兄貴の指示を聞き、サイクロプスの範囲外で待機していた私達はミラージュコロイドを解除、

生き残った敵に対して攻撃を始めた。

 

既に敵の9割以上がサイクロプスによって殲滅され、

ISコアも殆どが機能を停止、起動不可能な状況に陥っている。

 

いや、それだけでは無い、

生き残った敵のパイロットも、精神的なダメージを受けているだろう事は一瞥しただけで察する事が出来る。

 

私とて、やるべき事は分かっている、

だが、流石にここまでする必要があったのだろうか?

 

世界に対する生け贄とは言えど、

こんな事が本当に正しいのだろうか・・・?

 

分からない、しかし、やるしかない・・・。

 

さもなければ、私が消されるから・・・。

 

「すまない・・・!怨むなら、私を怨め・・・!!」

 

精神的なダメージにより、動く事すらままならない敵に向け、私はフォルファントリーを発つ。

 

彼女達は避ける事すらままならず、

爆散する機体と運命を共にしていく。

 

当然、断末魔の叫びも時折私の耳に届き、

次の瞬間には消えて聞こえなくなる・・・。

 

どうして、こんなことになったんだ・・・?

 

兄貴・・・、本当にこれが正しいのですか・・・?

 

sideout

 

noside

 

それから一時間もしない内に、

サイクロプスから逃れたIS連合の機体は残らず殲滅された。

 

当然、コアを破壊する様に攻撃されているため、

パイロットは勿論、IS自体の機能も完全に停止した。

 

「クックックッ・・・、上出来だな、

ラウラ達は上手くやってくれた様だぞ?」

 

双眼鏡で戦況を傍観していた一夏は、

何処か楽し気に呟いた。

 

まるで、自身の想像がそのまま現実になった事を喜ぶかの様にも見える。

 

「そうですわね、ですが、本当の目的はこれからでしょう?」

 

「そうだね、僕達の望みはこの先に待っているんだから。」

 

ラウラ達が裏切らなかった事に安堵したのか、

セシリアとシャルロットは何処か満足そうな表情を見せるが、それは一瞬の内に消え、次の目標を見据えた者の表情を作った。

 

「そうとも、俺達はまだやるべき事がある、

次の手に移ろうじゃないか。」

 

一夏は高々と手を掲げ、宣言する。

 

その時、敵機殲滅を終えた箒達が一夏の方へと戻ってきた。

 

「盟主、たった今終わったぞ。」

 

「ご苦労、早速で悪いが移動するぞ、

ここに残るわけにはいかんのでな。」

 

箒が報告を終えるやいなや、

彼はストライクノワールを展開し、飛び立っていった。

 

他の者達も彼に倣うかの様に機体を展開、

後を追って飛翔する。

 

この日、彼等の計画は更に一段階進んだのであった・・・。

 

sideout

 

 




次回予告

一夏の蛮行に憤る秋良の前に、
純白の機体が姿を現した。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
星を見る者

お楽しみに

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