インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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誰が為に

side雅人

 

IS戦争が終結して、既に一週間が過ぎた。

 

スコールを撃墜した後、俺は海に沈んでいたため、

戦争の実質的な終結は見届けていない。

 

だが、簪からの又聞きで、篠ノ之 束と織斑千冬の死を知らされ、

秋良のゲイルストライクが撃墜されたと教えられた。

 

はじめは何の冗談かと我が耳を疑った物だ、

何故千冬が殺されてるんだ?

何故ゲイルストライクが墜とされたんだ?

 

何がどうなっているのかが分からないまま、

誰がそんな事をしたのかを、

俺は簪に問い掛けた。

 

いや、聞くまでも無かったのかもしれない、

俺達の中で率先して敵を、そして裏切れば味方をも殺しにかかる奴なんて、

一夏やセシリア、それにシャルロットしか思い浮かばない。

 

そして、ナナバルク付近に戻ってきていたのは他でも無い、

織斑一夏だけだ。

 

いかに裏切った奴が相手とはいっても、

実の姉を何の躊躇いもなく殺せるなんて・・・。

 

アイツならやりかねない、いや、確実にやると分かっていても、身近な人物があっさりとそう言う事が出来ることに、俺は背筋が寒くなるような思いを抱いた。

 

一夏・・・、お前は何がやりたいんだ?

何がお前をそうさせたんだ・・・?

 

自問自答しようとも、俺なんかが頭を使ったところで何かが分かる訳も無く、ただ、時間だけが過ぎていった・・・。

 

sideout

 

side楯無

 

国家からの干渉をなるべく避けるため、

私達は一時アクタイオン社に身を隠す事になった。

 

セキュリティも嫌な位厳重だし、

攻めて来られたとしてもガンダムタイプの力があれば敗けはしないと思う。

 

それは別に気にする事じゃ無い、

私達が今、一番考えなくちゃいけない事が二つある。

 

一つは一夏君が何かを企んでいると言うことだ。

 

何をするかなんて見当もつかないけど、

恐らくは私達が望まない事なのはおぼろ気ながらに想像できる。

 

もう一つに、一夏君達と私達の戦力比。

 

あの戦争が終わった後、一緒にナナバルクに乗っていた筈のメンバー、秋良君、雅人、簪ちゃん、鈴ちゃん、私を除いた九人が忽然と姿を消した。

 

何かの間違いかと思って何度も艦内を探してみたんだけど、

誰一人として見付からなかった。

 

恐らくは、一夏君に着いて何処かに行ってしまったんだと思う。

 

この戦争で、誰が正しいのか、誰が間違っていたのかなんて考えずに、ただ護りたいモノがあったから、

私はがむしゃらに戦った。

 

だけど、他の皆は何を考えていたの?

ダリルちゃんは?フォルテちゃんは?箒ちゃんは?ラウラちゃんは?ファイルス先生は?山田先生は?

皆は一体何を考えてこの戦争に参加していたんだろうか・・・?

 

分からない、分からないから余計に気持ち悪くなってくる。

 

でも、今は何かに備える事しか出来ないと思うの、

私の中の何かが、ひっきりなしにそう警鐘を鳴らしているから・・・。

 

(これから先、もう一荒れ来るわね・・・。)

 

sideout

 

noside

 

照明が殆ど落とされ、

通路の蛍光灯の灯りしか内部を照さない格納庫の一角に、

中心を砕かれた紅の機体、ゲイルストライクの残骸がひっそりと佇んでいた。

 

コアを砕かれた為に、

起動する事はおろか、修復すら不可能となってしまったのだ。

 

そんな機体の前で、

ゲイルストライクのパイロットである秋良は、

膝を抱えて踞っていた。

 

実の姉が、実の兄の手によって殺される場面を見せつけられた上に、

機体を墜とされた二つの痛みに、彼は打ちひしがれていた。

 

どうしてこんなことになってしまったのか?

一夏は自分を利用していたのか?

 

最初から、自分の事を弟とすら思っていなかったのではないか・・・?

 

そんな負の感情が、彼の胸の内で渦巻き、

更にその痛みが彼を苦しめていく。

 

彼の心に、絶望が広がっていく。

それを彼自身が解決する事が出来ないのである。

 

「秋良・・・。」

 

そんな彼の様子を、格納庫の入り口付近で痛ましげに覗いていた雅人は、

非常に苦い想いを持て余しながらも彼の名を呟いた。

 

その表情から察するに、

苦しんでいる友人に何もしてやれない自分の無力を呪っているのであろう。

 

「どうするかなぁ・・・、俺、こういうの苦手だしな・・・。」

 

何とかして立ち直らせてやりたい、

だが、兄弟間の不信感を拭ってやる事は、彼にも難しい事であろう。

 

彼もまた、自分の不甲斐なさに落ち込みかけた時だった・・・。

 

「私が行ってくる、雅人は手を出さないでね。」

 

何処からともなく簪が現れ、

雅人の隣を通りながらも秋良へと向かって歩いていく。

 

そんな彼女の姿に、雅人は自分とは違う頼もしさ、

そして力強さに驚きながらも、簪の背を見送った。

 

「秋良、何をしてるの?」

 

踞る秋良に近寄った彼女は、

彼の肩に手を置きながらも優しい声色で話しかけた。

 

何もかも聞くという、

簪の心が籠った一言であると言えよう。

 

「・・・、すまない、今は独りにしてくれ・・・、

俺と一夏の問題なんだ・・・。」

 

だが、秋良は簪の手を無視し、

膝を抱えて踞り続けた。

 

まるで関わらないでくれた方が嬉しいと言わんばかりの態度だ。

 

「秋良、貴方にそんな顔は似合わないわ、

笑ってよ、何時もと同じ様に、ね・・・?」

 

「うるさい・・・!!」

 

そう言って、彼の顔を覗き込もうとした簪の手を、

秋良は大きく払い除け、声の限り叫んだ。

 

「簪に何が分かるって言うんだよ・・・!!

俺の気持ちなんて・・・!!」

 

分かる訳が無いと続けようとした秋良の言葉は、

簪の平手打ちによって遮られた。

 

「・・・!?か、簪・・・?」

 

頬の痛みで頭に上っていた血が引いたのか、

秋良は我に返り、簪を見る。

 

「分からないよ・・・、分かる訳ないじゃない!!

何も話してくれないのに、何も分かんないよ!!」

 

「・・・ッ!!」

 

簪の瞳に涙の粒が滲んでいる事に気付いた彼は、

自身の未熟さと愚かさを憎んだ。

 

勝手に自分独りで抱えて、堂々巡りに陥って、

そして、自分を心配してくれていた人に当たったのだ、

悔いない筈は無い。

 

「だから・・・、私に話してよ・・・?

それとも、私じゃ頼り無いの・・・?」

 

「そんな事は無いさ・・・、ありがとう、

それと・・・、ゴメン・・・。」

 

身長差がありながらも、自分の頬に触れてくれる簪の手を取り、秋良は彼女に微笑みかける、

もう大丈夫だから、と。

 

「やっぱり・・・、俺は焦ってたのかもね・・・、

一夏のやることが分からないから・・・、

でも、今は良い、分からなくても、自分の出来る事だけやれば良いって、簪に教えてもらったからね。」

 

「うん、それでこそだよ、秋良。」

 

笑いかける秋良に、

簪は涙を浮かべながらも笑い返す。

 

大丈夫、貴方の傍には私がいるんだ、というかの様に。

 

「まだ落ち着いたとは言えないから・・・、

後でゆっくりこれからの行動を考えよう、

アイツが動いてからでも、止める事は出来るんだ。」

 

「うん、まだ、私達が動く時じゃない、そうだよね?」

 

「あぁ、悪いけど、それまでは耐えてくれ、簪。」

 

「もちろんだよ、秋良。」

 

互いに頷きあった後、

二人は手を繋ぎ、格納庫を後にした。

 

sideout

 

noside

 

「やれやれ、簪には勝てねぇなぁ・・・。」

 

秋良と簪の会話を途中まで覗いていた雅人は、

彼等に気取られない様に格納庫から離れ、

苦笑しながらも通路を歩いていた。

 

自分が躊躇ってしまい出来そうも無いことを、

簪はやってのけた。

 

その事に嫉妬した訳では無い、

寧ろ、純粋に簪の事が凄いと、彼は改めて実感したのだろう。

 

「何満足そうな顔をしてるのよ?可笑しな人ね。」

 

「やかましい、お前の妹に負けた様な感覚になってるだけさ。」

 

通路を歩いていく内に、

ばったりと楯無に出会した。

 

からかう様な笑みを浮かべながらも、

何処か誇らしげな表情だった。

 

「やっぱり、秋良の心を開くのは簪の役目だったんだよ、

俺やお前じゃなく、な?」

 

「そんな事、最初から分かってたんじゃ無いの?」

 

「どうだろうな?」

 

楽しそうに語りかける楯無に対し、

彼は肩を竦めて笑ってみせた。

 

「ま、秋良はもう大丈夫さ、俺が気にする必要も無いな。」

 

雅人は楽しげに呟きながらも、

楯無と肩を並べて歩き始めた。

 

「俺達がやらなければいけないのは、

何がなんでも生き残る、だろ?」

 

「そうね、何があっても、ね。」

 

確固たる意志を持ち、二人は頷きながらも歩き続けるだろう。

 

この先に、どれ程の波乱が待ち受けていようとも・・・。

 

sideout

 

noside

 

秋良達が各々の道を見付けていた頃、

アラスカ、元亡國企業実働部隊拠点・・・。

 

「一夏、本当にやるのね・・・?」

 

接岸されたナナバルクから降りながらも、

アクタイオン社技術部主任、エリカ・シモンズは、

隣を歩く、織斑一夏に恐る恐る問いかけた。

 

「当然です、世界は再び揺れ動いた、

この期を逃せば我々がやって来た事が無に帰す事となる。」

 

その問いを、彼は然も当然と言った風に返しながらも、

拠点内に入っていく。

 

「もう後戻りは出来んさ、

貴女にも分かっている筈だ、今こそ仕掛ける時なのだとね。」

 

通路を歩きながらも、彼はエリカに対して言葉を紡いでいく。

 

「マティスやルキーニが集めた情報に、

セシリアが入手した情報を統合すればこちらの正当性は約束されたも同然、

ミナにもスピーチの準備をさせている、

一族の力を使っての情報操作も抜かりは無い、

そうとも、世界は俺に動けと命じているのさ。」

 

「本当にそれで良いのかしら・・・。」

 

迷いは無いと言い切る一夏とは対象に、

エリカはその表情を曇らせながらも、

再び彼に向けて呟く。

 

「既に都市部ではISに対する抗議運動が興っている、

いい加減に分かったんだろうさ、この世界の惨状がね、

マトモな政治家が少ない今、誰かがやらなければならないのさ、そう、賽は既に投げられ、どういう目を見せるか、なのさ。」

 

強い眼光をたたえ、口許を三日月形に吊り上げながらも、

彼はエリカから渡されたデータに目を通す。

 

円形の様な物体が幾つも犇めく様に配置され、

何かを示すように文字や記号も表示されていた。

 

「作業はどれぐらいで終了しますか?

それに合わせて例の放送を流そうと思っているのですが?」

 

「最低でも後3日は確実に必要ね、それまでは待って貰えないかしら?」

 

「了解した、俺はマティスとの打ち合わせをしてくる、

作業の方はお任せしました。」

 

作業期間を聞いた後、一夏はエリカと別れ、

コントロールルームに入り、キーボードを叩く。

 

何処かと回線を開いたのか、

モニターにウィンドウが開き、ウェーブのかかった黒髪を持った、いかにも自信家そうな女性の顔が映し出された。

 

『久し振りね御大将?そっちの準備はどうかしら?』

 

彼女の名はマティス、

アクタイオン社情報部に協力している組織、一族の長である。

 

情報を操り、世界に対してアプローチをかける事を至上の喜びとしているため、一夏の計画に二つ返事で協力を申し出た。

 

「久しいなマティス、こっちは後3日はかかるそうだ、

情報の再収集及び、世論操作を引き続き行って欲しい。」

 

『分かってるわ、ついさっき部下に指示を出しておいたわ、

世論の方も誘導しやすいから楽よね。』

 

「その手腕、やはり見事だな、

まぁ、それについては仕方の無い事さ、

それが人間という生き物さ、他に合わせて動くこと、与えられた情報に乗せられる、人間のな・・・。」

 

マティスの言葉に同意するかの様に、

彼は何処か憐れみを籠めた様な口調で呟いた後、

その端整な顔を狂喜に歪めた。

 

「それだからこそ、操るにはちょうどいいんだろう?」

 

『確かにね、私達の思いのままに、ね・・・?』

 

彼の言葉に同意するかの様に、

彼女も邪悪にわらっていた。

 

『まぁ、こっちは私達に任せて、貴方はロンド・ミナ達としっかり打ち合わせでもしておいて、

この先の世界のためにも、ねぇ?』

 

「よろしく頼むよ、ではな。」

 

通信を切った後、彼は自分の背後を悠然と振り返る。

 

「さぁ、お前達にも役に立ってもらうぞ?

俺に着いてきたんだ、もう後戻りはさせん。」

 

彼の視線の先には、一列に整列したダリル達が立っていた。

 

「さぁ、共に新世界の幕開けを彩ろうじゃ無いか、

俺達の手でな!!」

 

コントロールルームの中に彼の哄笑が響き渡った。

 

その声はまるで、獲物を見付けた獣の如く、

聞いた者を恐怖に陥れる物であった。

 

そして、その哄笑は、

これから来る波乱の幕開けを告げる、咆哮でもあった・・・。

 

sideout

 

 




次回予告

全世界に向け発信された放送は、
遂に動き出す一夏の野望その物なのか・・・。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
天空の宣言

お楽しみに!

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