インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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失墜の黒

sideラウラ

 

「消えろ雑魚め!!」

 

ザスタバ・スティグマトを乱射しつつ、

私はダガーを次々に破壊していく。

 

やはりガンダムタイプの力は凄まじく、

ダガータイプ等全く相手にならない程の力を見せつけていた。

 

だが、どうしても私の胸に宿る何か、

言い表すとするならモヤモヤとした気持ち悪い物が、

何時までも消えずに、いや、時が経つに連れて、その気持ち悪さが増していっている。

 

何故なんだ?私は戦う事に疑問を持ったりはしない、

私は軍人、いや、今は兵士だ。

 

兵士が戦いの意味を考える必要なんて無い、

ただ与えられた敵を討ち、勝ち続けるだけを課せられた存在だからだ。

 

ならば何故?私はこうも気分が悪くなるんだ?

 

戦う事に疑問は無い、寧ろそれしか能が無いとしか分かっている。

 

何故だ?何故こうも気持ち悪い感覚が沸き上がってくるんだ!?

 

兄貴への疑念・・・?

それもあるかも知れない。

 

あの人のやり方が性に合わなかったのか?

いや、そんな事は無い、あの人のやったことは、正当防衛に過ぎないんだ。

 

それなのに、私は何故こうも気持ち悪い感覚に襲われるんだ!?

 

「このッ!!しつこい・・・ッ!!」

 

フォルファントリーを発射し、

一度に数機のダガーを纏めて爆散させていく。

 

今は勝つこと、ナナバルクを護ることだけを考えろ!!

私は兵士、ただの戦闘単位でしかないんだ!!

 

自分に無理矢理暗示をかけながらも、

私は目の前の敵と向き合い、トリガーを引き続けた。

 

それがどれぐらい続いたのか、

ハイペリオンのセンサーにこちらに急接近してくる機体の反応があった。

 

こんな時に敵の増援だと!?

流石にキツくなって来たというのに・・・ッ!!

 

「山田先生ッ!!接近してくる敵機の反応があります!」

 

「こっちでも確認しました!二人とも気を付けてください!!」

 

山田先生も察知したのか、

私と鈴に向けて警戒を促してくれた。

 

喩えどんな敵が来ようとも、

命を懸けてもやり遂げてみせる!!

 

近付いて来る敵機が目視できる頃になると、

だんだんとその機体のフォルムが認識出来る様になってきた。

 

一機は何やら多数の砲頭を装備した機体だが、

もう一機の形状はどこか見覚えがあった。

 

「アストレイ・・・?それともノワール?」

 

いや、そのどちらでも無い、

もっと噛み砕いて言うならば、レッドフレームにノワールストライカーを装備した様な印象の機体だ。

 

「ガンダムタイプだと?誰が操縦しているんだ!?」

 

「聞きたいかい?」

 

私の叫びに答えるかの様に、

オープンチャンネルから女の声が聞こえてきた。

 

この声は、篠ノ之 束か!?

何故こっちに来ているんだ!?

 

「その戦艦、放っといたら面倒な事になりそうだからね、

さっさと落とさせてもらうよ!!」

 

最悪だ、まさか敵の最大戦力が出てくるとは思っていなかった・・・ッ!!

 

兄貴もこの事を予測出来なかったのかも知れない、

でなければ、御自身が最前線にわざわざ出向く筈もない・・・!

 

完全に裏をかかれてしまった・・・!

 

兄貴に、いや、

近くにいる誰かに報告したいところだが、

それをしている内に攻撃されかねない・・・ッ!

 

「さぁさぁ!コイツらも殺して、さっさとアイツの所に行こっ、ねぇ、ちーちゃん?」

 

なんだと・・・!?

今、アイツはなんと言ったんだ・・・!?

 

顔が認識出来る距離に入った時、

私達の目に飛び込んで来たのは、

黒い機体を纏った織斑教官だった・・・。

 

sideout

 

noside

 

束と千冬の登場に、

ラウラと真耶は有り得ないといった様な表情をしながらも、千冬を凝視していた。

 

片や自身の教官であり恩人、

片や自身の先輩である者の最悪な登場に、

何を言うべきか分からずに混乱しているのであろう。

 

「どうして・・・!?どうしてなんですか!?織斑先生!?」

 

「何故教官が・・・!?」

 

やっとの事で絞り出した声は掠れ、

嘘であって欲しいという想いが籠っていた。

 

「何故?見て分からないのかな?君達は?

ちーちゃんは私の所に来てくれたんだ、

君達を捨ててでもね。」

 

「・・・。」

 

真耶とラウラを嘲笑うかの様に、

束は千冬を見ながらも言い放った。

 

そんな中でも、千冬はただ押し黙り、

佇んでいるだけだった。

 

「貴女は、貴女は何を考えているんですか!?

こんな意味もないテロ行為に加担して!?」

 

「山田先生・・・!?」

 

普段考えられない様な怒気を孕んだ声で、

真耶が千冬に向けて吼えた。

 

普段は穏やかな彼女の叫びなだけに、

ラウラですら我に返り、真耶に向けて驚愕の視線を送っていた。

 

「こんな差別主義を煽るテロに!

何の意味があると言うんです!?」

 

「意味がないだって!?知った風な口を叩くな!!」

 

真耶の言葉に逆上したのか、

束はドラグーンを数機射出、グリーンフレームにビームを撃ちかける。

 

「くっ・・・!?」

 

「山田先生!!何故です!?何故こんなテロに加担するのですか!?教官!!」

 

何か言ってくれという切実な想いが籠められた言葉を、

ラウラは千冬に向けて叫ぶ。

 

しかし、帰ってくるのは沈黙のみ、

彼女が望む物は返ってこない。

 

「教官!!どうしてなんですか!?」

 

彼女とて、恩人を撃ちたくないという感情はある、

しかし、それを圧し殺してでも、ラウラはザスタバ・スティグマトを千冬に向けて構える。

 

「一夏と束を止める為なんだ・・・、分かってくれ、ラウラ!」

 

思い詰めた表情をしながらも、

千冬はノワールストライカーよりフラガラッハ3ビームブレイドを引き抜き、二刀流の要領で構える。

 

「お前を殺したくは無い、下がれ!!」

 

「出来ません!!教官こそ退いてください!!

こんな戦いに意味なんてありません!!」

 

「私には、何よりも重要な意味があるんだ!!」

 

ラウラに退く意志が無いと見た千冬は、

スラスターを吹かし、一気にラウラに迫る。

 

「ッ!!」

 

咄嗟にロムテクニカRBWタイプを引き抜き、

振られるビームブレイドをなんとか捌く。

 

「何故だ!?何故こんなことをするのですか!?」

 

「間違っている者を止めるだけだ!!

私はこうするしか出来ない!!赦せ、ラウラ!!」

 

機体の性能は兎も角、、パイロットの技量が違いすぎる為、

ラウラは劣勢を強いられる。

 

千冬の圧倒的な剣捌きの前に、

近接戦闘専門では無いラウラが敵う筈も無い。

 

ザスタバ・スティグマトを切り裂かれ、

体制を崩した際にロムテクニカRBWタイプすら弾き飛ばされた。

 

アルミューレ・リュミェールを展開しようにも、

千冬の剣の方が速い。

 

対艦刀がラウラを捉えようとした刹那、

何処からかレールガンが飛来し、

千冬に着弾し、大きく体制を崩させる。

 

「がっ・・・!?」

 

「ッ!!えぇい!!」

 

千冬が体制を崩したのを察知したラウラは、

千冬の腹を殴り、大きく距離を取る。

 

「今のは・・・!」

 

「山田先生、ラウラ、鈴、無事か?」

 

ラウラがレールガンが飛来した方角を見ると、

漆黒の機体、ストライクノワールを纏う一夏がこちらに向かってきていた。

 

「兄貴!!」

 

「一夏君!!」

 

「い、一夏!」

 

ラウラと真耶は最強の援軍に歓喜の声をあげ、

鈴は緊張し続けていたせいで震えた声をあげた。

 

「よく俺が到着するまで持ちこたえてくれた、

三人とも無事でなによりだ。」

 

一夏は三人への労いの言葉をかけた後、

千冬と束へと視線を移す。

 

「やぁ織斑一夏・・・!わざわざ殺されに来てくれたんだね!!」

 

「殺されに来た?寝言は寝てから言うものだぞ?」

 

束の嬉々とした声を鼻で笑いながらも、

彼は言葉を紡ぐ。

 

「まぁいい、この戦いを終わらせる為には貴様らを討たねばな・・・。」

 

ビームライフルショーティーを左手に保持し、

右手にはフラガラッハ3ビームブレイドを保持する。

 

「兄貴・・・、何故教官はこんな事を・・・?」

 

一夏が答える事を期待した訳では無いが、

ラウラは自身の不安を拭う為に彼に尋ねた。

 

彼女の近くに佇む真耶も、

答えて欲しいという眼で彼を見ていた。

 

「そうだな、俺の解釈で良いなら教えてやろうか、

アイツはな、ただ自分の利益になるからという理由で、俺達を裏切ったのさ、なぁ、白騎士のパイロット、織斑千冬?」

 

彼女達の反応を楽しむかの様に、

彼は表情を愉悦に歪ませながらも宣う。

 

「きょ、教官が白騎士の・・・!?」

 

「そうだ、お前の軍人としての誇りを踏みにじった、白騎士のな。」

 

驚愕するラウラに諭す様に言いながらも、

彼はショーティーの銃口を千冬に向けながらも言葉を紡いでいく。

 

「アイツの望みはな、ただ自分の私利私欲を満たす事なんだよ、宇宙開発用として作られたISを兵器としたのも、お前を失墜させたのも、持ち直させたのも、全て奴の遊びの為だったのさ。」

 

「・・・ッ!!」

 

一夏の言葉に、ラウラの顔色が変わった。

 

驚愕一色の表情の中に、僅かな怒りがその瞳に宿った。

 

「現に見てみろ、これは見方を変えれば侵略戦争だ、

しかも女尊男卑の風潮をより悪化させ、人類そのものを滅ぼす恐れもある事に、奴は加担している、

何故だか分かるか?答えは単純、そうすれば自分が崇め奉られ、女の為の英雄になる、全てが私利私欲に満ちているだろう?」

 

「そん・・・な・・・。」

 

一夏が語る内容が、

聞いていたラウラと真耶の胸に突き刺さる。

 

その痛みは、信じていた者が、

最初から自分達を利用していた事への、絶望だった。

 

「ラウラ、お前は千冬に鍛えられたと言っていたな?

それは、お前がアイツに追い付けないと思い、アイツがお前を鼻から道具として利用する為に、お前を鍛えたのさ、

憎いだろう?怒れ、憎め、呪え、お前は道具じゃ無いだろう?その憎しみは正しい!」

 

一夏の言葉に弾かれる様に、

ラウラはもう一丁のザスタバ・スティグマトを呼び出し、千冬に向けて乱射する。

 

「ラウラ・・・!?」

 

「お前は、お前は私を貶め、それを知ってて私を弄んでいたんだな・・・!!お前は教官なんかじゃない!!私の憎むべき敵!白騎士ィ!!」

 

ラウラの内側で溜まりに溜まっていた疑念、葛藤が千冬への怒りへと変わり、遂に爆発した。

 

その人形の様に愛らしい顔を、

どす黒い憎しみの感情で染めながらも、

彼女はフォルファントリーを発射した。

 

「ラウラ!止めろ・・・、ぐっ・・・!?」

 

フォルファントリーの光弾を回避したところに、

何発ものマシンガンが撃ちかけられる。

 

撃ったのは、グリーンフレームを纏う真耶であった。

 

彼女も眼鏡の奥の瞳を怒りで燃やし、

千冬を睨み付けている。

 

「教え子を・・・、それも貴女のせいで失墜した教え子を私利私欲の為に弄んで!!自分だけ甘い蜜を啜る気なんですね!?貴女は、お前はそれでも教師なんですか!?」

 

教師として千冬の事を純粋に尊敬していた真耶は、

彼女の裏切りを赦す事が出来ず、

ラウラ以上の怒りを見せながらも攻撃を開始した。

 

「ちーちゃん!!」

 

「余所見をしている暇があるのか?

お前とて、奴と同罪なんだぞ?」

 

親友が攻撃を受け始めた事に反応した束に対し、

一夏はショーティーを連射し、先に行かせない。

 

「お前の目的は俺だろ?篠ノ之 束?」

 

「織斑・・・一夏・・・!!

くーちゃんの仇を取らせてもらうよ!!」

 

挑発するように不敵に笑う一夏に反応し、

束は嬉々として彼に向かっていく。

 

(クックックッ・・・、愚かなり、篠ノ之 束、

お前が沈む絶望とやらは、どれ程の物だろうな?

 

一夏は挑発するような笑みを崩さないまま、

内心で盛大な笑いをあげそうになるのを必死に堪えていた。

 

彼の計画の内の一つが、

ほとんど何の労力も無いまま果たされようとしている。

 

これを笑わずにいられるだろうか?

 

(笑わずにはいられねぇよな、実際問題、愉しすぎてな!)

 

心の内で結論を出した後、

彼はラウラと真耶が千冬に襲いかかっているのを再度確認する。

 

(お前達には時間稼ぎをしてもらおうか、

コイツらに絶望を与えるためのな。)

 

誰に向けて話すわけでもなく、

彼は小さく呟いた後、向かってくるビームを回避するべく動く。

 

彼の思惑が、遂に本格的に動こうとしていた・・・。

 

sideout

 




次回予告

圧倒的な力を見せ付ける一夏は、
束に絶望を贈る。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
黒き龍

お楽しみに。

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