インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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凍てつく海で

noside

 

各チームが戦闘に突入し、ダガータイプの機体を相手にしていた頃、

潜水艦破壊ミッションを与えられた楯無とフォルテは、

比較的深度の浅い海中を移動していた。

 

フォルテの駆るフォビドゥンブルーは、

元々水中戦を想定した機体であり、

ゲシュマイディッヒ・パンツァーを使用せずとも潜行できる様に、

装甲部分に手が加えられている他、スーパーキャビテーティング魚雷や、

フォノンメーザー砲など、水中でこそ真価を発揮する装備を多数搭載している。

 

その為、水中での戦闘能力は他のガンダムタイプの追随を許さない、

強力無比な物となっている。

 

一方、楯無が駆るブルーフレームセカンドスケイルシステム装備は、

元々は水中戦闘に使用される機体では無いが、

水中戦闘特化装備、スケイルシステムを装備し、深度の浅い海中での戦闘を可能としている。

 

武装は六連装スーパーキャビテーティング魚雷装備型銃及び、

アーマーシュナイダーのみに限られるが、スケイルエンジンを搭載したために、

機動力はフォビドゥンブルーに引けを取らない程である。

 

そんな二機が水中に入れば、

喩え潜水艦であろうがISであろうが優位に立ち回れる事は明白であった。

 

この作戦の立案者である一夏も、

当然この事を把握していたため、彼女達を水中戦闘に当てたのである。

 

「盟主の情報だと、そろそろみたいッスね、

脚を引っ張らないでくれッスよ?」

 

「分かってるわ・・・、フォルテちゃんこそ、

無用な破壊は避けてちょうだい?」

 

淡々と、しかし嫌みを織り混ぜながら、

フォルテは楯無に対してポイントが近いことを告げる。

 

その口調が癪なのか、

楯無は少し棘のある言葉で返答した。

 

彼女達の仲は決して悪い訳ではないが、

現在は険悪なムードが漂っている。

 

その原因はただひとつ、これからのミッションの目的である。

 

「楯無はエンジンやスクリューを破壊してくれッス、

私は他の場所を破壊するッス。」

 

「武装だけを破壊するのよね?」

 

楯無の考える方法、それはエンジン、スクリューの破壊、

及び魚雷発射管といった、航行、攻撃システムを奪い取り、

なるべく敵を殺さないやり方である。

 

「さぁ?それは向こうの出方次第ッスかね?

私達が受けた任務は、潜水艦の駆逐ッスよ?分かってるんスか?」

 

しかし、フォルテの考えは楯無のそれとは全く異なっていた。

 

フォルテが考える方法、

それは潜水艦の完全無力化、つまりは撃沈させる事である。

 

いや、破壊できなくとも、装甲の何処かしらに穴を開けてやれば、

内部に大量の海水が流れ込む。

 

中の人間を排除するだけで、

潜水艦はただの動かぬ鉄のオブジェに変わってしまう。

 

それだけの事で任務が片付くのだ、

楽な上に手っ取り早い。

 

それに、彼女達の盟主である織斑一夏ならば、

一瞬の躊躇いもなく乗員もろとも潜水艦を海の藻屑とするだろう。

 

それならば、自分も同じ様に駆逐する事が最良と、

フォルテ自身は考えたのである。

 

「生半可な情けをかけて、敵にしっぺ返し喰らうのアホらしい、

なら、私は徹底的にやらせてもらうッス。」

 

「・・・ッ!」

 

「楯無、いい加減覚悟を決めたらどうッスかね?

今は戦争、嫌なら戦わなければいいんスよ。」

 

楯無に言い発ったフォルテは、

速度を上げ、潜水艦目掛け進んでいく。

 

「・・・、やるしかないのね・・・、

分かってた、分かってたつもりでここに来たのに・・・ッ!!」

 

彼女とて、戦うべき時は分かっているつもりだった。

護るべき者と、護るべき未来は見えている。

 

だが、それでもこの戦争に意味はあるのか?

なんの為に戦うのかという惑いが足枷となり、

彼女は銃口を定められなかった。

 

「迷えない・・・、迷ったら私が殺される、

嫌と言うほどに教え込まれたじゃない・・・、今は、それでいい!!」

 

更識で叩き込まれた教えの中に、

自分が生き残る事を優先しろというモノがあった。

 

今の自分には護るべき者が、添い遂げたいと思う者がある。

 

その想いがあっても、自分が死んではその未来すら閉ざされ、

何も叶わなくなってしまう。

 

ならば、何がなんでも生き残る、

それがこの戦争においての自分がなすべきこと。

 

そう自らを無理矢理納得させ、

楯無はフォビドゥンブルーの後を追った。

 

彼女達を捉えたのか、

固定されていた敵潜水艦五隻から多数の魚雷が発射された。

 

しかし、直線で向かってくる魚雷、

それもスーパーキャビテーティング魚雷よりも速度の遅い魚雷など、

スケイルエンジンを装備した二機には造作もないことである。

 

魚雷を難なく回避し、

敵潜水艦群を射程圏内に捉えた瞬間、

彼女はスーパーキャビテーティング魚雷を発射した。

 

それは狙い違わず五隻留まっていた内の一隻に着弾、

盛大に爆ぜた。

 

「初弾命中、続けて第二撃を敢行するッス。」

 

スケイルエンジンの出力を上げ、

更に加速しながらも一隻の潜水艦に接近、

甲板にトライデントを突き立てる。

 

何も完全に破壊せずとも、

ただ浸水させれば中の人間を殺し、

航行不能へと追い込む事も出来、敵を取り逃がす事もない。

 

合理的だが、

実に惨い殺り方だと、フォルテは苦笑していた。

 

彼女とて人を殺めた事は無い、

だが、今自分がやっている事は戦争、ひいては殺人なのだ。

 

一夏の様に目的の為ならば殺人すら正当化するという訳ではないが、

自分が生き残る為に、ただ目の前の敵を討つという想いが、

彼女を突き動かしていたのだ。

 

一方の楯無は、魚雷発射管及び、

スクリュー等のエンジン部の破壊を担当していた。

 

水中での戦闘手段が限られているブルーフレームではあるが、

基からの性能、そしてスケイルシステム装備といった物が、

ブルーフレームの戦闘能力を飛躍的に向上させていた。

 

魚雷をなるべく使わない様に、

魚雷発射管はアーマーシュナイダーで切り裂き、

近付き難いスクリュー部はスーパーキャビテーティング魚雷で破壊していく。

 

なるべく艦内への浸水を避けようと努力はしているが、

やはり誘爆だけは防げない様だ。

 

「・・・、ごめんなさい・・・!でも、今はこうするしか・・・ッ!!」

 

顔も見たことの無い敵に詫びながらも、

楯無は潜水艦の甲板にアーマーシュナイダーを突き立て、切り裂いていく。

 

小回りの利かない潜水艦では、

水中戦に特化されているISに対抗できる筈もなく、

瞬く間に破壊され、沈黙、あるいは爆散していった。

 

「これで終わりッスかね?一応、周辺の探索もやっとくッスか。」

 

「えぇ・・・、行きましょう・・・。」

 

無惨な姿を晒す潜水艦の残骸達を尻目に、

彼女達は周囲の警戒に回る事にした。

 

戦局を悪化させないためにも、

自分達が後顧の憂いを絶つ。

 

その意志だけがフォルテと、

今だ迷いを抱える楯無を突き動かしていたのであった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「あぁもう!!役立たず共め!!

一人も欠かせないなんて!!」

 

亡國企業実働部隊拠点の外に出ていた束は、

自身が製作した機体の反応が途切れていくのを確認し、地団駄を踏んでいた。

 

別に機体の搭乗者が機体と運命を共にしようが気にも止めないが、

せめて敵の一機や二機を道連れに出来ると踏んでいたのだ。

 

そうなれば、自身がそれほど苦労せずに仇敵を仕留める事が出来、本願を果たせるからであった。

 

しかし、その目論見は脆くも崩れ去り、

敵はほぼ完全なまでに戦力を残し、

自身の属する組織は、既に無人機の大半を墜とされ、逃走手段も奪われ、完全に追い詰められつつあった。

 

「私が直々に出るしか無いね・・・!

あぁ、最初からそうすれば良かったんだ!!」

 

呻く様に吐き捨てた後、

チョーカーに手を触れた。

 

直後、彼女の身体が光に包まれ、

その光が晴れた時、白い機体が姿を現した。

 

一見鈍重そうな見た目ながらも、

機体各所に砲頭の様な物が見受けられ、かなりの火力を持っていると予想できる。

 

背後にはビームライフル、そして小型のシールドを装備した特殊な形状のバックパックを装備した機体。

 

その名もニクスプロヴィデンス、

アクタイオン社で設計されていたペル・グランデのデータを、ストライクやアウトフレームから手に入れたデータとミックスし作り上げた機体である。

 

ドラグーンシステムを搭載し、

オールレンジ攻撃を可能としている強力な機体に仕上がっている。

 

「さぁ、行こうか、あのふざけた男を血祭りにあげようね!!」

 

機体に語りかける様に言いながらも、

束はニクスプロヴィデンスのスラスターを吹かし、飛翔した。

 

「・・・、束・・・、一夏・・・。」

 

飛び立ったニクスプロヴィデンスを目で追いながらも、

千冬は自身の親友と弟の名を呟いた。

 

その表情は何かを思い詰めている様に、

余裕がなかった。

 

それもその筈だ、

自身の親友と弟が互いに憎み合い、殺し合おうとしているのだ、思い詰めない訳がない。

 

「二人とも、私が死なせない・・・、

お前達は私が止めてみせる・・・ッ!!」

 

振りきる事の出来ない迷いを抱えたまま、

千冬は自身の右腕を前に突き出す。

 

彼女の身体を光が包み、

黒い装甲を持った機体が展開されていく。

 

フォルムはレッドフレームに酷似しながらも、

背後にノワールストライカーを装備した機体。

 

その名もアストレイノワール、

一夏のストライクノワールを模した機体であり、

ほぼストライクノワールと同等の性能を誇っている。

 

異なった点と言えば、

ビームライフルショーティーが、

ソードピストルに取り換えられているということのみである。

 

「戦うしか無い、それでしか、

私はお前達を止める事が出来ないんだ・・・ッ!!」

 

誰に宣言する訳でもなく、

千冬は束の後を追うように飛び立った。

 

その先に、何があるのかも分からぬままに・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

「むっ・・・?」

 

俺達ファントムペインはダガータイプが最も集結している中で暴れ回っていた。

 

ダガーごときが俺達に敵う筈もなく、

次々に爆散させられていった。

 

既に撃墜スコアは三桁に迫ろうかといった時だった、

何か妙な感覚に襲われ、

俺はナナバルクの方に目線を移した。

 

向こうにも敵が現れたのか、爆発の光が煌めいている。

 

しかし、それは別に驚く事ではない、

寧ろ予想の範囲内だ。

 

それならば、何に気になったのか?

 

それは無論、俺の目標が現れたということだ。

 

漸く俺が出張る時が来たようだな、

行ってやらなければ面白くないな。

 

「セシリア、拠点内部に突入、

亡國企業構成員を全て殺せ、ただし施設のメイン動力には手を出すな、後々面白いことに利用できる、

ついでにダガーに指令を出し、こっちに戻せ。」

 

「畏まりましたわ。」

 

「シャル、ミーティアを使ってセシリアを援護しろ、派手に暴れても構わん。」

 

「分かったよ、一夏はどうするの?」

 

セシリアとシャルに指示を出しながらも、

俺はミーティアをパージする。

 

俺がやるべき事は決まっている、

それをするだけさ。

 

「ナナバルクに目標が近付いている様だ、

俺はそっちに出向いてくる。」

 

「分かりましたわ、お気をつけてくださいませ。」

 

「また後で落ち合おうね。」

 

「お前達も気を付けろ、

何があるか分からんからな。」

 

まぁ、セシリアとシャルなら心配せずとも大丈夫だろう、

俺は俺のやるべき事をやるだけさ。

 

ストライクノワールのスラスターを吹かし、

俺はそっちにナナバルク目掛け飛翔する。

 

漸くこの戦いの目的が俺の目の前に出てきてくれたんだ、

盛大にもてなして、この世の地獄とやらを見せてやらないとな。

 

さぁ、恐怖の海に沈めて、

真の絶望の味を教え込んでやるぜ。

 

篠ノ之 束、織斑千冬、

ここがお前達の終着点、そしてこの俺の始発点だ!

 

クックックッ・・・、ハーッハッハッハッ!!

ハーッハッハッハッハッハッ!!

 

sideout




次回予告

ナナバルク防衛の任に着いていた三人に、
裏切りの刃が襲いかかる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
失墜の黒

お楽しみに。

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