目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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アサギシティ

「絶! 対! 安! 静! で! す! いいですね?」

 

「あ、はい」

 

 

 

 

 アサギシティにぼろぼろになりながら帰ってきた結果、ミカンによってベッドに縛られ、そして絶対安静の日々が言い渡された。残念でも何でもなく当然の対応だった。ベッドに拘束されて動けなくなってしまったのは非常にアレな話だが、時間稼ぎというか、もう完全に絶対悪滅ぼすマンと化した最強のトレーナーが野放しになってしまった時点でエンディングが見えてしまったので、そこまで焦る必要がなくなったという事実がある。それでも相手の事だ、ホウオウをけしかけてくるには違いない。それまでにワダツミを育成させておきたいという気持ちはあったのだが、

 

 自分がいない間にクイーンがやっておいたらしい。

 

 ベッドの横を見ると、心が折れたかのように倒れ伏すワダツミの姿が見えている。その上に乗っているのはクイーンの姿であり、ワダツミは一切抵抗をするような姿は見せない。流石脅威のドS悪魔、伝説の心でさえ簡単にぽっくりやったなぁ! と言いたいところだったが、手段を聞き出すのが恐ろしくて半ばスルーしている様な形になっている。とりあえずは、

 

「はぁ……やっと休める……体中痛い……もう働くのは嫌だ」

 

「聞こえましたのワダツミさん? 体中が痛く、動きたくないそうですわ。いやぁ、本当に伝説は凄いですわね、軽く動くだけで人間を瀕死に追い込めるだけの力があるんですから。いえいえ、別に責めている訳じゃありませんのよ? えぇ、なんでもありませんわ。うふふ」

 

「……」

 

 ワダツミが応える事無く沈黙している。これ、ずっとちくちくやられていると思うと憐れになってくるな、なんて事を思いながら、ゆっくりと目を閉じる。流石に疲れた。これから、そして今までの事を考えながらも目を閉じる。

 

 

 

 

 ―――最強のトレーナー、赤帽子―――レッド。一人だけ、ポケモンバトルというジャンルにおいて別次元に立っている少年だと思っても良い。彼と戦い、心が折られてしまったトレーナーは少なくはない。そしてそれは仕方のない話なのだ。最強とはそういう次元なのだ。見ただけで自分とは違うと解ってしまう。故にその存在が自由に歩き回っている状態は一種のテロだと言っても差支えない。

 

 ―――ワカバタウンからタンバシティまで、全シティタウンを回って出会った全てのトレーナー、ロケット団に勝負を挑む。

 

 そう宣言し、慣れた様子でレッドはワカバタウンへと向かって消えて行った。もはやテロとか言う次元を超えている。歩く災害の様なものだ。そして、それでいい。レッドは目に見える脅威として進む事を決めた。今までの様に。レッドのスタイルはシンプルだ。公式戦、そして負けられない戦いでは絶対に敗北する事はない。そういう運命力を受けて生きている。だから目に見える形で戦い続ければ良い。ワカバタウンから、侵略する様に全てのトレーナーと戦い、全てのトレーナーを撃破する。そうすれば嫌でも視界に、そして脳に刻み込まれる。

 

 最強のトレーナーの進軍が。

 

 それで相手が計画を崩すのであればそれはそれでよし、予定通り実行したとしても絶対にレッドからは逃げる事が出来ない。姿を現し、計画を実行した瞬間、レッドに潰されるという絶対敗北の未来が待っている。だからと言って、それで確実に勝ったというわけではない。レッドの存在が此方にあるとしても、相手が目的を達成する方法が存在するからだ。それは実にシンプルな話であり、

 

 ―――レッドと戦わなければいい。

 

 それだけ、たったそれだけの話だ。戦って敗北するのだから戦わなければいい。逃げて、そして接触しない間に全部解決してしまえばそれで問題はない。当たり前の話ではあるが、それが唯一の”抜け道”でもあるのだ。いや、これしか手段が存在しないと言っても良い。戦った瞬間敗北が確定しているのだから。しかし、ヤナギが正体である事、そしてその居場所はレッドに伝えた。だからどう足掻いても逃げる事は出来ない。近い将来、ヤナギはレッドと戦って心を折られるだろう。たぶん、ほぼ確実に。

 

 ―――いやぁ、長くて苦しい戦いだった。

 

 後は寝て果報を待つのみ。

 

 

 

 

 ―――そう思い、療養の為に一週間が経過した。そこそこ知り合いはいる。実際、死亡一歩手前の状態まで追い込まれ、レッドに助けられなかったら死亡していた可能性が高かった。知り合いのピンチとバトルの機会をもぎ取った赤帽子の運命力の高さはもはや脱帽するほかないが、どうやらトレーナーをなぎ倒す試みは現在進行形で楽しく進んでいるらしい。たった一週間でもう既にヒワダジムリーダーをはっ倒し、ウバメの森のトレーナーを虐殺しているらしい。

 

 そろそろジョウト地方に”赤帽子の悪魔”の話が流れ始める頃かもしれない。

 

 一週間も経過すると怪我も大分良くなってくる。完全回復した訳ではないが、それでも体をある程度自由に動かすだけの体力、そして肉体が出来上がってくる。それを確かめる為にもジム裏手の庭へと出て、ミカンの監視の下、ポケモンを動かす。目の前にいるのはミカンのジバコイルだ。公式戦では”不沈”の名が与えられるほどに耐久に特化した個体であり、サンドバッグには非常に便利な存在だ。だからミカンに許可と協力を貰い、腕が錆びつかない様に対戦相手として利用させてもらっている。

 

「ドラゴンクロー!」

 

 アッシュのドラゴンクローがジバコイルへと叩き込まれ、とんぼがえりやボルトチェンジの”とんぼ効果”が発動する。それは攻撃の反動で後ろへと下がりながら自動でモンスターボールの中へと赤い線となって戻って行く。それに合わせるようにボールをスナップさせながら流して行き、素早くボールから次のポケモンを取り出し、出現して行く。

 

「ワダツミ―――」

 

 ボールから繰り出されるのはワダツミだ。音もなく着地した足は―――大地に触れていない。大地に触れる前に、薄い水の膜が形成されており、その上にワダツミは立っており、小さくだが海を自分の足元にだけ、常時展開している。空が即座に曇り、雨を降らしながら強風を発生させる。追い風が周囲に吹きながらワダツミを強化し、そして雨が更にその姿を強化する。そして場に出た瞬間、雨の中に溶けて行く様にワダツミが泳いでボールの中へと消えて行く。

 

 ボールを滑らせ、スナップさせ、そして素早くポケモンを交代する。ジバコイルの攻撃が発生する前の時間にポケモンからポケモンへと入れ替えて行く。素早いボールの入れ替え動作と交換速度に手首が悲鳴を上げて行く。それでも体の熱をそのまま、ボールからナイトを放つ。フィールドに出現したナイトは出現するのと同時に小さく鳴き、夜の闇を呼び込んだ―――黒尾の時とは違い、天候の上書きが発生する。豪雨は即座に消え去りながら夜の闇が出現し、夜の闇にまぎれるナイトの姿がジバコイルに捕らわれ、でんきショックが放たれる。発動した脱出ボタンの効果にバトン効果が付与され、ボールを滑らせながら、

 

 場に蛮を出す。夜の闇が砂嵐によってその内側から砕かれる様に払われ、そして怪獣が己の領域を形成する。砂嵐の中に出現した怪物はそのまま砂嵐の中に紛れて消えて行くようにその姿を消して行き、ボールを滑らせながら交換し、口から荒い息を吐き出しながらボールをスナップさせ、交換させて行く。何度も何度も繰り返す交換動作、それに合わせてフィールドには常にモンスターボールのレッドラインが残る様にさえ見えてくる。蛮が消えて、今度はクイーンが再びフィールドに出現し、

 

 フィールドに出現するのと同時に斧竜のハルバードを振るい、天候をリセットする―――限定的な”エアロック”が発動し、天候を吹き飛ばしながら変化を無効化する。そうやって無効化した天候をハルバードに付与し、それを出現と同時にジバコイルへと向かって放つ。タイプ相性破壊効果の一撃がジバコイルに炸裂し、ジバコイルの”いまひとつ”耐性をそぎ取りながら”ふゆう”を破壊し、そして地面タイプの一撃を成功させた。

 

 そうやって大地に叩き落としたジバコイルに蹴りを繰り出しながらボールへと戻って行くクイーンを迎え、ボールをスナップさせながら回して行き、そしてモンスターの流れをサザラへと繋げる。交換する度に発生させていた天候変化による上昇、そしてポケモンの天候適応による上昇、それを全て引き継ぎながら行っていた交代はこの瞬間、全てサザラへと集中した。手加減された竜のオーラを弾けさせながら先行充電を完了させ、ボールからサザラを出現させる。

 

 出現したサザラがジバコイルをこころのめで捉え、

 

「―――お前は餌だ―――」

 

 弱点を宣戦布告し、

 

 そして吠えながら先行充電から溜まった竜のオーラを極光へと変えて、ジバコイルを外す様にギルガルドを振るった。ジバコイルの横の大地が粉砕されながら抉り、弾け、吹き飛ばされながら破壊されて行く。七色の極光は必殺の剣技七発、それが一発に集約された技であり、攻撃判定は”七回発生”するのだ。故にタスキを破壊出来るという圧倒的な利点が存在する。その発動の前提条件に必要な身体能力を素の状態のサザラではクリアできない。だから天候を通して能力の上昇などを重ね、サザラが反動に耐えきれるだけの体に能力を上げているのだが―――公式戦ではそう簡単には使えないだろう。

 

「ふぅー……―――全員お疲れ様、ボールから出て自由にやっていていいよ」

 

 練習に使ったポケモン達をボールの中から出しつつ、今のルーティーンの感覚を確かめる。

 

「交換速度がちと遅いな。ポケリ前に完全回復させたいところだっ、なっ! っと」

 

 体を軽く動かしながら指の体操を行う。ポケモントレーナーとしてボールを扱うハンドリング技能は生命線だと言っても良い。交代によって攻撃を回避する事は禁止されているが、交代回数に制限はない。初心者のポケモントレーナーであれば、自分の実力としては5回はポケモンを交代する事の出来る自信がある。流石にポケモンリーグクラスとなると攻撃の合間に一回挟むぐらいが限界だが、とんぼ、バトン、そして通常交代を絡めればポケモンリーグでも”3連続交代”ぐらいは上手く行くだろう。

 

「黒尾を抜きにした”異常気象パ”でも上手く行けそうだな……まぁ、今年のポケモンリーグは黒尾、ナイト、蛮ちゃんはスタメンだ。可変枠に災花、サザラ、月光、アッシュ―――場合によっちゃあクイーンって所か」

 

 視線をクイーンへと向ければ、ワダツミを椅子代わりに座っている彼女の姿が見える。お前のその有能さは一体何なの?

 

 ―――まぁ、公式戦にクイーンが使えるかどうかは完全にクイーンの自重次第だ。クイーン本人が自重さえすれば今直ぐにでも公式戦に出す事は出来る。半ばあきらめていたことだが、ワダツミと接しているおかげか、前よりも少々攻撃的ではなくなったような気もする。まぁ、それでもまだ公式戦参戦は難しいレベルだ。もう少々性格を矯正したい所だ。

 

「お疲れ様です、交代に関してはジョウト地方の中では一番かもしれませんね」

 

「基本交代しなきゃ回らないパーティーですからねぇ。いや、まぁ、交代なしでも一応は戦えるけど、やっぱり交代して戦うのが一番やっていても、見ていても楽しいし」

 

 ミカンと話しつつ、空を見上げ、ホウオウがいない事を確認しつつ、首を傾げる。

 

 ―――殺しに来ないなぁ……。

 

 その事実に少々寂しく思いながら、ポケモンリーグへと少しずつ、近づいて行く。




 まだ決戦ではないんじゃよ! お爺ちゃんには秘策があるらしい

 レッドさんのここがすごい
・努力値は赤緑仕様
・特性とかガン無視して攻撃が通る(初代仕様
・持ち物無視(初代仕様
・R団等のトレーナーがトレーナー続けられなくなる(初代仕様
・バトルが出来れば3度の飯を必要としない(初代仕様?

 ソッコで屈服するルギアとかいう伝説の生き恥

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