目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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コミュニケーション災花

 アサギシティから出られない。

 

 いや、当たり前と言ってしまえば当たり前なのだが。ルギア戦のダメージが体から抜けきっていないのだ。ポケモンバトルでトレーナーがダメージを喰らう事はないが、ルール無用の”野戦”だとトレーナーにもダメージを喰らう事は多々ある。だからポケモンを育成する時はトレーナーもまた一緒に体を鍛えるのだ。そうやってトレーナーも不測の事態に備えられるようにするのだ。まぁ、それでも伝説級のポケモンと戦うと真面目に無事じゃすまない。拳は砕け、肋骨も折れて、内臓はぼろぼろで内出血多数―――肉体的には割とヤバイ状況に突っ込んでいたが、戦いながら治療したり、一部のポケモンからは加護を貰っている事もあり、おかげで何とかなった。

 

 まぁ、それはともかく、アサギシティを歩き回るのは割と自由なのだが、それでも絶対安静を言い渡されている為、ポケモンの育成を行いながら治療に専念していた。アサギジムに一時的に間借りしながら治療に専念していたのはアサギシティを助けてくれた恩があるから、というミカンの言葉で、他のジムトレーナーとは少し離れ、ジムの裏手の大きな土地で自由にポケモンを育成していた。とりあえずは真剣にホウオウ対策を始めないといけないので、

 

 ―――そんな訳で、ルギアの育成を始めていた。

 

 目の前にはルギアを煽りすぎた結果凍ってしまった唯一神の氷像。

 

 そして広い公園の様な草地の上には両手足を地について四つん這いになるルギアの姿。

 

 そしてそのルギアの背中の上に足を組んで座っている自分の姿。

 

「くっ……忘れないぞ……忘れはしないぞこの屈辱……絶対に忘れはしないからな……!」

 

「はいはい」

 

 アッシュに指示を出し、唯一神の氷像を離れた場所へと運ばせつつ、火炎放射でそれをゆっくりと解凍させる。その間に他のポケモン達は他のポケモン達でそれぞれ訓練を行っている。仮面の男からの襲撃を考え、手持ちのトロピウスをボックスに戻す代わりにクイーンを手持ちに加えて、サザラとタッグを組ませ、フライゴンさんを相手にひたすら模擬戦を繰り返させている。絶対勝利出来ない相手に無限に戦い続けるという経験は得難いものだ。故にフライゴンさんの相手は非常に良い鍛錬になる。肉体的には二人とも完成している為、残りは経験と技量の鍛錬だ。アッシュもあの三人組には後で混ぜる予定で、ナイトと黒尾はサポート、補助技とバトンの素早い交換練習。月光と災花はふいうち合戦で若干遊んでいる。あとで注意を入れようと考えながら、

 

 椅子代わりにしているルギアを上から見下ろし、笑みを浮かべる。

 

「最高に気分が良いなこれ」

 

「貴様ぁ……!」

 

 ルギアが四つん這いの状態で背中に座られ、怨嗟の声を響かせて来る。その様子を直ぐ近くでギラ子が腹を抱えながら笑い、その方向へと視線を向けたルギアが睨んだ瞬間、空間が一瞬で氷結して絶対零度が発生する。それを喰らったギラ子が一瞬で氷結するが、すり抜ける様に氷の中から脱出し、そのまま氷をやぶれたせかいへと落として処理する。憐れルギア、完全にカースト的には最下層に到達している―――というわけではない。

 

 ルギアのこれもぶっちゃけ、育成に必要な事なのだ。

 

「あ、あの……殺されそうなほど睨まれていますが……大丈夫ですか?」

 

 不安に思ったミカンが此方へと控えめに視線を向けてくるが、ミカンにサムズアップを向けて返答する。

 

「平気ですよ平気。唯一神は元々誇りはあっても、トレーナーに対しては反発する事のないタイプですからね。育成に関しては協力的な部分さえあったので、必要はないんですけど、ワダツミ(ルギア)はまた話は違うんですよね。こいつ、口ではトレーナーの実力は認める、指示には従うとか言いつつ、内心は伝説としてのプライドと誇りでいっぱいなんで、育成しようとしても育成を精神的に拒否しちゃうんですよ。というわけで一回、無意識に刷り込む様に上下関係を叩き込まなきゃ駄目なんですよ。ほら、唯一神を見てくださいよ」

 

 ミカンとワダツミと共に視線を唯一神へと向ける。それを受け取った上半身の解凍が完了した唯一神は頷く。

 

「プライドじゃフレアドライブもせいなるほのおもVジェネレートも覚えられない。魂はトレーナーに売った」

 

「エンテイ貴様には準伝説としての自覚はないのかぁ! いいか、貴様―――」

 

「うるせぇ」

 

「あひん」

 

 ルギアのケツを叩いて黙らせる。その光景を見てミカンが軽く顔を赤くしているのを見て、この子割と純情なのかなぁ、と心を癒される。げらげら笑っているギラ子はそろそろこういう清純系の少女のキャラを参考にする、というか見習った方がいい気がする。お前からは伝説としてのプライドも品位も理性も感じないんだよ。とりあえずルギアのケツをもう一回叩いておく。いいケツしてやがるぜーじゃなかった、自尊心を折らないと駄目だ。

 

「呪われろトキワのオニキス……!」

 

「ありがとう、褒め言葉だ」

 

「あははは……」

 

 ミカンの苦笑の声が響き―――そしてその瞬間、第六感が避けろ、と本能的に警報を鳴らす。即座にワダツミの上から降りながらワダツミの脇の下に手を通し、そしてその上半身を持ち上げた瞬間、飛来したギルガルドがワダツミの顔面にヒットする。それを見ていたギラ子と唯一神が爆笑し始め、アッシュを巻き込んで三人が絶対零度を喰らう。あぶねぇあぶねぇ、そう呟きながら再びワダツミを揺らす。

 

 キングシールドが吹っ飛んでワダツミの顔面にヒット。満点である。ワダツミの後ろから顔を出し、

 

「おーい、お前らー! こっちに被害が来てるぞ!」

 

「ごめ―――ん!」

 

「いや、それより貴様、今我を思いっきり盾に―――」

 

 ハルバードが飛んできたのでワダツミを肉壁にする。なんかザク、という音と共にワダツミが悲鳴を上げながら転がり始める。背中に冷や汗を流しつつ、息を吐く。今のは直感的に伝説ガードしなかったら間違いなく即死だった。育成中の流れ弾に当たって即死とかマジ笑えないのでどうにかしてほしい。そう思った直後、

 

 空からりゅうせいぐんが落ちてきた。

 

「メタメタ!」

 

 素早くメタグロスを出したミカンが、メタグロスにりゅうせいぐんをコメットパンチで破壊させる。ありがとう、とミカンに言いつつ、ちょっとこれ、ラック値の変動おかしくねぇ? なんて事を思っていると、月光と災花が目の前に出現する。

 

「のう、親方様」

 

「……死相、物凄くくっきり出ているわよ」

 

 災花の言葉に顔を青ざめる。災害、災厄に対して敏感なアブソルがそれを言っているのだから、マジで死ねるかもしれない。そう思ってワダツミへと視線を向ければ、その表情に”天罰だから死ね”と書いてある。

 

 拝啓、ボスへ。

 

 くだらない理由で死ぬかもしれない弟子の不幸をお許しください。

 

 最後に一発ケツに蹴りを叩きこむ。

 

 

 

 

「こっちね」

 

 十数分後、災花と一緒にアサギシティの街を歩いていた。簡単に言ってしまえばデートの様なものだ。しかし二人きりで平気なのか? と言われてしまうと―――平気なのだ。それで済む。災害ポケモン、アブソル。彼女たちは降りかかる災害を、悪い運気として感じ取る事ができる。特に強く訓練されている個体だと的確に予知し、それを回避する為に動く事ができる。だから今やっているのはそういう事だ。一か所にいると悪い運気が溜まってしまう為、場所を変えながら歩き回る事で不幸を回避し、運気を入れ替えているのだ。

 

 ―――アブソルだからこそできる芸当だと言っても良い。

 

 そして運命力を保有しない自分が、最低限の”運”を保有しているのは災花のおかげだと言っても良い。

 

 白いミニスカートを揺らしながら楽しそうに歩く災花の姿を見る。

 

「お前はもうちょっと自己主張激しくしてもいいと思うんだけどね」

 

 そういうと、災花は振り返りながら答える。

 

「そうね、悪くないかもしれないわ。でもいいわ。私、そこまで欲張りじゃないし、がっつかないわ。それに、ホウエン地方に行けばメガシンカの謎を解明してくれるんでしょ? 私をメガアブソルにしてくれるの、ずっと楽しみにしているわ」

 

「おう、勿論任せろ。お前と蛮ちゃんはメガシンカの適性を持っているから、間違いなくメガシンカさせられる―――キーストーンをどっかで手に入れなきゃいけないけど、そこらへんはロケット団のコネで探せるしな」

 

「なら焦る必要も心配する必要もないわ。大事にされているのも、約束を守ってくれるのも良く知っているから、私はただ待っているわ」

 

 そう言って横に並んだ災花は此方の片手を取り、そしてこっちよ、と言って先導してくれる。災花には災花にのみ見ている世界がある。それが運気の世界であり、災害の予兆なのだろう。それを外れる様に歩き、ワダツミとの交流で無くなってしまった運命力というか運そのものを補充する。割と懐かしいものではある。

 

「災花を捕まえたばかりの頃もこんな風に一緒に歩き回ったっけ」

 

「そうね、ここまでひどかった事はなかったわ。それでも間違いなく運が悪かったし、見ていて可哀想だから思わずついてきちゃったわ」

 

 災花の加入はここ数年で行われたものだ。カントー、ジョウト、とボスと一緒に出て始めた武者修行、その旅の中で一番最初に捕まえたのが災花でもある。災花に出会う前に出会えた、”コレ”と言えるポケモンが黒尾、ナイト、そして蛮ちゃんの三人だけだった。そう、運命力、運気は”コレ”と言えるポケモンや、運命的なつながりを持つポケモン、そういうものにも関わってくる。四年かかってたった三人だ。

 

 災花と出会い、彼女を仲間にしてからはこうやって、レギュラー争いをするぐらいには増えてしまった。間違いなく今の自分のパーティーや人脈、知り合いがあるのはこの子が死んでいた運勢を生き返らせてくれたからに違いない。だから災花には感謝している部分がある。

 

「ねぇ」

 

「うん?」

 

「貴方は結婚とかどう考えてるの?」

 

「んー……」

 

 アサギ港にまで移動し、そこで一旦海の方を眺めながら黙り、考える。結婚―――恋愛。まぁ、考えない訳ではないし、好意を多くから受け取っている身としてはそれなりに考えている事でもある。まぁ、下世話な話も色々とあるのだが、ぼかして話をすれば色々と関係だってあるわけだし、やってしまった以上は責任を取るつもりだってある。ただこの世界、ポケモンとの事実婚の様なものはあっても、結婚する事は出来ない。だから少し、結婚に関する話はめんどくさかったりする。

 

 ただ、それで妻的な立ち位置にポケモンを加えている人がいない訳じゃない。

 

 ただ、正妻は人間、そうしないと”人口が減る”のだ。人間とポケモンの間には子供ができない。だからポケモンと人間の結婚を簡単に認めてしまうと、普通に人口の低下を招きかねないから割とシリアスな話だったりする。

 

 ただ、まぁ、

 

「―――真面目に責任を取るつもりはあんよ。骨はこっちに埋めるつもりだし。ただアルセウス、テメーは殺す」

 

「オマケの様に殺されるアルセウスは憐れね」

 

 そう言って災花は苦笑しながら横に並び、腕を絡めてくる。騒がしい連中がいないから静かなひと時を過ごせている。

 

 そんな事を想った瞬間、

 

 頭上を影が差す。

 

 巨大な影が光を遮り、そして羽ばたく音と共に頭上から降りてくる。前の風景をシャットアウトする様に降りてくるのは10m級の巨体を誇る原生種のサザンドラ―――そしてその背の上に乗っているマント姿の男、

 

「―――見つけたぞトキワの森のオニキス! 話はキョウから聞いている! 行くぞ! チョウジタウンへ! 戦いが我らを呼んでいる! いいから出撃だぁ!」

 

「この有無を言わさないパワフルな感じ、まさにドラゴン使いとキチガイのコラボレーション……!」

 

 ワタルが笑っていると、サザンドラが近づき、左右の首で自分と災花を掴み、そのまま拉致する様に飛行を開始する。チョウジタウンとワタルという組み合わせはこう、破滅的なアレしか想像できないのだが、

 

 手持ち一体でマジでやるのか。

 

 運勢最悪な中で。

 

「は―――っはっはっはっはっは―――!!」

 

 ドラゴン使いはやっぱり滅ぼすべき。フライゴンさんの存在は間違いじゃなかった。それを確信しながら、

 

 デートの舞台は限界集落へと移り行く。




 コミュはまだ続くんじゃよ!(迫真

 ワタル - 脳筋。馬鹿。手持ち全部6V。現チャンピオン。
     ワタルが指示するドラポケは状態異常と能力変化を無視して戦う

 次回、限界集落赤く燃える。

追記。
千早とは巫女装束の事です。勘違いしている人が多いようなので。
ミニスカート型の千早とはミニスカート型の巫女装束という事です

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