目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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チョウジジム

「到着したぞ」

 

「あいよ、っと」

 

 唯一神の背から飛び降りながらボールの中へとその姿を収納する。タンバジムをクリアした事で飛行許可が出ているが、トロピウスに乗るのよりも、ジョウト地方では唯一神に乗って移動した方が圧倒的に早い。その為、エンジュシティからチョウジタウンへの移動にはやっぱり、唯一神を利用してしまった。唯一神をボールに戻した所で視線をチョウジタウンの方へと向ける。チョウジタウンはコガネシティやエンジュシティの様に”シティ”ではなく”タウン”、つまりは村規模の場所だ。その名前が表わしている様に、今まで拠点にしていた場所よりも遥かに小さく、そして寂しい場所になっている。

 

 田舎という言葉がタンバ以上に似合う場所だ。ジムがひときわ目立っているが、それ以外は民家とレストランが多いような気がする―――チョウジタウンの収入源はおそらく近くにある怒りの湖の観光から来ているのかもしれない。とりあえず、チョウジタウンへと来たらやる事は一つしかない。

 

『いかりまんじゅうですね』

 

『で御座るな』

 

 この欠食児童どもめ―――でも食べたいのは自分も同じなので、チョウジタウンを軽く見渡してから、お土産屋を一軒発見し、そこへと向かう。ついでに一番楽しみにしている黒尾と月光をボールから出し、二人を連れてお土産屋の中に入る。老婆が店主のお土産屋は此方が入ってくるのを見ると、いらっしゃい、と軽く頭を下げながら言って来る。

 

「どうも、いかりまんじゅうを4箱ください。圧縮保存すればいいから3個は後日や交換用に、残り一箱はみんなで今日食べちゃおう」

 

 てきぱきと支払いを済ませ、老婆からいかりまんじゅうの入った箱と袋を貰う。

 

「流石主、解っていますね」

 

「うむ、実に素晴らしいトレーナーを持ったもので御座る」

 

 お前ら本当に食べるの好きだよな、と思いつつもその気持ちは実際に良く解る。とりあえず3箱をショルダーバッグに圧縮保存し、残りの一箱を開けると、即座に横から黒尾と月光がそれを取り、食べ始める。手のひらサイズのいかりまんじゅう、それを食べている二人の様子は幸せそうだ。まぁ、食べ回る事を楽しみにしている二人組だから当たり前と言ってしまえば当たり前なのかもしれないが―――まぁ、なんだかなぁ、という感じだ。

 

『……』

 

 アッシュのボールから物凄い食べてみたいオーラが出ているのを感じ、腰のボールに手を伸ばしてアッシュを外に出す。出てきた瞬間から恥ずかしそうな表情を浮かべているのが見えている為、何かを喋る前に、その口の中にいかりまんじゅうを叩き込んでおく。最初は文句を言いそうな表情を浮かべていたが、まんじゅうを食べる次の瞬間には夢中になって食べていた。

 

 どうやら欠食児童がまた一人増えるらしい。

 

 開けた箱を閉めて、しまいながら、お土産屋から出る。息を吐き、饅頭を食べる事に熱心な三人組はさておき、チョウジジム戦の布陣をどうするかが問題だと個人的には考えている。まず最初にアッシュは確定させている。これからのジム戦、全ての試合でアッシュを出し、経験を積ませる事を個人的な目標としている。6vs6なら問題はないが、ヤナギはかなりの歳の入った老人だった筈だ、6vs6を仕掛けるとは思えない。おそらくは3vs3ぐらいにはなると思っている。だからまず一人目はアッシュだ。

 

 二人目と三人目をどうするか、が問題だ。ただバッジ5個目のジムとなると相手も厄介な手段を手に取るだろう。チョウジジムは氷パだった筈、そう考えるとあられ必中ふぶきが飛んでくる可能性が高い。或いはポケモンでゆきふらしを仕込んでいる可能性も高い。そう考えると蛮を加えたくなる。アッシュのひでり、蛮のすなおこし、とこの二人を入れ替えるだけで相手のあられを解除する手段になるのだ。黒尾の夜空は他の天気の同時共存を許す。その為、黒尾を出して天気を潰す、という事ができない。それに蛮はそこまで特殊防御が高い訳ではない。突撃チョッキを装備させてもいいのだが、氷のエキスパート相手に弱点タイプを出すのは正直、あまり良い選択肢ではないと思っている。

 

 となると、サポート要因としてまずは月光だろう。天候の濃霧化、まきびし、妨害や嫌がらせが多くできる上に、受けとして出した場合、濃霧の効果で受けずに回避させる事もできる。元々命中率がそんなに良くないふぶきの事を考えれば、かなり良い選択肢だと思う。アタッカーとしてアッシュ、そして最後に受けの為にナイト、といった所だろう。この組み合わせだったらなんとかなるだろう。そう判断し、後ろで三人が食べ終わったのを確認してからモンスターボールに戻し、チョウジジムへと向かって歩き出す。

 

 チョウジタウン自体が小さい事もあって、チョウジジムへと到着するのにはそう時間はかからなかった。ジムの扉を抜けると、僅かな冷気を感じ、ちょっとした寒気を覚える。ミリタリージャケットを着ているから自分はいいが、対策なしだと少々寒いだろうなぁ、なんて思いながらアドバイザーの姿を見つける。

 

「おーっす! 未来のチャンピオン! お、未来のチャンピオンはバッジ四個、っつーことはこれから後半戦に入るのか、早いなぁー。ここ、チョウジジムのジムリーダーは冬のヤナギ! 長年から来る経験とベテランの知識! それを活用してエグイ戦い方をして来るぜ! 爺さんだって舐めて最後の方に回せばまさに地獄、ヤナギさんは本当に容赦がねぇ!」

 

 大体想像できる。

 

「とりあえず、チョウジジムは氷タイプのジムだ。氷タイプには格闘、鋼、そして炎が良く効きやがる! だけど地面、草、ドラゴンタイプは逆に氷タイプに食われちまうから注意しろよぉ! まぁ、ここまでハイペースで来た未来のチャンピオンには関係のない事かもしれないけどな! そんじゃきばってこーい!」

 

 サムズアップをアドバイサーに返し、ジムの奥へと通じる扉を抜ける。

 

 そこに広がるのはアイスのスケートリンクの様に床の凍ったバトルフィールドだった。

 

「うっわっ」

 

 思わずそんな声を零すしかなかった。この上でポケモンを戦わせるのか、慣れているポケモンに取っては有利だが、慣れていないチャレンジャーにとっては地獄の一言に尽きる。そんな事を考えながらジムの奥へと視線を向ければ、ジムの奥、反対側に杖を握っている老人の姿が見える。彼こそが”冬”の二つ名を持っているジムリーダー、ヤナギだ。このジョウト全体を見ても、二つ名を保有しているのはこのヤナギ、一人だけだ。ヤナギは此方の姿を確認すると、軽く頭を下げてくる。

 

「ようこそチョウジジムへ、私がジムリーダーのヤナギです。マツバ君から挑戦しに来るから苛めて欲しい、と頼まれたのではりきって決戦フィールド等を用意させていただきました。本来はバッジ七個目から出す物ですが、出しても問題のない相手だと判断しました」

 

「マツバァ!! 貴様ァ!! どうせ今も千里眼で見ているんだろう! 絶対許さんぞぉ!」

 

 最近友情を感じていた相手に裏切られたような気分だった。ただそれをヤナギは軽く笑い、そして真っ直ぐ視線を此方へと向けてくる。

 

「シングル3vs3、もちものの重複禁止、レベルは50フラットの基本公式ルールでいいですね?」

 

「はい、宜しくお願いします」

 

 ルールを決めた直後、ヤナギの纏う雰囲気が一瞬でガラリと変わる。相手がトレーナーとしての顔を見せてきている。その事実に軽くごくり、とつばを飲み込みながら腰のボールに触れる。今回は黒尾をバトルに出さない。という事は安定した一手目、先発で黒尾を出すという事ができない。なら誰を出すか? 安定してプレッシャーを与える行動を出せるのは一体だ。

 

「トキワの森のオニキス、ジムバッジを求めて挑戦します」

 

「チョウジジム、ジムリーダーのヤナギ、その挑戦を認めましょう」

 

 視線を交わし、お互いにボールからポケモンを出す。

 

「行きなさい、ジュゴン」

 

「決めろ、月光!」

 

 場にジュゴンの原生種と、そして月光が出現する。両者がフィールドに出た瞬間、天候が変化を見せ始める。ジュゴンの頭上で雲が、そして月光の背後に霧。天候は一瞬だけ互いに拮抗する様な姿を見せるが―――速度の差で月光の濃霧があられよりも先に展開され、フィールド全体が濃霧に包まれ、閉ざされる。

 

「拙者の方が早かったで御座るな」

 

 ふぅ、とあられの展開を妨害出来た事に息を吐きつつ、集中する為にゴーグルを装着し、フィールドを見る。月光は見た目通り、忍者の様な動きができる為、ある程度の悪路に対して、動きが制限される事はない。だからと言って長居させたくはない。

 

「撒いて行くぞ。月光」

 

「成程、厄介なようですね。ジュゴン」

 

 月光が出現と同時に撒いたまきびしとは別に、どくびしも撒いた。それに合わせる様にジュゴンが濃霧を塗りつぶす様にあられを降らせ始める。降り注ぐあられが月光の肌を傷つけ、そしてダメージを与える。まきびしとは違って継続的なダメージである分、面倒だ。それに濃霧であれば天候バトンで直ぐにナイトかアッシュに切り替えられたのに、あられを展開されたことで即座にスイッチする事ができない。

 

 思考を加速させつつ、月光に指示する。

 

「……」

 

「お見合いとなってしまいましたか」

 

 月光、そしてジュゴンもまもるで一手、お互いを攻撃する事無く時を過ごす。だがあられがある分、有利なのは相手だ。月光では決定打が出せないのは確かだ。素早く後退させた方がまだ良い。そう判断し、月光を戻そうとするのに合わせ、

 

「おいうち」

 

「むっ」

 

 ボールの中へと戻って行くジュゴンのおいうちが月光へと突き刺さり、大ダメージを叩き込みながら退散させる。感触からして”喰いしばった”が、あられが降っている間は死んでいるのも同然だ。まずは霰を解除し、ジュゴンから片付けないと駄目だ。

 

「ジム戦デビューだ! お前の力を見せろアッシュ」

 

「私に任せなさい!」

 

 ボールから出現したアッシュがホバリングしながら登場し、瞬間的にあられが消え去って日差しが強くジム内を照らす。ジュゴンならばおそらくは”あついしぼう”を持っていると見て間違いはないだろう。となると炎タイプ技は使えない。だったらサブウェポンの方で潰すに限る。

 

「ゴギャァァァァァォォォォォ―――!!」

 

 竜の咆哮と共にアッシュの口からソーラービームが放たれる。強い日差しと活性化された生命力を交えて放たれた草タイプの大技は一瞬でジュゴンへと到達し、その体を吹き飛ばす。まきびしとどくびしの中へと叩き込まれたジュゴンはそのまま倒れず、即座に体勢を立て直しながら、杖を床へとコツンコツン、と叩きつけるヤナギの動作に指示を掴み、反転する様に反撃のハイドロポンプを放ってくる。濃霧がない以上、それを飛んで回避する事は難しく、ハイドロポンプが直撃する。

 

 が、

 

「―――効いてない……?」

 

「アッシュのタイプは炎ドラゴン、つまり水も氷も等倍―――!」

 

 これがメガリザードンYの炎飛行であれば効果抜群で、かなりヤバかった。現状ヤバイのはドラゴン、そして岩タイプだ。地面に関してはホバリングする事を徹底的に覚えさせたため、叩き落とされない限りは通じない。ハイドロポンプを喰らったお返しにノーチャージソーラービームを打ち返し、今度こそジュゴンが沈む。にほんばれソーラービームで二発、かなり耐久力の高いジュゴンだった。

 

「じゃ、先輩にチェーンジ!」

 

「スイッチ、月光!」

 

 強い日差し、或いは星天である事を条件にバトンが成立し、アッシュのバトンタッチが発動する。アッシュと月光を入れ替え、まきびしと濃霧を発生させながらも視線をヤナギへと向ける。ヤナギは楽しそうにほうほう、と声を漏らしている。

 

「成程、面白い育て方をしている様ですね。では少々キツク行きますよ、マニューラ」

 

 黒い服装に大きな帽子を被った亜人種のマニューラが出現する。その姿は出現と同時にまきびしとどくびしを踏み、ダメージと毒状態を受けるが、同時にねこだましを放ち、月光を怯ませてからだましうちを放ち、出現発動のみで月光を落とした。月光をボールの中へと戻しつつ、再びフィールドへとアッシュを再臨させる。天候が濃霧から日差しの強い状態へと移り変わる。

 

「アッシュ、蒼い炎!」

 

 アッシュの口から青い炎が放たれ、フィールドを炎で満たす。が、その前に、超加速したマニューラがアッシュの行動の隙間に捩じり込む様に攻撃を―――ふいうちを成功させる。ダメージを喰らいながらも至近距離から炎を叩き込み、マニューラを弾き飛ばす。着地したマニューラの懐からきのみが零れ落ち、役割は終わったと言わんばかりに消え去る。どうやら炎を半減させたらしい。アッシュが持たせたオボンを食べないところを見ると、まだ余裕があるらしい。

 

 ここは―――居座らせる。

 

「当てろアァァッシュゥ―――!!」

 

「グルルルゥゥ、ゴギャァァァ―――!!」

 

 マニューラの方が動きが早い。アッシュに到達しながら、すれ違う様に斬撃を叩き込んで行く。鋭い爪の一撃が大きくアッシュの体を切り裂き、その姿を一瞬だけ怯ませる。だがそれも一瞬だけ、すれ違うマニューラの足を尻尾で掴み、そしてその姿を前方へと投げ、

 

 蒼いブラストバーンがマニューラを吹き飛ばし、フィールドに叩きつけた。

 

「ふぅ、ふぅ―――」

 

 反動に晒されながらもアッシュがオボンのみに齧りつき、体力の回復を行う。戦意高揚があるとはいえ、ここは迷う事無く交代だ。アッシュをバトン効果でボールの中へと戻しながら、それをナイトへと繋げ、そしてフィールドへと出す。

 

「では決めましょう、ジュゴン」

 

 此方がナイトを出したように、相手もジュゴン―――今度は亜人種のをフィールドに出してきた。まきびしとどくびしのダメージと変化がジュゴンに発生する。ここはアッシュに繋げる事を考えてリフレクター、或いはひかりのかべを展開してバトンを回しておきたい所だ。浅く呼吸しながら思考を巡らし、ナイトに指示を飛ばそうとし。

 

「予測して当てなさい―――ぜったいれいど」

 

「よけろナイトォ―――!!」

 

 瞬間的にナイトが避けようと跳躍する。しかし氷の決戦フィールド、それは氷ポケモン以外から地上での回避能力と運動能力を奪うもの。

 

なう(クソ)なーうぅ(後は頼んだ)……」

 

 ―――一撃必殺。

 

 ジュゴンのぜったいれいどがナイトを的確に捉え、逃がす事なく一撃で氷漬けにして葬った。戦闘不能になったナイトを労いつつボールに戻し、アッシュのボールを手に取る。それを軽く指の上で転がし、

 

「後はない。お前が決めろ、アッシュ!」

 

「―――!!」

 

 竜の咆哮を響かせながら翼を広げ、アッシュがフィールドに降臨する。即座に飛行しながらソーラービームがジュゴンへと放たれる。それをジュゴンが受け、そしてきのみで半減させながられいとうビームを放ってくる。

 

「避けろぉ!」

 

「グル、ル、ルゥ―――!」

 

 れいとうビームを紙一重で回避し、空中で回転する様にアッシュがジュゴンへと視線を向けた。自分の心臓の鼓動をアッシュのものとシンクロさせる様に極限まで集中力を高めつつ、思考を加速させる事で素早くフィールドを見て、相手を見て、アッシュを見て、そしてアッシュのあの下半身の服装、腰や太もものラインにパンツの姿が見えないんだがもしかしてノーパンなのではないか……? 等という疑問を感じつつ、攻撃を決めた。

 

「相手は貧乳だ、よってあついしぼうは習得していない! フレアドライブ!!」

 

ガオー(ないわー)

 

 ネタ抜きのガチな話をすれば、一匹のジュゴンはゆきふらし、つまりはあられを降らす為の天候起点だった。だからこのジュゴンの役割はおそらくその天候の中で居座る事だと思っている。つまりあついしぼうやゆきふらしのない代わりに、アイスボディでの回復効果を秘めているタイプだと思っている。

 

 故に、フレアドライブで一気に焼き払う。

 

 蒼い炎を纏ったアッシュが一瞬の加速を得てジュゴンに衝突する。炎の爆発を発生させながらジュゴンを吹き飛ばし―――そしてジュゴンが耐え抜いた。両足で着地しつつ、絶対に外す事のない距離からアッシュをふぶきが襲う。

 

「先輩に任されてんのよぉ―――!!」

 

 正面からのふぶきに対して―――真正面からアッシュがブラストバーンを叩き込む。天賦個体であるからこそ許される瞬間的な反応と暴挙。種族と生物として格上であるからこそ、正面から打ち合い―――そして打ち砕く事ができる。ふぶきを正面からブラストバーンで蒸発させ、そしてジュゴンに叩きつけ、

 

 戦闘不能に追い込む。

 

「おや、必中ぜったいれいどまで使ったのに負けてしまいましたね。いやはや、やはり若いとは素晴らしい事ですねぇ……おめでとうございます、貴方の勝利を認めましょう」

 

 必中一撃必殺等という凄まじいものを見せられつつも、なんとかギリギリのところで勝てた、という印象になってしまったが、

 

 これで、五つ目のバッジゲットだ。




 永久氷壁はバッジ七個か八個ないと使ってきません(半ギレ
 ロックオンやこころのめを使わずに必中絶対零度とかいう絶許奥義の持ち主。マスク・オブ・なんちゃららさんも噂によると必中絶対零度が使えるらしいのだ……。

 一体どこのチョウジタウンのどこのジムリーダーなんだ……

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