「―――あてろ、つらぬけ、必殺しろ、ブラストバァーン!」
「これでトドメです」
黒尾が前に突き出した指先から一線の赤い光がサイドンを貫き、次の瞬間にはレーザービームの様な炎の奔流となって一直線に爆発しながら放たれた。一瞬でサイドンの体を貫通した究極技の一つは耐えようとしたサイドンの体力を貫通し、避ける事も禁じ、あらゆる行動の上位に割り込んで必殺させた。ゆっくりと倒れるサイドンが試合の勝者を証明していた。
これで決勝進出、と胸中で呟きながら解説へと耳を傾ける。
『強い! 強いぞ! 強すぎる!! エキシビジョンマッチで見せた実力は偽りじゃなかった! 凄いぞオニキス選手とあの色違いのキュウコンは! 多彩な戦術に凄まじい技幅、トレーナーの指示に即座に応えるポケモン、信頼関係も相性もバッチリだ!』
『アカネちゃんが負けた時はいやらしい戦術を取るタイプかと思いましたけど、ここ数戦は普通に戦っていますね』
『ちゃうでクルミ、アレはわざと普通に戦っているんや。つかあの試合はキッスを速度で上回らない限りは確定で怯むし、
『うーん、でもやっぱりポケモンバトルって派手なイメージがあるかなぁ』
解説席に移っているアカネがクルミの言葉に返答する。
『せやなぁ、一般的には派手なバトルが多いやろな。やけどな、それだけがバトルだと思ったらエンジュジムで詰むで? 最近戦犯モノのわざマシン入手したせいで強化されたらしいし。まぁ、それはさておき、戦い方に好き嫌いしている奴は間違いなくポケモンマスターになんかなれへんわな。それでも高種族値の暴力というのは見ていて清々しいものがあるのが事実やけど―――』
そう言って視線をフィールドから降りながら別のフィールドへと向ける。
そのフィールドに出ているポケモンはあのドラゴン使いのガブリアス、
そしてそれに対応する様に水色の服装と甲羅を背負った亜人種のポケモン―――カメックスだ。
対戦しているのはあのドラゴン使いと、そしてもう一人、強敵だと踏んでいた相手だ。幸運にも二人がぶつかり合い、そして潰し合いを披露してくれていた。しかしカメックスを出してくるとは、おそらくホウエンやシンオウ地方のポケモン以上にレアかもしれない、と思いながら試合へと視線を向け、情報収集に集中する。
先に動き出したのはガブリアスだった。種族としての暴力、と言える程にドラゴンポケモンの能力は高い。幼いドラゴンであろうとも、そこらへんのポケモンを蹂躙するだけの力がある。動き出したガブリアスが一瞬でカメックスの横へと回り込みドラゴンクローを放とうとするのを、カメックスは片手でガードし、頭を下げる様に背中のカノンをガブリアスの顔へと目掛けてセットする。次の瞬間放たれたハイドロポンプをガブリアスが体を捻りながら回避し、
ドラゴンテールが鞭の様にしなりながら放たれる。
「よけろカメックス!」
命令に従う様にカメックスが最小限の動きでドラゴンテールを回避し、そしてボディブローをガブリアスの腹へと叩き込む。それでガブリアスは動きを止めようと―――しない。その口が大きく開き、そして口からりゅうのいかりが吐き出される。吐きだされた竜のブレスがカメックスに直撃するが、それでカメックスは動きを止める事無く、そのまま拳を振り抜いてガブリアスを殴り飛ばす。
「ハイドロカノン!」
「はかいこうせん!」
白色の閃光と水の究極技が正面から衝突し、爆発を引き起こす。確かに、アカネの言う通りだ。この戦いは見ごたえがある。誰もが憧れる、そういう戦い方だ。実際、ポケモンの派手な勝負に憧れたトレーナーと言うのはかなり多い。個人的にはそういう部分よりもパーティーの連携と回転率を上げる方がやっていて楽しいという感覚があるのだが、その気持ちはわからなくもない。かっこいいのだ、強大な力を持った存在が互いにぶつかり合い、そして押し合うのは。
ガブリアスとカメックスが反動から復帰した直後、ガブリアスが前に出る。それに反応する様にカメックスが吠え、そして巨大な水の流れが発生する―――なみのりの津波がフィールドを覆い、ガブリアスを飲み込まんと迫ってくる。それをガブリアスは跳躍し、空へと浮かび上がると回避しながら、空からカメックスへと向かって急降下する。
ガブリアスの放つドラゴンダイブに対して。カメックスがまもるを使用し、その攻撃を防御する為に結界を生み出し、
「愚か者が! ドラゴンの進撃がぁ! そのようなもので止まるかぁ―――!」
カメックスのまもるを貫通してドラゴンダイブがカメックスに突き刺さる。それによって大地に叩きつけられたカメックスは目を回し、動かなくなる。技の反動等で多少体力は減っているかもしれないが、凄まじいのはガブリアスのその破壊力だ。まさにドラゴンポケモンの代名詞。圧倒的暴力、そしてたった一撃で戦況を覆すその優秀さ。育成が激しく難しいドラゴンポケモンは多くのトレーナーが憧れ、挑戦し、そして諦めるものでもある。
ドラゴンポケモンは主を選ぶが、その基準が非常に難しい。
だがこうやって認めた者に対してはその暴力を最大限発揮させる。
純粋に強い。
「……みがまも貫通、といった所でしょうか。ドラゴンダイブの速度と動きに迷いがありませんでした。相当訓練しているのか、おそらく命中率に関しては一切の低下がないと思います。タスキまで貫通するかどうかは解りませんが、保険用のタスキ以外に装備したいものが見当たりませんね、これ」
「うへぇ、やっぱドラゴン強いわ。闘争高揚習得しているな、アイツ。真っ当に戦っていると種族値の差で圧殺されかねないな。だけど先に見ていて良かった。みがまも貫通でも相手が脳筋プレイしてくれるならまだ勝ち目はあるわ。おそらくカイリューがマルチスケイルである事を想定して、ガブリアスは見ている限りさめはだだ。砂パの様には見えないしな。まぁ、元々直接技の類は此方はあまり持ってないし、都合が良いっちゃあ都合が良いわな」
みがまもが封印された状態は色々とキツイ。しかし、それでもまだやりようはある。ドラゴンタイプへの対策は誰だって行うもの、想定するものだ。ソロバトルはブランクがあるとはいえ、まだまだそう簡単に負けるわけではない。あの手この手、手段を選ばずに戦えば、まぁ、相打ちに追い込める、という所だろうか。
「全ては黒尾の気合いにかかってる、って所かな」
「不屈の闘志を舐めないでいただきたいものです」
黒尾の自信満々な言葉に軽く笑いながら視線をフィールドの方へと戻す。フィールドからガブリアスとカメックスの姿は消え、その代わりにカイリューとリザードンが争っていた。リザードンが負けまいとカイリューの攻撃を回避しながら攻撃を繰り出すが、カイリューの方がスピードが速く、リザードンの攻撃を回避しながら的確に技を当てて行く。何処からどう見てもリザードンの勝機は存在しておらず、
あっさりとはかいこうせんが直撃し、リザードンが沈む。カメックスにリザードンという御三家の内二体を見れたことに個人的には満足だ。試合が終わったらリザードンの卵を持っていないか聞きに行こうと決める。
個人でメガシンカの研究を行っている今、蛮と災花以外にもメガシンカの行えるポケモンが欲しいのだ。
メガリザードンXとかホント欲しい。アレはかっこいい。まぁ、特性と種族値を考えるとメガリザードンXよりもYの方が欲しいのだが。まぁ、ポケモンの開発に関しては世界最強クラスという自信が自分にはあるのだ、あとはメガストーンか、メガストーンの原型となるものさえあれば、メガシンカ、或いはメガシンカの状態を固定するとか、そういうことが可能になりそうな気はしている。
まぁ、後での話だ。
「まぁ、ちっと本気で殺るとすっか。モチベ上がって来たし」
「御意に、主様」
戦闘が終了し、準決勝戦が終わる。ボールの中にカイリューを戻し、それを回復装置にドラゴン使いがかける。それを横目で確認しつつ、敗退したトレーナーの方へと軽く手を振る。それを相手が目撃し、軽く手を振り返してくる。こうしておけば決勝の後で話し合う時間もできるだろう。そう思いつつ、黒尾を連れ、フィールドの上へと移動する。ドラゴン使いの反対側へと移動し、ポジションに移動する。予め用意していた持ち物、それを黒尾へと渡し、装備させる。
回復を終えた相手も反対側へと立ち、此方へと視線を向けてきている。特に交わす言葉はない。
『さあ、始まりました決勝戦! 決勝に進出したのは大方の予想通りオニキス選手とハトウ選手! オニキス選手は手持ち一体、特異個体のキュウコン使いで、様々な技を見せながら勝ち進んできた! それに対するハトウ選手はドラゴン使いだ! 圧倒的な暴力で今までの対戦者たちを一瞬で沈めてきたその実力を受け流せるかどうか、それが勝負の分かれ目だ!』
『いやぁ、また華麗なハメを見せて貰いたいものやなぁ。というか誰か苦しめ、出勤王の苦しみを』
『苦しめたのはアカネちゃんだよぉ……休ませてあげようよぉ!』
実況席楽しそうだなぁ、と思いつつ視線を正面へと戻す。相手は此方へと戦意と闘志で満ちた視線を向けてきている。はてさて、勝てるかねぇ、と呟きながらゴーグルを降ろし、集中する為に精神のスイッチを切り替え、周りから雑音を排除し、目の前の状況に集中する。黒尾がその頭にハチマキを装備し、そして横に立って開始を待つ。言葉を交わす必要はない。絆と魂で繋がっているのだから、
想いで伝わる。
―――そして開始の合図が鳴り響く。
「行け、黒尾!」
「蹂躙しろガブリアァァス!」
黒尾とガブリアスがフィールドに出る。瞬間、特性のよぞらが発動し、フィールドが夜の闇に包まれる。それと同時に、ガブリアスが一直線に黒尾へと向かって来る。接近と同時に放ってくるドラゴンクロー、それをシャドーダイブで影の中へと潜って回避する。
「何ッ!?」
シャドーダイブ、それは伝説のポケモンしか覚えてない技である為、初見の人間であればだれであれ、一瞬は動きが乱れる。故にその瞬間を利用してガブリアスの背後から影の炎を叩きつけながら黒尾が出現する。ガブリアスが背中からの攻撃を受けながらよろめく中、その隙を突いて更に黒尾が行動を重ねる。
「天よ輝け! 夜の闇に!」
にほんばれが発動する。夜の闇を貫く様に、空に浮かび上がった星々の輝きが増して行く。夜という天候が優先されるため、陽の光は生まれない。その代わり、太陽から光を受けて輝く月と星々はその輝きを増し、夜の闇に線を刻む様に光を照らし始める。
「ドラゴンテール!」
「よけろ黒尾!」
「あてろガブリアス!」
「受け流せ黒尾!」
「貫けガブリアス!」
「喰いしばれぇ―――い!」
天候が夜空から星の輝く星天へと変動する。瞬間、ガブリアスのドラゴンテールが襲い掛かってくる。ステップで回避を誘導するのをハトウの声が補正し、必中の流れへと捻じ曲げる。それに合わせて受け流しを指示すれば、ドラゴンテールの破壊力が増して行く。受け流せないだけのインパクトへと変化し、黒尾へと命中する。
黒尾が吹き飛ばしながら、ギリギリの所で耐えた。
装備はきあいのハチマキ。タスキとは違って確定で発動する訳ではないが、
気合いさえ込めていれば、無限に食いしばる事だって出来る。
故に黒尾は紙一重で喰いしばった。
「運任せかッ!?」
「いいや違うね、信頼だと言ってほしいなぁ!」
黒尾の体力や性格を考えると、ハチマキ装備で耐えられる回数は”三回”が限界だと考えた方が良い。ドラゴンポケモンはステルスロックやシャドーエッジを撒いても突破して来るし、ほえるも耐えてくる事がある。だから相手をする場合は大体、正面からの殴り合いが必要になってくる。故にそれらしく、真正面からガブリアスを制圧する。まだ星天のギミックを使用する事ができない。ガブリアス相手に使った場合、詰む可能性が高い。
だからここ、ガブリアスとの勝負が重要だ。
「シャドーダイブ!」
吹き飛ばされた状態から影の中へと黒尾が潜り込んだ。星天による光がある為、ノータイムシャドーダイブは行えない。故にその時間を利用してガブリアスが逃れる様に空中へと飛び上る。空中で体勢を整え。ガブリアスはドラゴンダイブを放つ状態へと移行する。その中で、フィールドの影から黒尾が出現する。流石に空にまでシャドーダイブは届かない為、本当に出てくるだけだ。それを待っていたあの様にガブリアスが高速で落ちてくる。
「終わりだ―――」
「かかった」
瞬間、黒尾が影の中へと再び潜り、そしてガブリアスが影の中へと潜り込む様に突っ込む。一秒後、ガブリアスではなく黒尾が影の中から飛び出し、
「―――一撃必殺にて終了で御座います」
影の中から黒い火柱を噴出させ、影の中諸共、ガブリアスを一気に焼き払った。星天の効果で命中率の上昇している中で、完全に逃げ場を奪って放った一撃必殺。影の中から吐き出されたガブリアスは焦げて、ぼろぼろの様子で目を回している、完全に瀕死の状態だった。これでガブリアスを持って行けた。しかし、同時に追いつめられているとも思う。
黒尾を見れば体についている傷が増えているのが見える。どうやらドラゴンダイブを完全に回避し切れたわけではなかったようだ。これで気合いカウント2、と脳内で計算しつつも、バックステップで距離を取らせる。ガブリアスをボールに戻したハトウは大きく笑みを浮かべる。
「成程、我がガブリアスを打ち破るか! その健闘を褒め称え、正面から蹂躙してやろう―――カイリュー!」
ボールからカイリューが出現し、フィールドに着地する。瞬間、超高速でカイリューが動き、一瞬で黒尾へと到達する。その動きに回避を重ねさせながら、カウンターとして尻尾をカイリューに叩きつけさせる。
「マルスケェ!」
「猪口才なぁ!」
マルチスケイル潰しを行い、そしてカウンターのカウンターをカイリューに叩き込まれ、吹き飛ばされる。その状態から再びシャドーダイブを発動させ、影の中へと黒尾を潜らせる。反応する様にカイリューが二メートル程浮かび上がり、動きを止めながら警戒する。シャドーダイブで黒尾が影の中に潜っている間に思考を軽く整える。ここで交代する事が最良なのだが、出来ない現状、どうにかして決定打をカイリューに叩き込みたい。ハメが成立しない相手だけに中々辛いが、さて、
「……うし、攻めるぞ黒尾―――りゅうせい」
影の中から飛び出してきた黒尾をカイリューが的確にとらえ、はかいこうせんがその姿を吹き飛ばす。それと同時に、夜の闇と星の光が一点に集まり、りゅうせいとなって頭上からカイリューへと落ちてくる。天候が全て解除され、ニュートラルな状態へとリセットされる。天の光を受けたカイリューは―――まだ沈んでいなかった。研究中、開発中のギミックじゃこんなもんか、そう思いつつ素早く黒尾に次の指令を下す。
復帰してきたカイリューの尻尾を飛び越えながらだいもんじを近距離で繰り出すが、それを耐えながらカイリューが素早く、拳を二発黒尾へと叩き込む。
「……くっ……すみま……せん……」
そう言って許容量をオーバーするダメージを受け、ついに黒尾がダウンする。まぁ、ドラゴン二体は無理だよなぁ、そんな事を呟きながら、
二位という順位で大会が終了する。
みがまも貫通される相手にハメとかは出来ない(確信
たぶんアカネちゃんのキッスだったら封殺してた。
オリジナル技が見えているようで、やっている事はヤナギとか程トンデモじゃないから許されると思いたい。