「たのもー!」
「おーっす、未来のチャンピオン! お、今日のチャレンジャーは元気だな!」
ジムへと戻ってくるとアドバイザーの姿が見える。普通に此方を歓迎している様子からすると、ジム戦を行えるように見える。何時も通りジムのロビーへと進み、片手を上げてアドバイザーへと挨拶をする。別人だというのは解るが、どのジムにいるアドバイザーも姿が物凄く似ていて、同一人物を相手している様な錯覚さえある。もしかしてポケモンなのだろうか、アドバイザーは。そんな事を想っている内に、何時もの流れに入る。
「ここ、タンバジムのシジマはストロングなかくとうタイプ使いだ! 岩を砕き、氷を砕き、鋼を砕いて悪を砕く! っちゅーわけでかくとうタイプはいわ、こおり、はがね、あくに強いぜ。だけどエスパーとひこうタイプは超苦手だ! パンチやキックではどうしようもないからな! あと……お、未来のチャンピオンはバッジもう二個取ってるのか、っつーことはそろそろジムリーダーも舐めプを止め始める頃だな」
かなりハイペース―――これは唯一神のおかげなのだが―――でバッジを取得してきている。バッジ1個目、2個目はまだまだジムリーダーが手を抜いてきてくれている段階だ。3個目、4個目となると少しずつだが二軍、三軍を使いながらも手段が少しずつ本気になってくる時だ。本気、というよりは”完成された戦術の雛型を見せる”というタイミングだ。
「……まぁ、なんだ。未来のチャンピオンを見た感じ、”エリートトレーナー”だろ? たぶんシジマさん、割と容赦なく戦って来ると思うから、二軍や三軍だって甘く見ない方が良いと思うぜ。まぁ、まだ持ち物を持たせたりはしないから、タスキ辺りを主力に持たせておく事をオススメするぜ!」
「具体的なアドバイスどうもです」
なんか既に自分の情報が出回っているような、そんな感じの気配がする。まぁ、”わざと目立つ様に”行動しているのもあるのだが。注目度が上がれば上がるほど、此方に対する対策などの情報が出回ってくる。逆に言えばそれを利用すればメタの把握や、それに対する訓練が行えるという事でもある。タンバジムはぶっちゃけ後回しにするとタイプ的な問題で勝てるビジョンが見えないから先に選んだ部分はある。
まぁ、楽しませてもらおう。ポケモンバトルとは楽しむものなのだから。
「んじゃ、キバってこぉーい!」
アドバイザーのサムズアップと応援を貰いながら、ジムの奥へと繋がる扉を開き、ジムの中へと入る。
そこに広がっているのは鍛錬場だった。明るい洞窟内部を道場と融合させたかのような岩肌の足場と天井、道場。中では隊列を組み、ポケモンと共に正拳突きを繰り出して体を鍛えるジムトレーナーたちの姿があった。流石タンバジム、そう思って奥の方へと視線を向ければ、ジムの一番奥にシジマの姿が見える。腕を組みながら仁王の如く立つ男は此方の存在を見つけ、そして口を開く。
「―――貴様が挑戦者かぁっ!!」
声が大きい。耳がキーンとしそうな、耳に響く声だ。すぐ横でギラ子が両手で耳を塞いでいる。
「あの人嫌い。心が清すぎる」
お前は邪悪の化身か何かか。そんな感想をギラ子に抱きつつ、相手が叫んだのであれば叫び返す、これ、悪ノリの礼儀。
「トキワの森のトレーナーオニキス! 三つ目のジムバッジを求めてジム戦を求める!」
「ぬぅ! オニキスゥ! と言えばミカンとマツバを面白い戦術で負かしたというトレーナではないかァ! 話は聞いているぞォ! 50フラットでやっても貴様には意味がないだろうゥ! けいこをつけてやるゥ! レベル制限はなしィ! 持ち物重複なしィ! 6vs6シングルゥ! 公式戦で勝負だァァァ!」
「うるせぇェェェェ―――!! 喋る度にボリューム上げんなよォ!! 耳が痛ぇんだよォ!」
「ガァ―――ッハッハッハハハァ!」
「アイツ嫌い」
「俺も苦手だわ」
欠片の悪意もなく、両腕を組んで楽しそうにシジマが笑っている。四天王のシバ同様半裸族のクセして―――いや、半裸族だからこそこんな性格なのか、と納得する。溜息を吐き、腰のモンスターボールに指を触れる。まぁ、予想はしていたが既にミカンとマツバから情報が回っていた。そのせいかレベル制限が解除されている。それは良い、別に良い。問題は出してくるポケモンと、相手がどこまでやるか、だ。ジョウト特産のポケモンを出してくるのは良いが、
ジムリーダーによっては別地方と連絡を取りあい、ポケモンをトレードしたりして、別地方のポケモンを持っている場合がある。
たとえばマツバのヤミラミ、アレはホウエン地方のポケモンだ、ジョウトには存在しない。
まぁ、流石にシンオウやイッシュ、カロス地方は遠すぎるらしく、ジョウトやカントーでは滅多に見ないが、ワタル辺りはドラゴンマスターとして持っているだろう。
その時はドラゴンスレイヤーさんをボックスから出そう。
ともあれ、
キノガッサだけはいない事を祈る。
『ねぇ、相手からキノガッサの気配がするんだけど……』
感じて欲しくない気配だった。というか何故ピンポイントでその気配を拾うんだ、止めてくれ、トゲキッス、ハピナス、キノガッサ、ヤミラミはトラウマに残っているんだ。思い出させないでくれ、あの悪夢を。とりあえず、そうやって軽いトラウマに苛まれていると、道場で修練を行っていたジムトレーナー達が脇へと移動し、中央に巨大なスペースを作る。そうやって出来たポケモンの戦闘フィールドは、洞窟に近い環境だ。
まぁ、何かとタンバジムは特殊らしい。良い、実に良い。経験になるのだから。
「さて……予め持ち物を”コレ”に想定して持ち替えていて良かったな」
そう呟き、黒尾のボールを取る。
ポケモンバトルにおける手持ちのポケモンパーティー、それは幾つかの役割に振り分ける事ができる。黒尾はポケモンバトルにおいて一番高い確率で先発として利用するポケモンであり、尚且つ手持ちのパーティーのリーダーだ。その役割は先陣を切る事でパーティーの状況を生み出し、統率する事。ただリーダーといっても、アタッカータイプではなく、黒尾のはサポートタイプ、特に状況などを構築する事に特化している。黒尾が最初に出ないと戦闘が始まらないと言っても良い。
「行け、黒尾!」
「行け、ニョロボン!」
黒尾と相手の亜人種ニョロボンがフィールドに出る。その瞬間、ジムが夜の闇に染まり、一気に暗くなる。まだ黒尾を完全に隠せる程ではないが、それでもその黒い体色と夜の闇は良く馴染む。それを見たシジマが軽く笑い声を上げる。
「ハッハッハ! 成程なァ! これはやり辛いかもしれんが無駄だなァ! ―――ばくれつパンチ」
「きつねび!」
黒尾がきつねびを放とうとすれば、それよりも早くばくれつパンチが速度を無視し、順序関係なく法則を乗り越えて黒尾にヒットする。その直後に黒尾の技、きつねびが発動し、フィールド上に青い焔がまるで幽霊の様に闇の中で浮かび、明かりとなりながらも散布される。そしてまた、黒尾が殴り飛ばされながら、その胸の間から一枚の赤いカードが抜きとられる。
「レッドカード、ご退場お願いします」
「ぬっ」
レッドカードの効果が発動し、ニョロボンが強制的にシジマのボールの中へと飛ばされる。その間に着地した黒尾が服の乱れを直しながら、再びきつねびを発動し、更に多くの焔を空間に灯す。その間にシジマが次のポケモンを、原生種のエビワラーを出現させる。だがエビワラーは出現するのと同時に、きつねびに触れる。そしてそれで発生するのは、
「―――やけどか!」
「どくびしを参考に作った設置型やけどですよ!」
「成程、しかしその耐久では耐え切れんだろぅ!」
やけどを負った状態でシジマはエビワラーに命令する。
「―――きあいパンチ!」
「ルラァァァ!」
エビワラーのきあいパンチがチャージなし、そして優先度を上げて放たれ、黒尾を穿つ。それを受け、黒尾が吹き飛ぶ。黒尾の耐久力ではそれを受け止める事は不可能だ。体力が満タンであればタスキで耐える事が出来ただろうが、その必要はない。タンバジム相手に手札を隠しているのは敗北へ繋がりそうなので、しっかりと油断なく、
「人を呪わば穴二つ、地獄への道、付き合っていただきます」
黒尾が倒れるのと同時に、影から九本の尾が伸び、それがエビワラーの胸を貫き、エビワラーをジムの床に沈める。
「む、みちづれか。成程、手札を隠しているだけで、本気を出せば相当妨害と環境構築に特化したポケモンだなそれは!!」
「……お褒め頂きどうも」
オートみちづれ、とでも言うものだ。まぁ、普通は覚えられるものではないが、黒尾の先発型リーダーとしての自負が、それを覚え、実行させる事を可能にした、とでも言うべきなのだろう。黒尾をボールの中に戻しつつ、その健闘を労い。月光の入ったボールを取り出し、素早くスナップさせ、場に月光を出現させる。
「任せたぞニョロボン!」
「さて、何時も通りのお仕事の時間で御座るな」
出現と同時にまきびしを月光は撒き散らし、それが終わった直後の姿の月光にパンチ―――おそらくは勢いから考えてきあいパンチが叩き込まれる。その衝撃に月光が吹き飛ぶが、その仕事は完了している。
「では交代で御座る」
だっしゅつボタンが発動し、攻撃からそのままボールの中へと月光が戻って行く。そこから災花を出すまで、トータルで使用する時間は0.5秒もかかりはしない。高速のボールハンドリングでモンスターボールの赤い線で軌跡を描きながらアブソルを繰り出し、その闘争本能と復讐心を一気に燃え上がらせる。
「私が狩って、貴方が狩られるのよ」
場に出た災花がふいうちを放つ。おそらくはきあいパンチかばくれつパンチを繰り出そうとしたニョロボンよりも早く、その虚を突く様に動き、横からその姿を蹴り飛ばし、一気に追いつく。そのまますれ違いざまい追撃のつじぎりを叩き込み、一気にニョロボンを沈めながらバックステップで距離を取る。
「さぁ、次よ」
戦意高揚に攻撃力を上昇させつつ、災花が相手を求める。それに応える様にシジマからボールが、ポケモンが繰り出される。出現するのは灰色の肌の四本腕のポケモン―――カイリキーだ。出現するのと同時に、その両目は災花を捉える。シジマとある程度意識をシンクロさせ、”こころのめ”を発動させている状態に入っているのだろう。スピードやかげぶんしんで翻弄しても意味はない。場に出てくる相手が自動でやけどを喰らってくれる分、そして誰を出そうがおそらく瀕死に追い込まれる状況、
重要なのは自分のペースを守る事だ。
「カイリキー! ばくれつパンチだ!」
「災厄を予知しろ!」
「―――」
こころのめが発動している必中状態のばくれつパンチ、それを災花が自身に降りかかる災厄であるとして、予知し、そして必中を絶対回避によって避ける。それに合わせ紙一重で回避したカイリキーの腕を取り、それを受け流す様に回しながら体勢を崩し、そして掌底をカイリキーの顎へと叩き込む。はっけいが決まり、カイリキーの動きが一瞬だけ止まり、
「せあっ―――」
上から下へと抜ける様につじぎりが決まる。一気にカイリキーが沈み、床に目を回して倒れる。その姿にシジマが楽しそうに笑う。
「あくタイプで良く頑張るものだ! これは負けていられないぞ、キノガッサ!」
「ガッサァ!」
亜人種キノガッサがフィールドに出た瞬間、発狂したくなるこの心境を何とか抑え込みつつ、即座にふいうちを放つ様に災花に命令する。即座に加速して災花が攻撃に入ろうとするが、その前に、途中で床に倒れる様に災花の姿が落ちる。
「くそっ、きのこのほうしかよ……!」
しかもキノガッサがやけどになっている様子はない。という事は別の状態異常を受けている筈だ。予測ではどく―――そしてポイズンヒール。どくどくだまにポイズンヒールの居座り型のキノガッサだ。かくとうタイプジムならもっと脳筋でいてくれよと願うが、そんな祈りは届かずに、
「きあいパンチ!」
「ガッサ!」
きあいパンチが叩き込まれる。災花のもちものはヨプのみだ。故にきあいパンチを一発だけなら半減させられる。この状態であれば合計で二発、もしかして三発までなら耐えられると予想しているのだが、生憎と災花は眠っている。カゴのみを持たせておけば良かった、と後悔している間に災花にきあいパンチが叩き込まれ、静かにその姿が瀕死状態になる。
「お疲れ様災花。さて、なんとかこいつの処理をしようか、月光」
「親方様、拙者、ガッサとだけは戦いたくなかったで御座る。タイプ的に即死確定なんでござるが」
「知ってるよぉ!」
そう言いながらも、月光は場に出現しながらまきびしを撒き、更にシジマの場を荒らす。シジマの手持ちにはおそらくこうそくスピン持ちはいない。だから相手がタスキを持っていた場合、きつねびと合わせて間違いなく潰せると思っている。まぁ、まきびしを撒くだけでも意味がある。月光にはこのキノガッサをどうにか攻略させようと思うが、
「みきれ!」
「フェイントじゃァ!!」
きのこのほうしを警戒してみきらせた瞬間、その虚をついてフェイントが決まり、みきりを貫通してキノガッサの拳が月光に叩き込まれる。即座に月光に体勢を整えなおさせるが、ここら辺のセンスは年長者であるシジマの方が上だったらしい。既にキノガッサの拳は握られ、それは放たれる状態へと持っていかれていた。
「チ、耐えてふぶき!」
「撃ち貫けぇぇぇぃ!!」
月光の口から吹雪が放たれ、それがキノガッサの全身を氷で覆わせるが、完全には凍りつかない。既に毒状態である為、それ以上の状態変化に陥らないのだ。故に完全にキノガッサの拳は止める事ができずに、宣言通り守りや耐える事を貫通し、きあいパンチが月光の腹を叩き、壁に衝突するまで吹き飛ばす。かなりのダメージを喰らったものの、ポイズンヒールで少しずつ回復しているのが見える。めんどくせぇ、そう思いながら相手に回復する時間を与えない為に、次のポケモンを繰り出す。
「蛮ちゃん! 頼んだ!」
「
蛮がフィールドに出るのと同時に砂嵐が巻き起こる。蛮を強化しつつ、キノガッサの体力を削る砂嵐。それは普段であれば視界の制限、蛮の強化、相手への持続的なダメージで圧倒的な有利を呼び起こすフィールドになるのだが、キノガッサはポイズンヒールのせいでダメージは意味がなく、そしてシジマがこころのめで常に必中状態へととらえている為、目くらましの効果もない。
自分もゴーグルを装着し、ここから一気に入る”詰み”への流れの為に、集中力を増させる。
「ほほう、天候が競合せずに融和するか! 新しい時代の到来を感じるなぁ!」
「うるせぇ! 蛮ちゃん! ばかぢから!」
「きのこのほうし!」
蛮が前へとつい進んだ瞬間、同時に入り込んだキノガッサがきのこのほうしを蛮へと叩きつけ、その姿を眠らせる。だが蛮を満たす殺意と闘争本能が攻撃を繰り出す前に眠る事を拒否する。蛮のばかぢからが眠る前に放たれ、ジムの壁に陥没させるようにキノガッサを吹き飛ばし、そして一撃で瀕死に追い込む。それを見る事無く蛮はそのままフィールドへと倒れ込み、そして寝息を立て始める。
「俺の運命力じゃバトル中に蛮ちゃんが起きる事はねぇな」
ボールに戻そうが、戻しまいが、結果は同じ事だろう。蛮ちゃんを出したままにすると、シジマが原生種のサワムラーを繰り出してくる。出現したサワムラーは一度ビルドアップを挟んでからとびひざげりを蛮へと叩き込む。蛮は起きる事はないが、それで瀕死になる事もない。とびひざげりにはかなりの威力が入っているが、それで瀕死になる様子はない。
「恐ろしく硬いポケモンだが! 打ち破れぬものはない!」
やけどとまきびし、砂嵐からの継続ダメージを喰らいつつ、サワムラーが四発とびひざげりを眠っている蛮へと繰り出し、撃破する。結局最後まで起きる事のなかった蛮だが、それはポケモンが悪いのではなく、都合よく起こす事ができない、自分の運が悪いのだ。ポケモントレーナーたるもの、麻痺の発生率や眠りから覚める時間も、その運の全てを自分の力で引き寄せないとならない。
それを持たないところがまた悔しい。どれだけ鍛えても意味がないものなのだから。
「お疲れ蛮ちゃん、起こしてやれなくてごめんな。さて、詰めに入ろうか、ナイト」
「
蛮をボールに戻し、素早くナイトを場に出す。砂嵐はナイトとサワムラーを平等に削るが、ナイトに命令するのは攻撃でも何でもない。
「ナイト―――たくすねがい!」
「
「むっ?」
ナイトの体力が尽き、瀕死状態になる。本来はいやしのねがいという技ではあったが、その方向性を改造し、改良し、変化させた技。元々の癒しの願いがポケモンの回復を目的とした技だったが、最強のポケモンの”とくせい”の問題上、いやしのねがいでは活躍させる場がなかった。故にいやしのねがいの方向性を、そしてその効果を改造し、新たに生み出した技。
それがたくすねがい。
ナイトがボールの中へと戻り、そしてその代わりに最後の一人が―――サザラが場に出る。
既にボールからは龍の気配が溢れ出しており、ボールの外側へと漏れ出ている。原理は赤帽子の”先行充電”と一緒だ。赤帽子の先行充電はボール内でピカチュウに充電させる事で場に出す時、充電された状態でピカチュウを出せるという技術だ。それを赤帽子は絶縁素材の手袋で実現可能にしている。
その絶縁グローブの元々の技術がロケット団から来ていると言えば、サザラのチャージ状態を何故自分の手が耐えられるか、それを説明する必要はないだろう。
「蹂躙しろ、俺の最強のポケモン! サザラ!」
「オオオォォォォ―――!!」
龍のオーラがボールから出るのと同時に爆発し、グローブとモンスターボールを粉砕しながら、出現と同時に闇を纏った黒いギルガルドの刀身を両手持ちで一気に振り下ろす。たくすねがいは体力ではなくひんしと引き換えに次に出すポケモンの能力を上昇させる技。そしてドラゴンタイプの先行充電によって、サザラのとくこう、及びこうげきと呼べるステータスは、伝説種にさえ匹敵する破壊力を備える領域に立つ。
そもそも、このサザラ、
伝説種と正面から戦える様に、というコンセプトで育てているポケモンなのだ。
ランセ地方の”さいごのとりで”、”しゃかりき”を疑似的に取り入れ、赤帽子の先行充電を参考にし、
最強にして最悪、ミュウツーにさえ負けないという自負を誇る、
自分の育ててきたポケモンの中の最高傑作。
登場と同時に放たれたやみのつるぎは耐性タイプでありながらサワムラーを一瞬で飲み込み、そして完全な黒一色に染めて吹き飛ばし、戦闘不能に追い込んだ。すなあらしややけどというダメージが発生していても、圧倒的、オーバーキルという言葉が相応しい破壊力だった。
「さぁ、かかって来いよ。オニキスパーティーの最後の砦を崩せるモンならな。私は他の連中とは一味違うぜ」
『あ、調子に乗ってる』
『これダメなパターンで御座るな』
『し、本人はカッコいいと思ってやっているんですから。少しは夢に浸らせてあげなさい』
『
『
「お前らうるせぇー! うがぁー! 次こいやぁ! 瀕死の連中が何を言おうが、これから逆転する私が大正義だかんな!」
敵を撃破した事できあいだめが発動し、更にサザラの闘気と直感が冴えわたる。厳しい目でシジマが視線をサザラへと向ける。
「最初から本気で勝負出来なかった事がここに来ると実に惜しいな、実に。最初から死力を尽くし、全力で戦いたかったものだ。これもまたジムリーダーとしての苦悩か―――行け、ローブシン!」
キノガッサ同様、本来はジョウト地方には存在しないポケモン、二本の石柱を握る女の姿―――亜人種のローブシンが出現する。即座にやけどと砂嵐によってダメージを受けるが、その冷静さと気配は育て切られたポケモンに相応しいものだ。二本の石柱を横に落としながら、ローブシンは視線を向ける事無くシジマに声を送る。
「もう少し早く呼び出して貰いたかった。天賦の才を持つ様な個体とは早々会えるものではないのだから」
「そうは言うが、今でさえ解釈してギリギリの範疇だしなぁ……」
「まぁ、ジムリーダーとしての苦悩は解っていますから……」
シジマの姿を見て苦笑する。キョウやマチス、ナツメが良く悩んでいたことだ。ジムリーダーでいるのはいいが、ジムリーダーである以上はルールに縛られてしまう為、常に全力で戦う事が出来ないのだ。そんな苦悩が常に彼らには付きまとっている。
まぁ、今はどうでもいい話だが。
「正面から蹂躙しろサザラぁ!」
「ハッ、搦め手のねぇ脳筋相手だったら絶対に勝てるぜ、私はよぉ!」
「では一手ご指南いただこうか!」
ローブシンの方が優先度の問題上、サザラよりも動きが早く、拳がサザラに衝突しそうになる。だがそれを見極めたサザラがキングシールドで受け流しながら刃を振るう。それを見極めたローブシンがスウェイで攻撃を回避するが、同時にサザラのドラゴンテールがスウェイで空いた距離を計算しつくしたかのように差し込まれてくる。それを受けたローブシンは吹き飛ばされながらオボンのみを齧り、両手に石柱を出現させ、それをサザラへと連続で投擲する。
キングシールドで再びそれを弾きながら、サザラの刃が振り上げられる。
「てんのつるぎ!」
「みきれェ!」
ローブシンが地を蹴り、見切りながら瞬間的に移動し、てんのつるぎを放ったばかりのサザラに横から殴りかかろうとする。しかし尻尾で体を押し、体を傾け、繰り出される拳に対してキングシールドを合わせる事で攻撃を無効化し、
つばさでうつを以てローブシンにカウンターを叩き込み、そしてその姿をかち上げる。
サザラの目に赤い光が宿る。
「―――りゅうせいぐん!」
「ゴギャァァァァォォォ―――!!」
夜の闇の向こう側からりゅうせいぐんがローブシンへと向かって降り注ぐ。回避動作に入ろうとするが、的確にローブシンの動きを予測したそれは空から一気に何十という隕石を降らし、しかしながら一切天井や床を破壊する事無く衝撃と爆発をローブシンの体へと叩き込み、
そして一気に沈黙させる。
「―――そこまで! 勝者、トキワの森のオニキス!」
「っしゃぁ!」
勝利のビジョンは最初から見えていたとはいえ、やっぱりポケモンバトルは楽しいし、勝てると嬉しい。勝利の余韻を感じつつ、バッジとわざマシンを受け取る為にシジマの方へと視線を向ける。
やっぱり、ポケモンバトルは楽しい。
割と長くなったタンバジム戦。諸君、これがこの世界の6Vだ。
要注意トレーナーや、将来有望トレーナー、或いはジム戦時、先に挑戦トレーナーと交渉を行って許可が出た場合はバッジ数による制限をある程度無視してジムリーダーは戦えるとか。現状オニキスは期待のトレーナーって感じですな。
ちなみにエリートトレーナーはポケモンリーグ出場経験者と言うのが条件かなぁ、とか思っていたり。
主人公が命令だけして戦わない事に違和感を覚えなくもない。あ、あとジムリもバッジ5個目ぐらいからオリジナル技ぶっぱなしてきますので、難易度更に上がるよ!