キテレツ大百科 ハルケギニア旅行記   作:月に吠えるもの

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♪ お料理行進曲(間奏)


コロ助「ワガハイ達、とんでもない世界に取り残されてしまったナリね」

キテレツ「とにかく冥府刀を直せないか、色々と試してみるよ。コルベール先生も手伝ってくれるみたいだし」

コロ助「ところであのピンク髪の魔法使いの女の子、何であそこまでみんなに馬鹿にされてるナリか?」

キテレツ「次回、嘆きのルイズ! 独りぼっちの魔法使い」

コロ助「絶対見るナリよ♪」



嘆きのルイズ! 独りぼっちの魔法使い

魔法学院へと身を置くことが認められたキテレツ一行は、五月と同様に表向きには学院の奉公人という扱いとなりました。

五月だけはルイズが直接召喚してしまったので、今後も彼女の個人的な従者ということになります。

 

「いつまでもウジウジすんなよ。早めのトコロテンウィークが来たと思えば良いじゃねえか」

「ゴールデンウィークだよ……」

「大丈夫よ、トンガリ君。キテレツ君だっているんだから」

 

階段を降りていく一行ですが、帰れないことに未だ落ち込むトンガリをブタゴリラとみよ子が励まします。

魔法使いの存在する世界でただの小学生五人がまともにやっていける訳がありません。

しかし、キテレツは魔法のような様々な発明品を持っています。それは魔法使いのいるこの世界ではとても頼りになるのです。

そのキテレツは三人の後ろの方では五月とコロ助、ルイズと一緒に歩いていました。

 

「ブタゴリラが君に悪いことを言ったみたいで……僕からも謝るよ」

 

一体どうしてルイズがあそこまで激怒していたのか騒ぎの始まりを見ていなかったキテレツ達には分かりません。

しかし、ブタゴリラが失言からルイズを怒らせてしまったのは事実なのです。結果的にキテレツ達は帰れなくなってしまったのですから。

 

「……もういいわよ、そのことは。手打ちにしてあげるわ」

 

キテレツが謝るとルイズは憮然としたような、苦悩しているような、様々な思いが入り混じった複雑な顔で溜め息をつきます。

平民に馬鹿にされてしまったことは腹立たしいことでしたが、自分のせいでキテレツ達が帰れなくなってしまったことに対しての責任も感じていました。

 

「外にある雲やあのガーゴイルも壊れたマジックアイテムも……あんたが作ったんですってね」

「まあ、そうだけど……」

「あの壊れたマジックアイテム……何であれが無いとあんた達は帰れないのよ」

 

ルイズはナイフのようなマジックアイテム……冥府刀がどのような効果を持つのか知らないのです。

ナイフが無ければ帰れないだなんて聞いたことがありませんでした。空飛ぶ雲が壊れた、というのなら納得はできます。

 

「うん。僕達の町は、あのキント雲じゃ帰れないくらいずっと遠い場所にあるんだよ。この冥府刀は、ここと僕達の町を五月ちゃんがここへ来た時のように繋げることができたんだ」

 

冥府刀の残骸が詰まっている袋を手に、キテレツはルイズに分かるように説明します。

キテレツの話を聞いて、ルイズは使い魔召喚のゲートを作るようなマジックアイテムなのだと考えていました。

 

「あんた、本当に平民なの? メイジじゃないでしょうね?」

 

怪訝そうにルイズはキテレツの顔を見つめました。

五月と同じ異国の、こんな平民の子供がマジックアイテムを作っただなんてまだ信じられませんでした。

 

「僕達はルイズちゃん達みたいな魔法使いじゃないよ」

「だったら、何でそんな魔法でなきゃできないことができる物を魔法が使えない平民が作れるのよ! ……こんなガーゴイルまで作っておいて!」

「うわわっ! 何するナリか!」

 

ルイズは一緒に歩いているコロ助のチョンマゲを掴み、小さな体を持ち上げます。

キテレツはルイズの剣幕に困惑し、少し逃げ腰になってしまいました。

 

「どうしてって言われても……」

「いいじゃない、ルイズちゃん。キテレツ君は魔法使いじゃないけど、便利な物をいっぱい作れるんだから」

 

五月に言われ、ルイズはコロ助から手を離して降ろします。

 

「可愛いけど乱暴ナリね~……」

 

ルイズに聞こえないように、コロ助はボソリと呟きました。

 

「ハーイ。御機嫌よう、みなさん」

 

本塔から出てきたキテレツ達をキュルケが出迎えます。タバサも本を読みつつ一緒に待っていました。

キュルケが現れた途端、ルイズはとても不機嫌な顔になります。

 

「何しに来たのよ、キュルケ」

「別に。ルイズが学院長先生に呼び出されてどうなったのか、気になっただけ」

 

と、言いつつもキテレツ達一行の顔を見回すキュルケは面白そうなものでも見るような目をしています。

 

「どうもないわ。こいつらがこの学院にしばらく居候することが決まっただけよ」

 

澄ました態度で腰に両手を当て、ルイズはキテレツ達を顎で指し示します。

 

「ふ~ん。そうなの。さっきあなたが壊したあのマジックアイテムと何か関係があるのかしら?」

「あ、あんたには関係ないじゃない!」

 

ほくそ笑むキュルケにルイズはそっぽを向いて叫びました。

 

「ま、何はともあれよろしくね。サツキのお友達のボウヤ達」

「いや……ははは……」

 

ウィンクをするキュルケにブタゴリラは顔を赤くしてしまいます。

 

「ねえ、あなたがキテレツね?」

「あ、は、は、はい……」

 

とても美人なお姉さんであるキュルケが顔を近づけてきて、キテレツも顔を赤くしてしまいます。

それを見たみよ子はムッと不機嫌な顔になりました。

 

「平民なのにあの空飛ぶ雲やガーゴイルを作れるなんて、本当にすごいのね。ゼロのルイズとは大違いだわ」

「うるさいわよ! そんなことを言うためにわざわざ待ってたって言うの?」

「まあまあ、固いことは言わないの。第一、サツキはまだしも他の子達は別にあなたが召喚した訳じゃないでしょ?」

 

喚き声を上げるルイズをキュルケは軽くいなします。

 

「キテレツ君! 早くキント雲を小さくしましょう!」

「あ……う、うん……。コロ助、如意光を」

「はいナリ」

 

ルイズ同様、不機嫌な態度で声を上げるみよ子に促され、困惑したままのキテレツはコロ助から受け取った如意光でキント雲を小さくしました。

 

「すっご~い……こんな魔法、見たことも聞いたことも無いわ……」

「こんなことまで出来るなんて……」

 

メイジの魔法には物質の大きさを変えてしまうなんていう魔法は存在しません。

自分達メイジでも不可能な如意光の力を目の当たりにしたキュルケとルイズは目を丸くしてしまいます。

 

「あの箱の中にたくさん入ってるのもきっとマジックアイテムよね。ふふっ……何だか面白くなりそうね」

 

小さくしたキント雲をケースにしまうキテレツへ二人は好奇の眼差しを向けていました。

タバサもケースの中の様々な発明品をじっと見つめていました。

 

「もうすぐ夕食の時間になるわ。あんた達はサツキと厨房で食べてきなさい。サツキは分かってるわね?」

「うん。みんなを案内したらすぐに行くわ。みんな、こっちよ」

 

五月はキテレツ達を連れてルイズ達と別れます。

キテレツ達六人の子供達は楽しそうに会話をしながら歩いていました。

ルイズは一行の背中をボーっと突っ立ったまま眺めています。

 

「どうしたの、ルイズ?」

「……な、何でもないわよ!」

 

キュルケに声をかけられてハッと我に返ると、ルイズは慌てるように声を上げて足早に去っていきました。

 

 

 

 

厨房は食堂からも入れるのですが、食堂は通常はルイズ達貴族しか入ることはできません。メイドなどの奉公人が料理を運んだりするのであれば例外ですが。

本塔の裏手にも入り口があるので、五月達はそちらから厨房に向かうことになったのです。

 

「こんにちわ、シエスタさん」

「あら、サツキちゃん。その子達は?」

「前に話していたわたしの友達です」

 

厨房の入り口で何やら慌てている様子で走っていたシエスタと出会い、五月はキテレツ達を紹介します。

 

「まあ、この子達がサツキちゃんのお友達?」

「はい。紹介するわ。ここで働いているメイドのシエスタさんよ」

「こんにちわ」

「こんにちわナリ」

「こんにちわ。ごめんなさい、今ちょっと困ったことになっちゃったから……」

 

キテレツ達が挨拶をするとシエスタは厨房へ急いで駆け込んで行きました。

 

「何かあったのか?」

 

厨房を覗いてみると中ではコックやメイド達が何やら慌しくしていました。

 

「くそ……ちきしょうめ……」

「マルトーさん、大丈夫ですか?」

「人のことを心配する暇があるなら、自分の仕事をしな……」

 

シエスタは椅子に腰掛けて蹲っているコック長のマルトーを気にかけます。

マルトーは頭を抱えたままとても気分が悪い様子でした。

 

「あのコックのおじさん、どうしたんだろう」

「気分でも悪いナリか?」

「ああ。コック長が体調を崩してしまってな。まだ材料の仕込みが終わってないっていうのに……」

 

トンガリとコロ助の呟きにコックの一人がそう答えます。

 

「このままじゃ貴族様を怒らせることになるよ」

 

それは当然です。夕食が出ないとなれば厨房にいる人間達に学院中の生徒はもちろん、教師達からも文句を言われてしまうのですから。

文句を言われるならまだしも、ひょっとしたら魔法で罰を与えようとする者もいるかもしれません。

シエスタも他のコック達も困り果てているようでした。

 

「キテレツ。この人達を助けてあげるナリよ」

「うん。からくり料理人を持ってきてるからね」

 

キテレツはケースから取り出した一輪車の足をつけた人形を取り出し、如意光で大きくします。

 

「この人形は?」

「ああ。五月ちゃんは見るのが初めてよね。これは料理をしてくれる人形なのよ」

 

五月が初めて目にするカラクリ人形をみよ子が説明します。

 

「大丈夫か? 前みたいに暴れたりしないだろうな?」

「心配ないよ。ちゃんと日本語でも命令を聞くようにしてあるから」

 

心配するブタゴリラですが、キテレツはからくり料理人のスイッチを入れます。

カタカタと震えだした料理人の目が、カッと光り始めました。

 

 

 

 

「塩を少々。胡椒を少々」

 

起動したからくり料理人は、厨房でマルトーの代わりに食材の下拵えを行った後も一人で調理を続けていました。

おかげで他のコック達はほとんど出る幕がありません。ただ呆然と、からくり料理人の調理を眺めています。

 

「あれは、ガーゴイルって奴なのか? あんな物をお前さんが持ってたのかい」

「はい。調理はあれに任せて、マルトーさんは今はゆっくり休んでいてください」

「すまねえな……」

 

椅子に腰掛けたままのマルトーに尋ねられ、キテレツはそう答えました。

 

「包丁――シパパパパパパッ!」

 

からくり料理人は巧みな手捌きで包丁を振り回し肉を切り、野菜を切り、着々と貴族達に出す料理を作り上げていきました。

元々、洋風の料理を作るのが得意なのでからくり料理人にとっては朝飯前です。

その様を目にするメイドやコック達からは次々と歓声が上がっていました。

 

「人形のくせに、できるじゃねえか。これは俺も負けてられんわな……」

 

からくり料理人の料理の腕前に目にしたマルトーは、同じ料理人として対抗心を燃やしだします。

 

「こちら、テーブルの方へ運んでくだされ」

「はいはい、任せて!」

 

出来上がった料理の乗ったトレーを食卓へ運ぶ仕事だけは、シエスタ達メイドの役目です。

夕食の時間までもう僅かですので、急ぎ足で運ばなければなりません。

 

「相変わらず張り切ってやがるな」

「すごーい……」

 

みよ子達と一緒に厨房の隅でからくり料理人の調理を見届ける五月は呆気に取られます。

キテレツの発明品はやはりどれもすごいものばかりで、改めて驚いてしまいました。

結局、からくり料理人は貴族達の料理はおろかデザートまで全部作ってしまい、何とか夕食の時間までに間に合うことになりました。

 

「マルトーさんと良い勝負だな、この人形」

「でも本当に助かったよ」

「俺達の出る幕無かったけどな」

 

コック達は厨房の危機を救ってくれたからくり料理人を口々に褒め称えます。

 

「この人形さんのおかげで本当に助かったわ。ありがとう」

「キテレツ君のおかげよ」

「僕もお役に立てて嬉しいです」

 

配膳を終えて厨房に戻ってきたシエスタに五月とキテレツが答えます。

 

「かたじけない」

 

からくり料理人も礼儀正しくシエスタにお辞儀をします。

 

「いやいや、俺もこいつには借りができちまったようだ」

「マルトーさん。もう大丈夫なんですか?」

「ああ。いつまでも休んでいられないからな。何、しばらく休んでたら前よりずっと楽になったよ」

 

やってきたマルトーはからくり料理人を見下ろし、しゃがみこむとその顔を覗き込み、にっかりと笑います。

 

「俺もお前さんに負けてられねえぜ! さて、今度は賄いを作るとするか! 待ってな。お前達の分もしっかり作ってやるからな!」

 

料理人魂に火が点いたと言わんばかりにマルトーは張り切りました。

 

「ご苦労様、料理人」

 

キテレツは用が済むと、急いで料理人のスイッチを切ります。スイッチを切られた料理人は動きを止め、がくんとうな垂れました。

料理の腕前は確かですが、放っておくと何をしでかすか分からないのです。

 

「あ……いけない。みんな、ちょっと待っててね」

「あ、おい五月」

 

何かを思い出したように五月はキテレツ達を置いて、急いで食堂の方へ向かっていきました。

 

「遅かったじゃないの、サツキ」

「ごめんね、ルイズちゃん。待たせちゃって」

 

テーブルで腕を組みながら待っていたルイズの元に五月はやってきました。

昨日の夜から今日の昼の時と同じように、五月はルイズの椅子を引きます。そして、ルイズは席につくのです。

 

「あれじゃ召使いじゃねえか」

「実際そうみたいだね……」

 

厨房の入り口から食堂を覗き込んでいたトンガリとブタゴリラは五月の姿を見て呟きます。

 

「サツキちゃんは、ミス・ヴァリエールの使い魔として召喚されたって聞いているわ。だから色々とお世話をしなければならないの」

「お世話って、何をやってたんですか?」

「朝にミス・ヴァリエールが顔を洗う水を汲んできたり、着替えを手伝ってあげた

り、洗濯をしたり……色々よ」

「五月ちゃん……こんな所に連れてこられて、あんなことをやらされてるなんて……」

 

シエスタから話を聞かされたトンガリは不憫そうに五月を見つめます。

 

「大丈夫。わたしもサツキちゃんを手伝ってあげているから」

「お前だって、『ママ~』に着替え手伝ってもらってるんだろ?」

「僕は一人で着替えられるよ! ……あっ、五月ちゃん」

 

ブタゴリラの冷やかしにトンガリは憤慨しますが、そこへ五月が戻ってきました。

 

「五月。お前、あんなお嬢さんにこき使われてるのか?」

「別に無理なことをやらされているわけじゃないし。それに、お世話になっているんだからこれくらいのことはしないと。あ、シエスタさん。後でデザートを運ぶでしょう? わたしも手伝うわね」

「ありがとう、サツキちゃん」

「だったら、僕も手伝うよ……。五月ちゃんばかりにやらせるわけにはいかないし……」

 

トンガリは自ら五月達の配膳を手伝うことを志願したのでした。

 

 

 

 

「今日の夕食はいつもと味付けが少し違うな」

「まあ、美味ければ気にしないけどね」

「うん。この肉の焼き加減は絶妙だ」

 

アルヴィーズの食堂では生徒達はもちろん、教師達もからくり料理人が作った料理の味に舌を巻いていました。

もちろん、からくり料理人が作ったなどということは知る由もありません。

周りではわいわいと他の生徒達がお喋りをしている中、ルイズは一人で食事をしています。

 

「聞いたぞ、ゼロのルイズ。平民の使い魔が増えたそうじゃないか」

「ゼロのルイズは数で勝負するとでもいうのか?」

 

と、そこへ同級生の男子生徒の一団がルイズの席の近くを通りかかると、せせら笑ってきました。

ルイズは肩越しに振り返りつつ彼らを睨みつけます。

 

「いくら使い魔の数が増やしたって、たかが平民の子供じゃ何の役にも立たないんだぞ?」

「というより、使い魔は一体しか持てないはずだが……」

「そもそもお前は契約をしていないんだし、誰を使い魔にしたって同じだよな」

「ゼロのルイズ。何を使い魔にしようと自由だけど、僕達に迷惑はかけないでくれよな」

 

言うだけ言って生徒三人はそのままルイズの元から歩き去っていきます。

ルイズに話しかけてくる生徒はみんなこうして口々にルイズを馬鹿にしては、自分達の溜飲を下げていくのでした。

それはいじめも同然であり、貴族と呼ぶには程遠い陰険なものです。

しかし、彼らが言っていること自体は事実なので何も言い返せません。そのため、いつもルイズは歯痒い思いばかりしているのです。

この学院ではルイズが心から親しく、仲良くできる友達は一人もいませんでした。

 

「使い魔がちゃんといれば……」

 

だからルイズはせめて、自分だけの親しい友達が、使い魔が欲しかったのです。

ところが、結果は使い魔さえいないという有様。その状況を良しと見て他の生徒達はさらに冷かしにかかるのでした。

 

「こら! お前! 何で野菜を残してやがるんだ!」

「ブタゴリラ! 何やってるんだよ! こんな所にまで来て!」

 

食堂の一角が慌しくなり、ルイズがそちらを向いてみるとそこでは五月の友達であるブタゴリラが生徒の一人に食ってかかっていました。

トンガリが腕を掴んでブタゴリラを止めようとしていますが、ブタゴリラの怒りは収まりません。

 

「何だよ。僕は野菜は好きじゃないんだ。平民に指図される言われはないよ」

「何だと! 野菜を馬鹿にする奴は、野菜の神様が許さねえぞ!」

 

ブタゴリラよりも肥え太った体格の生徒、マリコルヌは肉ばかり食べて野菜は皿の隅に全部寄せていました。

八百屋の跡取り息子であるブタゴリラこと、熊田薫は野菜を粗末にしたり、野菜を食べない人間が大嫌いなのです。

トンガリと一緒にデザートの配膳を手伝っていたブタゴリラは、露骨に野菜を残しているマリコルヌを見て思わず突っかかっていたのでした。

 

「野菜の神様なんて、いるわけないだろ。僕達は偉大なる始祖ブリミルからのささやかな糧をこうしてありがたく頂いているんだからな。お前達平民には分からないだろうけどな」

「ざけんじゃねえ! シーソーだか、フルチンだか知らねえが、野菜を粗末にする奴は絶対に許さねえ!」

「お前……平民の分際でさっきから言わせておけ……うわあっ!」

 

マリコルヌは年下の平民がここまで貴族である自分に文句をつけてくるのが我慢できず、杖を突きつけようとしました。

しかし、その前にブタゴリラはマリコルヌの胸倉を掴み上げてきます。

基本的には臆病かつ小心者で目下の相手などに対しては居丈高になるマリコルヌですが、ブタゴリラの貴族をも恐れぬその気迫は初めて経験するもので、完全に物怖じしてしまいました。

 

「お、お前……貴族に手を上げてタダで済むと思って……」

「知るか! 野菜を粗末にする馬鹿野郎は、八百八大明神の代わりに天誅を下してやる!」

 

周りからは悲鳴も上がっていますが、ブタゴリラはそんなものを気にしません。

 

「うわあ! 助けてーっ!」

「やめろって、ブタゴリラ! 相手は貴族だよ! 殴ったりしたら、僕達タダじゃすまないよ!」

 

泣き喚くマリコルヌに手を上げようとするブタゴリラをトンガリは必死に後ろから掴みかかって抑えようとしています。

ファンタジーの世界とはいえ、階級社会の厳しさなどをエリートであるトンガリはよく知っていました。

 

「何やってんのよ、あの馬鹿は……!」

 

ルイズはその光景を目にして、思わず立ち上がります。ここでブタゴリラがマリコルヌを殴ればとんでもないことになってしまうのです。

彼らを監督するのはルイズの役目なので、彼らの問題事は即ち自分の問題となるのですから。

これ以上、何か問題が起きるのはもうたくさんでした。それで結局、自分がまた馬鹿にされたり非難されるのです。

 

「やめなさい! ブタゴリラ!」

 

そこへ同じようにデザートをシエスタと一緒に配っていた五月がやってきて、トンガリの代わりにブタゴリラの体を押さえつけます。

 

「痛ててて!」

「こんな所まで来て乱暴をしたら駄目でしょ! それより、デザートを配るのが先!」

「そうだよ! ブタゴリラはトラブルメーカーなんだから!」

「カオル君、貴族様を本気で怒らせたら殺されちゃうわ……!」

 

五月はマリコルヌからブタゴリラを引き剥がし、そのまま引き摺っていきました。

ブタゴリラから解放されたマリコルヌは大量の冷や汗をかいて完全に萎縮してしまっています。

生徒達は五月とトンガリ、シエスタに引き摺られていくブタゴリラを見届け、唖然とします。

 

「くぞぉ……平民のくぜに、たかが野菜なんかで……」

「まあ、あの平民の言うことももっともだと思うがなぁ」

「うん。君は少しっていうより、かなり野菜を残しすぎだと思うよ。だからそんなに太るんだよ」

「何だよぉ……ギムリもレイナールもそんなこと言うのかよお……」

 

級友達からもブタゴリラと同意見で論破されてしまい、マリコルヌは泣き出してしまいます。

そして、この鬱憤を晴らすために彼は一人の少女へ目を付けるのです。

 

「ゼロのルイズ! あいつら、君の召喚した平民とその仲間なんだろう? ちゃんと監督してくれよぉ……!」

「……あんたもちょっとは野菜を食べるようにすれば済む話じゃない。だから平民にも馬鹿にされるのよ」

 

しかし、ルイズも何のその。ここぞとばかりに言い返します。

陰険な悪口や八つ当たりをされたからと言って、いつまでも受けのままでいる訳にもいかないのです。

 

 

 

 

キテレツ達は学院内にある平民の宿舎で寝泊まることになりました。

先日も五月はシエスタに連れられてここの空き部屋を借りていたのです。宛がわれた部屋は共用の寝室であり、ベッドは二つ置いてありました。

もう片方のベッドはまだ誰も使っていないということらしいです。

 

「痛ってぇ~……あそこまでぶつかよ……」

 

体中傷だらけのブタゴリラは床に腰を下ろして渋い顔をします。

夕食の後、ブタゴリラの前に現れたルイズに騒ぎを起こした罰と言われて鞭でたくさん引っ叩かれていました。

ブタゴリラがマリコルヌに絡んだことの全責任は自分が背負うと言い、ブタゴリラを手打ちにしてもらっていたのだそうです。

本来なら重い罰が与えられるはずでしたが、それを鞭打ちに軽減してもらったようなものでした。

 

「ブタゴリラが悪いのよ。あんな騒ぎを起こすんだから」

「ここはあたし達の世界とは違うんだから、好き嫌いで怒ったって仕方がないわよ」

 

ベッドに腰掛ける五月とみよ子に言われ、ブタゴリラは頭を掻きます。

世界が違っても野菜を粗末にするのはどうにも許せなかったのでした。

 

「そうだよ。そんなことより、これからどうするかを考えないといけないんだから! 大体、帰れなくなったのはブタゴリラが原因なんだよ!」

 

トンガリにまで指を差されて喚かれてブタゴリラはがっくりと肩を落とします。

悪気は全く無かったとはいえ、ルイズの悪口を言ってしまったがために彼女を怒らせることになったのですから。

 

「キテレツ……冥府刀は直せるナリか?」

「肝心な部品が完全に壊れてるからな……この世界で手に入るかどうか……」

 

ランプの灯りの下、床に冥府刀の残骸を広げるキテレツは腕を組んで悩みます。

どうもこの異世界はキテレツ達の世界で言えば文明レベルは中世のヨーロッパ程度であり、電気も発明されていないようなのです。

ましてやダイオードや半導体、回路などといったものがあるはずもありません。

 

「他の発明品を分解して部品を流用できないの?」

「それは僕も考えたけど、冥府刀に使っている重要な部品は他の発明品には使われてないものなんだよ」

 

みよ子に問われて、キテレツは申し訳なさそうに答えます。

 

「でも、何とかして直す方法を見つけないとね」

「頼りにしてるナリよ……」

 

コロ助はキテレツに抱きつきます。今、この異世界で一番頼りになるのはキテレツだけなのですから。

こうして異世界での生活を、五月は二日目、キテレツ達は一日を終えることにしました。

しかし、ベッドは二人分しかありません。

 

「コロちゃん、一緒に寝ましょう」

「そうするナリ」

 

みよ子が使うことになったベッドにコロ助が入り込みます。

もう一つは五月が使っているので、男三人は床で寝ることになります。

シエスタからもらった藁の束と、その上にシーツを被せることで三人は雑魚寝をするのです。

 

「僕達、本当に帰れるかな……ママ……」

「大丈夫よ。トンガリ君。必ず帰る方法が見つかるわ。それまでがんばろう?」

「うん……そうだね……」

 

未だに泣きながら不安そうに愚図るトンガリを、五月は優しく励ましました。

トンガリは大好きな女の子が一緒にいてくれることに安心して、眠りに就きます。

就寝中、寝相の悪いブタゴリラの腕に潰されて、うなされ続けることにはなりましたが。

 

 

 

 

翌日の朝、キテレツはみんなと一緒に朝食を済ませると学院の正門広場へやってきていました。

そこでケースの中にある持参してきた発明品などを確認することにしたのです。

持ってきたアルミケースには発明品が如意光で小さくされて、無数の収納スペースに数段重ねで収められていました。

蓋の収納部にも薬品系の発明が収められています。リュックに入っているのは手軽に使えそうな発明品や他に役に立ちそうな物となります。

 

「如意光に使う電池の数は充分だけど……あまり無駄使いはできないな」

 

キテレツは如意光で潜地球や超鈍足ジェット機など、発明品を大きくしてメンテナンスを行います。

工具箱はありますが万が一、発明品が壊れてしまえば部品がないので冥府刀のように使い物にならなくなるのです。

そのため、発明品はどれも大事にしなければならないのでした。

 

「大百科さえあればなあ……」

「ふ~む……これが異世界の発明とやらか……」

 

キテレツが座りながら悩んでいると、気がつけばコルベールがおり、超鈍足ジェット機を興味深そうに見つめていました。

彼は冥府刀やキント雲などキテレツの発明品にとても強い関心があり、キテレツがメンテナンスをしている所を目にして好奇心が抑えられなかったのです。

 

「キテレツ君! この樽がついた物は一体何なのかね? 良ければ、説明してくれないかい?」

「ああ。それは超鈍足ジェット機と言って、キント雲と同じで空を飛ぶことができるんです」

「何と! これも空を飛ぶというのか。この超……ジェット機とやらは、どうやって飛ぶのかね?」

 

かなり興奮した様子のコルベールに尋ねられ、キテレツは戸惑いつつも答えることにしました。

 

「ふぅむ。なるほど。この中にある煙を燃料にして動くのだね」

 

コルベールは超鈍足ジェット機に備わっている樽の一つをまじまじと見つめて唸ります。

 

「はい。と言っても、キント雲より長くは飛んでいられないけど」

 

今回持ってきた超鈍足ジェット機ですが、空の移動手段はキント雲があれば充分だとキテレツは考えていました。

元々、キント雲はキテレツが発明品を応用して作り出した、いわばキテレツオリジナルの発明とも言えるものなのです。

超鈍足ジェット機は改造で時速100km以上の速さで飛ぶことができますが、航続距離はそんなにありません。おまけに燃料も特殊なガスを必要としています。

緊急時や乗り切れない場合に使うことにはなるかもしれませんが、今持ってきている燃料では二回飛ぶのが精一杯でしょう。

 

「では、この丸い乗り物のような物は?」

「それは潜地球といって、地中へ潜って移動ができるんです」

「ほう! 地中に潜れるというのか! うぅむ……かなり狭いようだが、見たことのない器具でいっぱいだ……!」

 

潜地球の扉を開けて中を覗き込むコルベールはもう、年甲斐も無く子供のように目を輝かせています。

 

「ああ! 勝手にいじらないでくださいよ! 今はメンテナンス中なんですから……」

「ああ。いやいや、すまなかったね。こういう珍しい物を見るとどうしても興奮してしまうのだ……」

 

潜地球を降りると、キテレツのメンテナンスを横から眺めだします。

 

「君はまだそんなに若いのに、これだけの発明が作れるだなんて……何とも素晴らしいものだ!」

「そういえば、コルベール先生は発明をするって言ってたみたいですけど……」

「ああ。私はね、魔法の研究と発明が生き甲斐なのだ。私達メイジが使う魔法を活かして、人々を幸せにする物を作りたいと思っているのだよ」

 

コルベールはキテレツの隣に座り込んで語り始めます。

 

「ところが、どうにも私の考えは理解されんようだ。何、仕方ないとは思う。メイジはみんな、魔法を何も考えずに使う便利な道具程度にしか考えていないからね。しかし、私はそうは思わない」

「はあ……」

「魔法も扱いようによっては、誰もが平等に使える物となるはずだ。そう……君の発明のようにね。私はそれを目指してみたいのだ」

 

熱く語るコルベールに、キテレツは少々戸惑いますが、同じ発明家として共感できることがあるのも事実でした。

人々を幸せにするために様々な発明をする……それは祖先である奇天烈斎様が成そうとしていたことです。

この異世界にそれと同じことをしようとする人がいてくれたのは、何だか嬉しいものでした。

 

「キテレツ君。私にも手伝えることがあったらいくらでも訪ねてくれたまえ。喜んで力になるよ」

「はい。お願いします。コルベール先生」

 

自分の発明を理解してくれる人がいるのがとても心強く思えていました。

 

「それでキテレツ君。この超……ジェット機の中にあるという燃料、少し私に分けてはいただけないだろうか?」

「良いですよ。僕達にはキント雲がありますし」

「いや、かたじけないね」

 

親子ほどに歳の離れた二人の発明家はお互いを共感しあいながら温かく交流を続けていました。

 

 

 

 

キテレツとコルベールが語り合っている中、他の五人は本塔裏のヴェストリ広場へとやってきていました。

現在、ここでは二年生のルイズのクラスが魔法の実技を行っている最中であり、その見学をしているのです。

 

「ドットばかりの生徒にしては、全員進級はできたようだな。まずは褒めておく」

 

黒ずくめの若い男の教師・ギトーは教師とは思えない冷たい言葉を生徒達に浴びせかけました。

このギトーは一々、気に障る物言いをするので生徒達からは人気がありません。

事実、生徒達の表情は不満の色を隠せません。

 

「さて、本来なら二年生に相応しい魔法を使うのが筋というものだが、基本がなければ何も成り立たんのは自明の理だ。面倒ではあるが……基本の復習から始める」

 

そう言ったギトーは生徒達に順番に風の初級魔法『レビテーション』と『フライ』を使うよう指示をします。

 

「わあーっ! みんな飛んだナリ!」

 

遠くから魔法の授業を眺めるコロ助は生徒達が魔法で空を飛ぶのを見てはしゃぎます。

 

「あんなのを見せられないと、ここがファンタジーの世界だって思えないよね」

「本当ね」

 

トンガリとみよ子は空を飛ぶ生徒達の姿に感嘆とします。

 

「でも何で、シエスタの姉ちゃん達は魔法を使えないんだろうな?」

「シエスタさんから聞いたんだけれど、魔法っていうのは貴族の人だけが使えるんですって」

「何で貴族しか使えないのさ」

「よくは知らないけど……魔法っていうのはブリミルっていうずっと昔の偉い魔法使いが編み出したものらしいわ。その魔法を伝えてきた子孫が今の貴族みたい」

 

ブタゴリラとトンガリの疑問に五月が答えます。

この世界には五月達の世界と同様に宗教がちゃんとあり、始祖ブリミルは神様のような存在となって崇められていると聞いていました。

 

「シソのフルチンって奴はすごい魔法使いなんだな」

 

ブタゴリラの言い間違いに一同はズッコケます。

 

「ブタゴリラ、絶対にあの人達の前で言い間違えない方が良いよ……」

 

始祖ブリミルを崇めているのであれば、ブタゴリラのような言い間違えはとんでもない侮辱になることでしょう。

 

「あっ! ルイズちゃんナリ!」

 

コロ助が指した先にはルイズが杖を構えて飛ぼうとしている姿がありました。

 

「あいつは飛ばねえのか?」

 

他の生徒達はタバサが一番高く早く飛ぶ中、残りはそれなりの高さで飛んだり浮かんだりしていますが、ルイズだけはまだ地上にいるままでした。

 

「さあ、後は君だけだ。ミス・ヴァリエール。さっさと飛びたまえ」

「はい。ギトー先生」

 

ギトーが命じる中、ルイズは杖を握り締めます。

そして、『レビテーション』の呪文を唱え始めました。

 

「みんな! ゼロのルイズが爆発するぞ! もっと高度を上げろ!」

 

生徒の一人が叫ぶと他の生徒達は必死に空に浮かび上がろうとしています。

しかし、何人かは数メートルを浮かび上がるだけで精一杯のようで、空中をジタバタしていました。

 

「どうしたのかしら? あんなに慌てて」

「何かルイズちゃんから逃げてるみたいナリね」

 

みよ子もコロ助も生徒達の様子に首を傾げます。

そして、次の瞬間にそれは起こりました。

 

「うわあっ!」

「きゃあっ!」

「わわわわっ!」

 

ルイズが呪文を唱えて杖を振った途端、爆音と共にルイズとギトーがいる地上で爆発が巻き起こったのです。

その爆風はルイズを中心にギトーを包み込み、上空に逃れていた生徒達は爆風に煽られてバランスを崩し、次々と地上に墜落していました。

タバサだけはキュルケを抱えて高度を上げていたため、爆風の影響を受けません。

 

爆風が晴れるとそこには髪や服を焦がしたルイズが立っており、爆風に吹き飛ばされたギトーが倒れこんで気絶しています。

 

「痛ててて……またかよ、ゼロのルイズ!」

「まったく……役立たずの平民を召喚したのに飽き足らずに、失敗するしか能がないのか!」

「もう退学にしてちょうだい! あ~ん! あたしの服がボロボロ!」

「いつだって成功確率ゼロなんだからな!」

「でもギトー先生を吹っ飛ばしたのはスッとしたけどね!」

 

墜落した生徒達は口々にルイズを非難が――極一部はギトーの無様な姿が見れたことの冷やかしも含めて――飛びます。

 

「魔法が失敗すると、ああなるのか?」

「さあ……みんなが言っているんだからそうじゃない?」

「だからあの子がブタゴリラ君の言葉に怒ったのね」

 

事の顛末を見届けた一行はルイズのあだ名の意味を、そして昨日それを呼んで怒ったことの理由を知ります。

要するにルイズはこの魔法学院では成績の悪い魔法使いということなのです。

いくら他の生徒達と同じように魔法を使おうとしても、今のように失敗してしまうのでしょう。

ゼロのルイズ、というのは彼女の悪口なのです。

 

ギトーが気絶したままなのでその間、生徒達は自習をすることになりました。

生徒達はルイズの爆発で墜落したことに未だ文句や陰口などを呟いたり、気絶しているギトーを杖でつついたりしています。

そんな中、ルイズは生徒達から離れて五月達の元へと歩み寄ってきます。その表情は悔しさに満ちていました。

 

「大丈夫? ルイズちゃん!」

 

五月はボロボロのルイズに駆け寄ります。ルイズは五月の顔をきっと見つめて表情を険しくしました。

 

「触らないで!」

 

その口から出てきたのは拒絶の言葉でした。

 

「使い魔にならない平民に慰められるほど、あたしは落ちぶれてなんかいないわ!」

「ルイズちゃん……」

 

突然のルイズの拒絶に五月は呆然とします。

 

「分かったでしょ? あたしがゼロのルイズって呼ばれている理由が。今のをあんた達も見たでしょ? あたしは貴族なのに、生まれて一度も魔法を成功させたことがない……」

「生まれてから一度も……」

 

ルイズの事情を知ってブタゴリラもみよ子達も驚きます。

 

「お笑いよね……貴族なのに……メイジなのに魔法が使えないだなんて……。あたしも平民と対して変わらないわ……!」

 

開き直ったルイズは自分を卑下するように自嘲の笑みを浮かべだしました。

ルイズの一変に五月達は呆然としています。

 

「だからあたしはみんなからああして馬鹿にされる! 成功確率ゼロ! ゼロのルイズって!! そのおかげであんた達を帰れなくしたんだから、あたしはとんでもないゼロなのよ!」

 

ルイズは五月達の顔を嫉妬と怒りが入り混じった目付きで一瞥しました。

 

「あんた達は良いわよね! マジックアイテムで空を飛んだり、物を大きくしたり小さくしたりできるんだから! あたしは平民のマジックアイテムにさえ劣るゼロなのよ! おまけに仲良くできる友達一人もいない! 使い魔もいない! あたしには何にもないのよ!」

 

五月達に向かって叫び倒したルイズは駆け出し、一行の前から離れていきました。

 

「あいつ、何を一人でミステリーになってるんだ?」

「ヒステリーね……」

「ルイズちゃん……」

 

五月は物憂げに、去っていくルイズの背中を見届けていました。

 

「何よ……何よ……あんたには友達がいるくせに……」

 

目を真っ赤に腫らしてルイズはヴェストリ広場から逃げるように走り去っていきます。

今のルイズの心はズタズタになっていました。

 

「あんた達にあたしの何が分かるのよ……!」

 

ルイズは自分よりも輝いている五月とその友人を見て、強烈な嫉妬を抱いていたのでした。

自分には仲良く心を通わせられる友達はいません。しかし、五月には信頼できる親しい友達がいます。

孤独であったはずなのにそれでも友達を信じ、あのように団結していられます。

五月は平民なのに貴族であるはずのルイズが持っていないものを持っているのを目にして、心の底でとても羨ましいと思っていたのでした。

 

 


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