コロ助「ワーイ! ワガハイ達が勝ったナリー! 正義は必ず勝つナリよー!」
キテレツ「シエスタさん達が戦勝パーティを開いてくれるんだって」
コロ助「あ~……やっぱりシエスタちゃんのコロッケは楽しみナリよ~」
キテレツ「それを味わえるのも、これで最後になるかもしれないけどね」
コロ助「冥府刀が完成したら、もうみんなとお別れナリ」
キテレツ「僕は最後の仕上げにかかるから、五月ちゃん達と楽しんできなよ」
キテレツ「次回、勝利のY! うわさのキッスとプロポーション」
コロ助「絶対見るナリよ♪」
「ヒューッ! 豪快にぶつかったわねー!」
キュルケが歓声を漏らすと、一行も目の前の光景を呆然と見つめます。
ヨルムンガントの残骸は墜落寸前になっていたレキシントン号へと真っ逆さまに落ちていき、激突しました。
そのままバランスを崩して大きく傾いた巨大な船体は炎に包まれたまま、ゆっくりと真下に広がる雲海へと墜落していきます。
「きゅい、きゅいーっ! シルフィ達の大勝利なのねーっ!」
バズーカ砲を抱えたままのシルフィードが喜びの声を上げました。
「う、う~む……し、しかしこれが破壊の杖の力なのか……いやはや、もう何とも言えないよ……」
驚いているのはギーシュだけではありませんでした。ルイズ達はもちろん、キテレツさえもバズーカ砲の威力には開いた口が塞がらなかったのです。
如意光で巨大化させて強化させたとはいえ、キテレツ達はバズーカ砲の破壊力を実際に目の当たりにするのは初めてなのですから。
「ルイズちゃん、大丈夫?」
「え、ええ……平気よ。破壊の杖って、本当にすごいものなのね……」
五月と一緒に空中浮輪で浮かんでいるルイズですが、ずっと杖を構えて固まったままだったのでようやく体の力を抜いて手を降ろしました。
「ルイズちゃんもすごいわ。あんなすごい爆発を起こせるなんて!」
「バズーカと良い勝負だったよ……」
「すごかったナリ~」
「エクスプロージョン……だったかしら? ルイズにしちゃあ良い名前をつけるじゃないの? あなたの爆発に相応しいわ」
トンガリとコロ助も五月に同意し、キュルケまでもがルイズのことを褒め称えてくれます。
ルイズ本人としては魔法の失敗である爆発を褒められても本来は嬉しくはありません。
しかし、結果的には自分の力が大いに役に立ったことは紛れもない事実なので嬉しさを感じていました。
(エクスプロージョンか……悪くないかもね)
ほとんど勢いのままに名付けてしまった自分の爆発を受け入れても良いと思うほどにルイズは充実した気分でいました。
大切な友人達を助けることができたことが何よりも嬉しかったのです。
「ミス・サツキだって美しい勇姿じゃないかね。その天使の輪を頭に飾った姿……まさに、天空の戦乙女だよ!」
「天使ねえ。ま、二人とも似合ってるんじゃない?」
ギーシュとキュルケに褒め称えられた五月とルイズは互いに顔を見合わせました。
確かに空中浮輪を頭に浮かべているその姿はまさしく天使そのものです。
「それよりもよ、俺はいつまで持ってりゃ良いんだよ?」
その時、ブタゴリラが不満そうに声を上げだしました。
バズーカ砲を下からずっと支えていたままだったのでそろそろくたびれてきたのです。
「ちょっと待って。小さくするから」
キテレツはリュックから如意光を取り出し、縮小光線をバズーカに照射します。
元の大きさへと戻ったバズーカから火事場風呂敷も外してリュックに入れました。
「キテレツ君、見て! アルビオンの艦隊が逃げていくわ!」
みよ子が指差した先ではレキシントン号の周りにいた他の戦艦の動きに変化がありました。
ヨルムンガントの出現で消極的になっていたのがレキシントン号が撃沈されてからというものの完全に沈黙しており、更には方向転換して空域から離れようとしていたのです。
トリステインの艦隊に反撃しようという様子もなく、一目散に逃げだそうとしていました。
「やった! 成功だよ!」
「自分達の旗艦が倒されたんだもの。他の船だって混乱だってするわね」
「姫様達もこれで安心ね……良かったわ」
完全に戦意喪失している様子の艦隊にキュルケとルイズがほくそ笑みます。
アルビオン艦隊の周りを飛んでいたトリステイン艦隊はどうやら被害を受けた様子もありません。
乗っているアンリエッタ王女とウェールズもきっと無事でしょう。
「何だ? あの船だけ何で逃げねえんだ?」
「何ナリか?」
多くの艦隊が空域を離脱しようとしている中、一隻だけ逃げ遅れている戦艦がありました。
迅速な動きで退散していく他の船に対して、その船だけはやけにまごついているように留まっていました。
「……何か、ずいぶん大騒ぎになってるみたいだね」
「ちょっと貸して」
キント雲の横まで降りてきたルイズが双眼鏡を覗いていたキテレツから奪い取ります。
たった一隻だけ残った戦艦の甲板では大勢の船員や兵士達がごった返しになっているのが見えます。
「あれって、レキシントン号に乗っていた人達でしょ?」
「重すぎて飛べない」
ルイズが呟く中、タバサも遠見の魔法で甲板上の風景を映し出していました。
「あの程度の船じゃあ、あれだけ大人数を乗せたって飛べる訳ないからなあ……」
ギーシュの言葉通り、船は完全に定員オーバーとなっているのでしょう。
数百メートルはあった旗艦よりも規模の小さい戦艦に、無理矢理レキシントン号から避難してきた船員達が乗りこんでしまったおかげで航行することができなくなったのです。
「あれって、何か沈んでいってない?」
「本当だわ」
「やっぱり定員オーバーなのね」
トンガリの言う通りで、重さのせいかほんの僅かずつですが高度も落ちているようにも見えます。
みよ子も五月も納得して頷きました。
『もしもし、キテレツ君。アルビオンの艦隊が退却を始めたようだが……』
その時、キテレツのトランシーバーからコルベールの声が聞こえてきます。
彼は今、タルブから離れた空を超鈍速ジェット機で飛んでおり、蜃気楼鏡を使ってアルビオン艦隊の一部を誘いこんでくれています。
積み込んだ蜃気楼鏡から空に映し出されるトリステイン艦隊の幻に隠れるコルベールは艦隊からの砲撃を避け続けていたのでしたが、それが止み始めたことを察したのでした。
「もう大丈夫です! 先生! こっちは作戦成功です! レキシントン号は撃沈しました!」
『……そうか! 君達は大丈夫かね!?』
「はい! みんな怪我はありません!」
「ミスタ・コルベールこそお怪我は?」
『なあに、こっちは問題ないさ。君達がみんな無事で何よりだ!』
キテレツとルイズの言葉にコルベールも安心した様子で喜んでいました。
コルベールが引きつけていたアルビオン艦隊の一部もレキシントン号が撃沈されたことに動揺しているようで、退却しようとしているのが分かります。
全てのアルビオン艦隊はもうこれ以上、戦争を続ける気配はなく逃げ腰となっているのは明白でした。
「タルブの村まで降りてきてください。そこで合流しましょう」
『うむ! 承知した!』
コルベールの返答の直後、空に浮かんでいた艦隊の蜃気楼がみるみる内に薄まっていきます。
アルビオン艦隊を惑わしていた幻は最初からそこに存在していたのが嘘と思えるように跡形もなく消えていきました。
「あ、見て! トリステインの艦隊が……」
ルイズが目を丸くして何かに気づきます。
今にも重さで墜落しそうな戦艦の周りに次々とトリステイン艦隊が集まっていくではありませんか。
見ればそのすぐ上空にも魔法衛士隊達の幻獣達も飛んでいるのが見えました。
「やっぱりこうなったわね。あいつらはもう逃げられないし、降伏するしかないわ」
溜め息をついたキュルケの言う通り、残ったアルビオンの船はトリステイン艦隊に包囲されてしまって逃げ場がありません。
応戦をしようという様子もなく、どうやら完全に降伏をしてしまう様子でした。
退却してしまったアルビオン艦隊は見る間にもタルブの空域から遠く離れていきました。
「へっ、ざまあみやがれ。あれこそまさに、フクロウのネズミって奴だぜ。勝利の、Yだ!」
「それを言うなら、袋のネズミ! それから、勝利のVでしょ!」
得意気にVサインをするブタゴリラの言い間違えに毎度のごとくトンガリが突っ込みます。
「見たまえよ、モンモランシー! 我らがトリステイン軍の大勝利だ!」
ずっとモンモランシーの体を片手で抱いていたギーシュも歓声を上げるのですが、当のモンモランシーからは何の言葉もありませんでした。
「モ、モンモランシー? ど、どうしたのだね?」
「そのお姉さん、寝てるナリよ」
「ありゃま、気絶してやがる」
気が付けば、モンモランシーはギーシュに体を預けたまま完全に失神していました。
ギーシュが体を揺すってみても彼女は起きる気配がありません。先ほどまであれだけ驚いたり大騒ぎしていたのが嘘のようです。
「あれだけぎゃあぎゃあ騒いでたからねえ……」
「でも、怪我をしたりしてる訳じゃないからすぐに目が覚めるよ」
「おお……モンモランシー、そんなに怖かったのだね……。よしよし、大丈夫だよ……この僕がそばにいてあげるからね……」
トンガリが呆れたように息をつきますが、キテレツの冷静な言葉にギーシュはモンモランシーの体を抱き寄せて愛おしそうに髪や頬を撫でていました。
◆
タルブの村まで降りてきたキテレツ達は、後始末を始めていました。
まずは気象コントローラによってタルブ一帯の空を覆っていた分厚い雲を取り除き、元に戻していくのです。
キテレツが装置を操作することによってあっという間に、薄暗い曇り空だったタルブの空に太陽の光が差し込む青空が広がっていきました。
「すごい燃えてるナリね」
「あれだけ大きい船だからね。早く消さないと後が大変だ」
そう言いながらキテレツはさらに装置を操作していきます。
雲はタルブの空からほとんど取り払いましたが、ただ一か所だけにはまだ分厚い雲が漂っており、その雲からは地上に雨が降り注いでいました。
墜落したレキシントン号はタルブの草原のど真ん中で先に墜落していた戦艦やヨルムンガントの残骸と共に横倒しになっており、火災は墜落した後も続いていました。
「消せそう?」
「うん。何とかなるよ。……これくらいで良いかな」
覗き込んできたみよ子に相槌を打ちつつキテレツは操作を続けました。
炎が燃え広がるといけないのでレキシントン号の真上に残した雲を雨雲に変え、雨を降らして火災を消そうという訳です。
雨量は自由に調整できるため、局所的に大雨を降らせばすぐに鎮火できます。
「すごーい! 本当に雨が降ってきたわ!」
「キテレツならこれくらい、朝飯前だからね」
気象コントローラによって起こされた大雨を見て五月は驚いています。隣に立つトンガリは目を輝かせる五月を見て嬉しそうにしていました。
天候を変えるだけでもすごいのに、雨さえも自在に降らせるキテレツの発明品の力を目にしては驚嘆するばかりです。
「連中のガーゴイル、いなくなったみたいね」
「レコン・キスタが負けたらとっとと帰るなんて……」
キュルケとルイズは空を見上げて渋い顔を浮かべます。
それまで自分達を監視していたガリア王国のガーゴイルであるカラス達は今となっては一羽も飛んでいません。
「ガリアにとってはこの戦争も茶番って訳ね……」
「ふんだ。あんな鉄くずなんて、結局役立たずになったじゃない」
ルイズはすました顔でヨルムンガントからぷいっと顔を背けます。
ガリア王国が裏から操っていたレコン・キスタが敗北しただけであっさりと見捨てたその姿勢は、レコン・キスタがガリアにとっては全く重要な存在ではないということになります。
まるでガリア王国が暇潰しに遊びを初めて、飽きたから捨てられたようにも感じられてしまいます。
これまでずっとガリア王国に知らず知らずの内に付き合わされ、踊らされていたかと思うと敵の正体が分かっている人間としては腹立たしさが込み上げるばかりです。
(もうこれ以上、サツキ達に手出しなんてさせないんだから)
ルイズとしては自分達がこの先もガリア王国の暗躍に巻き込まれるのならそれに正面から挑むまでのことですが、大切な友人であるキテレツ達を危険な騒動に巻き込ませる訳にはいかないのです。
ガリア王国の暗躍を退けた以上、今すぐにでも元の世界へ帰してあげたいとも思っていました。
「うん! みんな無事のようだな!」
「ミヨちゃーん! みんな!」
その時、一行の元へと姿を現す者達がやってきました。
空から颯爽と降りてきたのは超鈍速ジェット機に乗り込むコルベールです。
村の外れから駆け込んできたのは森の方へと避難していたタルブ村の住人達と、シエスタでした。
「先生!」
「シエスタさん!」
手を振りながら駆けてきたシエスタを一行は出迎えました。
着陸した超鈍速ジェット機から降り立ったコルベールにキテレツとルイズ達が、シエスタにみよ子達が近寄ります。
「ミス・モンモランシー! どうしたのだね?」
「ミスタ・コルベール! ご安心を! 気を失っているだけでございます! この僕がずっと彼女に付き添っておりますので、ご心配はありません!」
未だ気絶したままのモンモランシーを目にして心配そうにするコルベールですが、抱きかかえたまま地べたに座り込んでいるギーシュが頷きます。
「そうか……良かった。みんなも、ケガはないね?」
「はい。大丈夫です」
一行の顔を一人一人見回すコルベールは本当にキテレツ達のことを心配してくれていたようで、とても安心した顔を浮かべていました。
「シエスタさん達は大丈夫?」
「ええ。あの大きな船が落ちてきたのが見えて……空が晴れたと思ったらもう他の船もいなくなってたから……」
森の隙間から戦場になりかけたタルブとその空をずっと見ていたシエスタ達ですが、分厚い雲の上で起きていた激戦までは見届けられませんでした。
しかし、晴れ上がった空にはもう恐ろしい戦艦や竜達の姿がどこにもいなくなったのを見て、もう戦いは終わったのだと確信したのです。
「これで、戦争は終わったのですよね?」
「ああ。もちろんだとも。もう何も心配しなくても良いのだよ」
コルベールはシエスタを安心させるように答えます。
「森からもあの竜の羽衣が飛んでいるのが見えたわ。アルビオンの竜達がどんどん落ちていって……とってもすごかった」
そしてシエスタ達は竜の羽衣……ゼロ戦の活躍をしっかりと見届けていました。
曽祖父が遺した空を飛べるという触れ込みだったインチキの秘宝、竜の羽衣はキテレツ達の手によって本当に飛ぶことができることを示してくれました。
それだけでも感激なのに、アルビオン軍にまでも立ち向かっていく一騎当千の大活躍をしてみせたことに村人達も含めて歓喜に湧き上がったものです。
「実はよ、あのゼロ戦なんだけどさ……」
「ブタゴリラが壊しちゃったナリ」
「無茶な操縦するからだよ」
申し訳なさそうにするブタゴリラにコロ助とトンガリが呆れます。
ゼロ戦はトラブルで翼が壊れてしまい、もう飛ぶことはできません。
「ごめんよ、シエスタちゃん。せっかくの大事な物だったってえのに」
「ううん。良いの。曾おじいちゃんだって、自分が遺していたものがみんなの役に立ててきっと喜んでいるはずだから」
大切な形見である秘宝がもう使い物にならなくなったとしても、シエスタは落胆なんてしません。
むしろ結果的に多くの人の役に立ったという事実がとても誇らしく思えるのでした。
「わたし、絶対に忘れないわ。竜の羽衣がこのタルブの空で確かに羽ばたいていた姿を……」
そう呟いてシエスタはブタゴリラの両手を握って笑顔を浮かべます。
「ありがとう、カオル君。本当にあなた達には、わたし達にない勇気があるのね……」
「い、いやあ……それほどでもないぜ……」
「ブタゴリラの場合、勇気というより無謀ってものだよ」
照れるブタゴリラにトンガリは皮肉を漏らします。
「姉さん! 父さん達が呼んでるよ!」
そこへシエスタの弟がやってきて、姉に声をかけてきました。
村の方では何やら大勢の人達が集まって何かを話し合っているのが見えます。
「わかったわ。それじゃあみんな、また後でね!」
「うん! またね!」
手を振って別れるシエスタを一行は見送りました。
話の輪に入ったシエスタですが何やら嬉しそうな顔を浮かべてています。
「さて……あれくらいで十分かな」
キテレツは中断していた気象コントローラの操作を再開しました。
大雨によって既にレキシントン号の火災は収まっており、もうこれ以上は雨を降らせ続ける必要はありません。
「ルイズ! ルイズ!」
気象コントローラを操作して雨雲を消し終えた直後、頭上から突然声が響いてきました。
見上げてみれば、そこにはいつの間にかシルフィードとは別の一頭の竜が羽ばたいているではありませんか。
「ひ、姫様!」
高度を下げてきた風竜から身を乗り出していた人物の姿にルイズは驚きます。
それは彼女の無二の親友であり、アルビオン艦隊を迎え撃つ僅かなトリステイン艦隊を率いていたアンリエッタ王女でした。
「君達! どうやら無事のようだね!」
そして、竜の手綱を握っているのは亡命していたアルビオンの皇太子ウェールズでした。アンリエッタは彼の後ろに乗っており、手を振っているのです。
「な、何と! アンリエッタ姫殿下!」
「おお……! あれは、麗しきアンリエッタ姫殿下ではないか……!」
コルベールとギーシュがアンリエッタの登場に目を丸くしますが、気を失ったままのモンモランシーの傍からギーシュは離れません。
「お姫様ナリ~!」
いつものドレスではない戦装束を身に纏ったアンリエッタの勇ましさが感じられる姿を間近で見て、キテレツ達も驚きます。
「姫様!」
「ルイズ!」
風竜が着陸するなりアンリエッタも地上に飛び降り、ルイズに駆け寄り抱きつきます。
「ああ……! 良かった、ルイズ……! あなた達が無事で……!」
「姫様こそ、ご無事で何よりでございます……!」
お互いの体を抱き合うアンリエッタとルイズは感極まった表情で喜び合いました。
「あなたは……ウェールズ皇太子!」
風竜から降りたウェールズにコルベールが愕然とします。
「王子様もどうしてここまで?」
「アンリエッタがどうしても、君達の無事をその目で確かめたいと言ってね」
キテレツの問いにウェールズは頷いてルイズと抱き合うアンリエッタを見ます。
先ほどキテレツ達がヨルムンガントと戦っている間も艦隊を牽制しつつも呆然としていたトリステイン軍でしたが、レキシントン号が撃沈して他の艦隊が敗走し始めたことで勝利に沸き立っていました。
一隻だけ残ったアルビオンの戦艦を包囲して拿捕した後、アンリエッタはルイズ達の元に行きたいと唐突に無茶なことを言い出しましたが、ウェールズはそれを受け入れてここまでやってきたのです。
「あの船は良いんですか?」
「ああ。マザリーニ枢機卿らが事後処理を行ってくれている。あの船も我々に降伏をしたし、他の艦隊も逃げ去った。もう戦いは終わったんだよ」
みよ子の問いに答えたウェールズが空を見上げると、トリステイン艦隊に包囲されているアルビオンの戦艦がゆっくりと降下してくるのが見えます。
「それにしても、みんなにはこっちも驚かされたよ……アルビオン艦隊を相手にあそこまでやってしまうとは……」
「全部キテレツ君のおかげです」
「いやあ、そんな……みんなが一緒にいてくれたおかげだよ」
みよ子に褒め称えられてキテレツは顔を赤くしました。
この戦いに勝つことができたのは、ここにいる全ての仲間があってこその賜物なのです。
キテレツの発明や仲間達の勇気だけではなく、ルイズ達の魔法やアンリエッタ率いる艦隊も来てくれたから、圧倒的に不利な状況下でも勝利を手にすることができたのでした。
ここにいるみんなが、まさに英雄なのです。
「皆様……この度は誠に感謝いたします。アルビオン軍の卑劣な攻撃と強大な軍勢を相手にここまで戦い抜いてくれたその勇気によって……トリステインは救われました」
抱擁を解いたアンリエッタは一行の顔を見回して労うと、最後にキテレツの顔を見つめます。
「キテレツ殿。異国のマジックアイテムの力、私もしかと見させてもらいましたわ。本当に素晴らしい力なのですね」
アンリエッタは船に乗っていた時にはタルブの空を覆っていた雲が瞬く間に消え去っていった光景を他の船員達や兵士達と共に驚いていました。
さらにはここまで降下してくる道中には大雨を局所的に降らしている場面も見ていたのです。
キテレツの発明品の力を目の当たりにして驚愕するのは当然でした。
「お姫様こそ、格好良いじゃねえか。イカすぜ?」
「まるでヒーローみたいナリ」
「皆様が私達に勇気を与えてくださったのです。このタルブの地で誰よりも先にアルビオンに立ち向かっていったその勇気が……私達を奮い立たせてくれました」
「姫様……」
自分達の行動がアンリエッタが立ち上がるきっかけになったという事実にルイズは驚嘆してしまいます。
「ウェールズ様を救い、そしてこのトリステインを救ってくれて本当にありがとうございます……あなた方にはどれだけ感謝をしても足りません」
「私からも礼を言うよ。キテレツ君、ミス・ヴァリエール……ありがとう」
「な、何か照れるなあ……」
「ええ……」
二人から何度もお礼の言葉をかけられ、キテレツ達は恥ずかしそうにします。
「もったいない言葉でございます。姫様、皇太子殿下……」
ルイズと共にコルベールらも恭しく跪いていました。
自分達の行動がアンリエッタにはっきりと認められることは貴族としてこの上ない名誉でした。
無二の親友の力になれたことがルイズ本人としても誇りに思います。
「姫殿下!」
その時、また頭上から大声で声がかかりました。
「魔法衛士隊!」
ルイズ達がまた空を見上げれば、今度は数頭のマンティコアやグリフォンらが次々と降下してきました。
着陸したマンティコアから降りてきたのは以前、キテレツ達とも出会ったマンティコア隊の隊長です。
「マザリーニ枢機卿がお呼びになっておられます。直ちに艦までお戻りください」
「それじゃあルイズ、また……」
隊長の言葉に頷いたアンリエッタは今一度、ルイズと抱擁を交わします。
さらにアンリエッタは一行を見回した後、ウェールズに手を引かれて竜に乗り込むと魔法衛士隊達と共に浮上を始めました。
「姫様と王子様、熱々だったな」
「何のことナリ?」
「コロ助は気づいてないの? あの二人、しっかり手を握り合ってたし、お姫様なんて王子様にあんなに寄り添ってたんだよ」
「お姫様もとっても幸せそうな顔してたわ」
コロ助以外のキテレツ五人はアンリエッタとウェールズが深く結ばれていることに気づいていました。
「もしかしたら、あのままプロポーション……なんてな!」
「プロポーズだろう? でも、あり得るかもね」
珍しくブタゴリラの言い間違えに突っ込んだキテレツもその可能性を考えます。
「ふうん。確かに、良い雰囲気だったものね」
「そ、そうなのかしら?」
「ププププププ、プロポーズ!? おいおい、そんな姫様がプロポーズなんて軽はずみなこと……大体、相手は皇太子殿下じゃないかね!」
キュルケもその予想に賛成を示しますが、アンリエッタに憧れを抱いているギーシュは逆に困惑しました。
ですが、どう見てもあの二人は誰がどう見ても深く愛し合っていることは一目瞭然なのです。
「ま、あの様子じゃアルブレヒト閣下との結婚も無しになりそうね。もうキスもしてたりしてね」
◆
その日の夜、キテレツ達はタルブの村で催された祝宴に招待されました。
アルビオン軍を撃退したキテレツ達はタルブの村人達からヒーローとして讃えられ、まるで王侯貴族のような扱いで崇められたのです。
タルブ名物のヨシェナヴェやマンジュ、名産のハチミツを振舞われ、コロ助が大好物のコロッケもシエスタがいっぱい作ってくれました。
かつてタルブの村を救ったキテレツ斎と同じように、六人はこれからいつまでもタルブの英雄として歴史に残ることになるでしょう。
そして、アルビオン軍に勝利したトリステインの王女・アンリエッタもまた聖女として崇められていました。
たった一国で侵略してきたアルビオン軍を追い返すことができたアンリエッタの勇気は讃えられ、その人気は絶頂にあります。
戦が終わった後でも、戦勝記念のパレードで毎日が大忙しでした。
ですが、アンリエッタは挫けることなく人々に笑顔を振り撒きました。彼女には愛するウェールズがいつまでも傍におり、支えてくれるからです。
おまけに自分が結婚するはずだったゲルマニア皇帝との縁談の話も無かったことになりました。
トリステインが自力でアルビオンを追い払った事実は隣国のゲルマニアにも伝わり、アンリエッタ王女と皇帝の婚約は解消した上で軍事同盟を結ぶことを受け入れなければならなくなったのです。
アルビオンに怯えていたゲルマニアにとって勇気と力を示したトリステインはもはや無くてはならない存在となったのでした。
勝利に沸き立つトリステインとは反対に、不可侵条約を無視して侵略してきたアルビオンことレコン・キスタでは激しい混乱が続きます。
レキシントン号を失った艦隊が逃げ帰ってきただけでなく、指導者である神聖皇帝オリヴァー・クロムウェルが戦死したために完全に統制を失ってしまい、政府としてまともに機能しなくなってしまったのでした。
卑劣な騙し討ちをしてきたレコン・キスタにはトリステイン、ゲルマニア両国から厳しい制裁が加えられることも決まります。
指導者を失い、一気に弱体化したレコン・キスタの脅威はそう遠くない将来に完全に消えて無くなってしまうことでしょう。
戦いは終わり、ハルケギニアには間違いなく平和が訪れようとしていました。
こうして、タルブでの戦が終わってから一週間も過ぎた後……いよいよ、来るべき日がやってきました。
キテレツ達六人の子供たちが、この異世界ハルケギニアと別れを告げる時が訪れたのです――