キテレツ大百科 ハルケギニア旅行記   作:月に吠えるもの

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タルブの決戦! イーヴァルディの勇者たち・前編

「い、い、一体何事なんだね? 何でトリステイン艦隊がアルビオン艦隊に攻撃を!?」

「そんなことあたしが知るはず無いじゃない!」

 

ギーシュもモンモランシーも、タルブに到着するなり目の前で起きた出来事を目の当たりにして混乱していました。

爆発炎上してしまったアルビオン側の船の残骸は燃え盛る炎と共に地面へと墜落していきます。

 

「いや、それ以前にあんな距離からでは、いくら実弾でもあの最後尾の船にまで届かんはずだぞ」

「そうなんですか? 先生」

「あのトリステイン艦隊に搭載されている大砲はあれだけ距離が離れていては当たりはしないんだ。ましてやアルビオン側より高度も低いからね」

 

キテレツに問われるコルベールは険しい表情を浮かべています。

 

「でも、あのお船は燃えてるナリよ」

「まさか何か事故でも……?」

「キテレツ君……」

 

コロ助やトンガリも困惑する中、みよ子も不安そうにキテレツの傍にやってきました。

 

「どっちにしろ、ちょっとヤバそうね……」

「あの……大丈夫なのでしょうか」

 

眉を顰めるキュルケも、もしかしたらレコン・キスタ、すなわちガリア王国が何らかの謀略を始めたのかもしれないと思い始めています。

シエスタもかなり不安な様子で艦隊を眺めました。

 

「ねえ、ルイズちゃん。何かあそこに浮かんでない?」

「え? ……何よ。小さくてよく見えないわ」

 

五月が爆発した船の残骸が飛び散る空域を指差しますが、距離が遠いので双眼鏡を使っても三つの小さな影が浮かんでいるのが見えるだけで何であるかが分かりません。

 

「何だありゃあ?」

 

視力がとても良いブタゴリラでも正体は把握できません。

しかし、双眼鏡を使わなくても確かに何か小さな影がふわふわと浮かんで別の船に移動していることだけは分かります。

 

「待ってて。今、蜃気楼鏡を出すよ」

「大丈夫」

 

ケースを下ろそうとしたキテレツですが、タバサが前に出てきて杖を振ろうとしました。

あれぐらいの距離ならトライアングルメイジのタバサが遠見の魔法を使えば、かなりはっきりと分かりやすく状況を覗うことができるはずだったのですが……。

 

「わ! 何だ!?」

「ひゃあっ!」

 

突然、無数の大砲の音が炸裂してキテレツ達は驚き、目の前で巻き起こる光景に愕然とします。

 

「げ! やりやがった!」

「な、何てことを!?」

 

アルビオン艦隊の巨大な旗艦から次々とトリステイン艦隊に向かって砲撃が加えられ始めたのです。

トリステイン艦隊の旗艦らしい軍艦に次々と砲撃が命中し、見る間に煙や火が上がっているのがはっきりと分かりました。

あまりの事態にトンガリやギーシュ、モンモランシーは尻餅を突いてしまっています。

 

「アルビオンの大砲は、あの距離でも届くというのか!」

 

コルベールは砲撃を続けるアルビオン旗艦の大砲の性能に驚嘆してしまいます。

 

「何でいきなり撃ち合いなんか始めるのよ! アルビオンとは不可侵条約を結んでるはずでしょう!?」

「きっと、アルビオンの方はトリステイン艦隊が攻撃してきたって誤解してるんだよ! だから反撃を……」

 

モンモランシーが喚き立てる中、ギーシュはわなわなと震えていました。

 

「っていうか、あっちの船は何で撃ち返さないんだ?」

「あれじゃやられちゃうナリよ!」

 

ブタゴリラの言う通りアルビオンの旗艦は砲撃を続けていますが、トリステイン艦隊は全くの無抵抗でされるがままとなっていました。

 

「先生が言ってた通りだよ。トリステインの船の大砲の性能じゃ届かないんだ」

「届かないって言うなら、何であっちの船はいきなり爆発なんてしたのよ! それでトリステイン艦隊が攻撃してきたから反撃するなんておかしいじゃない!」

 

キテレツの言葉にルイズも喚き声をあげました。

確かにトリステイン艦隊の砲撃が届かなければアルビオン艦隊の、ましてや一番遠い船が撃沈されることはあり得ないのです。

にも関わらず、アルビオン艦隊の船は爆発炎上し、トリステイン艦隊が攻撃をしてきたと誤解をしているという矛盾が起きていました。

 

「レコン・キスタの自作自演」

「タバサちゃん?」

「ジグザグ支援だって?」

 

ぽつりと呟きだしたタバサに一行の視線が集まります。ブタゴリラの言い間違えには誰も突っ込みません。

タバサの目の前には遠見の魔法で作り出された景色が映っており、それをキュルケと一緒に見ていました。

 

「みんな、これを見て」

 

キュルケに招かれてキテレツ達は次々に二人の元に集まってきます。

そこにはラ・ロシェールの上空が、トリステイン艦隊の倍の数のアルビオン艦隊を少し上から俯瞰する形で映し出されていました。

 

「これは、さっきの爆発した船の乗組員か?」

「そうみたいですね」

「きっとフライの呪文を使って浮かんでるんだわ」

 

三隻のボートが宙を浮かび、爆散した船の飛んでいた空域から別の軍艦へと向かっているのが見えます。そのボートにはそれぞれ十人にも満たない数の乗組員達の姿がありました。

 

「脱出の準備が良すぎるわ。見なさいよ、自分達の船が撃沈されたのに誰一人慌ててる様子さえ無いわ」

 

キュルケの言う通り別の船に回収されたボートからは次々に乗組員達が降りていきますが、みんな平然としているのです。

 

「何でみんなあんなに平気でいられるのさ」

「肝っ玉がず太い奴らだな」

「そういう問題じゃないよ、ブタゴリラ。普通だったら自分達の船があんな目に遭ったら大騒ぎになるはずなんだよ」

「でも、最初から脱出の準備をしていたってことは……」

「連中は最初から親善訪問をするつもりなんて無かったのよ。不可侵条約を結んでいたのだって戦力を整えてトリステインを攻めるための時間稼ぎ。そして、合法的に戦争をする口実を作るためにあんな感じで自作自演の騙し討ちまでしてきたって訳よ」

 

キテレツとみよ子の言葉にキュルケが空を睨みながらさらに続けました。

元々レコン・キスタは世界征服を目的としてアルビオン王家を滅ぼそうと革命を起こしたのですから、最終的にはトリステインや他の国も侵略しようとしていることは明白なのです。

そのためには如何なる卑怯な手段を使うことも辞さないのです。微塵の欠片もない不可侵条約を結ばせて表面的には平和ボケとなったトリステインを完全に油断させて、一気に侵略をしようと企んでいたのでしょう。

そして、その策を考えたのが裏で彼らを操っているシェフィールドと、ガリア王ジョゼフ達なのです。

 

「ぐ……何という卑劣な……」

「あいつら! 何て恥知らずな奴らなの! あんな三文芝居なんかで騙して攻めてくるなんて!」

「ひどいわ……!」

 

コルベールもルイズも、五月でさえもレコン・キスタの卑劣な行いに憤慨します。

特に敵の正体を知っているルイズ達はなおさらレコン・キスタもガリア王国も許せませんでした。

 

「と、なれば今にこのタルブは戦火に巻き込まれることになるぞ……! トリステイン艦隊が全滅するのも時間の問題だ……!」

 

一方的に攻撃を受けているトリステイン艦隊は完全に混乱しているようでバラバラに動き出しており、アルビオン艦隊は容赦なく甚振るように砲撃を続けていました。

既に何隻かの船が爆発炎上し、撃沈されていっています。

 

「そ……そんな!」

 

コルベールの言葉にシエスタが青ざめた表情でがくりと膝を折って崩れ落ちます。

この平和なタルブの地が戦争によって真っ先に戦乱に見舞われる光景など想像したくなんてありませんでした。それはまさに地獄絵図なのです。

 

「じょ、冗談じゃないわよ! は、早く逃げましょうよ!」

「そ、そ、それが良いよ! コルベール先生! 一刻も早く魔法学院へ戻りましょう! 王宮にも報告をしないと……」

 

モンモランシーとギーシュが青ざめた表情で慌てふためいていました。

 

「いや、それよりもタルブの村人達を避難させる方が先決だ。シエスタ君、すぐに村の人達に知らせて安全な場所へ逃げたまえ!」

「は……はい!」

 

真剣な表情のコルベールに促されてシエスタは血相を変えて村の中へと駆け入って行きました。

既に村の中も騒然としていて、外に出ている何人かの村人達はラ・ロシェール上空で起きている異変を眺めて不安な様子です。

 

「コルベール先生、これからどうするんですか!?」

「恐らくアルビオン艦隊はトリステイン艦隊を全滅させ次第、真っ先にこのタルブの草原を拠点に占領行動に移るだろう。何とか村人達をそれまでに避難させねば……」

 

コルベールはちらりとタルブの村の方を振り返って苦い顔を浮かべています。

 

「キテレツ! 俺達であいつらをやってやろうぜ!」

「おいおい、ブタゴリラ君!」

「ブタゴリラ、本気!? 相手は戦艦だよ! しかもあんなにたくさん! いくらゼロ戦が動かせるからって無謀すぎるってば!」

 

ブタゴリラの迷いの無い意気込みにギーシュとトンガリが驚きました。

 

「無謀もゴボウもあるか! 俺達がやらなきゃ、誰がこの村を守るっていうんだ! シエスタちゃんの村なんだぞ!」

「落ち着いて、熊田君。……キテレツ君、わたし達でできる限りのことはやってみましょうよ」

「五月ちゃんまで!」

「君達、危険すぎるぞ! 相手は強大なアルビオンの艦隊だ! 我々だけではどうにもならん! せめて王軍が到着してくれなければ……」

 

艦隊を相手にしても戦おうとする意欲を見せる二人にトンガリだけでなくコルベールまでもが首を横に振りました。

怖気づいているトンガリと違ってコルベールはキテレツ達のことを本気で心配している様子です。

 

「キテレツ。何か良い発明品は無いナリか? きっと何かあるはずナリよ!」

「そうだぜ! あの船を叩き落とせる物とか、何でも良いから出せよ! 」

「キテレツ君……」

 

コロ助もみよ子もキテレツに縋る視線を向けます。今、頼りにできるのはキテレツの発明品だけなのです。

 

「う~ん……さすがに羽根うちわじゃ一度にまとめて吹き飛ばすこともできないし……」

 

しかし、これまで相手にしたことのない戦艦を、しかも大軍が立ちはだかろうとしているのですから対策を立てようにも良い案が浮かびません。

 

「やめなさい! あんた達!」

 

腕を組んで悩むキテレツでしたが、突然ルイズが悲鳴のような大声を上げていました。

 

「駄目」

 

いきなりの大声に驚いて一同が沈黙する中、タバサもルイズに続けて首を横に振りました。しかも珍しくはっきりと苦い顔を浮かべています。

 

「あんた達はすぐに学院へ戻りなさい! ゲルマニアから冥府刀の部品が届くまでおとなしくしてるのよ!」

「ルイズちゃん……」

 

突然の命令に五月は目を丸くしてしまいます。キテレツ達もじっとルイズ達を見つめますが、彼女はとても真剣な顔です。

 

「何だと! シエスタちゃんの村がこれから焼かれちまうかもしれねえってのに、おめおめ置き猿にして皆殺しにしろって言うのかよ! この白菜者め!」

「薄情者でしょ! あと、皆殺しじゃなくて見殺し! 置き猿じゃなくて置き去り!」

「お前は一々人のボケに突っ込んでんじゃねえ!」

「あ痛たたたっ!」

「やめなさい! 熊田君!」

 

ルイズに向かって怒りを露わにするブタゴリラはトンガリの頭にヘッドロックをかけますが、それを五月が咎めます。

しかし、キテレツ達を見つめていたルイズの表情は一転して心苦しそうなものへと変わっていきました。

 

「タバサちゃんもルイズちゃんもどうしたナリか?」

「ルイズちゃん?」

「な、なんだよ……」

 

様子がおかしいルイズとタバサにキテレツ達は困惑するばかりです。

 

「ねえ、あんた達。これから始まるのは今までの冒険や戦いとは全然違うの。これまでの人間とかガーゴイルみたいな生易しいものじゃない、あんな大きな戦艦が相手の本物の戦争なのよ」

 

苦い顔を浮かべながらも真剣な様子でルイズはキテレツ達の顔を見回しました。

 

「キテレツのマジックアイテムだったら、もしかしたらアルビオン艦隊を追い返すことだってできるかもしれない……下手したらそのまま全滅させられるかもしれない……。……でも、それでも……もうあんた達をこれ以上危険なことに巻き込ませたくないの!」

「ルイズちゃん……」

「あんた達は絶対に、みんな揃って故郷に帰らなくちゃいけないの! サツキ! あなたはお母さんに会いたくないの!?」

 

ルイズの口から出てきた言葉にキテレツ達はみんな何も言えませんでした。

それはこのハルケギニアにおけるキテレツ達の最大の目標であり、悲願なのです。

 

「あたしもタバサも知ってるんだから……ミヨコも、トンガリも、カオルだって、お母さんに会いたくって……夜寝てる時もうなされて、うわ言だって言ったりしてることだって……」

 

タバサも静かに頷いて僅かに俯きます。ルイズと同様に普段は絶対に見せないような悲しい顔でした。

 

「俺、そんなこと言ってたのか?」

「ルイズちゃん……」

 

自分達の知らない姿をルイズより明かされてキテレツ達はみんな唖然としました。

五月は前にトンガリが寝ている時にうわ言を呟いているのをタバサと一緒に見ましたが、まさか自分までもが眠っている時にそんなことをしていたなんて知る由もなかったのです。

六人が今すぐにでも家へ帰りたい、という強い思いを二人にはっきりと見られていたのです。

 

「ふうん……そうだったの」

「そうか……」

 

キュルケとコルベールもキテレツ達の本心を知って唸ります。

故郷に帰れないまま、家族に会うことさえできない辛い境遇は、タバサと同じだとキュルケは納得しました。

 

「あんた達の気持ちだって分からない訳じゃない。お世話になったシエスタを助けてあげたいって言うんでしょう? でも、本来ならあんた達はここにいるべきじゃないの! せっかくもう故郷に帰れるっていうのに戦争にまで首を突っ込んで、死んだりしたら元も子も無いじゃない! それでも良いの!?」

 

このハルケギニアで何度も危険な冒険や戦いを続けてきたキテレツ達ですが、ルイズもタバサももうこれ以上、そんなことに巻き込ませたくないのです。

タバサは本来なら全く関係が無いはずの自分の宿命にキテレツ達を巻き込み、危険に晒してしまったからこそ、自分と同じで家族に会いたい六人を一刻も早く帰してあげたいと願っていました。

特に、自分のせいで故郷へ帰れなくなってしまったキテレツ達を何としてでも帰さなければならない責任を背負うルイズは何が何でも一行をこのハルケギニアで起こる騒動に巻き込みたくありませんでした。

 

「シエスタやここの村人達はあたし達が責任を持って保護するから! もうこれ以上危険なことに深入りしないで! 大切な人が待ってる故郷に帰って!」

「お願い」

 

タバサもまたキテレツ達にはっきりと懇願します。

二人の心からの訴えと願いをはっきりと目の当たりにした一行は呆然として沈黙しました。

そんな中でも、ラ・ロシェールの空域からの砲撃の音は響き続けています。

 

「ありがとう……ルイズちゃん、タバサちゃん。そんなにわたし達のことを心配してくれていたなんて……とっても嬉しいよ」

 

五月はルイズとタバサに切なそうに微笑みかけます。

 

「……でも、ごめんね。わたし達、まだ帰る訳にはいかないわ」

「何でよ! サツキ! これ以上関わったら帰れなくなっちゃうかもしれないのよ!?」

「言ったじゃない。悲しいお別れはしないって。わたし、ルイズちゃん達とは最後まで笑顔のままでいたいもの。『さよなら』は絶対に言いたくないけど、こんな形でお別れなんてしたくない」

 

詰め寄ってきたルイズに五月ははっきりと自分の気持ちを語りました。

キテレツ達もキュルケ達も、ルイズ達三人を見守っています。

 

「もしここでルイズちゃん達やみんなを見捨ててまで帰ったりしたら、絶対にこの先ずっと後悔するもの。そんな悲しい思い出は残したくないわ」

 

ルイズの手をそっと握り締めて五月はしっかりと頷きました。

 

「だから……お別れをする最後の最後まで、お世話になった人達のために力になって、助けてあげたいの」

「……サツキ。あんた、怖くないの? あんた達だって、本当は無理してるんじゃないの?」

 

五月のその手は微かに震えているのがルイズには分かります。キテレツ達も同様にこれから起こる戦争に恐怖を感じているのだと察していました。

 

「……もちろん恐いさ。友達やみんなのためだったら、どんなことでもやり遂げたいって気持ちになれるけど、怖いことには変わりないよ」

「キテレツ君……」

 

これまでキテレツ達がハルケギアや元の世界で繰り広げてきた数々の冒険でも、恐怖を感じなかったことはありません。

 

「でも、五月ちゃんの言う通りだよ。たとえ怖くたって、みんなの力になりたいんだ。奇天烈斎様は争いのために発明品を残してくれた訳じゃないけど……それでも、僕はこの発明品でみんなを助けてあげたい」

 

抱えているケースを差し出してキテレツは頷きます。

それでもキテレツ達の心にある勇気の強さが恐怖を上回っているから、諦めない気持ちになれるのでした。

 

「ルイズちゃん。確かに戦争は危険だし、あんなにたくさんの軍艦を追い返すのは難しい。でも、このまま黙って何もしない訳にはいかないんだ。この村でお世話になってた奇天烈斎様だったら、きっとここの人達を助けてあげたいはずだよ!」

「そうナリ! ワガハイは逃げないナリよ! シエスタちゃんを助けるナリ!」

「へへっ、そういうこった! 伯父さんの友達だって世話になってたんだからな!」

「僕は五月ちゃんが心配だもの。ママには会いたいけど、自分だけ帰るなんてできないし」

「あたし達でできる限りのことをしましょう! まだ本当に逃げなくちゃならない時じゃないわ」

 

キテレツ達は口々に意気込みを吐き出していました。

そんな姿を目にするルイズとタバサは唖然としてしまいます。

 

(イーヴァルディ……)

 

やはりキテレツ達の心には勇気という名の勇者が住み着いていることをタバサは改めて感じ取りました。

そのイーヴァルディの勇者がいる以上、説得は無駄であると理解します。たとえ無理矢理魔法学院へ帰したとしても、キテレツ達はタルブに戻ってくるでしょう。

 

「負けね。この子達の勇気は誰にも止められないわ」

「馬鹿……」

 

キュルケが肩を竦め、ルイズも深く俯きます。

自分の願いは六人にはしっかりと届きました。しかし、それでもこの六人の心を変えることは元より不可能だったのです。

それは何より友達であり、世話になったルイズ達を思うからこその強い決意だったのですから。

 

「大丈夫よ。絶対に無茶だけはしないわ。それだけは約束するから……」

「約束よ、サツキ……絶対に生きて帰るって……でないと、許さないんだから」

「うん」

 

五月は改めて、自分達のことを大切に思ってくれるルイズ達と誓い合います。

絶対に『さよなら』は言わず、最後は笑顔でお別れをするためにも、この戦いに生き残らなければなりません。

 

「う~ん……友情っていいもんだなあ……見ているだけで感激してしまうな……」

「何を見惚れてんのよ、あんたは」

「本当にね。……良いわ。あたしも、最後まで付き合ってあげるわよ。サツキ達にはお世話になってきたんだもの」

 

呆然と見届けていたギーシュが感極まりますが、モンモランシーが肘で小突きます。キュルケは笑顔を浮かべてキテレツ達にウインクをしました。

 

「とにかく、まずは村の人達が避難するまであの船が降りてこられないようにしないと」

 

気が付けばタルブの村の中はかなり騒がしくなっている様子でした。シエスタやその家族達が外に出てきて、森へ逃げるように叫んでいます。

 

「何か良い物は無いナリか?」

「まずはゼロ戦を大きくしろよ! 俺がひとっ飛びで脅かしてきてやる!」

「だから無理だって! ブタゴリラ!」

「ブタゴリラ君。あの戦艦は大砲を積んでいるんだ。いくらゼロ戦があれだけ速く飛べるとはいえ、撃ち落とされるかもしれんのだよ?」

 

無謀なことをあっさり口にするブタゴリラをトンガリとコルベールが宥めました。

 

「何を出すの? キテレツ君」

 

唐突にケースを地面に置いたキテレツは中から取り出した物を如意光で大きくしだしました。

 

「これは?」

 

みよ子と一緒に横から覗いていた五月は目を丸くします。キテレツが取り出したのはダイヤルが二つ付いている装置らしき木箱と、二十個近い先端に野球ボールほどの球体が付いている円錐型の小さなアンテナみたいなものでした。

 

「これは雨よけコントローラナリか?」

「説明は後! みんな、この発信機をできる限り広い範囲で草原に設置してきて!」

「よっしゃ! 任せな! おら! トンガリ! お前も手伝え!」

「こんなんでどうする気なのさ……」

 

並べられたアンテナの中から四本手にしたブタゴリラがその半分をトンガリに押し付けました。

トンガリは渡されたアンテナを見つめて顔を顰めますが、ポケットから取り出した空中浮輪を頭上に浮かべます。

 

「コロちゃん、五月ちゃん、行きましょう」

「分かったナリ!」

「うん!」

 

三人も二つずつアンテナを手にし、空中浮輪を装備してそれぞれ違う方向に分かれて飛んで行きました。

空中浮輪を壊されている五月はみよ子に手を引かれて一緒にいきます。

 

「じゃあ、あたし達も行った方が良いわよね」

「ほら! あんた達も手伝いなさい!」

 

キュルケ達もアンテナを二つずつ持ち、ルイズはモンモランシーとギーシュを睨みつけます。

 

「ええっ!? 僕らまでかい!?」

「嫌よ! 何でここまで来てこんなことしなきゃならないのよ! わたし、アルビオン軍に喧嘩を売るなんて嫌だからね!」

「ここまで関わってるんだから、今さらこそこそと逃げ出すなんて許さないわ! さっさとやるのよ!」

 

困惑し、はっきりと拒絶するモンモランシーにルイズは杖を突きつけます。その厳しい目つきは本気です。

ルイズの気迫に圧されてモンモランシーは思わず逃げ腰になってしまいました。

 

「もうっ! 遠乗りに来ただけなのに、何でこうなるのよ~!」

 

 

ロイヤル・ソヴリン号……今はレキシントンと名を変えたアルビオン艦隊旗艦による砲撃が始まってから十数分が経ちます。

一方的に砲撃を受け続けていたトリステイン艦隊の旗艦、メルカトール号の船体が激しく燃え上がり、ついには爆散しました。

他の艦隊もほとんどが撃沈されており、残るはたったの二隻だけとなっています。その二隻も既に撃沈寸前でした。

 

「アルビオン万歳! 神聖皇帝クロムウェル万歳!」

 

レキシントン号の艦上からは何百人もの兵士達の歓声が次々に轟いていました。

彼らは後甲板に立つ一人の聖職者姿の男に視線を集中しています。彼こそがアルビオン大陸で革命を成し遂げたレコン・キスタの長であり、今や皇帝のオリバー・クロムウェルその人でした。

 

「誇り高き同士諸君! トリステイン王国は、我らが温情にも不可侵条約を結ばせたにもかかわらず、それを無視した理由なき攻撃を親善艦隊に対して仕掛けてきた!」

 

クロムウェルは両手を振り上げて声高に叫ぶと、集まった兵士達の熱狂はさらに強まりました。

 

「これは果たして何を意味するか!? そう! 宣戦布告だ! トリステイン王国は明確に、我が神聖アルビオンに対する敵対の意思があったのだ!」

 

歓呼の声がさらに轟く中、同じ後甲板にいた艦長のヘンリー・ボーウッドはつまらなそうに目の前の光景を見つていめます。

 

「王権の簒奪者め……恥知らずな……」

 

汚い物でも見るような忌々しい視線をクロムウェルの背中にぶつけていました。

今回、アルビオン艦隊は三日後にゲルマニアで行われるアンリエッタ王女とゲルマニア皇帝の結婚式に出席するための親善訪問のためにここまで来たのです。

しかし、それは表向きの話であり、実際は卑劣な陰謀をクロムウェル達は企んでいたのでした。

 

締結した不可侵条約を信じて戦備が整っていないトリステイン王国へ攻め入るため、まずはトリステインの主力艦隊を全滅させることにしました。

その手段は実に卑劣なもので、トリステイン艦隊が歓迎のために撃ってきた礼砲に合わせて自分達の艦隊の一隻をわざと大破炎上させたのです。

もっとも、切り捨てた船は旧型艦のホバート号で最小限の乗員しか乗せておらず、火を点けたら脱出する手筈になっていました。

 

それによってトリステイン艦隊がホバート号を撃沈した、と見なしてアルビオン艦隊は応戦をする口実を作り上げたのです。

もちろん、トリステイン艦隊に交戦の意思などないはずで、思いもしなかった反撃に混乱するでしょうが、それさえも初めから分かり切ったことでした。

この汚らしい陰謀をクロムウェルから聞かされた時にボーウッドはっきりと激怒しましたが、本人は「些細な外交」と吐き棄てたのです。

 

「よろしい! ならば受けてたとう! 驕り高ぶるトリステインに、我らが聖なる裁きと鉄槌を下すのだ! 始祖は我らと共にある! 神聖アルビオンに栄光あれ!」

「うおおーっ! アルビオン万歳! 神聖皇帝クロムウェル万歳!」

 

こうして一方的にトリステイン艦隊を全滅させ、アルビオンは表面上は合法的に、自衛のために卑劣な攻撃を仕掛けてきたトリステインに宣戦布告を仕掛けたのでした。

とんだ茶番劇に付き合わされる破目になったボーウッドは険しい表情を浮かべ、たった今全滅してしまったトリステイン艦隊の残骸を見つめます。

 

(ウェールズ殿下……お許しください)

 

戦死したトリステインの兵達を悼み、そしてトリステインへ亡命した真に忠誠を誓う皇太子ウェールズに向けて、静かに黙祷を捧げていました。

さて、熱狂が未だに止まない中、演説を続けていたクロムウェルの心境はというと……。

 

(ああ……ついにトリステインに攻め入ってしまった……本当にここまでする必要があったのだろうか……)

 

あれだけ威厳のある演説を行っていたのとは裏腹に、クロムウェルの心にあるのは恐怖だけでした。

元々、シェフィールドによって革命軍レコン・キスタの長に、そして神聖アルビオンの皇帝に祭り上げられていたクロムウェルには他国を侵略する気なんて無かったのです。

革命を始めた当初は王家に復讐ができることが楽しかったのですが、ここまで事態が大きくなると思わなかったクロムウェルもさすがにここまで来ると恐怖しか感じられません。

それでもクロムウェルはシェフィールドに半ば脅されるように、言われるがままにアルビオンの皇帝として振舞うしかありませんでした。

 

(何故、トリステインへ侵略しなければならなかったのか……ミス・シェフィールド……何を考えておられる……?)

 

シェフィールドはトリステインを侵略する命令を下すだけでなく、クロムウェル自ら戦線に立つようにも言ってきました。

クロムウェル本人としてはせめてアルビオン大陸のハヴィランド宮殿から遠見の鏡で今回の謀略を見届けたかったのですが、シェフィールドはそれを許さなかったのです。

「皇帝自ら陣頭指揮を執った方が兵の士気も上がる」と、もっともらしいことを言っていましたが、シェフィールド自身はここにはいません。

自分に命令を下してくれる者がいないため、クロムウェルはとても不安で心細い思いでした。

 

未だ歓声が止まない中、クロムウェルはレキシントン号のメインマストを見上げます。

マストの帆のほぼ全体に、大きな赤く丸い楕円が描かれているのが分かりました。

 

(何かを我らに送ってくれるというのだろうか? ……しかし、あんな所にあんなに大きな物を描いて何を?)

 

数日前、シェフィールドはクロムウェルに不思議なマジックアイテムを用意していました。

それはワルドが回収していた異国のマジックアイテムである、あの瞬間移動ができるという赤い輪を元にして複製したという代物で、同じように瞬間移動ができるというのです。

シェフィールドはそのマジックアイテムを使ってレキシントン号の帆に瞬間移動の通り道を作るように命じてきました。

それで何をしようというのかについては、「お前は知らなくても良い」と突っぱねられて聞くことはできなかったのです。

肝心なことは何も教えてはくれませんでしたが仕方がなく、竜騎士に命じて帆に巨大な輪を描かせたのでした。

 

そうしてクロムウェルが人知れず不安と恐怖に内心怯えている中、トリステイン艦隊の殲滅が完了したのでアルビオン艦隊は次の作戦を実行に移していました。

侵攻の拠点を得るため、艦隊はラ・ロシェールから近郊のタルブへと移動します。

 

「やけに雲が出てきたな。これでは地上の様子も分からぬ」

 

しかし、タルブ上空に差し掛かろうとした時、クロムウェルは不思議そうに顔を顰めます。

トリステイン艦隊を攻撃している最中にはタルブの広大な草原が見えていたはずなのですが、いつの間にか濃い霧のような雲がタルブ一帯の上空に広がっていたのです。

これでは地上の様子が分からず、艦隊を降下させるのはもちろん、侵攻軍の地上部隊を上陸させることもできません。

 

「おい! 艦長! これはどういうことだ!? 偵察からの報告ではラ・ロシェールとタルブ一帯の天候は快晴だったはずだろう!」

 

艦隊司令長官のジョンストンは掴みかからんとする剣幕でボーウッドに詰め寄ります。

事前偵察のためにラ・ロシェールに送り込まれていた土くれのフーケからの報告ではジョンストンの言う通り、雲一つない天気で見晴らしが良かったはずでした。

 

「ジョンストン君。落ち着きたまえ。所詮、雲が出ているだけだ。敵が現れた訳ではないよ」

「し、しかし……」

 

憤慨するジョンストンをクロムウェルが宥めますが、実の所クロムウェルもこの雲の下に何かいるのかと考えると恐ろしくなってしまいます。

それを悟られないよう、必死に恐怖を押し隠して平然とした態度をとっていました。

 

「……とにかく上陸前の露払いも兼ねて竜騎士隊を先導させましょう。よろしいですね?」

 

ボーウッドは軍人らしく冷静に次の作戦の実行を告げました。

それからすぐにレキシントン号に搭乗していた二十騎ばかりのアルビオン竜騎士隊達が各々の竜に跨り、次々と飛び上がります。

竜騎士隊達は雲の下へと降下していき、アルビオン艦隊はその雲の上でひとまず駐留することにします。

もしかしたら雨が降っているのかもしれません。そうなると地上軍を降ろすのも低空に駐留し続けるのも辛くなってしまいます。

 

「何だ! 何事だ!」

 

突然、雲の下から聞いたこともない騒音が爆音と共に響いてきました。

銃声のような、しかしそれにしては大きすぎる上に小刻みな音で轟き続けているのです。

 

「一体何が起きている!?」

 

クロムウェルまでもが甲板から身を乗り出してしまいますが、雲が見えるばかりで何も見えません。

正体が分からない音を前にして、恐怖に打ち震えていました。

 

 

先ほどまで太陽が照り、青空が広がっていたタルブの空にはすっかり分厚い雨雲で覆われていました。

シエスタ達は既に村の外へと出て行ってしまい、無人となったタルブの村の入口にキテレツ達は集まっています。

 

「いやあ、しかしすごいもんだなあ……さっきまであんなに天気が良かったのに」

「あんな物だけでこんなことできるなんて……」

 

ギーシュとモンモランシーは地面に置いた装置のダイヤルを操作するキテレツを横から覗き込んで嘆息します。

キテレツが用意した雨よけコントローラは元々、雨の呼び笛と呼ばれる発明品で、アンテナの発信機から特殊なイオン波を雲に送り、水分を集めることで雨雲を生み出す装置なのです。

ずっと前にその雨の呼び笛を参考にして、逆に雨雲を避けさせる装置として作ったのが雨よけコントローラでしたが、作った時は調子が悪くて上手くいきませんでした。

それから改良を重ねて作り上げたのが現在の雨よけコントローラ……気象を自在に操作することができる気象コントローラなのです。

 

「このタルブの近くにある雲を全部かき集めたからね。船が降りてきたら大雨を集中させられるよ」

「そんなこともできるんだ」

「でも、それだったら船を落とすこともできるかもしれないわ」

 

五月とルイズもコントローラを操作するキテレツを眺めて唸ります。

空を飛ぶ船とはいえ、嵐に見舞われれば墜落してしまう恐れがあるのです。よって、空の航海は基本的に天気が良い時でなければいけません。

 

「キテレツ斎殿は本当にすごいんだな。自在に雨を降らせられるなら、日照り続きで困っている人も助かることだろう」

「はい。奇天烈斎様もそれが目的でこれをここで使ったみたいなんです」

 

感心するコルベールにキテレツは頷きました。

キテレツがこの装置を用意しようと考えたのも視界を悪くさせて上空からタルブの様子を見ることができないようにさせ、艦隊を降下させる時間を遅らせるためだったのです。

ルイズ達がタルブ草原の各所に設置した発信機からイオン波を拡散させることでこれほどの雨雲を作りだすことができたのでした。

雨自体はその気になればいつでも降らせますが、まだそこまではしません。

 

『おらおらおらーっ! これでも食らいやがれーっ!』

 

コルベールが手にしているトランシーバーからブタゴリラの声が聞こえてきます。

上空を見上げるとそこには降下してきたアルビオン竜騎士団が飛び交っているのが見えますが、さらに高速で飛び回るゼロ戦の姿もありました。搭載されている機銃を発射している音もトランシーバーを通して聞こえます。

ゼロ戦はぐるぐると竜騎士団を威嚇するように周辺を旋激しく回しています。中には機銃で翼を撃ち抜かれて墜落していく竜もいました。

 

『んなもんが当たるかよ! ざまーみろ!』

 

竜騎士達は先ほど急上昇してきたゼロ戦に驚いている様子で火竜が火炎のブレスを吐きだしますが、ゼロ戦の速度に翻弄されてを捉えることはできませんでした。

 

「ブタゴリラ君! あまり無理をしちゃいかんよ!」

「カオル! 囲まれちゃうわよ! 気をつけなさい!」

 

コルベールとキュルケが空を見上げながらトランシーバーに向かって叫びました。

竜騎士達は散開を始め、ゼロ戦を取り囲もうとしているようです。

 

『キテレツ! ブタゴリラが危ないナリよ!』

『だから無茶だって言ったんだよ!』

 

地上に残っていないのはブタゴリラの他にもみよ子、トンガリ、コロ助が別動隊として行動をしていました。

現在、三人はキテレツの発明品を持って村の上空にキント雲を使って飛び上がり、待機しているのです。

 

「キテレツ。如意光を貸して」

「どうすんのよ? 一体」

「何をしようっていうんだい?」

 

タバサが突然、如意光を借り出したのでルイズとギーシュが目を丸くしました。

 

「きゅい! きゅ~いっ!」

 

ずっと座り込んでいたシルフィードの元へタバサが歩み寄っていくと、シルフィードは露骨に嫌がった様子で鳴きだしました。

 

「我慢して。これもみんなのため」

 

そう呟いたタバサは如意光の青い拡大光線をシルフィードに浴びせます。

すると、見る見るうちにシルフィードの体は膨れ上がっていきました。

 

「うひゃあ!」

「でっかい……」

 

ギーシュが尻餅をつき、モンモランシーが唖然とするほどにシルフィードの体は巨大化したのです。

確実に二十メートルはある巨体は大人の火竜でも滅多にあるものではありません。現在、空にいる火竜なんて足元にも及びません。

 

「本当に恐竜みたい……」

 

五月は今のシルフィードがまるでティラノサウルスを彷彿とさせるような威圧感を感じていました。

 

「タバサ、あなたも行くつもり?」

「カオルを助ける」

 

キュルケの言葉を背に受け、巨大化したシルフィードの頭にレビテーションで飛び乗ったタバサはいつもと違う感触の竜の肌に触れました。

 

「きゅ~い~っ!」

 

いつもよりも低くなった感じの鳴き声を上げ、シルフィードは巨大な翼を広げて羽ばたきだします。

 

「きゃあっ!」

「うおおおっ! すごい風圧じゃないか! さすがだな!」

「嫌あ! ぺっぺっ! 目にゴミが……!」

 

二十メートルという巨体による羽ばたきは強烈な突風を巻き起こします。その強風に煽られてルイズ達は翻弄されてしまいました。

飛び上がったシルフィードはそのまま上空のゼロ戦を取り囲もうとする竜騎士団目がけてゆっくりと上昇します。

 

 

「きゅい、きゅ~い~っ!」

「うわあっ! 何なんだ! あれは!?」

「あんなでかい竜、見たことないぞ!?」

 

タルブ村から突然飛び上がってきたそれまで見たことがないほどに巨大な風竜の姿に竜騎士達は戸惑いだします。彼らが騎乗する火竜達も困惑しているようでした。

巨体であるため一見ゆっくりに見えますが、実際の飛行速度はいつもと同じです。シルフィードは一か所に集まっている竜騎士達目がけて突進していきました。

 

「何を怖気づいている! 怯むな! やれ!」

 

竜騎士達はシルフィードの巨体に圧倒されている竜を叱咤すると、火竜達は次々に火炎のブレスを吐き出しました。

 

「きゅいーっ! そんなのへっちゃらなのねーっ!」

 

風竜のブレスは火竜に比べると強くはないですが、今は巨大化しているおかげで火竜達よりも威力を上回っています。逆にシルフィードのブレスがかき消してしまいました。

 

「ウインディ・アイシクル!」

 

巨大なブレスを慌てて散開して避けた火竜達にタバサは氷の矢を拡散させます。

全方位に放たれた氷の矢に竜騎士達は火竜もろとも射抜かれてしまい、次々に墜落していきました。

 

 

「すすす、すごいじゃないか! 天下無双と謳われたアルビオンの竜騎士達がまるで赤子同然だよ!」

 

地上で空中戦を見届けていたギーシュが興奮した様子で見惚れていました。

ゼロ戦の機銃や巨大化したシルフィードとタバサに竜騎士達は圧倒され、手も足も出ません。

瞬く間にその数は半分以下へと減らしてしまいます。

 

「タバサも考えたわね~……」

「確かにあれじゃいくらアルビオンの竜騎士でも敵わないわよね……」

 

感心するモンモランシーにルイズも同調します。

この調子で行けば二人だけで竜騎士団を全滅させることができるでしょう。しかし、本隊は未だ雲の上にいます。それを何とかしなければ話になりません。

 

「見て! 艦隊が降りて来たわ!」

 

キュルケが指を差した先には、雲を突き抜けて降下してきたアルビオン艦隊の姿がありました。

 

「ついに来たか……! 君達! アルビオン艦隊が来るぞ! 気をつけたまえ!」

「あの大きいのは?」

「きっとまだ上にいるのよ」

 

コルベールがトランシーバーに叫ぶ中、ルイズと五月は降下してきた艦隊を観察しています。

どうやら第一陣のようで降りてきたのは全部という訳ではなく、旗艦のレキシントン号やいくつかの戦艦の姿はありません。

 

「みんな! 手筈通りに行くよ! 用意は良い!?」

 

立ち上がったキテレツはコルベールの持つトランシーバーの近くで叫びました。

これからがこのタルブの地を死守するための戦いの本番となります。

あの艦隊をどうにか食い止めなければ、のどかで綺麗なこの草原も村も無残に焼き払われてしまうでしょう。

 


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