コロ助「熱いナリ~~っ。喉乾いたナリ~~っ。ワガハイ死にそうナリよ~~っ」
キテレツ「がんばれよコロ助。帰りは天狗の抜け穴ですぐ戻れるから。みよちゃんを救い出すまで僕は帰らないぞ!」
コロ助「でも砂漠のお城は怖いカラクリ人形でいっぱいナリよ。エルフっていうお兄さんはとっても強いナリ」
キテレツ「如意光も羽うちわも効かないなんて!」
コロ助「何とかするナリ! キテレツの発明品ならきっと大丈夫ナリよ!」
キテレツ「五月ちゃんもカラクリ武者達と一緒にがんばっているんだ。何としてでもここを切り抜けてやる!」
キテレツ「次回、砂漠の城の大熱戦 お前の名は勇気と剣士」
コロ助「絶対見るナリよ♪」
アーハンブラ城で目覚めた夜からさらに二日が経っています。
ベッドから身を起こしていたタバサの横ではみよ子がまだ眠りについていました。
タバサは囚われる前に着ていた魔法学院の制服がここには無く寝巻のままなのですが、みよ子は自分の私服が置いてあったのでそれを着ています。
この部屋からは一歩も外へ出られず、仮にできたとしても杖も無いので鉄騎隊達に抗うこともできません。
たとえあったとしてもエルフのビダーシャルがいる以上は手も足も出ないのです。
結局、何もできることがないタバサはみよ子と一緒にこの牢獄に等しい寝室で静かにキテレツ達の助けを待ち続けるしかありませんでした。
「ママ……」
ふと、みよ子が小さな寝言を呟きだすのをタバサははっきりと耳にします。
まだ眠りについたままのみよ子でしたが、その寝顔は安眠しているとは言えないものでした。
「ママ……」
とても不安そうに、うわ言のように呟くみよ子は今にも泣きだしてしまいそうです。
きっと故郷にいる母親の夢を見ているのでしょう。その母が恋しくなってしまったのかもしれません。
「ミヨコ……」
そんなみよ子の姿を見てしまったタバサは憐みの表情を浮かべていました。
肉親とまともに会えないのはタバサだけではないのです。タバサの母は心が壊れているとはいえ、その姿を直接会って目にすることができます。
しかし、みよ子やキテレツ達は故郷へ帰るまで肉親と話すことはもちろん、会うことも見ることさえできない身なのです。
本当はみんな、今のみよ子のようにすぐにでも故郷で待っている家族と会いたいはずでしょう。トンガリも寝言で母を呼んでいましたし五月も懐かしそうに、そして寂しそうに母のことを話していたのです。
それに比べればまだタバサは母親に会えるだけ良い方と言えるでしょう。
「ごめんなさい……」
横たわっているみよ子の頬にタバサはそっと触れました。
本来ならキテレツ達はもう故郷へ帰る目途がついていたはずなのに、自分のせいでこんな危険な事態に巻き込んでしまったのです。
責任を感じていたタバサはを何としてでもみよ子をこの城から助け出し、キテレツ達と一緒に故郷へ帰してあげなければならないと強く心に決めていました。
ベッドから降りて窓際へ移動したタバサは外を眺めます。
強い日差しが射し込んでくる外では相変わらず鉄騎隊達がアーハンブラ城を厳重に監視を行っているのが昼間なのでよく分かります。
しかもどうやら城内にも鉄騎隊達がうろついているのが扉の外から聞こえる足音で判明していました。
外に見えるだけでも確実に百体以上もの鉄騎隊達が自分達を逃がさないために配備されているのは明らかです。
反面、どうやら衛兵やメイジといった人間は少なくとも外には一人もいないようでした。
これだけの大群をキテレツ達が相手をしようとするとなると、かなり厳しい戦いとなってしまうことでしょう。
無論、キテレツのことなので正面からぶつかるということはしないでしょうが、やはり心配してしまいます。
「これは……」
突然、タバサは片目に違和感を感じていました。左目の視界がぼんやりと歪み始めたのです。
城の外の景色が映っている右目とは異なり、左目には全く違う景色が徐々に映りこもうとしていました。
この現象が何であるかを、メイジであり使い魔を従えているタバサはすぐに理解できました。
◆
アーハンブラ城は砂漠の小高い丘の上に建っており、その麓に広がるオアシスの傍には宿場町が栄えています。
今朝にこの町へ到着していたキテレツ達でしたが、キント雲にずっと乗っていて疲れていたために宿で一休みをしていました。
宿の二階に部屋を取っていたキテレツ達はベッドや椅子に腰を下ろして羽を休めています。
「う~ん。やっぱり見張りの数が多いなあ……」
「ここからでもはっきり分かるわ」
窓から双眼鏡を覗いているキテレツと一緒に五月もは丘の上のアーハンブラ城を眺めていました。
アーハンブラ城はこの宿からも見えますが、その周辺の空域には無数の影が飛び回っているのが分かります。
双眼鏡で倍率を上げてみると、鉄騎隊達の姿がはっきりと確認できるのです。
「キテレツ、あたしにも見せてよ」
隣にやってきたルイズにキテレツは双眼鏡を渡します。
「へぇ、よく見えるわね。この遠眼鏡」
「そのダイヤルを回すと倍率を変えられるよ」
「どれよ?」
「これを回せば良いのよ」
ルイズはキテレツと五月に双眼鏡の使い方をレクチャーされつつ、アーハンブラ城を覗き込んでいました。
「キテレツ、サツキ。こっちへ来て。タバサ達を助ける作戦を立てましょう。ルイズもいい加減にしなさいよ」
「分かったわよ」
椅子に座るギーシュらと共にベッドの上に腰を下ろすキュルケに諌められてルイズは渋々双眼鏡を返しました。
「コロちゃんとシルフィードちゃんはまだ起きないの?」
「怪我もまだ治ってないし、とっても疲れてるみたいだからもう少しこのままにしておきましょう」
ベッドでは毛布に包まっているシルフィードにコロ助が寄りかかってぐっすりと眠っています。
ここまで一番キント雲を操縦する機会が多かったコロ助も、人間の姿に変身しているシルフィードもよほど疲れていたようです。
「あの城にみよちゃん達がいるわけだね? あんなにたくさん見張りがいて、どうやって助け出すのさ?」
「また真っ黒衣でこっそり忍び込むか?」
「いや、それはやめた方がいいね。あれだけの数がいるんじゃ姿を消していてもすぐ見つかっちゃうよ」
別のベッドに座るトンガリの隣でブタゴリラは意気込みますが、キテレツは首を振ります。
「やっぱ共同突破するしかねえなあ」
「強行突破でしょ」
「おお! 君達、良いことを言うじゃないか! うん! 小細工なんてグラモン家の人間がすべきことじゃない! 突撃あるのみ! ってね! それこそが男ってものさ!」
「馬鹿じゃないの? 正面から殴り込みに行ったらこっちが返り討ちでしょうが」
「あのアーハンブラ城にいるガーゴイル達の数は昨日見た時でも確実に百……いえ、三百はいるわ。悪いけど、正面突破は自殺行為ね」
勝手に酔い痴れているギーシュにルイズとキュルケが冷たく言い放ちました。
先日、アーハンブラ城の位置を確認するために蜃気楼鏡で上空からの風景を映し見たのですが、配備されていた鉄騎隊達の数はまさしく大群だったのです。
合わせ鏡の光はそこへ伸びていたのでみよ子達が城にいることは確認できましたが、肝心の救出をどうするかが問題でした。
「なら天狗の羽うちわで全部ふっ飛ばしてやりゃ良いじゃねえか」
「駄目よ、熊田君。いくら何でも多すぎるわ」
「そうよ、カオル。それにあたし達は戦いに来たんじゃないわ。二人を助けに来たのよ。下手にドンパチなんかやったら二人まで巻き添えにしちゃうかもしれないわ。騒ぎが長引いてたら援軍だってくるかもしれないし」
五月とキュルケに諭されてブタゴリラは腕を組んで唸ります。
「キテレツ。潜地球で地中に潜ってこっそり行けば良いんじゃないの?」
「潜地球って、君達が乗っていたあの丸い奴かい?」
ギーシュは以前のフーケ騒動の時のことを思い出しました。
隠密行動には持って来いの潜地球なら鉄騎隊に見つかることも、襲われることもなく安全に二人を助け出せるでしょう。
「それが……実は潜地球の燃料がもうほとんど残ってないんだよ。この間のアルビオンの時にいっぱい動かしたから」
トンガリの出した案にキテレツは困ったように答えました。
新しい燃料は魔法学院のコルベールの研究室へ戻らないと作ることができませんし、第一時間がかかってしまいます。
「何だね? 君達はアルビオンに行ってきたのかね?」
「今はそんなことどうでも良いわ」
目を丸くするギーシュですが、ルイズが軽く話を流しました。
「やっぱり、まずはあのガーゴイル達を何とかしないと」
しかし、いくら考えても良い作戦は浮かんできません。正面突破も駄目、隠密行動も駄目となると手詰まりです。
見張りが人間ならまだ対処はし易かったかもしれませんが、ガーゴイルとなると難しいのです。
「キテレツ君。それならわたしが囮になるわ」
「ええ?」
「何を言い出すのよ、サツキ!」
突然の五月の言葉に全員が愕然としてしまいました。
「わたしがあの鉄騎隊を引き付けるから、その間にキテレツ君達はみよちゃん達を城から連れ出して」
「そんなの駄目だよ! 五月ちゃん! 一人だけなんていくら何でも危なすぎるよ!」
立ち上がったトンガリは五月の腕を掴んで悲鳴のように叫び声をあげます。
「サツキ。トンガリの言う通りよ。いくらキテレツのマジックアイテムがあるからって、多勢に無勢すぎるわ」
「そ、そうだとも! ミス・サツキ! 1:300じゃ話にならない! いくら僕のワルキューレだって七体出すのが精一杯なんだよ。とても三百を相手にするのは……」
ルイズもギーシュもトンガリに賛同していましたが、その言葉を聞いたキテレツは途端に深く考え込みだしました。
「サツキ。陽動は良い案だと思うけど、さすがにあなた一人じゃ……」
「……そうか! それがあったよ! ギーシュさん!」
「へ?」
キュルケも難色を示す中、何かを思いついたらしく歓声をあげるキテレツにギーシュは目を丸くします。
五月達も全員、キテレツを注目しました。
「こっちもあいつらよりもっと多くの囮を用意すれば良いんだ! それでその隙にみよちゃん達を助け出そう!」
「そんなことできるの? キテレツ君」
「どうやってそんなに囮なんて用意するわけ?」
五月とルイズはもちろん、他の四人も興味深そうにキテレツの考えた作戦に期待していました。
きっと持っている発明品を最大限に利用しようとしているのは間違いありません。
「この分身機を使えば良いんだ」
キテレツはケースから取り出した発明品の一つを如意光で大きくし、それを見せます。
手にするのは赤い小さな銃のような物でした。
「何だよ、そりゃあ?」
「オモチャの銃?」
それはブタゴリラもトンガリも初めて目にする発明品でした。
「この分身機から発する光を当てると、光を浴びた物質の原子に揺さぶりをかけて、二つに分けてしまうんだよ」
「ゲ、ゲンシ?」
「原始時代がどうしたってんだ?」
ルイズもギーシュも全く訳が分からず渋い顔をします。
「ゲンシって何なのよ? もう少し分かりやすく説明しなさい」
「簡単に言えば、目に見えないくらいとっても小さな粒なんだ。全ての物質はこの原子の集まりでできていて、僕もみんなもこのテーブルだって一見すると隙間なんて無いように見えるけど、実際は隙間だらけなんだ。潜地球で地面を進めたりするのも、その原子の隙間を通り抜けているからなんだよ」
キテレツの解説に理科の授業をそれなりに聞いていた五月とトンガリ以外は全く意味が分からない、と言いたそうな顔をしていました。
「その原子の集まりをこの分身機で揺さぶると……」
立ち上がったキテレツが自分に分身機の光を当てると……。
「きゃっ!」
「何だあ!?」
全員の目の前で、キテレツからもう一人のキテレツが飛び出てきたのです。
「キ、キテレツが二人に!」
「ブンチンの術って奴か!?」
「すごーい!」
あまりの光景にみんな驚くしかありませんでした。
「こんな感じに、見た目はそっくりなのが出来上がる訳さ」
「ただ、元から一つある原子を半分にするから質量とかも一緒に半分になっちゃうけどね」
「さらに続ければ原子を半分ずつにしてどんどん分身を増やせるんだよ」
二人になったキテレツはそれぞれが個別で喋って説明をします。
ルイズもキュルケも開いた口が塞がりませんでした。
「元には戻れないの?」
「その場合はこうやってくっつけば簡単に……」
二人のキテレツがくっつき合うと、何事も無かったようにキテレツは一人だけになっていました。
「というわけさ」
「う、う~む……要するに、そのマジックアイテムを使えば僕のワルキューレをいっぱい増やせるというのだね?」
苦笑するギーシュは思わず何百ものワルキューレの大軍を想像していました。
「はい。これでギーシュさんのワルキューレを増やせるだけ増やして、それを囮にしましょう」
「よ、よおし! 僕も男だ! 百体でも、三百体でも、ワルキューレを操ってみせようじゃないか! 囮は任せたまえ!」
「決まりね。ガーゴイルは陽動で何とかするとして、もう一つの問題は……」
「エルフね」
張り切るギーシュをよそにキュルケとルイズに次の障害について冷静に切り出します。
二人の表情はとても真剣で、ギーシュもエルフの名を耳にして固まっていました。
あの城にはタバサを打ち負かしてさらっていったエルフがいる可能性が高いのです。
「へっ、長耳野郎なんて出てきた所で返り討ちにしてやらあ。たった一人だけなんだろ?」
「でも、タバサちゃんをやっつけちゃったくらいなんでしょ? 滅茶苦茶強いんじゃないか……」
敵が何であっても恐れないブタゴリラに対してトンガリは不安そうにしていました。
「エルフともしも会ったら、絶対に戦おうなんて考えちゃ駄目だわ。エルフだけじゃない。危ないって感じたらすぐに逃げるのよ。あたし達は二人の友達を助けに来ただけなんだから。あたし達まで捕まったりしたら本末転倒よ」
キュルケの言葉に一行は改めて、自分達がここまでやってきた目的を再度確認します。
決して戦って敵を倒すのではなく、大事な友達を助け出すために砂漠の果てまで遥々やってきたのです。
「きゅい~……何なのね? 気持良く寝てるのに……」
「ふわあああ……」
シルフィードとコロ助は呑気に大きなあくびをしながらようやく起き出していました。
◆
夕方になり日はかなり傾いてきますが、砂漠となるとまだまだ暑いままです。
アーハンブラ城に囚われの身となった二人にはアルヴィーが食事や水を持ってきてくれましたが、下手をしたら何か毒が入れられているのかと思いタバサは食べる気にはなれません。
「……大丈夫みたい。食べて」
「うん」
それでもタバサは食事のパンとシチューを一口してみよ子に奨めます。
みよ子を飢えて衰弱させるわけにもいかないため、毒見をしてでもこの食事を口にするしか無かったのです。
幸い、今の所は毒は何も入っていませんでした。
「キテレツ君達、早く助けに来ないかしら……本当にここまで来てるの?」
パンを口にするみよ子にタバサは小さく頷きます。
数時間前、タバサは自分の目に映った風景からキテレツ達がもうこのアーハンブラ城の麓までやってきていることを悟ったのです。
使い魔のシルフィードと感覚を共有したおかげで、シルフィードの視界がタバサも見ることができたのでした。
キテレツ達や、窓の外のアーハンブラ城をシルフィードが目にしていた風景をタバサも見たのです。
「でも本当に良かった……キテレツ君達がちゃんとここまで来てくれて……」
信じている友達が地の果ての砂漠にまでやってきて自分達を助けようとしてくれる事実に、みよ子は安心した様子で顔を綻ばせていました。
今はキテレツ達だけが頼りであるため、いつ助けにきてくれるのかを期待してしまいます。
「もうすぐ近くに来てるのに何をしてるのかしら?」
救出が待ち遠しいみよ子はどうしてキテレツ達が城にまだ乗り込むなど行動を起こさないのかが気がかりでした。
「何か作戦を考えてると思う」
「作戦?」
「見張りはこんなにいる」
冷静にタバサは窓の外を指します。その外では相変わらず鉄騎隊達が厳重に警戒を行っていました。
みよ子もタバサもキテレツが一体、どんな作戦で自分達を助けようとしているのか想像してみます。
「潜地球で助けに来るのかしら?」
「それだったらとっくに来てる。別の方法」
タバサとしてはそれで来てくれるのが一番最良だと考えていましたが、潜地球が故障でもしているのかキテレツは使おうとしないことを悟っていました。
他に考えられるのは姿を消す真っ黒衣を着てこっそり城に忍びこむことですが、鉄騎隊達をどこまで誤魔化せるか分かりません。
どんな手段にせよ、キテレツ達の身に危険が及ぶような無謀なことだけはして欲しくないと願います。
ましてや、あのエルフと戦うことだけは絶対に避けて欲しいのでした。如何にキテレツ達であってもエルフを相手にするのは危険すぎるのですから。
「どうしたの? タバサちゃん」
タバサはふと立ち上がると、弾かれるように窓の方へ近づいて行きました。
何かに感づいたらしく、窓の外を食い入るように見つめるタバサの横にみよ子もやってくると一緒に外を眺めます。
窓の近くへ来た時には、外がやけに騒がしくなっていることに気づきました。
「どうしたのかしら?」
窓の外ではバルコニーや魚型ガーゴイルに乗って警備に就いていたはずの鉄騎隊達が慌ただしく動き回っていました。
この部屋からは見えませんが、次々に中庭の方へ降りて行っています。
「タバサちゃん、あれは!?」
飛行する騎乗の鉄騎隊達に向かって次々と飛び掛かる青銅の甲冑を着込んだ騎士達の姿がそこにはありました。
手にしている槍を鉄騎隊達の振り回す槍と交錯させて激しく打ち合っているのです。
突然の城の襲撃に二人は唖然としてしまいますが、その襲撃者の騎士達には見覚えがありました。
「……ワルキューレ」
「ワルキューレって、ギーシュさんの!?」
みよ子もタバサも、あの騎士達が魔法学院のギーシュが操る青銅のゴーレム・ワルキューレであると即座に理解します。
「ギーシュさんのゴーレムがここにいるってことは……」
「キテレツ達が動き出した」
まさかギーシュがキテレツ達に同行していたのは予想外でしたが、キテレツ達が隠密な作戦を選ばなかったことにタバサは唇を噛み締めました。
強行突破でもするつもりかは知りませんが、恐らくキテレツやキュルケ達も中庭で鉄騎隊を相手にしていることは間違いありません。
見た所、ギーシュが呼び出せる以上のワルキューレの軍団で戦力を増したようですが、鉄騎隊が相手では戦闘力が違いすぎます。
事実、鉄騎隊達の槍から放たれる稲妻がワルキューレ達を次々に砕いていってしまっているのです。
キテレツのマジックアイテムを駆使してもどこまで持ち堪えられるか分からず、タバサは緊張していました。
「あっ……」
ふと、ワルキューレ達と一緒に宙へ飛び上がってきた人影が二人の視界に入ってきました。
その人影は頭上に天使の輪を浮かべ、襲ってくる鉄騎隊達の槍から放たれた稲妻をひらりと器用に宙返りをしてかわしたのです。
「……サツキ」
「五月ちゃん!?」
眩い光を放つ電磁刀を逆手に、鉄騎隊達が持っていたのと同じ槍を手にして優雅に飛び回る五月の姿がそこにはあったのです。
二人が見たかった大切な友達の一人の姿をはっきりと目にして驚き、同時に嬉しさが湧き上がっていました。