コロ助「シエスタちゃんの田舎からまた美味しいものが送られてきたナリ。今度はとっても甘いハチミツナリよ~」
キテレツ「タルブっていう村がシエスタちゃんの故郷なんだよ」
コロ助「コロッケやおまんじゅうも名物になってるなんて不思議な所ナリ」
キテレツ「それだけじゃないよ? 竜の羽衣っていう珍しい物がいっぱい置いてあるんだってさ」
コロ助「何にも書いてない本があったナリ。これは……もしかして~?」
キテレツ「次回、シエスタちゃん里帰り タルブ村の不思議な秘密」
コロ助「絶対見るナリよ♪」
数日前の革命戦争を制したことでレコン・キスタはアルビオンの王家に成り代わり、神聖アルビオン共和国として樹立されたばかりです。
レコン・キスタの司令官であり、新政府の初代皇帝となったクロムウェルは今、アルビオンの首都ロンディニウムのハヴィランド宮殿の執務室で頭を抱えて震えていました。
「私の……私のアンドバリの指輪が……あれが無ければ私は……私は……」
机に突っ伏すその姿は一国の主とは思えないほど弱々しいものでした。
ちょうど旧政府との革命戦争が終わった日、ロンディニウムに侵入したトリステインからのスパイ、キテレツ達によってアンドバリの指輪は奪い返されてしまったのです。
これまで指輪の力を虚無の魔法と偽ることで革命に加わった貴族達の信頼を得てきたのですが、その指輪がもう無い以上、かつてのように威光を示すこともできません。
「ミス……! ミス・シェフィールド……! どうすればよろしいのです!? あの指輪の力が無ければ私はただの人間に過ぎませぬ! もしも他の者達に私が魔法も使えぬただの司教でしかないと知られればあっさりと見限られる……! どうすればよろしいのか、私には分かりませぬ……!」
拠り所を失って恐怖に怯えるクロムウェルは窓際で腕を組んで外を眺めている秘書のシェフィールドに泣きつきました。
シェフィールドは明らかに不機嫌な顔を浮かべていますが、クロムウェルの方を振り向きもしません。
「クロムウェル。あなたは今やこの神聖アルビオンの皇帝よ。人前でそのような惨めな姿を見せてはなおさら誰も皇帝とは認めないわ」
それでも落ち着き払った声で子供をあやすようにそう言いました。
「あなたはどうあれ、指輪の力を虚無として多くの兵達に示していることに変わりないわ。そして、虚無の系統は歴史の彼方に消えた神聖な魔法……ならば滅多に使うようなものでもないのよ。他の連中にはそう言っておけば良いわ」
「は……はあ……」
「あなたが皇帝としてアルビオンのトップに立った以上、その威光によって信じさせることも充分可能だわ。ならば皇帝らしく振舞いなさい」
「はい……分かりました……」
クロムウェルは床に頭を擦り付けます。これでは秘書のシェフィールドの方が主に見えてしまいますが、実際にそうなのです。
皇帝とは言ってもクロウウェルは所詮、シェフィールドの傀儡に過ぎません。数年前にアルビオンの革命戦争を最初に起こした時も彼女がクロムウェルを革命のリーダーに仕立てあげたのでした。
様々な作戦も彼女がクロムウェルに命令を下して実行させていたのです。
「とにかく、トリステインとゲルマニアは昨日軍事同盟を締結したわ。私達も新政府樹立の公布と共に不可侵条約の締結を打診するのよ」
「ふ、不可侵条約ですと? そういえばウェールズ皇太子は取り逃がした上にアンリエッタ王女の手紙は結局回収できず、同盟を阻止することはできませんでしたが……よろしいのですか?」
「向こうはいくら軍事同盟を結んでもアルビオンの空軍力には対抗しきれない。その点は心配ないわ。それに、この不可侵条約は願ってもない協定のはずよ」
先日、アルビオン大陸を完全包囲して封鎖することでアンドバリの指輪を奪ったキテレツとウェールズ皇太子、そしてアンリエッタ王女の手紙を持つトリステインの使者を捕まえようとしましたが、逃げ切られてしまいました。
キテレツ達を待ち伏せしていたワルド子爵と竜騎士達の乗っていた軍艦は撃沈され、土くれのフーケが辛うじて逃げ延びてきたのです。
恐らく、ワルドは軍艦と運命を共にして海の藻屑となったのでしょう。
「司教。外交にはやり方があるの。連中には今は暖かいスープとパンを与えてやれば良いのよ。杖はまだ必要ない。あなたは今は皇帝としての役目をしっかり果たしなさい」
シェフィールドは未だ怯えた犬のように縋りつこうとするクロムウェルにそう告げると執務室を後にしました。
その顰めた表情はまだ悔しさと不快で彩られています。
(忌々しい……キテレツめ……)
先日、宮殿に侵入してきたキテレツのマジックアイテムの力を思い知らされた挙句に包囲網までも突破されてしまったことはシェフィールドにとってこの上ない屈辱です。
見たことも聞いたこともないマジックアイテムの数々を駆使するキテレツ達の行動は予測ができず、結果としてアンドバリの指輪は奪われて脱出まで許してしまったのですから。
(オルレアンの娘が関わっていたとすれば、彼女に水の精霊の討伐を任せるべきかしら。キテレツのマジックアイテムも回収させて……)
屈辱を晴らすためにもシェフィールドは次なる策謀を考えていました。未知のマジックアイテムを本国に持ち帰り、解析すればその技術を物にすることができるかもしれないのです。
(ミューズ。余のミューズよ)
廊下を歩きながら思考を巡らせていたシェフィールドの頭の中で突然、声が響きました。
「ジョゼフ様……!」
その声が聞こえた途端、シェフィールドはまるで少女のように顔を輝かせます。
いきなり声を出してしまったので口をつぐみ、周りに誰もいないことを確認すると、急いで人気のない城のバルコニーへと移動しました。
「ジョゼフ様……あなた様のお声が聞けて嬉しゅうございますわ」
(うむ。余もしばらくぶりにお前の声が聞きたくなってな。……さて、そちらで起きたことは余も理解している。アンドバリの指輪を取り返されてしまったそうだな)
遠く離れた場所にいる主の声にうっとりとしていたシェフィールドですが、その言葉を聞いて表情を曇らせます。
主の使い魔であるシェフィールドの視界などを共有することができるので、報告をしなくても全て知っているのでした。
「申し訳ございません、ジョゼフ様……神の頭脳たる私ともあろう者がこのような醜態を……。今すぐにでもジョゼフ様の元へ戻り、如何様の罰も謹んでお受けします……」
(良い。良いのだ、余のミューズよ。そのような些細な失敗など気にすることはないのだ。それよりも面白い物を見つけたそうではないか)
シェフィールドの失態や謝罪など気にすることもなく、飄々と言葉を続けています。
(キテレツとか言ったな? その少年達は見た所、ハルケギニアの人間ではないようだ。お前の故郷のロバ・アル・カリイエの出身か? 同じ髪色をしていたが……)
「いえ……我が故郷でもあのような出で立ちの者は見たことがありませぬ。おまけに我が頭脳を持ってしても理解できぬマジックアイテムを使いこなすなど、いくら我が故郷の技術でも不可能でございます……」
(ほう……お前でも無理なのか。そのキテレツとやらのマジックアイテムの一部をお前は手中に収めているそうだな)
ワルドが回収し、土くれのフーケが持ち帰った天狗の抜け穴というマジックアイテムはシェフィールドの力を持ってしても解析することはできませんでした。
厳密にはあれはマジックアイテムでは無いようですが、瞬間移動が行えるという効果は判明しています。
(お前でも分からぬ未知のマジックアイテムとやら、ぜひ余も見てみたいものだ。今すぐにでも我が元へ戻れるか?)
「ジョゼフ様のご命令とあらばいつでも……しかし、このアルビオンでの計画はどうなさいます?」
自分がいなければクロムウェルは何もできないことは分かっています。今後の謀略を進めるためにもレコン・キスタは必要な存在でした。
(何、そちらの連中はスキルニルにでも相手をさせていれば良いだろう。お前はすぐ余の元へ戻ってくるのだ。やはり、直接ミューズの声で土産話を聞きたいものだからな)
「御意に……!」
シェフィールドとしてはこんな空の上の片田舎で操り人形をあやすなど退屈でしかありませんが、敬愛する主の願いであればクロムウェルなど放り捨ててでも戻りたいと思っていました。
◆
キテレツ達がアルビオンでの冒険を終えてから既に一週間が経っていました。
今は昼休みで、生徒達は中庭で魔法を使ったボール遊びや友人とお茶を飲んだりして楽しんでいました。
「おら! キテレツ! 行ったぞ!」
「う……うん……!」
ヴェストリ広場の一角でキテレツ達一行もボール遊びを楽しんでいます。その内容はバレーボールでした。
「今度は落とすんじゃないわよ、キテレツ!」
ルイズとキュルケの二人も加わった八人の輪の空中に浮かび上がったボールはキテレツ目掛けて落下していきます。
ちなみにタバサは遊びの輪には加わっておらずにその外で突っ立ったまま本を読んでいました。
「あ、あわわわ……!」
キテレツはルイズに釘を刺されておたつきながら顔を庇うように両手を頭上で構えました。
キテレツの腕にぶつかって低くバウンドしたボールはすぐ左側にいるコロ助の方へ不安定な軌道で飛んでいきます。
しかし、このままでは届かずに地面に落ちてしまうでしょう。
「とりゃーっ!」
コロ助は素早く駆け込むと地面にボールがぶつかる直前に飛び込み、上手くレシーブをします。
高く上がったボールはキュルケの方へ飛んでいきました。
「そおれっ!」
「えいっ!」
キュルケとみよ子は綺麗なトスでさらに高くボールをふわりと舞い上がらせます。
「行くよっ! 五月ちゃん!」
「うん! それっ!」
トンガリと五月がレシーブでしっかり受け止めパスをし合い、ブタゴリラの方へボールを飛ばしていきます。
「よっしゃ! ほらよ!」
「キテレツ! もう一回行くわよ! しっかり受け止めなさい!」
ブタゴリラがトスをしたボールをルイズがレシーブでキテレツ目掛けて飛ばしました。
「何で僕ばかり……! あいたっ!」
慌ててレシーブで受け止めようとするものの、ボールの軌道を読むことができずに顔面へ激突してしまいました。
眼鏡が衝撃で外れ、キテレツは倒れてしまいます。
「大丈夫!? キテレツ君!」
「ケガはない?」
みよ子と五月がキテレツに駆け寄り、その身を気遣いました。
「う、うん……大丈夫……」
キテレツは顔を押さえつつもみよ子から眼鏡を受け取ってかけ直します。
「タバサ。今度は何回続いた?」
「27回。最高記録」
キュルケは外野のタバサに声をかけると、淡々とした答えが返ってきました。
タバサはボールの音でどれだけパスが続いたかを記録していたのです。
「それにしてもあんたって本当にどん臭いのね……」
ルイズはキテレツを見下ろすと、呆れたように声を上げます。
今まで様々な発明を駆使してきた頼りがいのある姿とはあまりにも正反対な無様さにはギャップを感じてしまいます。
「キテレツは運動が苦手ナリからね~」
「発明の天才の唯一のフォークポイントって奴さ」
「ウィークポイント。おかげでいつも運動会じゃ僕達は良い成績を残せないんだよね……」
「放っておいてよ。どうせ僕は運動音痴なんだから」
コロ助ら三人から口々にそう口酸っぱく言われてキテレツは拗ねてしまいます。
発明家を志すキテレツは学校では秀才と呼ばれ、苦手科目はあるものの勉強はできる方でした。特に算数や理科などは大得意なのです。
そんなキテレツが最も苦手とするのが体育で、運動神経が鈍いキテレツはいつも体力テストなどでも良い成績は残すことができません。
「二人とも。そんなことを言っちゃ駄目よ。キテレツ君だってがんばってるんだから」
「熊田君やトンガリ君達もこういう時に、ちゃんとフォローをしてあげないといけないのよ。自分達だけキテレツ君より運動ができるからって良い気になるなんてそんなの良くないわ」
馬鹿にされるキテレツをみよ子と五月は庇います。
キテレツ達に混じってルイズ達がバレーボールをしていたのは、ルイズが魔法のボール遊びができないのを見て切なそうにしていたのを見た五月達がボールを一つ拝借し、ルイズに自分達の世界のボール遊びを教えてあげることにしたのがきっかけでした。
バレーボールのコツを掴んだルイズはすっかり遊びに慣れていましたが、運動神経の鈍いキテレツは何度もパスに失敗したりするおかげであまり長く続きませんでした。
それでもキテレツはバレーボールを嫌がったりしていたわけではなく、自主的に参加したのです。
「そうよ。ここの生徒だって魔法はできるけど座学の方はからっきしって連中だって多いし、その逆だってあるのよ。ね? ルイズ」
したり顔のキュルケに見つめられてルイズは複雑な顔を浮かべます。
人それぞれに得意・不得意がある以上、一方的に責めたり馬鹿にすることはできません。ましてやルイズは魔法が苦手という致命的な欠点があるのです。
「ま、とにかくあんた達のバレーボールっていうのは中々楽しめたわね」
「結構体を動かすから、汗をかいちゃいそうね。食後にはちょうど良いかもしれないわ」
髪をかきあげるキュルケもバレーボールがすっかり気に入ったようです。
あまり激しく体を動かすのが好きではないキュルケもこんなに気持ち良く感じられるのは新鮮でした。
「バットとグローブがありゃあ野球もできんだけどなあ」
ブタゴリラは少し物足りなさそうな様子で呟きました。
「これくらい広ければ野球とかサッカーをやるには充分すぎるよね」
「大会が開けるナリよ」
「ヤキュウ? サッカー? それもあんた達の故郷の球技?」
広場を眺めるトンガリとコロ助にルイズが食いつきます。
「うん。タバサちゃんが持ってる杖みたいな物を使って投げたボールを打つの。熊田君は野球がとても上手いのよ。熊田君の投げるボールはわたしでも全然打てないんだから」
五月は以前にブタゴリラ達と野球の試合で遊んだことがありましたが、ブタゴリラの野球のセンスは五月も認めるほど見事なものでした。
ピッチャーだったブタゴリラの変化球には五月も見切ることが難しく、ストライクばかりだったのです。
「でも、五月ちゃんだってとっても速いボールが投げられるじゃない」
「うん。あれはプロ野球選手並みだったよ」
「とってもかっこよかったよ、五月ちゃん」
みよ子とキテレツ、トンガリは五月の野球の実力を絶賛します
五月も五月で、名バッターのブタゴリラがまともに打てない豪速球を投げてみせたのでした。
「あんた達、本当に楽しくやってたのね。サツキとカオルはそのヤキュウって球技じゃエースだったわけ」
「まあな!」
どこか怪訝そうな顔で感心するルイズにブタゴリラは胸を張ります。
「そういえばあんたって、マリコルヌみたいな体してるのに案外体力あるのね」
「そいつって、野菜を残しまくるあのデブのことか? あんな運動不足のモヤシみたいな奴と一緒にすんなよな」
「この学校って体育みたいに運動とかはしないんだね」
ブタゴリラはボールを足元に弾ませる中、トンガリは周りの生徒達を見回しました。
「魔法学院なんだからそういうのは基本やらないわよ」
将来は騎士になるなどの夢を抱く一部の男子生徒が自主的に軽いトレーニングをしているくらいです。
「でもタバサちゃんやキュルケさんはとっても運動神経が良いナリよ」
「あら、ありがとうコロちゃん。あたしの家は代々軍人の家系だからね。女も戦に出られるように、軽くトレーニングはしてるのよ」
「タバサちゃんもすごかったわよね。やっぱりキュルケさんみたいに何かやってるの?」
五月はアルビオンのハヴィランド宮殿で一緒に大勢の兵士達を蹴散らした時のことを思い出しました。
小さい体ながらタバサも五月に負けない運動神経を発揮していたのです。
「別に」
五月の問いかけにタバサは素っ気無くぽつりと答えます。
「キテレツも発明ばっかりやってるから運動不足になるナリよ。たまにはちゃんと外で遊んで運動するナリ」
「大きなお世話だよ」
コロ助に言われてキテレツは不機嫌になってそっぽを向いてしまいました。
「ミス・ヴァリエール! デザートのご用意ができました! キテレツ君達もこっちへどうぞ!」
そこへ、少し離れた位置のテーブルからメイドのシエスタが大声で呼びかけてきました。
キテレツ達とルイズらはシエスタの元へと向かい、テーブルに用意されたブドウのジュースを口にします
「やっぱり体を動かした後の一杯は、美味いな。シエスタちゃん、もう一杯おかわり頼むぜ」
「はいはい。まだあるからたくさん飲んでね」
ジュースを一気に飲み干したブタゴリラにシエスタは微笑ましそうにしていました。
「こちらのデザートはこのハチミツを塗ってお召し上がりください」
「ありがとう。いただくわ」
テーブルにはジュースの他にも切り分けられた小さなケーキが皿に乗っており、ハチミツが入った小皿も用意されています。
ルイズ達はスプーンでハチミツをすくい、少量をケーキに垂らしてから口にしました。
「甘くて美味しいナリ~」
「本当。ハチミツが効いててとっても甘いわ」
みよ子達はデザートのケーキにとても満悦していました。
「これってタルブのハチミツね? やっぱりトリステイン五指に入る名産なだけはあるわね」
「何だよ? 樽がどうしたんだって?」
「タルブっていうのはこのトリステインの土地の名前よ。ラ・ロシェールからもう少し西に行った先にあるわ」
ボケるブタゴリラにルイズは説明しました。
ルイズは過去にその土地で産出されているハチミツを味わったことがあったのです。
「これは今日、タルブの実家から届いたハチミツなのよ。カオル君」
「へえ~、そうなんだ。シエスタちゃんの田舎からね」
「シエスタちゃんは田舎から色々な物が送られてくるナリね。この間のおまんじゅうも美味しかったナリ」
「何よ。あんたタルブの出身なの?」
「はい」
トンガリとコロ助が頷く中、ルイズがシエスタに尋ねました。
「このハチミツ、熊田君の持ってるハチミツと同じ味だわ」
「本当ね。カオルの物と同じじゃない。何か似てると思ったけど」
ケーキを味わう五月とキュルケはふとハチミツの味について気付きました。
ブタゴリラが持参しているハチミツとこのハチミツはとてもよく似ている、というより同じ味だったのです。
「まあ。カオル君もわたしの村のハチミツを持ってるの?」
「いやあ、俺のは自分の家から持ってきた奴なんだけどさ。俺の伯父さんが伊豆でハチミツを作っててさ」
「あらまあ、そうなの? タルブの村には養蜂場があって、今の時季に新鮮なハチミツが取れるのよ。それを送ってもらったんだけど……」
「でも伯父さんの奴と全く同じだな。どうしてだ?」
「そりゃ偶然でしょ?」
ブタゴリラの疑問にトンガリはきっぱりと言い切りました。食べ物の味が似ていたり、同じであることはよくあることです。
「ねえシエスタさん。一つ聞きたいんだけど、この間僕達がアルビオンへ出発した日にコロ助に渡したお菓子もシエスタさんの田舎のものなんだよね?」
「マンジュのことかしら? そうよ。わたしの村に古くから伝わっている薬膳の食べ物なの。寒い時に食べると体がとっても温まるし、疲れていても元気をつけられるのよ」
ふとキテレツはシエスタに尋ねると、以前にアルビオンで食したまんじゅうについて説明されます。
「何よ、そのマンジュって?」
「ああ、アルビオンでコロちゃんが持ってきていたお菓子ね。あれは美味しかったわね~。キテレツ達の国でも作られてるお菓子なんでしょう?」
ルイズが首を傾げる中、まんじゅうを食べたことがあるキュルケがしたり顔で声を上げます。
「まあ、マンジュがキテレツ君達の国でも食べられているの? コロッケと言い、偶然ばかりね」
「本当に偶然なのかな……」
「キテレツ君、どうしたの?」
キテレツが腕を組んで妙に深刻な顔をしているのを見て、みよ子も五月も呆気に取られます。
ただのまんじゅうに対してキテレツは何か思うことでもあるのを不思議に感じていました。
「もしかして、シエスタさんの村に不思議な道具とかがあったりしないですか? 僕の持っているような……」
「う~ん……空を飛んだり、姿が消えたりとか、そういうマジックアイテムは無いけど……昔から伝わっている便利な道具だったら村にあるはずよ」
「どうしたんだよキテレツ?」
「何か気になることでもあるのかい?」
真剣に話を聞いているキテレツにブタゴリラ達も目を丸くしていました。
「そうだわ。今度、キテレツ君達をわたしの村に招待するわ。もうすぐアンリエッタ姫殿下がご結婚するでしょう? それでわたし達給仕にも暇がもらえることになっているから、帰郷しようと思っていた所なのよ。遠慮なく遊びに来て。コロッケやマンジュもいっぱい食べさせてあげるわ」
「まことナリか!? ワガハイ、ぜひ遊びに行きたいナリよ!」
ポン、と手を叩いてシエスタは笑顔でそう一行に提案しました。コロ助は大好物のコロッケが食べられると知って即賛成します。
「……うん! 絶対に行くよ。その時には、その便利な道具っていうのを見せてもらえますか?」
「ええ。良いわ。キテレツ君のあの空飛ぶ雲を見たら、きっと村のみんなはびっくりするでしょうね」
キテレツも思い立ったようにはっきりと頷き、さらにシエスタに求めました。
「一体どうしたのかしら? キテレツ君ったら……」
「何か気になることでもあるのかしらね?」
五月とみよ子はどうしてキテレツがここまでシエスタに強い興味を抱いているのかが不思議でなりませんでした。
コロ助のようにただ遊びに行く、という軽い気持ちではないことは間違いないようです。
「……何か面白いことがありそうね。あたし達も付き合わせてもらうわ」
「タルブのハチミツか……ちい姉さまへのお土産に少しもらっておこうかしらね」
ルイズ達もそれぞれの思惑を持って、シエスタの故郷へ行くことを決意しました。