キテレツ大百科 ハルケギニア旅行記   作:月に吠えるもの

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♪ お料理行進曲(間奏)



コロ助「やっと学校に帰ってこれたナリ~。もう疲れたナリよ~。シエスタちゃんのコロッケを早く食べたいナリ~」

キテレツ「みんなだって疲れてるんだよ。ルイズちゃん達も五月ちゃん達と一緒にお風呂に入るって言ってるんだから」

コロ助「ルイズちゃんもワガハイ達のお風呂を気に入ってくれたナリね。ワガハイ達もゆっくり温まるナリ!」

キテレツ「おっと! 僕達が入るのはまだ後だよ」

キテレツ「次回、ハダカの思い出? ルイズ、はじめての露天風呂」

コロ助「絶対見るナリよ♪」


ハダカの思い出? ルイズ、はじめての露天風呂

キテレツ達は夕方になって、やっと魔法学院に戻ってきました。

数日ぶりに帰ってきた魔法学院は相変わらず平和で、キテレツ達やルイズの冒険なんて知るはずもありません。

 

「おお、キテレツ君! 今戻ったのかね?」

 

中庭に着陸した一行を暖かく迎えてくれたのは教師のコルベールでした。

 

「ミスタ・コルベール」

「ただいま戻りました、先生」

「ミス・ヴァリエールも一緒なのか。学院長から聞いたが、君もアルビオンへ行ってきたそうだね。みんな無事で何よりだよ」

 

コルベールは全員の顔を見回して嬉しそうに笑顔を浮かべます。

 

「あんな物騒な所なんて二度と行きたくないや……」

「久しぶりに風呂に入ってゆっくりできるぜ。おい、トンガリ! 風呂沸かすの手伝え!」

「わあっ! 僕じゃなくても良いじゃないかー! いだだだっ!」

 

帰ってきてもなお張り切るブタゴリラは疲れたトンガリの首根っこを掴んで引きずって行ってしまいました。

トンガリがぎゃあぎゃあ喚き続けるのをキテレツ達は見届けます。

 

「お風呂かあ……そういえば何日も入ってないよね」

「あたしもちゃんと汗を流したいわ……」

 

キント雲から降りながら五月とみよ子は呟きました。

アルビオンへ出発してから実に三日間もの間、シャワーは当然で風呂にも入ることができなかったので女の子の二人には限界でした。

 

「ふうん。それじゃあこの間みたいにあたし達も一緒に入らせてもらおうかしら? ね? タバサ」

 

シルフィードから降りるキュルケはタバサの肩に手を置きます。タバサも賛成したようで小さく頷きました。

 

「ルイズちゃんも一緒にどう? 熊田君が作ったお風呂なんだけど、気持ち良いわよ」

「あいつが作ったですって? 何か信用ならないわね……」

 

五月の誘いにルイズは渋い顔を浮かべます。

 

「ま、ルイズが学院の浴場を使うって言うならそれで良いけどね。あたしは今回はサツキ達のお風呂に入らせてもらうわ。ねえ?」

「は、はあ……」

 

艶やかな笑みを浮かべて顔を寄せてくるキュルケに五月は苦笑しました。

 

「先生もワガハイ達と一緒に入るナリか?」

「う~ん。そうだなあ。君達の国の風呂に入ってみるのも一興かもしれんなあ。なら、お言葉に甘えてご一緒させてもらおう」

 

コロ助からの誘いにコルベールは快く頷いてくれました。

 

「ところでキテレツ君。水の精霊が盗まれた指輪は見つかったのかね?」

 

一行が中庭を歩く中、コルベールは尋ねます。

 

「はい。何とか取り返すことができました」

「さっき精霊さんに返しに行ってきた所なんです」

「水の精霊の涙のおまけ付きですけどね」

 

みよ子に続いてキュルケが述べると、コルベールは驚いた顔を浮かべました。

 

「水の精霊の涙? あの秘薬をかね。お礼としてくれたというのか」

「まさかもらえるなんて思わなかったんですけど……」

「キテレツ。先生にも見せてあげるナリよ」

 

コロ助に促されてキテレツはリュックの中から精霊の涙が入った小瓶を取り出しました。

 

「ふうむ。闇屋で取り扱っているのは聞いていたが、実物を見るのは初めてだな……」

 

顔を近づけて小瓶をまじまじと見つめるコルベールは興味津々な様子です。

 

「そういえばその闇屋の人達ってどうやって精霊の涙を手に入れているの? これって精霊さんの体の一部なんでしょう?」

「さあね。想像するだけでもおっかないわ。命知らずも良い所よ……」

 

五月の疑問にルイズは呆れたようにため息をつきました。

大方、水の精霊の住処まで風の魔法で潜って攻撃を行い、それで体の一部を無理矢理回収しているのでしょう。失敗すれば命はまず無いため、まさに命がけです。

 

「とにかく指輪は取り返したし、これで水の精霊も大人しくなるな。一件落着というわけだ。しかし、こちらは少し問題があってね……」

「何かあったんですか? 先生」

 

頭を掻いて困った顔をするコルベールにキテレツ達は神妙な表情をしました。

キテレツ達の留守中に何か魔法学院でトラブルが起きたのかもしれません。

 

「ああ。君達がアルビオンへ出発してすぐのことなんだが、トリスタニアの使いから報せが来てね。チェルノボーグの牢獄から、この間捕まえた土くれのフーケが脱獄をしたそうなんだ。城下にアルビオンの反乱軍の手先がいるらしくてね。そいつが手引きをしたらしい……」

 

深刻な顔をして語るコルベールですが、キテレツ達は平然とした顔を変えません。

 

「あのー、先生?」

「もう知ってるんですけど……」

 

申し訳なさそうにキテレツとみよ子は声をかけました。

 

「何? 知ってるとな?」

「わたし達、アルビオンでフーケに会ってきたんです」

「それにアルビオンのレコン・キスタのスパイにだって会って来ましたわ」

 

五月とキュルケの言葉にコルベールは目を丸くします。

 

「スパイだって?」

「ワルド子爵が敵のスパイだったんです……」

 

「何と……まさか魔法衛士隊の隊長が……」

「残念ですが事実ですわ。このトリステインにレコン・キスタの手先がいることは確かです」

 

さらに驚いた顔のコルベールにルイズはため息をつきながら告げました。

 

「まあワルドもフーケも、カオルがキテレツのマジックアイテムで吹っ飛ばしてしまいましたけどね」

「その様子だと、君達はレコン・キスタと一戦を交えたのだね。大方、指輪を盗んだのもそいつらというわけかね?」

 

キュルケの言葉にコルベールは頷き、鋭い推測を述べていました。

 

「はい。指輪を戦争で悪用していたみたいで……」

「でも、もう取り返しちゃったから悪いことには使われないわ」

「精霊さんが大事に持ってるからもう大丈夫ナリよ」

「うん。また盗もうとしてもそう簡単には盗られないわ」

「まあ……それでも君達が無事で本当に良かったよ。長旅で疲れただろうから、今日はゆっくり休みなさい」

 

キテレツ達の言葉にコルベールは安心した様子で一行を労います。

一行はそうして話し歩いているうちにヴェストリ広場までやってきていました。

 

「おお! キテレツ君達ではないか! よくぞ戻った!」

 

すると突然、頭上から誰かのはしゃぐような声が響き渡ります。

何事かと足を止めて上を見上げてみればそこにいたのは……。

 

「オールド・オスマン!」

「学院長先生!?」

 

キテレツ達の頭上ではコルベールが複製した超鈍速ジェット機が遊弋していました。

それを操縦しているのは魔法学院の長であるはずのオスマンです。

 

「何で超鈍速ジェット機に乗ってるナリか?」

「コルベール君が複製したというキテレツ君のマジックアイテムがちと気になっての!」

「学院長、勝手に整備中のものをまた弄って! まだ懲りないんですか!?」

「がっはっはっはっ! どうじゃ! コルベール君! ワシの操縦テクニックは! 中々に上達したじゃろう!」

 

オスマンは操縦レバーを操りながらヴェストリ広場の上空をぐるぐると飛び回っていました。

キテレツ達の留守中、オスマンはコルベールが超鈍速ジェット機の飛行実験を行っているのを暇潰しに見学に来ていましたが、コルベールの目を盗んでは度々勝手に操縦をしていたのです。

 

「学院長! そんな無茶なことをしてはまた落ちますぞ!」

 

機体を大きく傾けたりとかなり荒い操縦をしているオスマンにコルベールは叫びかけますが……。

 

「ぬっ!? おおおおおっ!?」

「あっ! 危ないわ!」

 

ベルトも無いのでオスマンはバランスを崩し、シートから滑り落ちそうになっていました。

 

「学院長先生! レバーを前に倒してください!」

「ま、ま、ま、ま、待てい! だあああ! その前に落ちてしまうわい! 助けてくれい!」

 

キテレツが慌てて指示を出しますが、オスマンはレバーとシートにしがみ付いたままもがいています。

制御を失った超鈍速ジェット機は同じ場所をぐるぐる回り続けていました。いつ落ちてもおかしくありません。

 

「レビテーション」

 

見かねたコルベールが杖を振ると、超鈍速ジェット機はゆっくりと地上に向かって降下していきます。

 

「大丈夫ですか!? 学院長先生!」

 

不時着した超鈍速ジェット機から転げ落ちたオスマンにキテレツ達は駆け寄りました。

 

「ホホホ……君のマジックアイテムとやらは扱いが難しいもんじゃな……痛たたた……」

 

オスマンはよろよろと起き上がって照れた笑みを浮かべました。

一行は醜態を晒したオスマンを見つめてため息をつきます。

 

「何やってんだよ、あのじいさん」

「いい歳してはしゃぎすぎ……」

 

風呂釜の大鍋を転がしていたブタゴリラとトンガリもその一部始終を遠くから目にして呆れ果てていました。

 

 

 

 

夜になり、キテレツ達が夕食を食べ終えた頃にはブタゴリラ手製の五右衛門風呂は湯がしっかりと沸き立っていました。

最初は女子陣が入ることになり、脱衣所代わりの衝立の裏でみよ子と五月は服を脱いでいる途中です。

 

「ハアイ、お待たせ。二人とも」

 

そこへキュルケにタバサ、ルイズの三人が現れました。それぞれ手にはタオルを持っており、入浴の準備は万全のようです。

 

「これがサツキ達の国の風呂なの? かなり小さいわね。しかもただの鍋じゃない。あんた達って鍋を使って風呂に入るわけ?」

 

ルイズは五右衛門風呂の風呂釜を眺めながら怪訝そうにしていました。

見た目は完全にただの大鍋にしか見えないので疑ってしまうのは仕方がありません。

 

「お風呂といっても、結構昔のスタイルのお風呂だから……」

「あたしはこのお風呂が好きよ。月夜を眺めて夜風に当たりながらのお風呂なんて普通じゃ味わえないもの」

 

前に入ったことがあるキュルケは露天風呂独特の風情を気に入っていました。

 

「でも本当にこんな外で風呂に入って大丈夫かしら?」

「心配ないわ。召し捕り人が見張ってくれているから」

 

服を脱ぎきったみよ子はタオルを体に巻きながらルイズに言うと、風呂に入ろうと鍋に近づいていきます。

 

「待って」

 

そこを呼び止めたのは同じくタオルを体に巻いていたタバサです。

 

「タバサちゃん。如意光なんて持ってどうしたの?」

「キテレツ君から借りてきたのね。どうしてそれを……」

 

タバサは自分の杖と一緒に何故か如意光を手にしていたのです。

みよ子達はもちろん、ルイズとキュルケも怪訝そうにタバサを見つめていました。

 

「五人でこのままじゃ小さすぎる」

 

そう呟いたタバサは如意光の青い光線を風呂釜の大鍋へと照射しました。

光線を浴びた大鍋は瞬く間に一回りほど大きくなります。

 

「これならみんな入っても狭くならないわね。考えたじゃない、タバサ」

 

キュルケはタバサの頭を撫でました。

 

「さあ、ルイズちゃん。一緒に入りましょう」

「え、ええ……」

 

五月に手を引かれ、ルイズは五右衛門風呂の湯船に浸かります。

大鍋の面積が大きくなったためかいっぱい近くにまで溜められていたお湯の水位がその分だけ下がっています。

五人全員が一度に入っても狭くはありませんし、お湯もギリギリ溢れません。

 

「んん~……三日ぶりのお風呂……生き返るわね~……」

「本当ですね……」

 

キュルケとみよ子はしばらくぶりの入浴に満足していました。

アルビオンでの冒険中は味わうことのできなかった寛ぎの時間がようやく訪れたのですから、たっぷりと満喫しようとしていました。

タバサも無表情ながら肩までしっかり湯船に浸かって気持ち良さそうにしています。眼鏡も湯気で曇っていました。

 

「外でのお風呂も意外と悪くないわね……」

「でしょう? ルイズちゃんも気に入ってもらえて嬉しいわ」

 

ゆったりとしているルイズに隣にいる五月は微笑みます。

魔法学院の浴場と違って香水もありませんが、涼しい夜風のおかげで独特の心地良さが感じられました。

 

(やっぱりサツキの胸、あたしより大きいのね……)

 

五月をちらりと横目で眺めるルイズは湯船の中で自分の胸元に手を触れました。

16歳のルイズは歳の割に発育はあまり良くなく、子供のような体型です。

対して五月はみよ子と同じくルイズより五歳ほど年下の子供なのに、背もルイズより高い上に発育も歳の割に良いのです。

服の上からでも五月のスタイルの良さが分かるのに、実際に目にすることでルイズは余計に羨ましく感じてしまうのでした。

 

「ところでここのお風呂ってどういう場所なの? ルイズちゃん」

「え? え、ええ……魔法学院の浴場は本塔の地下にあるわ。男女別になっていて、生徒が全員入れるくらいに広いわね」

 

五月からのいきなりの問いで我に返ったルイズは慌てながら語っていました。

 

「ふうん。さすが貴族のお風呂なのね」

「広いだけじゃないわよ。お湯には香水が混じっているから良い香りがするの。日によって種類が変わるから、香りの違いも楽しめるわ。今日は何だったかしらね……」

 

感嘆とするみよ子にキュルケも続けて語りだします。

 

「一度はそういうお風呂に入ってみたいわ。ね、みよちゃん?」

「そうね。とっても気持ち良さそう」

「でもあなた達は平民だから入れないわよ」

 

淡い夢を抱く二人にルイズが釘を刺します。貴族専用の浴場なので平民は使うことが許されていません。

 

「あら。だったら夜遅くで誰もいなくなった時にこっそり入れば?」

「あんたねえ。サツキ達が勝手に使ってるのが見つかったらただじゃすまないでしょ?」

「あたし達が一緒についていれば良いじゃない。ねえ? サツキ、ミヨコ。今度、ここの浴場を使わせてあげるわよ」

「良いんですか? キュルケさん」

 

思わずみよ子は心配そうに尋ねます。

 

「良いの良いの。頭の固いルイズのことなんか気にしないで」

「誰が頭が固いよ。あたしは学院の規則を守ってるだけなんだからね」

 

不機嫌になってルイズはキュルケからぷい、と顔を背けました。

 

「そういえばみよちゃん。キテレツ君のご先祖様の奇天烈斎様って会ったことがあるんでしょ? どんな人だったの?」

「はあ? あいつのご先祖って百年以上も前の人なんでしょ? どうやって会うっていうのよ」

 

突然の五月の言葉にルイズは顔を顰めます。

普通に考えれば自分の祖先に会うなんてことは不可能なので疑問に感じるのは当然です。

 

「キテレツ君の航時機を使って過去にタイムスリップすれば会えるはずよ。みよちゃん達もそれで会ったことがあるんでしょ?」

「ええ。そうよ。キテレツ君も奇天烈斎様のことをとっても尊敬しているし、子孫であることにも誇りを持っているわ。あたし達も奇天烈斎様に何度か助けてもらったことがあるの」

「キテレツ君のご先祖様なんだから、きっととても立派な人なんでしょうね」

 

五月が過去透視鏡で初めて目にした奇天烈斎は発明家とは思えないほど威厳や品格に満ちた印象の人物でした。

しかも見た所、とても人格者な人物であることはあの映像での出来事から明らかです。子孫のキテレツが尊敬するのも納得ができるほどです。

 

「タイム……スリップ? 何よそれ」

「カオルとトンガリもそんなこと言ってたわね」

 

ルイズもキュルケも訳の分からない単語で余計に頭を悩ませて訝しみます。

タバサも興味が湧いたのか、みよ子達の話に耳を傾けていました。

 

「キテレツ君の道具で過去の場面を写したり、見たりしたでしょう? あれと同じで、あたし達自身が過去や未来の世界を旅することを言うの」

「過去や未来に行くですって? そんなことができるの?」

 

説明するみよ子にルイズは目を丸くしてしまいます。

ハルケギニアのマジックアイテムでさえ昨日程度の過去しか見ることができないのにキテレツの道具はそれ以上のことが出来、あまつさえその過去へ直接赴くことができるなんて信じられません。

 

「うん。わたしも一回だけ体験したことがあるわ。キテレツ君の航時機っていう乗り物でタイムスリップができるんだから」

 

以前、五月はキテレツの航時機で平安時代の日本へ行ったことがあったのでした。

 

「キテレツのマジックアイテムなら本当に何でもできそうね。違う世界を旅するなんて……想像もできないわ」

 

キュルケとタバサは数時間前にルイズからキテレツ達がハルケギニアとは違う世界からやってきたことを聞かされていたのでした。

魔法以上のことができるキテレツ達なら、そのような摩訶不思議なことさえ実現できるのも当然かもしれないと見て、キュルケは大して驚きません。

 

「未来が分かるってことは、あたしの将来とかも分かったりするのかしら?」

 

将来、ルイズはどのようになっているのかが気になります。キテレツの道具ならそれが分かるのかもしれないと考え、タイムスリップに強い関心を抱いていました。

 

「航時機は確か過去にしか行けないはずよ。それにキテレツ君、航時機は持ってきてないみたいだからタイムスリップはできないわね」

「何よ。つまんないの」

「それは残念ね」

 

みよ子の言葉にルイズとキュルケはため息をつきます。タイムスリップというのがどのような物なのかを自分達も体験できたかもしれないのが不可能なので、期待外れとなってしまいました。

 

「キテレツ斎……だったかしら。ずいぶんと変わった格好だったけど、貴族みたいな雰囲気だったわね」

「少なくとも、ただの平民じゃないってことは確かね。キテレツのマジックアイテムを最初に作った人なんでしょう?」

 

ルイズ達が目にした奇天烈斎への印象は概ね悪くはないイメージを感じていました。

 

「ええ。キテレツ君の家には奇天烈大百科っていう本があって、それに色々な発明品が書かれているのよ。わたしは見たことないけど……」

「キテレツ大百科……ねえ。コルベール先生が読みたがりそうな本かもしれないわね」

「でしょうね。キテレツのマジックアイテムにあんなに興味を持ってるんだし」

 

ルイズとキュルケはコルベールが奇天烈大百科を子供のように目を輝かせ、夢中になって読み耽る姿を想像しました。

 

「で、そのキテレツ斎っていう人がこのハルケギニアへやってきてたわけね?」

「そうみたい。きっと、その人の手がかりがもっと見つかればわたし達が帰る方法も見つかるはずだわ」

「もしかしたら、キテレツ君の冥府刀を直す方法だって見つかるかもしれないもの」

 

五月とみよ子は満面の笑みでルイズに答えます。

 

「冥府刀って、ルイズが壊したマジックアイテムでしょ?」

「う……」

 

自分のせいでキテレツ達を故郷へ帰れなくしてしまった負い目があるルイズは口元まで湯に沈めてブクブクと息を吐いていました。

 

(あれが直れば、キテレツ達は元の世界へ帰っちゃうのよね……サツキも……)

 

もしも冥府刀が直ったり、別の元の世界へ帰る手段を見つければキテレツ達はこのハルケギニアからいなくなることでしょう。

その帰るための手段の手がかりを、今回偶然にも見つける結果になったのです。

 

(いつまであたし達といてくれるのかしら……)

 

異世界の友人達との別れの日は近いことをルイズは悟っていました。

キテレツ達を故郷へ帰すことはルイズの大切な義務ではありますが、いざ別れる時のことを考えると自然と寂しさと空しさを感じてしまいます。

 

 


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