キテレツ大百科 ハルケギニア旅行記   作:月に吠えるもの

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♪ お料理行進曲(間奏)



コロ助「ふーっ、やっとお空の上から帰って来られたナリね」

キテレツ「でもまだルイズちゃんには最後の仕事があるんだ。お姫様に会わないといけないんだよ」

コロ助「王子様とお姫様はあんなに抱き合って、とっても仲が良いナリ」

キテレツ「二人は恋人同士なんだからね。僕達は邪魔しない方がいいよ」

コロ助「ああ……でもお姫様と王子様、なにをやっているのか気になって仕方がないナリ……」

キテレツ「次回、覗き見禁止? 王子と王女の愛の再会」

コロ助「絶対見るナリよ♪」





覗き見禁止? 王子と王女の愛の再会

レコン・キスタの追っ手を振り切ったキテレツ達はそのまま海を越え、トリステインの沿岸まで辿り着きました。

ここまで来ればもうレコン・キスタは追跡してくることはできません。

ようやくキテレツ達のアルビオンの冒険は終わり、平和なトリステインへと戻ってきたのでした。

しかし、アンリエッタ王女から密命を任されたルイズにはまだやるべきことが残っています。

 

「ルイズ~、いい加減にしなさいよ? アンリエッタ姫殿下の所へ行くんでしょ?」

 

百メートル上空を飛ぶシルフィードの上からキュルケが後ろを振り向いて声をかけます。

少し後ろではキント雲と、空中浮輪で空を飛ぶ五月が並んでいました。ルイズは五月と手を繋いだまま一緒に飛び続けているのです。

 

「ルイズちゃん、空を飛ぶのは楽しいナリか?」

「あんた達、こんな物を持っているなら早く言いなさいよね! 自力で空を飛べるのがこんなに気持ち良いなんて!」

「あんまり暴れると落ちちゃうわ。しっかり掴まって」

 

楽しそうにはしゃいでいるルイズに五月が微笑ましそうに注意しました。

ルイズは海で五月に助けられてからもシルフィードやキント雲の方へは移らずにずっと五月と一緒に空を飛び続けていたのです。どうやら空中浮輪での飛行が気に入ったみたいでした。

空中浮輪での飛行スピードはそれだけではキント雲とシルフィードには遠く及ばないので、最初は五月がシルフィードに掴まって一緒に飛び、スピードが出てきたら後は自力で飛んでいました。

それからは上手く気流にも乗ることでキテレツ達に遅れることなく五月とルイズは一緒に飛び続け、ルイズはそれを楽しんでいたのです。

 

「まったく……どこまでも子供ね……」

 

呆れるキュルケですが魔法が使えず空を飛べないルイズが五月と一緒とはいえ、自分で空を飛べるのが嬉しいという気持ちはよく分かります。

 

「良いじゃないですかキュルケさん。別に急ぎってわけじゃないんだし」

「もうここまで来れば安全なんだから、もう少しゆっくり飛んでいましょうよ」

「ワガハイも疲れたナリ」

 

キテレツもみよ子も五月達に合わせて飛び続けるのには文句はありません。

今まで息の詰まりそうなアルビオンにいたので、むしろ平和な飛行時間をじっくりと味わっていたい気分でした。

 

「私も急がないよ。トリスタニアはもうすぐそこだからね」

 

ウェールズもキテレツ達に同意します。

のどかな平地や丘の上を飛行していますが、このペースであれば昼ぐらいにはトリスタニアへ到着するでしょう。

 

「や~れやれ、あんなに空の上で暴れてきたのが嘘みたいだぜ」

「もうこりごりだよ。あんなのは」

 

ブタゴリラはミカンの皮を向きながら呟きます。トンガリも疲れた様子でした。

 

「お姫様の所へ行ったら、指輪を湖に持っていくのよね?」

「うん。水の精霊さんも待ちかねてるだろうからね」

 

キテレツ達の旅の目的はアンドバリの指輪を水の精霊に返してあげることなので、それが済めば本当のアルビオンでの旅は終わりです。

 

「姫様もきっとお喜びになられるわ。皇太子様とお会いになれるんだから……」

「うん。ルイズちゃんはお姫様のためにとってもがんばったんだものね」

 

五月と手を繋いで空を飛ぶルイズは達成感に満ちた笑顔を浮かべています。

 

「皇太子様をお助けできたのも、あんた達のおかげよ。姫様に代わってお礼を言わせてもらうわ。……ありがとう」

 

ルイズは素直に感謝の言葉を口にします。五月はそんなルイズを見つめながら微笑みました。

二人の少女は空の風に吹かれながら、シルフィードとキント雲と一緒にいつまでも飛び続けます。

 

 

 

 

王都トリスタニアの上空にやってきた一行はそのまま王宮へ一直線に目指して行きました。

 

「あれがお姫様の城ね?」

「ええ。トリスタニアの王宮よ」

 

上空から見下ろせる王宮を眺める五月にルイズが答えます。

 

「このまま王宮の中庭に着陸しましょう。キテレツ! タバサ! 良いわね?」

「分かった!」

 

ルイズの言葉にキテレツとタバサは頷きます。

 

「大丈夫かい? さすがに許可なくいきなり王宮の真ん中に着陸するというのは……」

 

苦言を漏らすウェールズの言う通り、そんなことをしては王宮の貴族や衛兵達を驚かせてしまうことになるでしょう。

 

「この際、仕方がありませんわ。わたしが何とか姫様に取り次いでもらえるように頼んでみます」

 

キテレツ達がゆっくりとスピードを落として王宮の上空までやってきたその時でした。

 

「何かこっちに来るわ」

「何ナリか?」

「ライオン? でも翼が生えてるね」

 

みよ子とコロ助とトンガリは王宮から何頭もの翼を生やしたライオンのようなものが飛び上がってくるのを見て目を丸くします。

 

「あれはマンティコアっていう幻獣ね。っていうことは、王宮の近衛じゃない?」

 

キュルケの言う通り、マンティコア達にはそれぞれ黒ずくめのマントを身につけた騎士達の姿がありました。

トリステインが誇る近衛騎士隊、魔法衛士隊の一つであるマンティコア隊に間違いありませんでした。

 

「お! お出迎えって奴か? へーい! ご苦労さん!」

「何かそうは見えないけど……」

 

ブタゴリラが呑気に手を上げていますが、トンガリはため息をついていました。

 

「待て! 止まれ! 我らはトリステイン魔法衛士隊だ!」

「現在、王宮の上空を飛行することは許されておらん! ただちに引き返せ!」

 

マンティコアの騎士達はキテレツ達に立ち塞がるように空中で静止するなり、そう大声で警告をしてきました。

やはりウェールズの思っていた通り、王宮に直接着陸するのは無理なようです。

 

「ですって。どうするの? ルイズ」

「このまま着陸よ。行きましょう、サツキ!」

「あ! ちょっと、ルイズちゃん!」

 

キュルケが声をかけますが、ルイズは気にせずに叫ぶと五月の手を引っ張って無理矢理真下へと降下していきました。

 

「五月ちゃん! 待ってよ!」

「ったく、世話かけさせやがって」

「まったく、しょうがないわね……!」

 

いくら何でも無謀なルイズにキテレツ達も慌てて後を追っていきました。

 

「こら待て! お前達!」

 

上空のマンティコア隊達もすぐに王宮の中庭へと降下します。

キテレツ達が着陸した中庭では地上で待機していた他のマンティコア隊達が待ち構えていました。

 

「うわ……」

「あわわわ……」

 

トンガリとコロ助はレイピアの軍杖を突きつけてくる騎士達に震え上がります。

上空のマンティコア隊達も降り立ってきて、キテレツ達は完全に取り囲まれてしまいました。

 

「動くな! 杖を捨てろ!」

 

同様に軍杖を突きつけてくる髭面の隊長が怒鳴りかけてきます。

 

「ここは宮廷。従った方が良い」

「やっぱり普通に入った方が良かったんじゃないの?」

 

タバサとキュルケ、そしてウェールズは大人しく自分の杖を地面に捨てました。

 

「お前もだ! その腰の杖を捨てろ! 平民風情が杖を手にする法はないぞ!」

 

今度は五月に向かってそう命令してきました。腰に下げている収納状態の電磁刀を魔法の杖と勘違いしているようです。

 

「杖じゃないんだけど……」

「良いから言うことを聞きましょう」

 

五月もルイズと一緒に電磁刀を地面に置きました。

 

「おいおい、大丈夫かよ?」

「このまま捕まっちゃうんじゃないよね?」

 

トンガリは今にも自分達を捕縛しようとしているマンティコア隊達の迫力に不安を隠せません。

 

「今はルイズちゃん達に任せましょう」

「僕達は黙ってた方が良いよ」

 

キント雲の上でキテレツ達は成り行きを見守ることにしました。

 

「今は王宮上空は飛行禁止令の触れが出ているのだぞ。見た所、魔法学院の学生のようだが……」

 

隊長はルイズ達の顔を見回して顔を顰めていました。

 

「許可なく王宮へ入り込んでしまい申し訳ございません。わたしはラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールでございます」

 

五月の手を離したルイズは一歩前へ歩み出ると、毅然とした態度で名乗ります。

 

「ラ・ヴァリエール公爵家の? ……うむ。確かに、公爵夫人とよく似たお顔だな。目元などもそっくりだ」

 

隊長はルイズの顔をまじまじと見つめ、納得したように頷いています。

 

「ルイズちゃんのママってどんな人ナリかね?」

「うーん、想像もつかないよ」

「意外と美人だったりしてね」

「あれでもルイズちゃんって、結構可愛いものね」

「あんなじゃじゃ馬な奴の母ちゃんなんて、想像すると恐ろしいぜ……」

 

キテレツ達はルイズの母親がどのような人物なのかを想像していきます。

ルイズと同じ桃色の髪の人か、ルイズを大人にしたような綺麗な人か、ルイズとは性格が逆で大人しい人か、はたまたルイズと同じで気性が激しい人か、トンガリのママのようにザマスと言う過保護な人か。

実際にそれらが当たっているかどうかは分からず、キテレツ達の勝手な想像でしかありませんが。

 

「して、用件を伺おうか」

「詳しいことは申せません。ですが急用で、今すぐアンリエッタ姫殿下にお取次ぎを願いたいのです」

 

杖を収めた隊長が尋ねてきましたが、ルイズは毅然としたまま答えます。

 

「そういう訳にはいかんな。理由も聞かずに取り次ぐことはできん。用件はこちらから姫殿下にお伝えするのが規則なのでな」

 

対する隊長も困ったような顔をしてしまっています。ルイズはすぐ取り次いでもらえないことに不満な様子でした。

 

「待ってくれ、君達。彼女はアンリエッタ王女から密命を託されている。易々と任務の内容は話せないのだ」

「貴殿は?」

 

そこへウェールズが前へ出るとルイズの隣にやって来て隊長に話しかけました。

 

「私はアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーと申す者だ。彼女はアンリエッタ王女から主命を……」

 

ウェールズが名乗りながら説明しようとしますが、一時は穏やかになった隊長の表情がまた厳しいものへと戻りだします。

 

「何? 嘘も大概にしろ! アルビオンは反乱軍に制圧され、王軍は全滅したと聞いている! アルビオン王家の人間がこのトリステインにいるわけがなかろう!」

 

再び杖を、今度はウェールズに向けてきました。隊長はウェールズを疑って話をまるで信じていないようです。

 

「違うわ! このお方は本当にウェールズ皇太子様よ! アンリエッタ姫殿下がお招きしたれっきとした客人なんだから!」

「黙れ! 貴様ら、さてはアルビオンの反乱軍のスパイか!?」

 

ウェールズに杖を突きつけてきたことでルイズは怒り出し、隊長に食ってかかります。

しかし、隊長はルイズの言葉に耳を貸しはしませんでした。

 

「何だかヤバい雰囲気になってきたよ……何で話を聞いてくれないのさ」

「ここでもスパイス扱いされんのかよ」

 

隊長はおろか周りのマンティコア隊達までもが物々しい様子で身構えています。

 

「ちょっと待ってください! ルイズちゃんはお姫様からの密命をこなして帰ってきたのよ! それなのに無下に突っ撥ねるなんてひどいじゃない!」

「従者風情が貴族に話しかける法はない。下がれ、無礼な平民め!」

 

五月までもが疑っている隊長に食ってかかりますが、相手が平民の子供であるためか明らかに見下した態度でした。

 

「何だよ。偉そうなオッサンだなあ」

「ワルドさんの方がまだマシだったわね」

「しーっ……聞こえちゃうよ」

 

どうせ演技だったに違いないとはいえ、ワルドは平民であるキテレツ達にも最初は身分など拘らずに気さくに話しかけてきていました。

しかし、この隊長はどうにもキテレツ達に悪い印象を抱かせる嫌な人でした。

 

「とにかく殿下に取り次ぐわけにはいかん。直ちにこの者達を捕縛せよ!」

 

隊長が目配せしつつ命令をすると、他のマンティコア隊達が一斉に杖をキテレツ達に向けてきます。

 

「わあああっ!」

「お、おい! キテレツ! 何とかしろ!」

「早く何か道具を出すナリ!」

「そんな、急に言われても……!」

 

キテレツは大慌てでリュックを探ってこの窮地を脱することができそうな道具を取り出そうとしますが、混乱していてどれを使えば良いのかすぐに判断できません。

 

「待つんだ! 彼女達は怪しい者では……」

 

慌ててウェールズが説得しようとしますが、もはや隊長は聞く耳を持たずに他のマンティコア隊達と共に呪文を唱えていました。

今にも一行に魔法が放たれようとしたその時です。

 

「ルイズ! ……ウェールズ様!」

 

王宮の中から現れたのはアンリエッタ王女でした。自室の窓から外を眺めていた彼女は中庭に降り立ったシルフィード達を目にして、すぐに飛び出してきたのです。

中庭へやってきたアンリエッタは魔法衛士隊に取り囲まれているルイズ達一行の中にいるウェールズの姿を目にして、驚きと喜びの混じった顔を浮かべます。

 

「姫様!」

 

アンリエッタの登場にルイズは安堵の笑顔を浮かべます。ウェールズもこちらへ駆け寄ってくる彼女の姿に目を丸くしていました。

 

「ド・ゼッサール殿! 一体何事なのですか?」

 

騒動が起きている現場へ辿り着いたアンリエッタがゼッサール隊長に声をかけます。

マンティコア隊達は魔法を放とうとするのを中断していました。

 

「姫殿下。この者達が飛行禁止令の触れが出ているにも関わらず、王宮へ無断で侵入してきたのです。しかもアルビオンの王族などとあからさまな嘘までついて……」

 

状況を説明するゼッサールですが、それを聞いた途端にアンリエッタは厳しい表情になって彼を睨みつけます。

 

「……無礼者! 杖を下ろしなさい! この方達は敵ではありません!」

「ひ、姫殿下……!」

 

アンリエッタの威厳に満ちた叱責にゼッサールはもちろん、他のマンティコア隊達も驚いて呆然とします。

 

「このお方はわたくしの従兄のプリンス・オブ・ウェールズ。正真正銘、テューダー王家の者です! 私の客人達に対して杖を向けるなど、恥を知りなさい!」

 

怒りを露にしてアンリエッタはマンティコア隊達を見回して叫びました。

勘違いであるとはいえ、自分の恋人や友人に危害を加えようとしたのですからここまで怒るのは当然でしょう。

 

「魔法衛士隊ともあろうものが、敵と味方の判断さえできないのですか!? この者達に杖を向けることは許しません! 今すぐに杖を下ろして下がりなさい!」

「ぎょ、御意!」

 

王女の命令にマンティコア隊達は深く頭を下げ、隊長に至っては跪いていました。

魔法衛士隊は慌てて中庭から退散していき、後にはアンリエッタとルイズ達一行だけが残ります。

 

「さすがお姫様ね」

「ああ~……良かったぁ……」

 

みよ子が感心する中、トンガリは安心してため息をつきます。

 

「ごめんなさい、ルイズ。とんだ出迎えになってしまって……」

「良いのですよ、姫様。わたしも少しばかり強引すぎました」

「本当にごめんなさい……でも、あなたが無事に帰ってきてくれて本当に嬉しいわ……」

 

何度も謝るアンリエッタにルイズはポケットから一通の手紙を取り出し見せます。

 

「こちらが件の手紙でございます。それから……」

 

ちらりと横に立つウェールズの方へ視線をやると、アンリエッタもそちらを振り向きました。

ウェールズは優しい笑顔を浮かべてアンリエッタを見つめます。

 

「……ウェールズ様……よくぞご無事で……!」

 

アンリエッタは歓喜に満ち溢れた顔を輝かせ、涙を浮かべていました。

 

「綺麗になったね。アンリエッタ……」

 

抱きついて咽び泣いているアンリエッタの頭をウェールズはそっと撫でます。

 

「ほえ~、やってくれるもんだな」

「お姫様は王子様と会えて、本当に嬉しいナリね」

「だってあの二人は恋人同士なんだもの。当然でしょ?」

「うん。お姫様があんな風になる気持ちは分かるよ」

 

キント雲から降りていたキテレツ達もキュルケらと一緒に五月の近くまでやってきます。

五月も抱き合っているウェールズとアンリエッタを見つめて微笑んでいました。

 

「姫様のご所望通り、ウェールズ皇太子をここまでお連れ致しました。本当はこうなることを一番望んでおられたのですよね?」

「ルイズ……ありがとう……あなたは本当にわたくしの一番のお友達よ……どれだけ感謝をしても足りないわ……」

 

アンリエッタはルイズの手を取って、しっかりと握り締めます。

 

「もったいないお言葉ですわ」

「ところで、こちらの方達は?」

 

アンリエッタは集まってきたキテレツ達に気付いて一行を見つめてきます。

 

「わたくしの任務の手助けをしてくれた、魔法学院の学友達です。彼女達がいなければ、ウェールズ様の亡命の成功はあり得ませんでした」

「初めまして。アンリエッタ姫殿下。私はルイズの学友で、ゲルマニアのフォン・ツェルプストー家のキュルケと申します。こちらは私の友人のタバサでございます」

 

ルイズが紹介すると、すぐにキュルケは前に出て名乗りました。タバサは黙って突っ立っているままなので自分が代わりに紹介をします。

 

「それと、この子達はこの間お話をしたロバ・アル・カリイエの平民達ですわ」

 

ルイズがキテレツ達を指すと、アンリエッタは驚いたように声を漏らします。

先日、魔法学院へ訪れてルイズに密命を託した際に盗み聞きをしていたカラクリ武者を追い払った後、アンリエッタはルイズからキテレツ達のことを少しだけ聞かされていました。

東方のロバ・アル・カリイエからやってきた、数多くのマジックアイテムを持っている平民の子供達が滞在をしているという話を聞かされたのです。

 

「まあ。あなた方もルイズの手伝いをしてくれたのですか?」

「手伝いっていうか、成り行きっていうか、たまたまっていうか……ま、色々あってな!」

「ブタゴリラ。お姫様に向かって失礼だよ」

「そうよ、熊田君。お姫様なんだからちゃんとしないと」

「良いのですよ。どうぞ楽にしていてくださいな。わたくしのお友達を助けていただいて、本当にありがとうございます」

 

トンガリが嗜めますが、アンリエッタは少しも気にした風もなく笑顔で頷きます。

 

「な、何ナリか? お姫様」

「まあ、可愛いガーゴイルだわ。ロバ・アル・カリイエではこんなに可愛げがあるガーゴイルがいるのね」

 

アンリエッタはしゃがみこんでコロ助を物珍しそうに見つめてきていました。

 

「ワガハイはコロ助ナリ。どうぞよろしくお願いしますナリ……」

「はい。こちらこそ。コロ助さん」

 

可愛い顔をしているアンリエッタにコロ助は顔を赤く染めて照れたように笑います。

 

「ところで、ワルド子爵の姿が見えないようですが……」

「実はその……」

「ああ。あの兄ちゃんなら、俺らがやっつけちまったぜ」

「あたしが説明してんのよ! あんたは黙ってなさい!」

「いでっ!」

 

ブタゴリラの胸にルイズの肘鉄が叩き込まれます。

ブタゴリラの言葉にアンリエッタは顔を顰めていました。

 

「ここで話すのも何だ。城の中で話を続けてはどうかな?」

「そうですわね。迎賓室を用意しますから、そこで色々とお話を聞かせてもらいますわ。さあみなさん、どうぞ中へ」

 

ウェールズの提案に賛同してアンリエッタは一行を王宮の中へと招き入れました。

 

 

 

 

一行は迎賓室に招かれ、ルイズはそこでアンリエッタに任務の報告を行いました。

キテレツ達とキュルケ達はルイズの座るソファーの後ろや横に立って成り行きを見守っています。

 

「まさか、ワルド子爵が裏切り者だったなんて……魔法衛士隊に敵のまわし者が潜り込んでいたなんて恐ろしいことだわ」

 

ウェールズと一緒にソファーに腰を下ろすアンリエッタはルイズからの報告に顔を曇らせます。

 

「はい……わたしも彼が裏切り者であったことを残念に思います……」

 

ワルドは祖国だけでなく婚約者だった人までも裏切ったのですから、ルイズも苦悩の思いを隠せません。

 

「ですが、キテレツのマジックアイテムのおかげでウェールズ様をお救いすることができました」

 

ルイズはキテレツ達の顔を見回して笑顔を浮かべました。

偶然だったとはいえ、キテレツから託されていた天狗の抜け穴がウェールズの命だけでなく、ルイズをも窮地から救ってくれたのです。

 

「キテレツさんと言いましたね? ウェールズ様を、そしてわたくしのお友達を助けていただいて本当にありがとうございます」

「い、いやあ……そんな……僕も発明がルイズちゃんを助けることができて嬉しいですよ」

「もう、キテレツ君ったらデレデレして……」

 

王女から感謝されてキテレツは照れ臭そうに頭を掻きます。

隣ではみよ子が横目でキテレツを見つめて拗ねた顔をしていました。

 

「東方で作られたというマジックアイテムの数々、いつかわたくしも目にしてみたいですわ。その時をお待ちしています」

「ははっ。きっとアンリエッタも驚くだろうな。彼らの使うマジックアイテムはどれもすごい代物ばかりなんだ」

 

既にいくつかを目にして体験しているウェールズは楽しそうに笑顔を浮かべていました。

 

「お姫様もあっと驚くぜ。何だったら今すぐここで何か見せてやったらどうだ?」

「別に今やる必要はないんじゃないの? 見せるったって、何を見せるのさ」

「おい、キテレツ。何でも良いから出してやれよ」

 

トンガリがブタゴリラに突っ込みますが、ブタゴリラは構わずキテレツに持ちかけます。

 

「簡単に言わないでよ。僕の発明は見せ物じゃないんだからね。如意光の電池だって限りがあるし……あんまり無駄使いはしたくないんだよ」

「何だよつまらねえな」

 

ブタゴリラは渋い顔を浮かべていました。

 

「ウェールズ様。あなたはわたくし達がお守り致しますわ。決して、レコン・キスタ達には指一本触れさせません。ゆっくりとこの城に滞在なさってくださいな」

「ありがとう……アンリエッタ」

 

アンリエッタはウェールズの手に自分の手を重ねて告げ、ウェールズはそんなアンリエッタの明るい顔を見て頷きます。

 

「姫様。これはお返ししますわ」

 

ルイズはお守りとして指に嵌めていた水のルビーを外し、アンリエッタに手渡します。

任務が終わった以上、もうルイズには必要のないものです。

 

「それはあなたが持っていなさいな、ルイズ。任務を果たしたせめてものお礼ですよ」

「そんな! 恐れ多いですわ! それにこれは王家に伝わる大事なものでは……」

「あら。ラ・ヴァリエール公爵家の祖先は王の庶子よ。あなただって立派なトリステイン王家の血を引くのだから、その指輪を嵌める資格はあるはずだわ」

「でも……」

 

ルイズは王家の秘宝である水のルビーを自分が手にすることに抵抗感を抱きます。これを持つのはアンリエッタにこそ相応しいのですから。

 

「障子って何だ?」

「庶子! 要するに結婚している人とは別の、結婚していない人との間に生まれた子供のことだよ」

 

ブタゴリラの疑問と言い間違えにまたもトンガリが突っ込んで説明しました。

 

「ルイズちゃんのご先祖様ってすごい人なんだ。王女様とは親戚ってことなのね」

 

五月は興味深そうにルイズを見つめます。

 

「何で結婚していない人に子供がいるナリか?」

「要するにそいつはプリンをしたってことか!」

「プリン? あんた、何言ってるのよ?」

 

ブタゴリラがまたも言い間違えをしますが、意味が分からないルイズは首を傾げます。

 

「それを言うならプリンじゃなくて、不り……」

 

トンガリがまたも訂正をしようとしましたが、五月がトンガリの口を塞ぎます。

いきなり口元を塞がれてトンガリはウーウー、と唸っていました。

 

「あんまり余計なことを言い過ぎるとルイズちゃんが怒るわよ」

「トンガリ君も突っ込みはほどほどにしないと」

「あなたもルイズから痛い目に遭いたい?」

 

五月が耳元で囁き、みよ子とキュルケにも小声で注意されます。

トンガリは首をぶるぶると横に振りました。いつもブタゴリラにやられているような鉄拳制裁などごめんです。

 

「ルイズ。あなたはとても楽しいお友達がいるのね。東方から来た人達はこんなに面白いなんて」

 

アンリエッタはキテレツ達の様を見て楽しそうに笑っていました。

ウェールズもそんなアンリエッタの顔を見て嬉しそうにしています。

 

 


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