キテレツ大百科 ハルケギニア旅行記   作:月に吠えるもの

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プリンセスのラブレター? ウェールズの決意・後編

「うわああっ!」

「んぎゃっ!」

「痛たっ!」

 

ハヴィランド宮殿から一瞬にして西の外れの廃墟へと戻ってきたキテレツ達ですが、大勢で一度に天狗の抜け穴に飛び込んだせいで、向こう側に出てきた途端に全員折り重なって倒れてしまいました。

 

「キテレツ君、大丈夫!?」

「五月ちゃ~ん!」

 

天狗の抜け穴を横で待機し、それを千切ったみよ子とトンガリが倒れた一行に駆け寄っていきます。

最後尾で飛び込んでいた五月とタバサは三人に潰されることもなく、すぐに立ち上がっていました。

 

「五月ちゃん、大丈夫!? どこも怪我はない!?」

「わたしは大丈夫。ありがとう、トンガリ君」

 

泣きついて手まで握ってくるトンガリを五月は宥めます。

 

「サツキ!」

「タバサ!」

「きゅい、きゅい~っ!」

 

ルイズとキュルケも喜びを露にして二人に駆け寄りました。シルフィードも主人の無事な姿に嬉しそうに鳴いています。

 

「ルイズちゃん……本当にルイズちゃんなのね! ワルドさんが裏切り者だって知って心配してたのよ?」

「サツキこそ、無事で何よりだわ」

「もう、心配したわよ? タバサ」

 

五月もルイズも数日ぶりに再会した大切な友人の姿に安堵した様子です。キュルケに至ってはタバサに抱きついていました。

と、再会を喜んでいる四人ではありますが……。

 

「ブ、ブタゴリラ……早くどいてよ……」

「重いナリ~……」

 

キテレツとコロ助はブタゴリラの体に潰されてしまって苦しそうです。

 

「大丈夫? キテレツ君、コロちゃん」

「早くどきなさいよ! このブタ!」

 

みよ子が側に寄りますが、ルイズは上に圧し掛かっているブタゴリラに怒鳴るなり掴みかかって放り飛ばしていました。

 

「あだっ! 何をしやがる!」

「あんたがさっさとどかないのがいけないんでしょうが!」

 

地面に投げ出されたブタゴリラは起き上がるなりルイズに食いつきますが、彼女も逆にブタゴリラと睨み合います。

 

「はいはい、二人ともストップよ。せっかく無事に戻って来れたんだから、まずはそれを喜ばないと」

 

パンパン、と手を叩いてキュルケが興奮する二人の気を引きます。

 

「良かったわ、キテレツ君達が無事で……」

「うん。アンドバリの指輪もちゃんと取り返せたしね」

 

キテレツを抱き起こすみよ子はとても安堵に満ちた顔を浮かべていました。

 

「話は全部ミヨコ達から聞かせてもらったわ。あんた達、アンドバリの指輪を取り戻しにここまで来たんですってね。まったくもう……無茶なんかして……」

 

ルイズは腕を組んでキテレツ達の顔を気難しそうな顔で見回します。

 

「ごめんなさい、ルイズちゃん」

「まさか指輪を盗んだ相手が、こんな空の上の、しかも反乱軍だとは思わなかったんだよ」

 

謝る五月とキテレツですが、ルイズは小さくため息をついていました。

 

「まあでも、無事だったんだからそれで良いわ。それで指輪はどうしたの?」

「これが精霊さんの指輪ナリよ」

 

尋ねてくるルイズに、起き上がったコロ助は懐から取り出したアンドバリの指輪を見せます。

 

「へぇー、これがね……」

「なるほど、それがアンドバリの指輪か……」

 

指輪を手に取って間近で眺めるキュルケの隣にウェールズがやってきました。

 

「あの……あなたは?」

「誰だよ、この兄ちゃんは?」

「かっこいいお兄さんナリ」

 

潜入組だったキテレツ達五人は全く見慣れないウェールズの存在に目を丸くしていました。

 

「な! 失礼でしょ、あんた達! このお方はね……!」

「良いんだよ、ミス・ヴァリエール。トンガリ君とミヨコ君にもこうして楽にしてもらっているんだからね」

 

苦笑するウェールズは慌てふためくルイズを押しとどめます。

 

「ミス・ヴァリエールの友人だそうだね、話は聞かせてもらっているよ。私はウェールズ・テューダー。アルビオン王国の皇太子だったものだ。よろしく」

 

ウェールズはキテレツ達五人の前に歩み出て名乗りました。

 

「こ、皇太子様だって!?」

「何だよ……その、包帯石って、どんな石だ?」

「それを言うなら皇太子。つまり王子様のことよ!」

 

ブタゴリラの言い間違えをキテレツと同じように驚く五月が訂正しました。

 

「王子様あ?」

「そうよ! このお方は正真正銘、ウェールズ皇太子様なんだから! あんたはまた、姫様だけでなく皇太子様にまで失礼なことを言って!」

「はいはい、怒るのは後にしなさい」

 

喚き立ててブタゴリラに食って掛かろうとするルイズの肩をキュルケが掴みます。

 

「何でそんな王子様がここにいきなりいるって言うんだ? それに何でお前まで……」

「そう、それよ。どうしてルイズちゃんがここに? ワルドさんはスパイだったって言うし、全然分からないことばかりだわ」

「そういえばワルドがそっちにいたってどういうことよ、それ! サツキ、ちゃんと教えなさい!」

 

お互いに質問を質問で返すせいで話がだんだんとややこしくなっていきます。

 

「ちょっと待って! ちゃんと話を整理しようよ! まずはここで何があって、ルイズちゃんがここにいるのかを話してよ」

 

キテレツが声を上げ、全員の視線を集中させました。

こうも話が混乱していては何も分かりません。一つ一つ話を整理して理解する必要があります。

キテレツの提案に全員が頷き、まずはみよ子とキュルケが自分達の身に起きたことを話していきました。

 

「……それじゃあ、この天狗の抜け穴がそのニューカッスルっていう城でルイズちゃんの作った抜け穴に繋がっていたわけなのね」

「そうよ。あんた達がこれを貼っていたおかげで、ウェールズ様は助かったんだから」

「でも、あのワルドっていう兄ちゃんが敵のスパイスだったとはなあ……おまけに分身の術なんかしてたなんて、忍者みたいだぜ」

「それを言うならスパイ!」

 

一行が座り込む中、トンガリはブタゴリラの言い間違えにいつものように突っ込みます。

ニューカッスルでワルドが本性を現したことをルイズは話し、五月も風の偏在の分身だったワルドと戦ったことを告げていました。

 

「それでルイズちゃんは天狗の抜け穴を通って、王子様と一緒にこっちへ逃げてきたわけだね」

「ええ。そ、それでね……あんたから預かってたあのアルヴィーなんだけど……」

 

助太刀人形はルイズ達が逃げるための時間稼ぎをしてくれましたが、ワルドに壊されてしまいました。

借り物を壊してしまったことに対してルイズは申し訳ない気持ちを抱いていたのです。

 

「良いんだよ、また作れば良いんだから。ルイズちゃんを守ることがあの一寸ガードマンの役目なんだ」

 

キテレツとしては自分の発明が役に立てたことの方が嬉しいのです。

 

「でも何で、王子様と一緒に来たナリか?」

「そうだぜ。お前、何をしにそのニューハッスルって所に行ってたんだ?」

「ニューカッスルでしょ?」

 

一々突っ込みをするトンガリは呆れた様子です。

コロ助、ブタゴリラだけでなくタバサ以外の他の五人もルイズを興味深そうに見つめていました。

 

「そ、それは……」

「ねえ、ルイズ。ここまで来たら、もう隠し事は無しなんじゃなくて?」

 

困ったように口篭るルイズにキュルケがにじり寄って肩をポン、と叩いてきます。

 

「ミス・ツェルプストー、しかし彼女は……」

「恐れながら皇太子殿下。私達はもう知り過ぎてしまったのです。確かにこの子はアンリエッタ王女からの密命を受け、結果的に今ここにいます」

 

ウェールズに対してキュルケは毅然とした態度で言い返しました。

 

「私達はレコン・キスタという共通の敵を持ち、追われている身なのです。即ち、私達は仲間と言って良いでしょう。同じ仲間に対して彼女が目的を話すことは何も咎められることではないはずですわ」

 

呆気に取られるウェールズですが、キュルケはルイズと正面から向き合っていました。

 

「ねえ、ルイズ。聞かせてちょうだいな。あなたがこのアルビオンへ来た目的を。私達も力になってあげるから」

 

興味本位ではない真剣な態度でそう詰め寄ってくるキュルケにルイズは困惑します。

しかし、彼女だけでなくキテレツ達にまでじっと見つめられてしまって、ついに観念したようにため息をつきました。

 

「ぜ、絶対に誰にも言っちゃ駄目よ……あんた達も、良いわね?」

「もちろんだよ。誰にも言わないさ」

「武士は口が固いナリ!」

 

キテレツ達もきっぱりと頷いてくれたのを見て、ルイズは自分の旅の目的――アンリエッタからの密命を話し始めます。

 

ルイズがアンリエッタから託された密命、それはウェールズ皇太子からアンリエッタが送った一通の手紙を回収するというものでした。

それがアルビオンの反乱軍、レコン・キスタの手に渡ればゲルマニアに嫁ごうとしているアンリエッタの縁談は取り消しになり、トリステインとゲルマニアの同盟は結ばれないのです。

レコン・キスタはトリステインとゲルマニアの同盟を阻むためにその手紙を狙っていたのでした。

 

「でも手紙一枚で王女様の結婚が取り消しになるってことは……もしかして、王女様が送った手紙って……」

「あ、あんた……!」

「良いんだよ、ミス・ヴァリエール。ミヨコ君が思っている通りさ。ミス・ヴァリエールはアンリエッタが私に送った恋文を回収しに我が元までやって来たのだ」

 

ウェールズの告白にキテレツ達は、特にみよ子と五月は息を呑んで驚いていました。

異国の王子を王女が愛するなんてシチュエーションはとてもロマンチックなのですから。

 

「王女様にもちゃんと好きな人がいたのね……」

「しかも相手は王子様なんて……」

「これがいわゆる、ラブレターってやつナリか?」

 

まさしくコロ助の言う通り、アンリエッタのラブレターをルイズは回収しにウェールズの元へ行ってきたのです。

 

「でも、王子様がいたそのニューハッスルっていうのは今日、そのレンコン何とかって奴らに攻め落とされちゃったんだろ? 王子様が危ないのに手紙だけ持って帰ってきて欲しいだけなんて、何だかずいぶんと薄情だな」

「ブタゴリラ……!」

 

かなり失礼なことを堂々と口にするのでトンガリは焦ります。見ればルイズの顔は今にも怒り出しそうな雰囲気ですが、堪えていました。

 

「手紙を返してもらうっていうのはただの口実よ。姫様が本当にしたかったのは……」

 

ルイズはウェールズの方を振り向き、一行の視線もそちらへと集中します。

 

「ウェールズ様。姫様から預かった密書には、亡命をお奨めになられたことが書かれていたのですよね? ……どうか、本当のことをお話しください」

 

ルイズはニューカッスルでアンリエッタから預かった密書の内容を問い詰めましたが、ウェールズはそれを否定していました。

もっとも、彼の態度からそれが嘘であることは分かりきっていましたが。

 

「すると、王女様は王子様を亡命させるためにルイズちゃんを使者として送り出したっていうことなんだね」

 

話を聞いていたキテレツは納得したように頷きます。

 

「透明? 真っ黒衣みたいにか?」

「ぼうめいって何ナリ?」

「住んでいた国から他の国へ逃げることを亡命って言うのよ」

 

ブタゴリラのボケは無視してみよ子はコロ助に分かるように説明しました。

 

「うん、そうよ。今回みたいに戦争があった時なんかは特にね」

「ふうん。王女様も良い所があるんだね」

 

興味深そうに話し合うキテレツ達にウェールズは心底困惑した様子で見回していましたが、ルイズがじっと真剣に見つめてくるのでずっと黙っているわけにも、誤魔化すわけにもいかなくなります。

 

「……確かに、そうだよ。アンリエッタは私に亡命を奨めてきた。昨日、ミス・ヴァリエールが言ったようにね」

「やっぱり……では、どうして姫様の思いに応えてはくれないのですか!? 姫様が逃げてと言っているのに、どうして死を選ぶのですか!?」

 

苦しそうに語るウェールズにルイズは思わず叫びます。

 

「ええ? 王子様が死ぬって!?」

「そんな……!」

「どういうことなの?」

「王子様は助かったのに、どうして? そんなの訳が分からないよ」

 

アルビオン王家の事情を何も知らないキテレツ達は愕然とウェールズを見つめました。

 

「ウェールズ様達アルビオンの王家は、レコン・キスタの反乱でもう風前の灯火だったわ。でも、ウェールズ様達は逃げずに玉砕しようとしていたのよ」

 

ルイズの告白にキテレツ達は信じられない、といった表情を浮かべてウェールズを見ていました。

 

「だからあたしはそうなる前に、天狗の抜け穴を使って皇太子様と姫様をお会いさせようとしたのよ」

 

ルイズの考えたウェールズの亡命計画は結局、失敗してしまいましたが。

 

「そんな……どうして勝てないのが分かっていて残ったりするんですか?」

「お姫様が誘ってくれてるんだから、逃げれば良いのに……」

「そうだわ。せっかく王女様がそれを伝えるためにルイズちゃんをここへ来させたのに」

「もう負けは決まっているのに、死ぬのが怖くないの?」

「他殺願望でもあるのかよ?」

 

ブタゴリラは自殺願望、と言ったつもりなのでしょうが今は誰も、トンガリですら突っ込みはしませんでした。

 

「王子様はお姫様が嫌いナリか?」

 

キテレツ達に口々にそう言われたウェールズは微かに苦笑を浮かべていました。

 

「コロ助君と言ったね? とんでもないよ。私がアンリエッタを嫌いになるだなんて。あり得ないことだ。……だが、愛するが故に身を引かねばならぬ時がある」

「ウェールズ様……」

「トンガリ君、それは私だって怖いさ。死を恐れない人間なんているわけがない」

 

ウェールズはしっかりと一行の顔を見渡し、言葉を続けていきます。

 

「しかし、我らはたとえ勝てずとも、せめて勇気と名誉の片鱗をレコン・キスタの連中に見せつけてやらねばならない。ハルケギニアの王家は弱者ではないことをね。それは、王家に生まれた者の義務なんだよ」

 

きっぱりと語るウェールズですが、キテレツ達には理解できません。

 

「私が亡命をしてしまえば、レコン・キスタがトリステインへ攻め入る格好の口実となってしまうのだ。それだけは決してあってはならない」

「でも、レコン・キスタの目的は要するに、世界征服なんでしょう? 王子様が亡命しなくたって、いずれは攻めにやってきますよ」

「そうよ。遅かれ早かれ、きっと王女様の国までやってくるわ」

「それじゃあ王子様は無駄死にも良い所だわ」

 

キテレツもみよ子も五月も、ウェールズの玉砕を遂げようとする意志を否定します。

 

「確かにそうかもしれぬ。しかし、私はアルビオンの王家に生まれた者として、王家に課せられた最後の義務を果たさねばならないんだ」

 

決して変わらない固い意志を示すウェールズですが、ルイズはそんな彼を目にして唇を噛み締めていました。

 

「皇太子様……失礼を承知で仰らせていただきます。ウェールズ様がやろうとしていた討ち死には、とても馬鹿げたことです」

「……ミス・ヴァリエール?」

 

ルイズが顔を顰めて悲しそうな、不満そうな、様々な思いが入り混じった複雑な顔を浮かべているのでウェールズは呆気に取られました。

 

「ウェールズ様はおっしゃいましたね? 王家の誇りと名誉を示す、栄光ある敗北だと。……ですが、それを成した所で一体どうなるというのです? 残される人のことをどうして考えようとしないのですか?」

 

もはや睨みつける域にまで達しているルイズの気迫にウェールズは思わず引いてしまいます。

 

「ワルドが言っていた通りですわ。そんなことをしたって誰も喜びもしませんし、レコン・キスタの連中だって誰も見向きもしません! ましてや、姫様が喜ぶとでも思っておられるのですか!?」

 

もはや悲痛な思いがはっきり伝わるほどにルイズは声を荒げていました。

ウェールズはもちろん、キテレツ達まで黙り込んでしまいます。

 

「それに、レコン・キスタが討ち死にをしたウェールズ様達のことをそのまま放っておくと思っていたのですか? あいつらは、アンドバリの指輪を持っていたのですよ? もしもキテレツ達が取り返していてくれなければ、きっとアンドバリの指輪の力でウェールズ様達に偽りの命を与えて操り人形にしていたに違いありません!」

 

確かにルイズの考えは当たっていることでしょう。死者に偽りの命を与えて蘇らせ、意のままに操ることができるアンドバリの指輪を持っていたのですから、その力を利用しないわけがありません。

さすがにウェールズもアンドバリの指輪の存在を今日の今まで知ることは無かったので、苦しそうに俯いていました。

 

「死して亡霊となって姫様を脅かすことになるというのが、ウェールズ様の望んだ義務だというのですか? 自己満足に酔って現実逃避をするのもいい加減にしてください!」

 

こうまでルイズに責め立てられ、ウェールズは何も言えなくなってしまいます。

 

「……皇太子殿下。この子の言う通りですわ」

 

それまでずっと黙り込んでいたキュルケがようやく口を開きだしました。

 

「勇敢に戦い、勇敢に死んでいくのは殿方の特権とよく言います。王家の義務を果たす……確かに聞こえは良いでしょう。ですがあなたは今、この子の言う通りに現実から目を逸らしているのです」

 

激しい口調だったルイズと対照的に穏やかに、そして厳しさがこめられた口調でキュルケはウェールズを責め立てます。

 

「皇太子殿下はおっしゃられましたね。勇気を示すことが義務だと。ですが、あなたはアンリエッタ王女を愛しておられる。ならば、その愛する人のために生き残るのも一つの義務ではないでしょうか?」

 

ルイズとキュルケから浴びせられる厳しい言葉にウェールズはぐうの音も出ないほどに打ちひしがれてしまいます。

 

「どうしても玉砕をする覚悟があるのだとしても、せめて愛する人への別れの言葉くらいは皇太子殿下ご自身で直接告げるべきだと思いますの。それをルイズに押し付けて自分は無責任にも果てようだなんて、卑怯ではなくて?」

「そうですよ、王子様。ルイズちゃん達の言う通りです。何もここで死ぬことはないですよ」

「お姫様が可哀相ナリよ」

「王女様を泣かせたりするなんて、そんなの男らしくないと思います」

「せっかくルイズちゃんが遥々やって来たのに、それじゃあ何もかも無駄骨になってしまうわ」

「こういうのを、猫死にって言うんだぜ。王子様」

「それを言うなら犬死にでしょ! 僕も王子様が亡命したって罰は当たらないと思うよ」

 

キテレツ達にまで責め立てられたウェールズは黙りこんで何かを考えている様子です。

本を読んでいるタバサを除く一行はじっとウェールズを見つめていました。

 

「……参ったものだな。遥か東方から来た子供達にまでそう言われてしまうなんて。我らはここまで腐っていたのか……」

 

やがてウェールズは搾り出すように自嘲の言葉を漏らしだしました。

 

「もっと早く……その言葉を聞きたかった。いや……聞くまでもなかったはずだったのかな……」

 

力の無い笑みを浮かべていましたが、ウェールズは何かを決意した目をしていました。

 

 

 

 

ハヴィランド宮殿は日が暮れる頃になっても騒ぎは収まりませんでした。

侵入者には逃げられた挙句、100人以上の衛兵は蹴散らされ、城内は滅茶苦茶に荒らされてしまったのですから。

しかも相手はたった数人の子供であるという事実に誰もが混乱しています。

 

「おおお……アンドバリの指輪が……奪われてしまうとは……あれが無ければ私は……」

 

執務室でクロムウェルは机に突っ伏したままガタガタと震えていました。

レコン・キスタのリーダーとは思えない情けない姿を他の誰かに見られれば失脚は目に見えています。

 

「ミス! ミス・シェフィールド! 一体どうすれば良いのです!? もしも私が虚無の力を使えぬただの司教であることが知れれば……!」

 

横に控えて何かを考え込んでいる様子のシェフィールドに泣きつきますが、シェフィールドは一瞬、忌々しそうに彼を睨みました。

 

「落ち着きなさい、閣下。奴らの逃げる先はトリステイン。ならば自ずとその逃走ルートに当たりはつけられるものよ」

 

すぐに柔らかい表情になって、子供をあやすようにクロムウェルを宥めます。

 

「アルビオン全軍を全ての港へと向かわせて既に封鎖しているわ。それにこの大陸を囲むようにして戦艦や竜騎士達に絶えず警戒をさせている。脱出をしようとすれば必ず見つけられるでしょう」

「おお……! では、奴らもこのアルビオンから逃げることはできませぬな!」

 

シェフィールドの言葉に安心して顔を輝かせるクロムウェルですが、シェフィールドは険しい顔のまま俯いていました。

ニューカッスルに篭城していたアルビオン王軍は壊滅させはしましたが、アンドバリの指輪を奪われてしまうというとんでもない失態を犯してしまったのですから。

おまけにワルドはウェールズの暗殺に失敗したというのです。

 

(この私がまさかあんな失態を……ジョゼフ様に申し訳が立たない……)

 

キテレツのマジックアイテムに対して完全に油断していたことは間違いない事実です。

シェフィールドはキテレツに完全に手玉に取られてしまったことが許せませんでした。

 

(絶対に逃がしはしないわ、キテレツ……このままで済むと思うな……)

 

 


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