キテレツ大百科 ハルケギニア旅行記   作:月に吠えるもの

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♪ お料理行進曲(間奏)


コロ助「泥棒に盗まれた学校のお宝が見つかったナリ。とっても呆気ないナリね」

キテレツ「ところがそうはいかないんだ。フーケのゴーレムがまた現れたんだから」

コロ助「早く泥棒を捕まえないと、ルイズちゃんも五月ちゃんも危ないナリ」

キテレツ「近くにフーケがいるってことなんだから。今度こそ捕まえてやるさ」

コロ助「ところで、ハカイのツエって変わった形をしているナリね」

キテレツ「ちょっと待って! あれは、どう見ても僕達の世界の物だよ!」

キテレツ「次回、わたしは貴族! 魔法使いルイズの勇気と涙」

コロ助「絶対見るナリよ♪」



わたしは貴族! 魔法使いルイズの勇気と涙・前編

魔法学院を出発してから二時間、ルイズ達を乗せた馬車はフーケのアジトに向かって街道を進んでいます。

案内役のロングビルが御者を務め、荷車の上ではルイズら四人の生徒達はそれぞれが到着までの時間を潰していました。

キュルケは呑気に爪を磨き、タバサは本を読み、ルイズは膝を抱えたまま黙り込んでいます。ギーシュはというと……。

 

「うう、緊張するな。これからフーケのゴーレムと戦うことになるのか……ああ、怖くなってきた」

 

胡坐をかき腕を組むギーシュはガチガチに緊張して固まっていました。

 

「あんた、そもそも何で志願なんてした訳?」

「いやあ、ははは……つい、勢いというか衝動的というかね……」

 

ルイズに問われてギーシュは頭を掻きながら苦笑します。

 

「昨日、ゴーレムが現れた時にモンモランシーを助けたんだが、それでも許してくれないもんでね……フーケを捕まえればモンモランシーも僕を見直してくれると思って……」

「それで格好つけたくって志願したの?」

「あああ……しかし、不安になってきた。大丈夫だろうか……」

 

志願をしたくせに怖気づいているギーシュにルイズは呆れたように息をつきました。

 

「そう言うあなたは、どうしてキテレツやサツキ達を置いてきたのかしら?」

 

キュルケがルイズに問いかけると、ルイズは唇を噛み締めます。

 

「フーケを捕まえるなら、あの子達がいてくれた方がとても頼りになると思うんだけど。あの……ニョイコウだっけ? あれならフーケのゴーレムなんて一発で何とかできるのに」

 

フーケのゴーレムははっきり言って、トライアングルであるキュルケやタバサが二人がかりでも倒せるような相手ではありません。

しかし、キテレツの発明品であれば間違いなくゴーレムを倒すことができるはずなのです。

特に、昨日も使おうとしていた如意光ならばゴーレムを小さくすることもできたでしょう。

 

「あんた、貴族としての誇りもないの? これはあたし達、魔法学院の問題なのよ。キテレツ達は魔法学院の人間じゃないんだから、異国のマジックアイテムにばかり頼る訳にはいかないわよ。降りかかる火の粉を自分達で払えないなんて、そんなの貴族じゃないわ」

 

キッとルイズは毅然とした顔でキュルケを睨みつけていましたが、抱えている膝に顔を埋めます。

 

「それに……キテレツ達はあたしが面倒を見てあげているのよ。いくらあいつらのマジックアイテムをフーケが持っているからって、危険な目に遭わせる訳にはいかないわ」

「まあ、そういうことにしておいてあげるわ。……でもね、言っておくけどあたしはタバサのために志願したんだからね」

 

キュルケは冷たい視線をルイズに浴びせると、隣のタバサの肩に優しく手をかけます。

タバサの使い魔のシルフィードを元に戻してあげようとフーケ討伐に志願した友人の力になるためにキュルケは参加したのです。

 

「あたしはタバサのためだったら、どんな手を使ってでもフーケを捕まえてやるわ。キテレツやサツキ達の力を借りてでもね」

 

そう言いながら、キュルケはちらりと来た道や林道の空を見上げます。

 

「もうその話はよして。それより、フーケのゴーレムをどうやって倒すのか、今のうちに作戦を立てましょう」

「はいはい。到着までの暇つぶしにもなるしね。ほら、ギーシュもいつまで固まってるのよ」

「わ、分かってるよ」

 

四人の生徒達は荷台の上で集まって、これからのことについての話し合いを始めます。

 

「ミス・ロングビルもそのままで良いんで、何かあったら意見を聞かせてくださいますか?」

「ええ。分かりましたわ」

 

御者台のロングビルにルイズが話しかけると、ロングビルは振り向かないまま答えます。

彼女は手綱を握ったまま、背後で作戦会議を行う生徒達の話を聞き入っていました。

 

(あいつらはついてきてないわよね……)

 

作戦会議を続ける中、ルイズはちらりと馬車の後方や空へと視線を向けていました。キテレツ達がキント雲でついてきたりしている様子はありません。

ルイズがキテレツ達を連れてこなかったのは本人が言ったように、本来キテレツ達は魔法学院の人間ではないことと、彼らを危険な目に遭わせないためです。

自分のせいで故郷に帰れなくなってしまったキテレツ達の身に何かがあれば、ルイズは自分に課せられた責任を果たせなかったことになります。

貴族としての責任感と使命感故に、キテレツ達を魔法学院へ置いてきたのでした。

 

(あたしは、ゼロのルイズなんかじゃない……)

 

それはルイズの本心ではありますが、同時にルイズの心にはある思いも入り混じっていました。

 

(あいつらのマジックアイテムに頼らなくても、フーケを捕まえてみせる……!)

 

ルイズは今回ばかりはどうしても、自分の力でフーケを捕まえてやりたかったのです。

もしもキテレツ達を一緒に連れて行って捕まえたとしても、魔法学院の生徒達はみんな出発前のようにルイズをさらに馬鹿にすることでしょう。

何をやっても周りから嘲笑されてきたルイズにはそれが耐えられませんでした。

 

(あたしだって、やってみせるわ……!)

 

ルイズは今までもずっと、ゼロのルイズと馬鹿にしてきた者達を見返してやりたい一心なのでした。

内心、キテレツ達に抱き続けていた嫉妬とコンプレックス、そしてプライドがキテレツ達を拒んでいたのです。

 

 

 

 

ルイズ達の馬車が走る街道のおよそ、10メートルほど地下の地中を馬車と同じ速さで進むものがあります。

2メートル以上の高さに直径2メートルほどの木製の球体はちょうど、ルイズ達の馬車の背後の地中から潜望鏡を地上に出していました。

 

「どうだ、コロ助。見失ってねえだろうな」

「大丈夫ナリ。しっかり、後ろに付いていってるナリよ」

 

潜地球の操縦室ではコロ助が潜望鏡にぶら下がって覗き込んでいます。

 

「ルイズちゃん達の後をつけるだけなら、レーダーがあるから潜望鏡は使わなくても良いんだよ」

「ずっと土の中じゃ退屈ナリよ」

 

操縦席で潜地球を動かすキテレツはコロ助を注意しますが、コロ助は離れません。

コンソールのレーダーには一つの光点が映し出され、点滅していました。

 

キテレツ達はルイズ達が出発した後、如意光で大きくした潜地球に乗り込んでいたのでした。

空から追いかけると目立つ上にルイズが怒り出すので、地中から後をつけることにしたのです。これならば見つかることはないでしょう。

潜地球の速さならば馬車にも充分追いつけるため、レーダーを使って見失わないようにしながら確実に追跡を続けていました。

操縦席にはキテレツとコロ助とみよ子が並んで座り、五月とブタゴリラとトンガリはその後ろで立つことになったのですが……。

 

「コロ助くん。ちょっと、私にも見せてはもらえんかね?」

「はいナリ」

 

操縦席の後ろから顔を出したのは、何とコルベールです。

 

「おじさん。狭いんだから、あんまり動かないでよ」

「本当だったら定員オーバーなんだぜ」

「ああ、悪いね。すまん、すまん」

 

コルベールの横で窮屈そうにするトンガリとブタゴリラが文句を言います。

キテレツ達が出発する直前、中庭で潜地球の調整をしている時に現れたコルベールは自分も乗せて欲しいと頼み込んでいたのです。

明らかにキテレツの発明品である潜地球への強い関心があるようでしたが、同時にコルベールはフーケ討伐隊に参加したルイズ達のことを心配していたのです。

そのためにルイズ達を追おうとするキテレツ達に便乗してきたのでした。

 

「ううむ……! これはすごい! 地上の様子がよく見えるな!」

 

潜望鏡を覗き込むコルベールはまるで子供のようにはしゃいでいました。キテレツの発明はどれも、コルベールの探究心を刺激するものばかりです。

 

「しかし、本当に地面の中を進むことができるなんて! 素晴らしい乗り物だ!」

「わたしも初めて乗るけど、すごいわね」

 

みよ子のすぐ横の空間で顔を出す五月も感嘆としていました。

五月もまだまだキテレツの発明の全てを知っていたり、体験しているわけでもないので、この潜地球も新鮮な体験でした。

 

「みよちゃん。ルイズちゃん達の様子はどう?」

「ええ。何か作戦を立てているみたいね」

 

五月が尋ねると、みよ子はタバサに渡した壁耳目からの映像や音を受信する小型のタブレットモニターを手に答えます。

モニターにはタバサの視点からによる映像で、ルイズ達が映し出されていました。

 

『それじゃあ、おさらいするわね。もしもフーケのゴーレムが現れたら、ギーシュはどうすんの?』

『へ? あ、ああ……僕の杖の花びらをたくさん舞わせるんだろう。それをミス・タバサの風でゴーレムへとまぶす』

 

モニターの中でルイズが問いかけると、ギーシュは落ち着かない様子で答えます。

 

『その後は、花びらを錬金で灯油に変えるんだったね』

『で、あたしとルイズの魔法でその油に引火させて、タバサの風の魔法でもっと火力を上げてやると。でもあなた、炎の魔法なんて本当に使えるわけ?』

『う、うるさいわね! 今度はしっかり成功させてみせるわよ!』

『まあ、失敗で爆発しても引火くらいはするでしょうし。あなたがやるって言うならそれでいいわよ』

 

キュルケからの指摘にルイズはムキになって癇癪を起こしていました。

 

『ミス・ロングビルは土の系統とお聞きしていますが、よろしければギーシュと一緒に協力をお願いできますか?』

『ええ。もちろんですわ』

 

キュルケがロングビルに声をかけますが、タバサが振り向かないのでロングビルの姿が見えません。

 

「どういうことナリか?」

「つまり、普通にキュルケさんとタバサちゃんの魔法を同時に当てても効かないから、もっと威力を底上げしようってことだよ」

「ミス・ヴァリエールも、ちゃんと私の授業を聞いていたみたいだな」

 

モニターからの音声に、ルイズ達の作戦が理解できていないコロ助にキテレツは説明します。コルベールも感心した様子で頷いていました。

今の作戦の意見はほとんどルイズが出していたのです。最初はギーシュが自分のゴーレムを召喚して突撃させようと提案しましたが、すぐに踏み潰されると却下されました。

そこでトライアングルであるキュルケとタバサの魔法による火力をさらに上げることにしたのです。

最初はその辺にある土を錬金で燃料油にしてゴーレムに浴びせかけようという話でしたが、大量の土を用意した上でゴーレムに浴びせるのに時間がかかる問題が挙がってしまいました。

そこにタバサから、ギーシュの杖の花びらを利用すれば良いと意見を付け加えられることで、フーケのゴーレム対策が纏まったのでした。

 

「本当にそんなんであんなでかい奴を倒せるのかよ」

「うむ。大きさにもよるが土のゴーレムが相手であれば、今の作戦でも充分に対抗できるだろう」

 

ブタゴリラの疑問にコルベールが答えます。

 

「でも、それならルイズちゃん達だけでも何とかできるんじゃない? やっぱり、何も僕らまで……」

「もう! いつまでウジウジ言ってるの? 何が起きるか分からないんだから、ルイズちゃん達だけにしておけないでしょ!」

「わ、分かったよ……ごめん、五月ちゃん……」

 

未だに渋っている様子のトンガリを五月が厳しい目付きで睨みました。

大好きな五月に何度も怒られてしまい、トンガリも渋々ながらも同意します。

 

「コルベール先生。ゴーレムを動かすことができるのに有効な距離ってどのくらいなんですか?」

「ん? ああ、私は土系統は専門ではないから正確な距離までは分からんが……メイジの魔法は基本的に術者と魔法との距離が近ければ近いほど、制御はより正確になるのだ。そして、魔法がより高度なものとなればその制御は困難なものとなる。そうなればメイジのランクにもよるが当然、魔法を制御できる範囲にも限界というものができてしまうものだ」

 

キテレツからの質問にコルベールは講話を交えて説明していきます。

 

「トライアングルクラスのフーケのゴーレムで言えば、そうだな……これもまた大きさにもよるんだがどんなに離れていても、150メイル以内が限界といったところかな」

「そんなこと聞いてどうするってんだよ」

「そうナリよ」

 

ブタゴリラとコロ助はコルベールの話が今一理解できてない様子でキテレツに食いつきます。

 

「つまり、そのゴーレムを操れる範囲内にフーケがいるってことさ。もしもゴーレムが現れたなら、潜地球のレーダーにも反応があるはずだからね」

「それならフーケが隠れていてもすぐ見つけられるわね」

「今度こそ捕まえてやりましょう」

 

みよ子も五月もフーケを捕まえることに意気込みを見せていました。

先日は奇襲をかけられて不覚を取ってしまいましたが、今度こそしくじる訳にはいかないです。

 

 

 

 

やがてルイズ達の馬車は深い森へ入り、さらに奥へと進んでいきます。

そして、一行は森の中の空き地へと出てきました。空き地にはロングビルの情報通りの小さな炭焼き小屋らしき廃屋がポツンと立っています。

林道で馬車を降りたルイズ達は茂みの影から様子を窺います。

 

『情報によれば、あの中にフーケがいるという話です』

『何だい、あんなボロ屋を隠れ家にしているのかね……』

 

一番後ろから顔を出すギーシュがため息をついていました。

壁耳目つけているタバサがキテレツ達に配慮してくれているのか、顔を出して廃屋を見せてくれます。

潜地球はちょうど、ルイズ達の真下の地中で留まっていました。

 

「どう? キテレツ君」

「う~ん……あの中にはいないみたいだよ」

 

五月に尋ねられてレーダーを見る操縦席の三人ですが、レーダーには反応がありません。

レーダーにはルイズ達の反応しかなく、その周辺50メートル以内には何もいないようです。

しかし、範囲外にフーケがいるかもしれないので油断はできません。

 

「カセットだったんじゃねえのか?」

「それを言うなら、ガセでしょ」

「ふむ……ミス・ロングビルの情報が外れていたということかな」

 

トンガリがブタゴリラに突っ込みますが、コルベールが顎に手を当てて唸ります。

 

「第一、あんな所を隠れ家にするっていうのがおかしいよ。こんな見つかりやすい所に隠れないでさっさと外国に逃げれば良いのに、わざわざ残ってあんな場所にいるなんて変だ」

「そう言えばそうよね。昨日、盗みにやってきたのが明るかった時なんだから、充分遠くに逃げる時間はあったはずよ」

 

キテレツとみよ子が不審な点に気づいて顔を顰めます。

そうこうする内に、ルイズ達はまたも作戦を立て始めていました。

あの小屋にフーケがいるのなら奇襲を仕掛けることにしたのです。ゴーレムを作られる前に倒すのでしょう。

 

『それで、偵察兼囮は誰がやるのかね?』

『わたしがやる』

 

ギーシュが尋ねると、タバサが自ら志願しました。

 

『気をつけて、タバサ』

 

キュルケから励まされたタバサはそっと、素早く小屋へと近づいていきます。

窓から覗いて見ても、中には人の気配はありません。潜地球のレーダーにも映らないのですから当然です。

 

「キテレツ君。わたしを降ろしてくれる?」

「五月ちゃん! 何を言い出すのさ! 外は危ないんだよ!?」

 

キテレツ達が壁耳目からの情報に集中している中、五月が切り出しました。トンガリはそれに反論して腕にしがみつきます。

 

「だからこそよ。もし、フーケのゴーレムが現れてルイズちゃん達を襲ってきたら、ルイズちゃん達だけで倒すなんて無理よ」

「でも、ルイズちゃん達の作戦なら大丈夫だってこのおじさんも……」

「フーケはいつもこっちの先手を取ってきたんだから、ルイズちゃん達の作戦が成功するか分からないわ。もしもの時のために、助けてあげないと」

 

トンガリはコルベールをちらりと見ますが、五月はその意見をバッサリと切り捨てます。

 

「キテレツ君達はこの辺りを回って、フーケがいるかどうか捜してみて」

「五月ちゃん……」

「危ないナリよ……」

 

決心した様子の五月にみよ子もコロ助も心配した様子で見つめます。

 

「大丈夫。キテレツ君の電磁刀もあるから」

 

五月はキテレツから渡されている腰にぶら下げた新・電磁刀に手を触れます。

 

「……分かった。それじゃあ、これを持っていって」

 

腹を括ったキテレツは足元に置いてあるケースとリュックを取り出し、中を探ります。

そうして取り出されたのはトランシーバーと如意光、そして二つの黒いリストバンドです。

 

「これは?」

「それは万力手甲と言って、腕に巻けば一時的に通常の何倍もの怪力が出せるんだよ」

「ほう。そんなマジックアイテムを持っているのかね」

 

コルベールは五月に渡された万力手甲に目を丸くします。

 

「でも、それって一回しか使えないんじゃないナリか?」

 

そうです。万力手甲は一度効力を発揮すると効果が無くなってしまう、使い捨ての発明品でもあるのです。

おまけに製造法も難しく、量産も極めて困難という意外に不便な代物でした。

 

「大丈夫。それは研究と改良を重ねて作った新型なんだ。何回でも使えるようにしたんだよ」

「本当ナリか」

「苦労したけどね。でも、一日で三回までしか使えないから、気をつけてね」

「ありがとう、キテレツ君」

 

五月はポケットに如意光とトランシーバーを入れ、新・万力手甲をトレーナーの上から手首に巻きます。

キテレツは潜地球を空き地から離れた森の中へと移動させると、そこで一度地上へと出てきました。

 

「気をつけてね、五月ちゃん」

「トランシーバーのスイッチは入れたままにしておいてね」

「五月ちゃん……危なくなったらすぐ逃げてね……」

 

キテレツ達はハッチを開けて外に出た五月を気遣います。特にトンガリは五月の安否を神経質なほどに心配しました。

 

「行ってくるね」

 

微笑みながら頷いた五月はルイズ達がいる空き地へ向けて林の中を駆けていき、すぐその姿が見えなくなります。

 

「何か五月ちゃん、あのルイズって子のことを妙に気にかけてるよね」

 

トンガリは五月のルイズに対する態度が気になったようです。

確かに五月はルイズを庇ったりしますし、ギーシュが酷い悪口をぶつけた際には引っ叩いたほどでした。

 

「サツキ君は元々、ミス・ヴァリエールの使い魔として召喚されたからね。それが影響しているのかもしれんな」

「どういうことだよ、それ」

「うむ。使い魔の契約……これをコントラクト・サーヴァントというのだが、それを行った使い魔は主人に対して親愛の情を植えつけられるようになるのだよ」

 

ブタゴリラに問われてコルベールはそう答えます。

 

「それじゃあ、五月ちゃんは魔法の力であの子のことを気にかけてるってこと?」

「いや、ミス・ヴァリエールとサツキ君は使い魔の契約はしていないからそんなことはないはずなんだがね。しかし、それを抜きにしてもサツキ君がミス・ヴァリエールのことを気にかけているのは事実だな」

「きっと、ルイズちゃんのことを友達だと思っているナリよ」

「あの癇癪持ちのお嬢様をか? 変わってるなぁ」

 

ブタゴリラは思わず意外そうに声を上げました。

ルイズはブタゴリラにしてみれば何かあるとすぐに怒り出し、鞭で引っ叩き、自分達と同じ年頃とは思えないほどにプライドも高い高飛車な女の子です。

そんな女の子を五月が気にかけるのが不思議で仕方がありません。

 

『それでは、私はここで見張りをしていますね』

『お願いします。ミス・ロングビル』

 

一方、ルイズ達は廃屋へと足を踏み入れているようでした。

タバサの偵察とディテクト・マジックによる探知魔法で罠がないことを確認したようです。

廃屋の入り口でロングビルが見張り番となり、他の四人は廃屋の調査を始めました。

キテレツ達は潜地球ですぐ地中に潜らず、壁耳目のモニターからの映像に見入っていました。

 

『うわっぷ! 汚いなあ……本当にこんな場所に破壊の杖があるのかい?』

『グダグダ言ってないで、ちゃんと調べなさいよ』

 

大量のホコリが立ち込める中、ルイズがギーシュに言いつけていました。

 

「そんな所調べても意味ないと思うんだけどな……」

「でも一応、調べておいた方が良いわよ。何か手掛かりがあるかもしれないんだし」

 

ルイズ達が廃屋を調べているのに苦言を漏らすトンガリにみよ子が言い返します。

 

「僕達もこの辺を調べようよ」

 

キテレツが促すと、みよ子がハッチを閉めて潜地球は再び地中へと沈んでいきました。

地中をゆっくり進みつつ、コンソールのレーダーから動体探知、熱源探知、超音波探知等を駆使して周辺に怪しい反応がないかを調べます。

しかし、やはりどれも目立った反応がありません。

 

「全然、反応ないナリね」

「やっぱり、もうここにはいないんじゃねえのか」

『う~ん。何にもないな……もうここにはいないんじゃないのかね』

 

ブタゴリラとギーシュは同じことを呟きだします。

お互いに進展がないまま、時間だけが過ぎて徒労に終わる、かと思われましたが……。

タバサが部屋の中にあった古ぼけたチェストを開けてみると、そこには……。

 

『破壊の杖』

『な、何だって!?』

『ほ、本当に?』

 

チェストの中からタバサが取り出したのは、紋章が刻まれた細長いケースでした。

驚くギーシュとルイズはタバサの隣にやってきます。

 

「嘘……本当にあんな所に置いてあったの?」

「先生。あの箱で間違いないんですか?」

「あ、ああ。破壊の杖は確かに、あのケースの中に保管してあるのだが……」

 

コルベールはキテレツからの問いに眼鏡を直しながら答えます。

キテレツ達もフーケに盗まれた品がこんな場所に置き去りにされていたことに驚きを隠せません。

 

「やっぱり変だわ。何で逃げもしないでこんな場所に盗んだ物を置いておくの?」

「それはつまり……えーと……どうしてだろう?」

 

みよ子の疑問にトンガリは返答に困ってしまいます。フーケの意図がさっぱり分からないのでした。

 

『中身はちゃんとあるの?』

 

キュルケの言葉にタバサはケースを開けて中身を改めます。

 

『これで間違いないのかい?』

『ええ。宝物庫を見学した時に見たことがあるわ』

 

その中に入っている破壊の杖が本物であることをキュルケは認めます。

破壊の杖は金属製で太い円筒状をしており、とても杖とは思えない形をしていました。

 

「ちょ……ちょっと待って……! これって……!」

 

キテレツはもちろん、コルベールを除く他の四人は破壊の杖を目にして愕然としていました。

 

「キテレツ君……これって……」

「こりゃ、バズーカじゃねえのか!」

「間違いないよ! 兵隊が使ったりする奴だ!」

「ばずうか?」

 

コロ助だけは名前や意味が分からず首を傾げます。

 

「バズーカとは、何だね?」

「あれは僕達の世界で使われている武器なんです!」

 

問いかけてくるコルベールに、破壊の杖の正体を知ったキテレツは興奮しました。

紛れもなく、破壊の杖とは戦争などで兵隊が携行武器として使う小型のバズーカ砲……いや、ロケットランチャーという代物だったのです

まさか、魔法学院にも自分達の世界の品が存在していたなんて思ってもみませんでした。

 

「何と! あれがキテレツ君達の世界の品であると!?」

『きゃああああああああっ!』

 

コルベールまでも驚く中、唐突にロングビルの悲鳴が響き渡ります。

キテレツ達がモニターに視線を戻すと、画面には大きな影が映りこんでいました。

 

 


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