コロ助「た、たいへんナリーっ! 五月ちゃんが光る鏡に吸い込まれてしまったナリーっ!」
キテレツ「あの鏡は、どうやら僕達の世界とは違う異世界に繋がってるらしいんだ」
コロ助「い、異世界ってどんなところナリか?」
キテレツ「それがそこではメイジっていう魔法使いがいるんだ。その人達は使い魔を召喚して自分のパートナーにするんだって」
コロ助「キテレツ! 早くみんなで五月ちゃんを助けに行くナリよっ!」
キテレツ「次回、異世界旅行記! ハルケギニアへ殴りこみ!」
コロ助「絶対見るナリよ♪」
ある春の晴れた日の表野町。学校のチャイムが午後の授業の終わりを告げます。
下校するのは五人組の小学生達。学校帰りのキテレツ達は仲良くお喋りをしながら楽しそうにしていました。
「へへっ、明日からトコロテンウィークだな。楽しみだぜ」
「ゴールデンウィークでしょ……」
毎度毎度のブタゴリラの天然ボケに、トンガリは呆れた様子です。
「キテレツ君達は連休中、キャンプへ行くんでしょう?」
「うん。勉三さんと一緒にね」
「五月ちゃんはゴールデンウィークもお芝居があるんでしょう? 大変ね……」
みよ子の言葉に五月は頷きます。
五月は、地方を巡りながらお芝居を披露する花丸菊之丞一座の看板役者です。
そのため転校はしょっちゅうであり、長くても2ヶ月くらいしか一緒にいられません。この表野町にも何度となく戻ってきてはキテレツ達の小学校へ編入しています。
「せっかくの連休なのにお芝居だなんて可哀相だよ。一日くらいは他の人に代わってもらって休みをもらうとか……」
「そういうわけにはいかないよ……」
トンガリは五月を気遣いますが、五月は切なそうに苦笑します。
本当は五月だって、友達と一緒に楽しい思い出を築きたいのです。しかし、役者も大事な仕事です。
「キテレツぅ。キテレツの発明で何とかできない?」
「う~ん。そう言われてもなあ……」
キテレツはこれまでも様々な発明品を作っては色々な不可能を実現してきたのです。
そんなキテレツはみんなから大きな信頼を寄せられています。トンガリもキテレツの発明品ならば何とかできると頼っているのでした。
「五月ちゃん。お芝居は連休のいつにやるの?」
「うん。連休の始めから三日間。午後から夕方までに二回、公演があるの」
どうやら、みよ子は何かを思いついたようです。
「ねえ、キテレツ君。天狗の抜け穴を使えば、五月ちゃんもキャンプに来られるんじゃないかしら」
「それだよ! 天狗の抜け穴を使って、お芝居の時間だけ戻ればいいんだ!」
キテレツの発明品、天狗の抜け穴は遠く離れた場所からでも瞬時に移動できるというもの。
以前に五月が運動会の綱引きに出た時も、その発明が役に立ったのでした。
「よっしゃ! 決まりだ! キテレツ! 帰ったら、天狗の抜け穴を用意しておけ!」
「うん。分かった。すぐに準備をしておくよ」
「わーい! 五月ちゃんと一緒にキャンプへ行けるんだ!」
男性陣が喜ぶ中、五月も嬉しそうに笑います。
転校すればいつも独りぼっちになってしまう五月にとって、友達と楽しく過ごせる時間は充実なひと時なのです。
特にこの表野町でできた友達は五月には最高の友達です。だから、次の転校までにたくさんの思い出を作ろうとしていました。
「あ、見て。あれ、コロちゃんじゃない?」
「あいつ、何あんなに慌ててるんだ?」
みよ子が指を差した先には、キテレツの弟分であるからくりロボット、コロ助がいるではありませんか。
「キテレツ! キテレツーっ!」
「どうしたんだ? そんなに慌てて」
何やら慌てた様子で走ってきたコロ助はキテレツの元へとやってきます。
「勉三さんがまたユキさんにふられたのか?」
「違うナリ! とにかく家へ来て欲しいナリーっ!」
ブタゴリラの冗談には耳を貸さず、コロ助はキテレツを引っ張ります。
何やら、ただ事ではないようです。キテレツは急いで家へ戻り、他の四人もついてきます。
キテレツのママはどうやらお出かけのようで、家にはいません。
「どうしたんだよ、一体」
「いいから来るナリ!」
コロ助に引っ張られてやってきたのは、キテレツの家の庭です。
「な、何だこりゃ!?」
ブタゴリラはもちろん、キテレツもトンガリもみよ子も五月も、庭にある光景を目にして驚きます。
何とそこには、不思議な光を放つ大きな鏡が浮かんでいるではありませんか。
「な、何なんだ! これは!」
「ワガハイも知らないナリ……外から戻ってきたら、いつの間にかここにあったナリよ……」
キテレツの足元に縋りつくコロ助は困惑しています。それはキテレツ達も同じです。
「一体、何なのかしら……これ……」
「五月ちゃん! 危ないよ、近づいちゃ!」
戸惑いつつも好奇心を湧かせていた五月は光の鏡に近づきますが、トンガリは呼び止めます。
「よ、よせよ! 五月! そいつはきっと、あの世への入り口だ! 吸い込まれちまうぞ!」
ブタゴリラは以前、自分の先祖のお墓参りへ行った際、似たような体験をしてあの世へ行ってしまったことがあるのです。
「え?」
五月がそっと手を伸ばして振り向いた、その時です。
「きゃあっ!」
突然、光の鏡が五月の手を飲み込みだしたのです。五月は突然のことに持っていたカバンを落としてしまいます。
その場で足を踏ん張りますが、光の鏡は五月を吸い込もうと引き寄せていきました。
「五月ちゃん!」
「五月!」
ブタゴリラとトンガリは慌てて五月のもう片方の腕を掴んで引き戻そうとしますが、光の鏡の方が力が強くて逆にブタゴリラ達まで引き寄せられてしまいます。
「ううぅ……!」
「トンガリ! もっと強く引っ張れよ!」
「引っ張ってるよーっ!」
「ふんぬぬぬぬぬ……!」
キテレツとみよ子、そしてコロ助までもが力いっぱいに引っ張りますが、五月の腕を掴んでいるブタゴリラの手から徐々に抜けていきます。そして――
「うわあっ!」
スッポリとブタゴリラの手から五月の腕が抜けてしまい、五人は勢いあまって後ろに倒れてしまいました。
そして、五月は光の鏡に飲み込まれてしまい、そのまま鏡もろとも消えてしまいました。
「あああ……」
「さ、五月ちゃんが……」
「鏡にく、食われちまった……」
「そんな……」
「あわあわあわあわ……」
一同は地面に倒れこんだまま、愕然とするしかありませんでした。
◆
そこはハルケギニアと呼ばれる地の、トリステイン魔法学院という場所での出来事でした。
ここでは今、二年生進級のための試験が行われており、生徒達は学院の外の草原に集まっていました。
「ゼロのルイズが魔法を成功させたのか!?」
「いや、まだ召喚自体はされてないからあれじゃ成功とは呼べないな」
「何が召喚されるのか見ものだよ」
鳥や猫などの動物、果てはマンティコアやサラマンダーといった幻獣と戯れている生徒達の視線は一人の少女へと集まっていました。
「早く! 早く出てきなさいよ! あたしの使い魔!」
「焦ってはいけませんよ、ミス・ヴァリエール。このゲートを潜るかどうかは向こう次第ですからね」
声を上げる桃色の髪の少女・ルイズを禿げ頭の中年教師・コルベールが落ち着かせます。
二人の目の前には、光を放つ大きな鏡が浮かんでいました。
今、ここで行われているのは使い魔召喚の儀。それはルイズはもちろんのこと、他の生徒達にとっても自分のパートナーを呼び出すための大切な行事なのです。
既に他の生徒達は様々な動物を召喚していますが、最後の番となったルイズにはまだ使い魔はいません。
それは今、これからこの光の鏡・ゲートから出てくるのですから。
「おっ、何か出てくるぞ!」
召喚のゲートはさらに強い光を放ち始めます。ルイズは期待に満ちた表情でゲートに見入っていました。
鳥が出るのか猫が出るのか、出来ることなら幻獣が出てくることを望んでいます。
「――きゃああああっ!」
「きゃあっ!」
悲鳴と共にゲートから飛び出てきたものは勢いのままにルイズとぶつかり、のしかかってしまいます。
「いった~……! ……な! 何なのよ! あんたは!」
体を起こしたルイズは自分にぶつかった召喚されたものを目にして驚きます。
それは黒髪をショートカットにした、ルイズと同い年のように見える少女――五月でした。
「何? ここ、どこなの?」
五月は辺りを見回して、さっきまで自分がいたキテレツの家の庭ではないことに戸惑います。
「ちょっと! いい加減、早くどきなさいよ! 重いじゃない!」
ルイズは自分の上にいる五月に向かって怒鳴ります。
「あ、ごめんなさい。……大丈夫?」
立ち上がった五月はルイズに手を差し出し、起き上がらせました。
ルイズは自分より背の高い五月を僅かに見上げて不満そうな顔を浮かべています。
「見ろよ! ゼロのルイズの奴、平民を召喚しやがったぜ!」
「こりゃあ傑作だ!」
「ゼロのルイズにはお似合いだな!」
周りの生徒達は爆笑しながらルイズをはやし立てだします。
その声を耳にするルイズは、目の前にいる召喚された五月を目にして顔をヒクつかせていました。
「こ、これが……あたしの……使い魔?」
「これは何と……」
傍にやってきたコルベールは物珍しそうに五月に見入っています。
「ミスタ・コルベール! 召喚のやり直しを要求します!」
「残念だが、それはできません。使い魔召喚の儀式は神聖なものです。やり直しは認められません」
「しかし、人間を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」
ルイズは呆然としている五月を指差して癇癪を上げ、抗議をしていました。
五月は自分の身に何が起こったのか、何の話をしているのかさっぱり分からず困惑しています。
「まあ……確かにこれは前例のないことです。ですが、何であれ君はサモン・サーヴァントには成功したのです。ならば次の召喚のためにはどうすれば良いか……分かっていますね?」
「そ、それは……そうです、けど」
ルイズは困惑したようにちらりと五月の顔を見やります。
「とにかく、召喚の儀はこれで終わりです。さあ! これにて解散です! みんなも学院へ戻りなさい!」
コルベールが周りに呼びかけると、生徒達は自分の召喚した使い魔と共に次々に学院へ向かいます。
中には宙に体を浮かべ、空を飛んでいくものまでいます。
しかし、赤い髪と青い髪をした二人の少女だけは残っていました。この二人はサラマンダーと風竜を使い魔として召喚しています。
「嘘……? 空を飛んでる!?」
五月はその光景を目にして驚きました。
キテレツの発明品でもなければできない魔法みたいなことを、ここにいる人達は簡単にやってのけているのですから。
「驚かせてしまったようだね。見た所、君は平民のようだが……名前を伺おう。私はここの教師のジャン・コルベールだ」
コルベールは五月に近づくと、穏やかに語りかけます。傍にいるルイズは不満の表情を変えません。
「五月……花丸五月です」
一体ここがどこなのか、この人達は誰なのか。何も分からないままでしたが、五月は自分の名を名乗りました。
◆
一方、ここはキテレツの部屋。五月が光の鏡に吸い込まれてしまった後、キテレツ達はここに集まってきたのでした。
「わ~~~ん!! 五月ちゃんが~~~っ!!」
トンガリは床に頭をくっつけるほどに沈み込んで号泣していました。
「五月ちゃん、一体どこに消えてしまったの?」
「まさか、この間のブタゴリラみたいにあの世に……」
「縁起でもないこと言うんじゃねえ!」
ブタゴリラはコロ助の頭を小突きます。
「でも、五月ちゃんが異次元空間へ入っちゃったっていうのは間違いないよ。あの鏡が異次元への入り口だったんだ」
「キテレツ! 五月ちゃんを助けてよ! お願い~~っ!!」
「うわぁ!」
トンガリはキテレツに縋り付いて体を激しく揺すります。
ガールフレンドであり、一途に惚れているトンガリはこのまま五月を放っておくことなんてできないのです。
頼りになるのはキテレツだけでした。
「航時機でも何でも良いからさ! キテレツの発明品で何とかしてえ~~っ!」
「航時機は時間を移動するだけだから無理だよ! 落ち着いて!」
キテレツは半狂乱のトンガリを押し出し、離しました。
しかし、何とかして五月を助けにいかなければなりません。どうすれば良いのかキテレツは考えます。
「キテレツ君! この間の冥府刀、あれが使えるんじゃない?」
「そうか! あれなら、異次元へ行くことができるよ!」
キテレツの発明品――冥府刀、またの名を異次元刀とも呼ばれるそれはキテレツ達のいる世界と別の世界とを繋げることができるものです。
以前、ブタゴリラが誤ってあの世へ行ってしまった時に――本人達は忘れてしまっていますが異次元へ迷いこんだみよ子を助けに行った時も――役立っていました。
「よっしゃ! そうと決まったら、五月を助けに異次元へ殴りこみだぜ!」
ブタゴリラは張り切った様子でキテレツの部屋を後にしようとします。
「どこ行くのさ! ブタゴリラ?」
「異次元へ行くんだから、色々と準備するもんがあるだろ! キテレツも色々と準備しておけよ!」
呼び止めてきたトンガリにブタゴリラはそう答え、キテレツに告げます。
「準備って?」
「この間みたいにあの世で化け物に会っても大丈夫なように、お前の発明品をあるだけ持って行くんだよ。俺も準備をしてくるぜ! 備えあれば嬉しいなって言うだろうが!」
「備えあれば憂いなし、でしょ?」
トンガリはこんな時でもブタゴリラに突っ込みました。
あの世へ行った時には思い出すも恐ろしい化け物達に襲われたことをキテレツ達は忘れていません。
キテレツの発明品はどれも便利なものばかりなのですから、色々と持って行ければ必ず役に立つはずです。
「分かった。コロ助! 如意光を出してくれ!」
「了解ナリ!」
キテレツは忙しなく部屋の中を動き回り、コロ助も張り切った様子で押入れの中を探りだしました。
◆
「そんな話が信じられるわけないでしょう?」
怪訝そうにするルイズは腕を組んだまま自分のことを話していた五月を睨みつけます。
「わたしだって信じられないよ。……いきなり、こんな場所に呼び出されるなんて」
五月も困惑したままルイズを見返します。
先ほどコルベールから今、自分に何が起きたのかを説明され、五月は半信半疑でした。
ここはハルケギニアという聞いたこともない場所で、自分はルイズという少女に魔法で呼び出されたというのです。
ルイズ達は魔法学院の生徒であり、進級のための儀式を行っていたのです。
(わたし、ファンタジーの世界にやってきちゃったのかな)
五月はルイズ達が魔法使いであることに驚き、自分はファンタジーの世界に迷い込んでしまったのかと思っていました。
「あんたのその、オモテノマチ……だっけ? そんな町、聞いたこともないわ。あんた、一体どんな田舎から来たのよ……」
「そんな田舎でもないよ。それより早く、わたしを元の場所に帰してください。みんなも心配してるだろうし……」
五月はコルベールに懇願しますが、コルベールは困った顔をしています。
「申し訳ないのだが……召喚したものを送り返す魔法はないのだよ。サモン・サーヴァントは一方通行でね……」
「そんな……」
コルベールの言葉に五月の顔は青くなりました。
つまり、五月が自力で帰ることはおろかルイズ達の力であっても元の場所には帰れないというのです。
いきなり訳の分からない場所へ連れて来られてしまい、帰ることはできないなんて冗談ではありません。
「帰れないじゃ困ります! 私にはお母さんやお父さんだっているのに、勝手に呼び出しておいてそんな無責任な……」
必死にコルベールに食いつきますが、コルベールも弱った様子。
「君には本当に申し訳ないと思っている。何分、人間が召喚されるのは始めての事例でね……」
「あたしだって、あんたなんかを召喚なんてしたくなかったわよ!」
突然、ルイズは喚くように大声を上げました。
「本当だったら、キュルケやタバサみたいな幻獣とか……動物とかを召喚したかったわよ! なのに、あんたが勝手に……」
この場に残っていた二人の生徒の方へ悔しそうに視線を流し、きっと五月を睨みました。
「勝手にって……そんな言い方はないと思うわ」
「何ですって!? 平民のくせに――」
「待ちたまえ、ミス・ヴァリエール。今はサツキ君を責めている場合ではない」
いざこざになりそうだった所をコルベールが仲裁します。
「我々も出来る限り、君を送り返す方法を探してみるよ。だからそれまでは、どうか彼女の使い魔となって欲しいのだ」
「そんな……急に言われても……」
「使い魔を持たなければ、彼女は進級できないんだよ。これは彼女の一生に関わる問題なんだ。だから彼女と儀式をしてくれないかね?」
ルイズを指しながらコルベールは言いますが、五月はますます困り果てます。いきなり訳の分からない場所に連れてこられて魔法使いの召使いになってくれだなんて。
しかし、ルイズの使い魔とやらにならなければ彼女は彼女で困ってしまうというのも困りものでした。
「あんたが契約してくれるって言うんならあんたには衣食住の保障くらいはちゃんとしてあげるわ。第一、あんたは帰れないんでしょう? だったら、あたしと契約をしておいた方がお互いの為になるはずよ」
ルイズはつんとしたまま五月に言い放ちます。しかし、五月は深呼吸をして気丈にルイズを見返すと、こう言い返しました。
「たぶん……それはないと思うわ」
「何ですって?」
「確かにわたしは一人じゃ帰れないわ。でも、きっと助けが来ると思うの」
五月のその言葉にルイズもコルベールも、そして残っていた赤い髪の生徒・キュルケまでもが首を傾げます。
「助けが来るとは……どういうことかね」
「何かアテでもあるっていうの?」
「うん。わたしの友達が、きっと心配して助けに来ると思うわ」
五月は自分の友達を信じていました。トンガリもブタゴリラも、みよ子もキテレツも、そしてコロ助もきっと自分を助けようとしてくれるはずです。
特にキテレツは不思議な発明品で色々なことを解決してきました。キテレツの発明品でこちらにやってきて、きっと自分を探しに来てくれる――五月は信じていました。
「助けが来るって……そんなの、そんなの認めないわ!」
ルイズは声を上げると、五月の胸に杖を突きつけました。
「あんたはあたしの使い魔よ! 絶対にどこへも行かせないわ!」
「こらこら、やめたまえ。ミス・ヴァリエール。……しかし、困ったものだな」
コルベールは髪のない頭を掻いて深く考え込みます。教師生活二十年において初めての事例に直面し、自分はこの案件をどうするべきか……。
「……仕方がありませんね。学院長と相談してみることにします。ミス・ヴァリエールの進級と君の処遇については後々伝えることにしましょう。ひとまずサツキ君、君も我々と一緒に来なさい」
「はい……」
この件はつまり保留ということに収まったようです。コルベール達四人の魔法使いに連れられ、五月は魔法学院へと足を踏み入れることになりました。
◆
一度家に戻っていたブタゴリラは荷物が詰まったリュックを背負ってキテレツの家へと再びやってきました。
「あら、熊田君。英一はもう帰ってきてるのかしら」
「こんちわ! おばさん! おじゃまします!」
ちょうど家の前で買い物から帰ってきたキテレツのママと鉢合わせになりましたが、軽く挨拶をすると庭の方へ走っていきました。
庭ではもうキテレツ達が集まっています。
「遅いナリ! ブタゴリラ!」
風呂敷を背負っているコロ助はプンプンと怒っています。
「悪い、悪い! 用意に手間取っちまってな! で、キテレツ! 発明品は?」
「うん。使えそうなものは全部この中に小さくしてあるよ」
「如意光はワガハイのお守り代わりナリ♪」
キテレツもリュックを背負い、片手にケースを持っていました。中にはこれまでに作ってきた発明品の数々が入っているのです。
コロ助の風呂敷の中にもいくらか入っています。
「ところでブタゴリラ君は何を持ってきたの?」
「ああ、もしかしたら向こうで皿洗いをするかもしれないからな!」
「サバイバルのことでしょ? やっぱり野菜?」
トンガリの呆れた突っ込みにブタゴリラは得意げです。
八百屋の息子たるもの、如何なる時でも野菜は持ち歩くのが本人のモットーでした。
「キテレツ! 早速、向こうへ殴りこみだ!」
「うん! コロ助、冥府刀を!」
「はいナリ!」
コロ助は風呂敷の中から小さな刀を取り出し、キテレツに渡します。
これが異次元への扉を開く、キテレツの祖先・奇天烈斎の発明品・冥府刀です。
「行くぞ! 冥府刀、スイッチオン!」
冥府刀の柄頭にあるスイッチを回すと、刀身が赤く光りだしました。
「えいっ!」
冥府刀を掲げるキテレツは何もない空間――五月を吸い込んでしまった光の鏡があった場所を切りつけます。
すると、パックリと空間に大きな裂け目が出来上がります。光り輝くその裂け目は形を変え、あっという間にあの光の鏡と同じになりました。
「な、何か緊張するわ……」
「五月ちゃんがこの中に……」
みよ子もトンガリも光の鏡を前にして不安のようです。
「つべこべ言ってないで行くぞ!」
「うん、行こう!」
ブタゴリラとキテレツは誰よりも早く、恐れずに光の鏡へと飛び込んでいきました。
「あっ! キテレツ! ブタゴリラ!」
続いてコロ助も慌てて光の鏡に飛び込みます。
「僕……やっぱり、怖いな……」
「今さら何言ってるの! 五月ちゃんを助けに行くんでしょう!? あたし達も行くわよ!」
怖気づいたトンガリの腕を引っ張り、ついにみよ子達も飛び込みます。
「うわああああ~~~っ!」
「ママああぁぁ~~~っ!!」
絶叫を上げる五人は不思議な光の空間の中を、上も下も分からないままに流されていきました。